▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Masked Bird』
グール・シックla1212

●鳥の武器
 多くの鳥は空を飛ぶが、多種多様に分かれる鳥の中には飛ばないものもある。この世界で言えばペンギンだとかダチョウだとかがそうだろうか。
 よく鳥の武器といえばその翼はもちろん、デフォルメされた創作物の世界では嘴を鋭くしてまるでレイピアのように獲物を突き殺す様子が描かれたりもする。だが、これは誤りだ。
 かくいうオレ、グール・シック(la1212)も鳥の嘴を模した仮面を被っているが、これは飽く迄「仮面」とするための便宜上のもの。獲物を捕食する猛禽類などの本来の武器は脚と強靭な胸筋にある。現に野生の鷲は、自らの体よりも大きな鹿をその爪に捕え、羽ばたき、崖から落として捕食するという。
 相手が瀕死の状態のまま食うか、一口に丸呑みできる相手にしか嘴が使用されることはほとんどなく、それが武器となる認識は間違っている。
 とはいえ、この仮面に模した通り、嘴が鳥の象徴ともなりえることに間違いはない。
 オレが跳躍や足技を得意とするのも、こうした事実に基づいてのことだ。「そんなに跳んだりして、空でも飛びたいのか」なんて言ったヤツもいるが、無礼にも程がある。ヒクイドリを見ろ。人間をも蹴り殺すあの脚力を。

●目的と手がかり
 オレに適正が見つかり、その上でライセンサーとなる道を選んだ理由は、ある探し物をしているからだ。
 元の世界で大切にしていた「宝」を取り戻す鍵は、恐らくとあるナイトメアが握っている。こうしてSALFに所属し、活動していれば、いつかはその情報も見つかるのではないかと踏んだのだ。
 そしてこの日、探していたナイトメアと思しき者の情報を持つ男の存在を知った。といっても、本当にオレが探している敵なのかは見てみなくては分からないが。まずは些細でも的外れでも情報を得ることが肝要だ。
 だが男に接触するのは容易ではなさそうだ。というのも、その男の十七になる娘がヤンキー共に因縁をつけられ、港の空き倉庫に誘拐。男は呼び出しに応じ、その倉庫に向かっているのだという。

●鳥仮面グール
 さて。
 情報にあった空き倉庫が見えた。そもそも目的の男は、ナイトメアの情報をSALFに提供しようとしていた。しかしそんな時に身内の危機に遭ったわけで、SALFとしてはナイトメアによる直接の事件ではないので警察の対応範囲と判断。そりゃそうだな。
 オレみたいなライセンサーが動いたところで、報酬の金は入らない。だが、オレにとっては、それ以上の「宝」が手に入るかもしれないのだ。動かないわけにはいかない。
 倉庫の中からは物音が聞こえる。誰かがいるのは間違いないな。正面から踏み込むのは危険か。
 丁度良いことに外階段がある。ここを使って、上から侵入しよう。
 備え付けの窓から倉庫内を覗くと、五人くらいのガラの悪そうな男。その背後には手足に口まで縛られた少女。正面には中年の男がカバンを開けて中を見せていた。いくらか札束が見える。何千万という額ではなさそうだが、娘と引き換えに金でも要求されたか。
 このまま取引が成立し、男が解放されたところを見計らって情報を引き出しても……いや、そういえば。SALFは言っていたな、この件は警察の範疇だと。そうなっては時間がかかりすぎる。となれば、手助けしてやった方がスムーズに情報を聞き出せるだろう。
「待て!」
 ドアを蹴破り、オレは腹の底から叫んだ。
 倉庫の中にいた連中が一斉にオレを振り返る。
「誰だてめェは!」
 え、あ……。そういえば、正直に名乗る必要ってあるのか?
 ライセンサーだってことを明かして厄介になっても面倒だし。うーむ、よし、こうなったら。
「通りすがりの、鳥仮面だ!」
 我ながらなんて酷いネーミングセンスだ。
 ええい、こうなったら、正義の味方ごっこでも何でもしてやる!
「とうっ!」
 目の前のフェンスから飛び降り、ヤンキー集団の一人に飛び蹴りを見舞った。
「野郎、ナメやがって!」
 鉄パイプやバットなど、それぞれ武器を手にした男達。何だか見るからに小悪党って感じだ。
 時間をかけるのも面倒だ。ここはさっさと片づけちまうか。
 頭上から振りかかった鉄パイプをいなし、肘を相手の鼻柱に。
 背後からの殺気に身を屈めるとそこをバットが通過。別の男の頭を打った。
 そのまま一歩踏み込み、鳩尾へ一撃。
 あっという間にヤンキーは一人になったはずだが、いつの間にかその姿が見えなくなっている。
 どこへ行ったのかと周囲を見回すと、積み上げられた廃材を蹴散らすように一台のフォークリフトが突進してきた。
「くたばりやがれェ!」
 フォークリフト自体はここに放置されていたのだろうが、何故鍵と燃料があったのだろう。いや、そんなことを考えている場合じゃないか。
 オレはすっと飛び上がると、運転席の男に狙いを定めた。そして。
「鳥仮面キィィイイイイイック!」
 こうしてヤンキー共は全滅した。死んではいないだろう。

「あの、ありがとうございました」
 中年の男が娘を連れて礼に来る。だが、オレが欲しいのは言葉ではない。
「気にするな。それより、こんなナイトメアを知らないか」

●情報の真偽は
 男は確かに情報を持っていた。
 探しているナイトメアに確かに似ていた。
 SALFに情報を持ち込み、仲間を募って討伐にも赴いた。
 だが違った。オレの追っているナイトメアとは、ただ似ているだけだった。
 振り出しか……。
 気を落としながら家へ帰る。数日空けていたから、新聞が溜まってしまった。
 どれどれ、最近変わった事件はなかったかな。
「って、何じゃこりゃぁ!」
 それは、空き倉庫での一件があった翌日の新聞。
 でかでかと一面を飾る、「正義の使者、鳥仮面現る!」の文字。ご丁寧に写真まで。
 どこのどいつが撮ったんだ。

 この後、オレは近所に住むちびっこ達にサインを求められ追いかけまわされることになるのだが、それはまた別の話。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました。
いくつかネタを考えてはみたのですが、実現できそうなところからピックアップしました。
仮面っていいですよね、仮面って。
きっとそんな意図でメイクされたPC様ではないのでしょうが、すみませんどうしてもやりたかったんです。
気に入っていただけると幸いです。
おまかせノベル -
追掛二兎 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.