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『クリームパン買いに』
七瀬 葵la0069

「ただいま」

 誰もいない部屋に七瀬 葵(la0069)の声が響く。

 手に提げていた通学鞄とビニール袋を置き、葵が向かうのは冷蔵庫。

「今日は……やっぱり……こっち」

 プリンやシュークリーム等が鎮座しているその箱の中をしばらく眺めていたが、葵は牛乳と彼女の握り拳くらいの大きさのクリームパンを取り出した。

 昨日、学校で美味しいとおすすめされたパン屋のクリームパンである。

『冷蔵庫から出して10分後位が食べごろですよ』

 店で言われたことを思い出し、待つ間にセーラー服から部屋着へと着替え、洗濯物を取り込み、片付ける。

「そろそろ……」

 時計を見ると丁度10分と言ったところだった。

 パンにかじりつくと、あっさりとした甘さのクリームが口の中に広がる。

「美味し……」

 薄い皮のパンはしっとりとしていて、たっぷりのクリームも相まって口の中はパサつかない。

 これなら牛乳がなくても食べられそうだと、葵は思う。

「これは、当たり……」

 もう一つ買ってくればよかったと思う間もなくクリームパンは葵の胃袋に収まってしまう。

 学校帰りに遠回りして買いに行った価値は十分すぎるほどにあったが、値段を考えるとしょっちゅう買うのは難しい気がする。

 いや、この美味しさなら高くない、いやむしろ安いくらいなのだが、移動費も考えると葵のお財布には少し痛い額である。

「でも、たまになら……」

 SALFはライセンサーに衣食住を保証してはいるが、そうは言っても、生活にはお金がいるし、装備を整えるにもお金はかかる。

 その上、葵は中学2年生。

 そろそろ進路も考え始めないといけないお年頃である。

 元の世界にいつ帰れるか分からない以上、進学も今の世界ですることになるかもしれない。

 そうなった時のことも考えると、貯金もしておかなければと思うとちょっとしょっちゅう買うだけのお金を捻出するのは難しかった。

「……」

 元の世界で葵はどこにでもいる普通の中学生だった。

 毎日、退屈な授業を受けて、放課後は部活にいそしみ、友達とたまに買い食いをしたりしながら少し口うるさい両親の元へ帰る。

 そんな毎日が続くと思っていた。

 それなのに、どうしてこうなったのだろう。

 食後の牛乳を飲みながら葵はぼんやりとそんなことを考える。

「……宿題しよ」

 暫く虚空を見つめていたが、答えなど出ないことは彼女が一番わかっていた。

 最初は、誰もいないこの世界で上手くやっていけるのか心配だったが、こっちの世界でも友達は出来た
し、兄の様に慕えそうな相手も見つかった。

 孤独ではないという事実が、少しだけ気持ちを楽にしてくれる。

 今はそれだけで十分な気がした。

  ***

 教科書をめくり、ノートへシャープペンを走らせる。

「ここは、明日、訊こう」

 分からないところに付箋を貼り次の科目へ。

 元の世界と歴史も文化も、文明もさほど変わらない世界でよかったとこういう時に思う。

 全く異なる文明の世界に転移したりしていたら、全て1から覚えなおしだし、そもそも言葉が通じるのかも分からない。

 流石にそれはちょっと辛い。

 主に生き残る的な意味で。

「お腹、すいたな」

 ビニール袋から豊満な葵の胸ほどもあるクリームパンを出し、夕ご飯代わりに咀嚼する。

 元の世界なら母親に叱られるところだが、ここには誰もいない。

「やっぱり、あっちの方が、美味しい」

 新発売と書かれたシールの貼られたクリームパンは大きさの割にクリームも少なく、パンの部分が多いせいかパンのパサつきが気になる。

 いつもならそこまで気にならなかったかもしれないが、さっき食べたクリームパンとどうしても比べてしまう。

(でも、これ3個分……)

 厳密にはそれよりも少し安いのだが、値段と満足度を天秤にかけてもやっぱりさっきのクリームパンを買いたくなってしまう。

(あの店、本部から近そうだったし……帰りになら……)

 最後の一口を胃の中へ送りながら、葵はそう考え直していた。

 毎日は流石にあれだが、依頼のご褒美や鼓舞の為に買うのはありだろう。

 それに、ちょっとお高いクリームパンが気にならないくらいに依頼に多く入れば、何も問題はない。

 そうとなれば、新しい依頼を探さなければ。

 勉強道具を片付け、帰りにまたあのクリームパンを買って帰ってこようと思いながら葵は新しい依頼がないか探しに本部へ出かける準備をしはじめるのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la0069 / 七瀬 葵 / 女性 / 13歳(外見) / クリームパン美味しい 】
おまかせノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月22日

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