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『飛び立つ想い 』
ゼノビア オルコットaa0626)&千冬aa3796hero001


 僅かに残っていた桜の花びらが枝を離れ、ひらひらと宙を舞う。
 気が付けば春も終わりに差し掛かり、すっくとのびる若い緑の葉は、初夏の訪れを待ちわびていた。
 ゼノビア オルコット(aa0626)は輝く若葉を、目を細めて見上げる。
(ほんとうに、終わったんだね)
 長く激しい戦いは、多くの犠牲を出しながらも完結した。
 ゼノビア自身酷い怪我を負ったが、それでもこうして生きていて、約束された命の輝きを見つめている。
 ただ息をしていることすら、まるで奇跡のようにも思えた。
「どうかしましたか」
 ゼノビアから数歩遅れてついてきていた千冬(aa3796hero001)の声。怪訝そうに聞こえる。
 ゼノビアはハッと我に返って、千冬を振り向いた。
 それから手帳を取り出し、忙しくペンを走らせる。
『ごめんなさい。葉っぱが あんまりきれいだったから』
「それならいいのです。傷が痛むのかと思いましたから」
 ゼノビアが勢い良く首を横に振る。
『もう、ぜんぜん、いたくないです』
 千冬の表情はいつも考えが読み取りにくい。
 だが今は何かを心配しているのがわかる。
 ゼノビアはちょっと悪いことをしたような気になり、改めてペンを握る。
『ほんとうに、けがは大丈夫です。ふらふらして ごめんなさい』
 千冬と並んで歩いていたのに、つい若葉に気を取られて先に進んでしまったのだ。
 そのときの気持ちをどう伝えればいいのか、ゼノビアは少し考え込んでしまう。

 とても激しい戦いだった。
 未来を手に入れるための戦いだったけれど、只中にいた間は、その未来は「自分」のものではなかったように思う。
 ヒトが生き残るため。世界が続くため。
 みんな必死で戦い、戦い抜いた先に「未来」が残った。
 今日からもう戦わなくていいのだ。誰も戦いで死ななくていいのだ。
 まだ優しい夢の中にいるようで、現実を心の底から受け入れるには少し時間がかかりそうだった。
 だから、純粋できれいで、柔らかで強い、生命そのものの存在を確かめるかのように、若葉に見入ってしまったのだろう。
 ちょうど散りゆく花びらは、役目を終えて燃え尽きた命のようでもあったから。


 どの能力者も、どの英雄も、今は大きな達成感と同時に、軽い虚脱感をも覚えているだろう。
 今の状況を受け入れ、自分の周りを見渡す余裕もできて、やっとこれからのことを考え始めた頃だ。
 そんなある日、千冬が街に出ようとゼノビアを誘った。
「遠くに行くのは無理ですが、偶には気分転換も必要だと思います」
 ゼノビアはすぐにこくこくと頷き、一緒に出掛けたのだ。

 特に目的もなく、行きかう人々に混じって平和な街を並んで歩く。
 店先には色々なものが並んでいて、眺めているだけでも楽しい。
(あっ、あのスカーフ、千冬さんに似合うかも?)
 ゼノビアは男性向けのファッション小物を扱う店のショウウィンドウに目を止めるが、結局そのまま通り過ぎてしまった。
 そんな店に入ったこともないし、千冬が気に入るかもわからないし、筆談での説明に気後れもしてしまう。
(それに、目の前でお買い物なんかしたら、また千冬さんに気を使わせてしまうよね)
 千冬がゼノビアの歩みが少し鈍ったのに気付いて、顔を向ける。
「どうかしましたか? 足でも傷みますか?」
 ゼノビアは思わぬ言葉にびっくりして、ぶんぶんと首を横に振った。
 気を使ってもらう方向が、あまりにも想像外だったのだ。
「それならいいのですが。でもそろそろ一度、どこかで休みましょうか。人混みが思ったよりすごいですからね」
 千冬はゼノビアをとあるカフェに誘った。
 川の流れを見下ろすテラス席に落ち着くと、心地よい風が吹き抜けていく。
 香りの高いお茶を飲み、美味しいサンドイッチや暖かなスコーンを口にしていると、心までがほぐれていくようだった。
「私が勝手に店を決めてしまいましたが。お口にあいましたか」
 千冬は何かと気遣いを見せる。
 ゼノビアはその心も嬉しくて、心からの笑みを浮かべて応えた。
『とても おいしいです』
「それは良かったです。良ければこちらのチョコレートも召し上がってください」
 どこまでも優しく、穏やかな時間。
 もう、明日からの危険に備えるための小休止ではない。
 普通の生活、普通の平和が、この川の流れのように続いていくのだ。

『川べりを 歩いてみたいです』
 店を出る前に、ゼノビアが伝えた。
 賑やかに人が行き交い、目移りするほど素敵な物を売っているお店の並びは素敵だった。
 だがお茶を飲んでいるうちに、この穏やかな気分をまだもう少し味わいと思ったのだ。
「貴女がそうお望みなら」
 千冬はゼノビアの歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いていく。
 並んで歩いているとそれがはっきり分かって、ゼノビアはまた嬉しくなる。
(ああ、そうなんだ)
 そこでふとゼノビアは思いついた。
 どうして自分が、賑やかな街並みではなくこの遊歩道を歩きたいと思ったのか。
 街中では、しょっちゅう人に押されて千冬と離れてしまう。
 だが遊歩道では、何も話さなくても互いの存在だけを感じながら歩いていられる。
(ちょっと……わがままだったかな?)
 ゼノビアは自分の頬が熱くなるのを感じた。


