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『生切る』
レイヴ リンクスla2313

●違和感
 僕は、どこか他人と決定的な違いを持っていた。その正体に気づくキッカケはなかなか得られなくて、ただ漠然とした違和感だけを抱えて生きることは、正直とても疲れた。
 学生時代からずっとそうだ。例えば通っていたハイスクールの近くで銃による殺人事件が起きた時、クラスルームはその話題で持ち切りとなった。殺人なんて怖いとか、自衛のためにも銃が必要だとか、そんな話ばかり。この事件をどう思うと僕にも話を向けられた時、「殺された方か殺した方に、そうするだけの理由があったんじゃないの」とか、そんな風に答えて、周囲をしらけさせてしまった。僕自身、何かがズレているのだろうとは感じたけれど、何がズレているのかは分からなかった。
 十八になると、僕はSSSに登録し、そう時間を置かずに徴兵された。実際に銃器を持ち、戦地へ赴いたこともある。軍での訓練課程で、僕はその違和感と向き合った。
 教官は言った。「敵を人間と思うな。殺すべき物だと思え。電池で動く人形だと思え」と。
 その時に抱いた感想は、「何を当たり前のこと」というものだった。けど、周囲の反応は、その言葉に狼狽するような様子だった。
 なるほど。僕はようやくズレの正体に気づいた。命に対する価値観が、周囲に比べて異常なほど軽いんだ。
 自分の命さえあれば、誰が死のうと、誰を殺そうと構わない。そんな感覚がずっと自分の中に根を張っていた。
 それは軍の中で、少なくとも一人の兵士としてはとても強い武器になった。
 死の恐怖に直面したことがないからそんな感覚を抱いていたわけじゃない。実際に戦地で敵兵を射殺した時も、僕は一切の躊躇いを感じなかった。
 感情を殺す必要もない。心を痛めることもない。でも、死にたくはない。
 そんな僕の素養が見抜かれたのか、兵役を終える頃にはそのまま軍人にならないかと声をかけられ、二つ返事で受け入れた。
 所属先は情報軍。といっても、偵察や諜報ではなく、僕が所属することになったのは暗殺部隊だ。
 国にとって邪魔となる者を秘密裏に排除する。ここへの所属は適正によって決められたらしい。
 部隊は、僕と似たような感覚の人ばかりだった。命を物としてしか見ない。何人かの部隊員と顔を合わせても、「新しい人形がそこに置いてあるな」というような視線しか向けられなかった。特に言葉も交わさない。
 これくらいの方が良い。この方が後腐れなくて良い。

●いつかの任務
 暗殺者というものは、部隊ごとに動く一般兵と全く違う訓練が必要になる。
 一人で戦わなくてはならない。狙撃するなら位置を特定されないようスコープを使わずに照準を定め、風を読み、また潜伏ポイントを探すコツを教わった。接近して確実に相手を殺し、反撃を受けず痕跡を残さず立ち去る術も学んだ。
 その日に受けた任務は、ある若者の始末だ。ターゲットの年齢は僕と同い年だという。
 軍部の機密データをあるところへ送りたいが、データ送信では流出の可能性がある。そこで運び屋を用い、先方へとディスクで渡す手が取られた。データの中身なんて知らないし、興味もない。
 しかしどうも相手にはこちら側の素性を知られたくないようだ。だから、単純に匿名での技術提供だろう。
 こういう話はよくあることだ。大手コンピュータメーカーは、よく匿名あるいは偽名で各企業に開発依頼をするというし。
 では何故僕が動かねばならないか。というのも、運び屋はアルバイトだという。そして後から妙な動きをされても困るので、バイトがディスクを渡した後に始末しろという仕事だ。
 そこまでやるのだから、よほど大事なデータなんだろう。

 ディスクの受け渡し場所は某喫茶店だ。
 僕は予定の時間より先に喫茶店へ入り、珈琲を飲みながらターゲットを待つ。
 こういう時の飲食は経費だ。とはいえ、領収証を切ってもらっていてはターゲットを見失う可能性があるので実際のところは自腹だ。
 ややあって、指定の席に二人の男女が座った。僕は極力そちらへ視線を向けないように、雑誌に目を落として声に集中する。
 会話の内容から、女が運び屋のようだ。
 互いに珈琲を注文し、飲みながらディスクを渡した。それから喫茶店を出ていく。
 僕もすぐに店を出た。
 運び屋は男と別れると家路についた。これを尾行。チャンスは、彼女がアパートへ入る瞬間だ。
 鍵を開け、ドアノブに手をかける。
 ここしかない。
 僕は物陰から飛び出し、彼女が声を出さぬよう首を絞めながら部屋に押し入った。
「レイヴ リンクス(la2313)……」
 女は僕の名を呟いた。その直後には首を切った。
 即座に部屋の中へ上がり込み、彼女のパソコンにUSBメモリを差し込んでこちらで用意していた遺書を印刷。
 それを彼女の遺体の傍へ置いて、ナイフを握らせ、鍵を拾って出る。もちろんメモリの回収も抜かりない。
 外から鍵をかけ、ドアポストにカギを落とした。このアパートの構造は、ポストといっても受けがない。鍵はそのまま、ドアに頭を向けてうつ伏せに倒した彼女の首元に落ちる。
 これで暗殺は完了だ。

 何故彼女が僕の名を知っていたか?
 当然だ。彼女は、僕がジュニアハイスクールに通っていた頃、ほんの少しだけ付き合っていたガールフレンドだったからさ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございます。
(隠し)設定を拝見させていただきまして、この内容を掘り下げてはどうかとノベルとしてみました。
少々前面に出しすぎましたでしょうか?
こうした動きから、キャラクターに深みをつけていけたらなぁ、と願っています。
辛い過去、悲しい過去をお持ちのPC様も多いですが、レイヴ様もその類に当たりますかね。
ちょっと「納品されたー!」と表では言いにくいかもしれませんが、気に入っていただければ幸いです。
おまかせノベル -
追掛二兎 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月22日

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