▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『施設での記録』
吉良川 鳴la0075

●養護という名の
 ナイトメアの跋扈するこのご時世、家族を失う者の存在はそう珍しくもない。
 当人にとって死別は辛く耐え難いものなのだが、社会的にありふれたものほど些末な問題として扱われる。
 例えば両親と死に別れた事実を話せば、人々は体裁上同情や哀れみを見せるものの、そんな人もいるよね、と。学生で例えれば、各学級に数人はどうしても数学が苦手な生徒がいるものだが、それに対する感情と同程度に「どこにでもいる存在」であった。
 家族を亡くした者の中には、ナイトメアへの復讐を誓う者も多くいる。しかしその全てが、それに足る力を手にできるわけではない。むしろ極稀だ。自らの手で仇を討つ機会や力を得られただけでも幸運と言えよう。
 今でこそEXISを扱う素養が見つかり、SALFに所属するライセンサーとして活動している吉良川 鳴(la0075)も、天涯孤独の一人だ。それがナイトメアによって奪われたものなのかどうかは、本人が口にしない限り知り得ることはないのだが。
 少なくとも、自分一人で生活できるだけ成長する以前に家族を失った彼は、児童養護施設とでも呼ぶべきところに入っていた。
 しかし児童養護施設というものは、国の税収によって運営されており、そこに入る子供達は贅沢を知ることはない。ナイトメア出現前は、いわば孤児と呼ばれる子供達は少なく、虐待などによって親元にいられなくなった子供を預かる場として機能していたようだ。今はそれも逆転してしまったが。
 さて。子供達の置かれた環境だけでなく、運営する側もなかなか大変なようだ。というのも、親を失った子供のケアというのは大変に気を遣わなくてはならない。
 子供も、運営側も、かなり精神をすり減らしやすい環境に置かれることも珍しくないようだ。
「ねぇ、返し、て」
「せんせー! 鳴くんがボクのおもちゃをとりあげようとするんだ!」
 どちらかといえば口数が少なく、大人しい方だった鳴は、声の大きい活動的な子供の標的にされやすかった。
 この日発生したのは、おもちゃの取り合い。といっても、施設のおもちゃというのは共用のもので、誰のものという概念はない。強いて言えば、その日、先にそのおもちゃを手に取った子が占有権を得るといったところか。
 だがこの場にとってはその考え方は適用されない。力があって先生(要するに運営側の大人)に気に入られた子供の言い分が通ってしまう。
 実際には鳴が先に手に取り遊んでいたおもちゃを、この少年が取り上げ、しかもそれをあたかも鳴が横取りしようとしたかのような言い回し。
「また鳴くんなの? 罰として今日もトイレ掃除してきなさい」
 この施設ではルールがあり、他の子に意地悪をしたらトイレ掃除や洗濯など、いわゆる罰則が課せられる。
 違うと抗議しようとした鳴だが、相手の大人は面倒を嫌って耳を貸さない。
 次第に鳴も声を上げることを諦め、何かよくないことが起きれば全て自分のせいにすれば良いと卑屈になっていった。
 しかし施設の方としては、何か問題が起こればどこかに報告する義務でもあるのか、次第に鳴の問題行動(という名の冤罪)が指摘されるようになり、施設としてはこのまま鳴を預かるわけにはいかない、という議論にまで発展した。
 毎日のように問題行動を起こし、共に生活する子供らに意地悪ばかりする。その施設では更生させることは不可能だと判断され、鳴は違う児童養護施設へ送られることとなった。
 新しい施設では、鳴は新人扱いで、どこへ行ってもガキ大将とでも呼ぶべき存在はいた。すると、寡黙な新人は格好の標的に他ならない。
 どこへ行っても、同じことは続いた。
 全ての責任を負わされ、問題児として追い出される。
 たまに、身寄りのない子供が親戚をたらい回しにされるといった話があるが、それに近いような状態だった。
 いつしか施設運営者の間では疫病神と裏で呼ばれた鳴は、自分自身そういう存在なのだと納得することで、死ぬ勇気がないから生きている、といった感覚を抱くようになっていった。
 だがいつかは鳴も成長し、施設を出て自分で稼がなくてはならない。その前に、自分が年長者として、年下の面倒を見なくてはならない。
 いつか、責任を負うことに慣れてしまった鳴。誰に押し付けられなくても、年下の子が起こした問題は自らがその罪を背負った。それで解決するのだからと、面倒を嫌う大人は糺そうともしなかった。
 大人は、誰も本当のことを分かってくれない。奴隷根性の染みついた鳴にとって、信頼できる人間なんて一人もいなかった。
 しかしそれは、ある時を境に劇的に変化することとなる。
「え、鳴君を? はぁ、ええ、構いません。いえ、是非に」
 施設の運営者がそんな電話をしていたのを鳴は聞いた。
 ああ、きっとまた、どこかへ移動させられるんだな。鳴はそんな風に考えていた。
 だが違った。
 鳴の引き取り手が見つかったのだ。

 引き取り手。それは意外にも、鳴の知る人物だった。
 新たな生活の場で、鳴は信頼のできる大人を得てゆく。理解者も得てゆく。そして厚い殻に覆われた心を解放してゆくことになる。
 それはまた、彼が彼自身で紡ぐお話。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございます。
もう少し具体的な内容を書いても良いと思ったのですが、おまかせですから、ね。
この先も書いてみたいな、などと思いつつ。
想定と違ったらごめんなさい、ですが。
ご期待に添えていましたら幸いです。
おまかせノベル -
追掛二兎 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.