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『Tipsy valentine 』
シエル・ユークレースka6648


 バレンタインにホワイトデー。恋のイベントが続く時期、メイン通りは赤やピンクで飾られ、街全体がラッピングされたような華やかさと浮かれた空気を纏う。
 贈り物を求め歩く人々は、贈る相手を思っているのか、皆口許に優しい笑みを湛えていて。シエル・ユークレース(ka6648)も弾んだ足取りで石畳を蹴る。

「見てみてっ、ハート! リボン! んー♪ やっぱりこの時期の街はかわいいねっ。ね、玲くん!」

 が、しかし。
 振り返った視線の先、連れ立ってやって来た香藤 玲(kz0220)は、両手をポケットに突っ込んで歩きつつ辺りを睨んでいた。

「あっちもカップル、こっちもカップル! なんなんだよ、バレンタインとかって告白イベントじゃなかったっけ? なんでカップルで来てるんだよ片思い中の皆々様に申し訳ないと思わないのまじリア充爆散すればいいのに」

 非モテの怨嗟をブツブツと吐き散らかす玲の様子に、シエルはひっそり吐息を零す。

(……今日は、めいっぱいおめかしして来たんだけどな)

 足許は新調したショートブーツ。服には以前玲に好評だったフリルを多めに取り入れて、アクセサリーは細見えする華奢なデザインで揃えた。金の髪には念入りにブラシを当て、どの髪型が良いかと悩み何度も結い直したりした。
 どこからどう見ても見た目は可憐な女の子。現に今も、足を止めたシエルに若者達の視線が絡みついてくる。
 それでもシエルの真実を知る玲は興味がないのかと、気持ちがしょぼんと萎れそうになる。
 けれど持ち前の明るさで振り払うと、玲の手をポケットから引っぱり出して握った。

「もうっ、またそんなこと言ってー。今の時期だから、限定のスイーツとかもたっくさんあるよ。行ってみよ♪」

 玲は繋いだ手に目を落とすとすぐに視線を外し、

「……ん。折角だし甘いもの食べよっ」

 シエルの手を引きずんずん歩き出した。振り向きもせず進んでいく玲の背を不思議に思い見ていたシエルだったけれど、ちらりと見えた耳が赤くなっているのに気付き、くすりと微笑んだ。



 チョコ餅、チョコドーナツ、今時期だけのカカオフレーバーのポップコーンに、可愛いカップ入りのホットチョコレート。この季節の通りには甘い誘惑がいっぱいだ。
 買い食いを嗜める大人がいないふたりの両手は、すぐに戦利品でいっぱいになる。
 限定のクレープをゲットすると、ふたりはベンチに腰を落ち着けた。

「ん、おいし♪ このクレープ、苺がごろごろでカスタードがとろふわー♪」
「こっちはナッツがぎっしりだよー、食べてみる?」
「ありがとっ、玲くんもどーぞ。あーん♪」
「あー……って。ナチュラルにあーんしそうになったけど、ここ外だからね!?」

 じゃあいらないの? とシエルが小首を傾げると、慌てて口を開ける玲。可笑しくてクレープをむぎゅっと口に押しつけると、玲は口も頬もカスタードまみれに。

「……やったなー? 次はシエルの番だよ? はい、あーん」
「えー、ボクは自分で食べられるから平気だよー」
「遠慮はイラナイヨー、ほらほら」
「遠慮じゃないよぉー。ほらほら、もう一口あーげるっ♪」

 賑やかにシェアしあいながら限定スイーツを堪能していると、向かいの洋菓子店からトレイを持った店員が出てきた。新作チョコの試食は如何と、道行く人々に声をかける。たちまちできる人だかり。ふたりは揃ってガタッと立った。

「チョコの試食だって! タダだよ、タダっ!」
「チョコの新作だって! 玲くん好きだよね?」

 同時に言い合い、跳ねるように駆け出す。持ち前の身軽さで人波をかき分けトレイを覗き込むと、一口サイズのチョコレートが行儀よく並んでいた。中にゼリーが入っているので一口で食べるのがコツだそうで。