 そうして川面に煌めく光を見ながら歩き、ベンチを見つければ少し座り、橋を渡りながら飛び跳ねる魚を眺め、夕暮れまでを過ごした。
 空はバラ色やオレンジ色や薄紫に染まって、明日もまた優しい1日が訪れることを教えてくれている。
 一羽の大きな白い鳥が、鮮やかな空を横切っていった。
 ゼノビアは潔いほどに強く羽ばたく鳥の姿を見ているうちに、不意に胸を締め付けられるような気がした。
 自分でもその理由は分からなかった。
 ただ切なさと、憧れと、そのほかの説明できないような想いがあふれてくる。

 その瞬間を待っていたように、千冬が口を開いた。
「貴女が無事でよかった」
 そう言ってから、考え込むように顎に片手を当てる。
「いや、無事というのも少し違いますね。とにかく、こうして元気を取り戻してくださって、安心しました」
 千冬の表情は相変わらずだ。
 だが何か、説明できない感情が仕草に表れていた。
 ゼノビアは手帳に思いを書きつける。
『心配させて ごめんなさい』
 何故かその走り書きを見せると、千冬の顔に苦しそうな表情が浮かんだ。
 ゼノビアは不安になる。
 千冬が何を言いたいのか、わからなかったからだ。


 ゼノビアの表情に、千冬は自分が相手を困らせていると気づいた。
 謝ってほしかったわけではないのだ。
 ただいざというときに傍にいなかったことを悔やんでいるだけなのだが、その想いを上手くない言葉でゼノビアにぶつけてしまった。
 千冬はひとつ、大きく呼吸する。
「これからは、大きな怪我はしないようにしてくださいね」
 絞り出すような声に、ゼノビアが小さく頷いた。
 噛み締める唇、形の良い小さな顎を見ているうちに、千冬の心にまたざわめきが訪れる。
 そして言葉が勝手にこぼれ出た。
「貴女以上に大切な存在なんて……」
 咄嗟に口をつぐむのと、ゼノビアが大きく目を見開いて自分を見上げるのは、ほぼ同時だった。
 千冬は咄嗟に視線を川面に向ける。
 自分の感情というものが、千冬にはよくわからない。
 というより、本当の自分の心というのがどこにあるのか、わからない。
 それでも目の前の女性を大切に思う気持ちは、もう疑いようがなかった。
 そう、この言葉は千冬の本心だ。けれどゼノビアはどう思うだろう?

 川面を見つめる千冬の視線は、袖を引く強い力に引き戻される。
 そこには今にも泣きだしそうな、潤んだ青い瞳があった。
 戸惑う千冬に、さらなる驚きが訪れる。
「聞かせてほしい、です。千冬さんの気持ち。……いつ、聞けなくなるか分からないから」
 それは音になった声。
 掠れて聞き取りにくい、けれどゼノビアの唇から想いがほとばしり出た瞬間だった。
「ゼノビア、さん……?」
「……ずっと言えませんでした。私の声、聞いたら嫌われるかもしれないって。でも、いまはちゃんと、自分の声で伝えたい、です」
 一言ずつを区切る、独特の話し方。
 想いを籠めた言葉は翼を広げて、まっすぐに千冬に向かって飛んでくる。
 千冬はゼノビアに向き直り、白い手を取り自分の手の中に包み込む。
 暖かく小さな手は、千冬の心の固い殻を砕くほどに強かったことを思い知る。
 視線を手から上げ、真っすぐに青い瞳を見つめた。
「私には、貴女以上に大切な存在なんて居ません。……これがきっと、『恋』なのだと思います」
 ずっと迷っていた。
 この世界の人間ではない自分に、そのような感情があるのかと。
 何かの思い込みではないか、仮にそうだとするなら、このような言葉を伝えていいのかと。
 だが迷う心をよそに、想いは言葉となって飛び立った。
 充分に大きくなった想いは、もう殻の中に閉じこもっていることはできなかったのだ。
「声を聴かせてくださって、ありがとうございます。貴女の勇気のおかげで、私は自分の心を知ることができたのだと思います」
 ゼノビアは千冬の手を自分の頬に押し当てる。
 暖かな涙が流れ、指を濡らす。
「……千冬さん、もっと一緒に、いたい、です。たくさんの時間を、一緒に」
 長い指がゼノビアの涙をぬぐった。
 そして、力強い腕がゼノビアの肩を遠慮がちに、けれどしっかりと抱き寄せる。
「私もです。これからはずっと傍にいます」
 触れた身体から伝わる言葉が、ゼノビアの全身を満たしていく。
 言葉はうまく心を伝えられない。
 けれど、言葉がなければ伝わらない心もある。確かめられないこともある。
「約束、です。ずっと、一緒に歩いて、ください」
 川の流れのように、約束された未来をどこまでも一緒に。
 自らの手で取り戻した平和な世界で、ふたりは新たな目的をみつけたのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

長らくお待たせいたしました。
お待たせしたついでと言っては何ですが、今の季節にあわせた内容になっています。
ちょうど、ここから始まるおふたりの未来に、ぴったりのように思いましたので。
もしお気に召しましたら嬉しいです。
この度のご依頼、誠にありがとうございました。
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2019年04月23日

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