「いろんな形があって可愛いね♪ やっぱりハートかなぁ。あ、でもうさぎさんもかわいー!」
「早く決めないとなくなっちゃうよっ」
「わわっ、じゃあコレ!」

 慌てて一粒つまみ、せーので口に放り込む。店員があっと声を上げた時には遅かった。カリッと噛み砕いたチョコの中から出てきたのは、薫り高い洋酒のゼリー。鼻先へツンと抜ける刺激を感じるが早いか、視界がふにゃりと歪みだし、シエルは思わず玲の腕に掴まった。

「……う? なんかほっぺあつーい……」
「僕も……って、しっかりー!」

 玲の肩を貸してもらい、覚束ない足取りでベンチに戻る。腰を支えてくれる手の大きさに、

(そういえば玲くん、初めて会った時よりおっきくなったなぁ)

 なんてぼんやり思う。くっつけた身体があったかくて気持ちよくて、ひとりでにくすくす笑いがこみ上げてきた。両腕を回しぎゅっとして、骨ばった肩に頬を擦り寄せる。

「くっついてるとあったかいね。なんか、楽しくなってきちゃった♪」

 すると、酔っ払ったのはシエルだけじゃなかったようで。玲も上気した頬をシエルの髪に埋め、

「人肌っていいよねー落ち着くー」
「ねーっ。んふふ、れーいくん♪ すきすき♪」
「僕もシエルだーいすき、今日もかーわいーい♪」
「えっ、ホント? えへへ、朝から頑張ったんだよー」

 じゃれ合っていると、通り過ぎる大人達が微笑ましげに眺めてくる。きっと、小さな恋人達に見えているのだろう。
 何だか胸のあたりがくすぐったくなって、シエルは玲の頬に頬を擦り寄せた。それから間近な黒い瞳を上目遣いに見つめ、

「ね、玲くん」
「んー?」
「ボクがオンナノコだったら、玲くんはずっと一緒にいてくれる?」

 甘えたさんの延長のように口にしたものの、いざ尋ねてしまうとどんな返事が来るのかそわそわしてしまう。
 玲はふっと真顔になって、シエルの顔を見据えてきた。

「シエルが、オンナノコだったら?」
(あっ、何だか真剣に考え込んじゃった!)

 シエルは急いで身体を離し、

「なんてねっ」

 冗談でごまかそうとしたけれど、だしぬけに両手を捕まえられてしまった。ほろ酔いで潤んだ玲の目が、真っ直ぐにシエルを捉える。

「オンナノコとかオトコノコとか関係なくて、僕にとって『シエル』は『シエル』だよっ。
 周り見渡してもシエルより可愛い子なんていない。でも依頼の時、先陣きって敵に飛び込んでくシエルはとびきりカッコイイ。それに、こんなワガママな僕をいつも気にかけてくれて、優しくて。
 だからずっと一緒にいれたら良いなって……思っ、てるんだけど……。あれ、僕こんなトコで何言ってんの。ごめん、忘れて」

 勢い込んでまくしたてていたものの、途中で我に返ったらしい。耳まで真っ赤にして最後はぼそぼそ口籠る。
 シエルもまさかこんな熱烈な返答が来ると思っていなくて、握られた手が痛いほど火照る。気づかれない内に、悪戯っぽく笑って玲の顔を覗き込んだ。

「えへへー。やーだよ、忘れてなんてあーげないっ」
「っ!?」
「だって、うれしかったもん♪ ……ふふっ。でもあんまり言うと、玲くんゆでダコになっちゃいそーだからぁ、」

 手を握り返し、ぴょこんっと立ち上がる。

「またお店見に行こっか♪ あっちにかわいいハーバリウムが置いてあるお店があったんだぁ」
「……はーばりうむ?」
「今流行ってるんだよー」

 玲は決まりが悪そうにしながらも、シエルに促されるまま歩きだす。
 すぐに自然と揃う足並み、並ぶ肩。熱い頬と酔いを風でさましながら、ふたりは再び甘い香りに包まれた街へ繰り出していった。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6648/シエル・ユークレース/男性/15/なにごとも楽しく♪】
【kz0220/香藤 玲/男性/16/甘味中毒駄ハンター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。シエルさんと玲のお出かけの一幕、お届けします。
お届けまでにお時間いただき申し訳ありません、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
タイトルの"valentine"、vが小文字なのはわざとです。意味合い的に……。
イメージと違う等ございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

この度はご用命くださり誠にありがとうございました。
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2019年04月23日

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