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『一対の雇われ女神 』
未悠ka3199)&アルカ・ブラックウェルka0790

 ハンターオフィスで依頼を眺めていた高瀬 未悠(ka3199)はどうしようかなと悩んでいた。
 噂で十日後にある依頼が募集されるという話を聞き、彼女に気になっていた案件なので、参加したい依頼があると聞き、それまで時間がある。
 ふと見かけた依頼で要塞都市ノアーラ・クンタウへのお使いという内容を見つける。
 商家の令息を護衛する依頼で、下調べでは雑魔が出るとのこと。基本的には難しい内容ではないと未悠は判断した。
 終わったら要塞都市で買い物もいいかもしれない。
 そんな事を考えながら未悠は受付の方へと向かった。

 未悠が受付を終えてハンターオフィスを後にした数分後、入れ違いで現れたのはアルカ・ブラックウェル(ka0790)だ。
 人の出入りが多い時間帯になったようで、ぶつからないようにしなやかに歩いていく。
「どれにしようかなー……」
 目移りしていたアルカは端から端まで見て暫し、悩んでいた。
「商家の護衛依頼、あと一人で締め切りですよー!」
 受付の方から飛んできた声にアルカが反応する。
「それ、どこへ行くの?」
 人の波をすり抜けていったアルカは受付嬢の前に立つ。
「要塞都市です」
「行く!」
 間髪入れずにぴしっと手を上げたアルカが最後の参加者になった。
 終わったら、要塞都市で遊ぼうと心待ちにしながら。

 打ち合わせ場所で他のハンター達と顔合わせをしていると、未悠とアルカが顔を合わせると、目を見開く。
「あら、アルカ。貴女も参加してたの?」
「ボクが最後の一人だったんだ。ミユと一緒で嬉しいよ」
 依頼は護衛対象であるご令息はまだ幼く、少々我儘で賢い子という印象であったが、いざ雑魔が出てくると、女性ハンターを守ろうとしても震えて隠れている事しかできなかった。
 サクッとハンターが倒してしまうと令息は安堵しつつも、何も出来なかったことを恥じてしまう。
 未悠は令息に対し、真摯に逃げなかったことを誉め、アルカは女性を守ろうとした優しさを誉めた。
 それからは大きなトラブルもなく、要塞都市内の目的の場所まで令息を送り届ける事に成功する。
 別れ際、令息はハンター達に感謝を述べ、我儘を言ったことを謝罪した。
 可愛らしい様子にハンター達は笑顔を綻ばせ、気持ちを受け取る。
 それともう一つ。
「要塞都市内に、はちみつとナッツの美味しい焼き菓子屋があるんだ。ぼくは、ここにくると、必ず食べてるんだ。暇だったらたべてって」
 素敵な情報に未悠は目を輝かせる。
「帰り際に買っていくわね」
 きりりとしたお姉さん然としている未悠だが、お菓子への情熱を胸に秘めていた。

 ハンターオフィスに報告と借りていた馬車を返しに行けば、報酬を受け取り、依頼完了だ。
 オフィスを二人で出て、アルカが声をかける。
「ミユ、一緒にランチ食べない?」
 現在は太陽もそろそろてっぺんに近いだろう昼頃。
 お腹が空いたという感覚はないが、そろそろ空腹を感じるだろう。
「そうね、いい店開いてるといいけど」
 要塞都市は様々な人々が行き交い、賑わっている。今歩いている商業地域は最たる場所。
 お洒落なお店は早々に席が埋まっており、お店を決めきれずに二人が悩んでいると、アルカが「一軒あるんだけど」と前置きして未悠を連れて行く。
「お洒落……という訳ではないんだけど、美味しい所だよ」
 そこがダメだったら天気もいいことだし、屋台街で食べようという事になった。
 看板には『ルクバト』とあり、外装はどちらかといえば飲み屋……という様子だ。
 アルカは厚く重いドアを押し開けて「さぁ、どうぞ」と未悠を中へ入れる。
 店内に入れば、店内は賑やかな様子だ。給仕の娘が両手に料理を乗せた皿を持って歩いていた。
「いらっしゃーい!」
 卓について、メニューを確認すると、昼は決まったメニューだけであり、夜は飲み屋のようだ。客層はドワーフが多く、昼酒を楽しんでいる客も多い。
 未悠は牛肉のシチューで、アルカはラムステーキを注文する。
 待っている間は最近あった出来事を話していた。依頼の話やプライベートの話。
 お互いの想い人の話を話すのは妙に照れ合ってしまう。
「はい、どうぞ」
 給仕の娘がそれぞれが頼んだ皿を目の前に置く。
 熱い鉄板の上で余熱で焼かれているラムステーキの脂が跳ねる音が聞こえる。
 未悠はスプーンでシチューを掬う。
 トマトの酸味と肉の旨味のスープに目を瞬いてしまう。
「美味しい」
「ここのシチュー、野菜もしっかり煮込んであるから、トマトの味、あまり酸っぱくないでしょ?」
「ええ」
 添えられたパンは焼いた後、一度焙っているのか、皮がパリッとしていた。
 一口サイズにちぎったパンを食べると、中はふんわりしている。
 美味しい食べ物は人の心を豊かにし、元気の素だ。
「食べ終わったら、お菓子屋さんのお店行ってみようか」
「ええ、行ってみましょう」
 アルカの提案に未悠は賛成し、ランチを食べる。

 食べ終わった後、二人は教えて貰った焼き菓子屋へと向かう。
 昼過ぎで人通りが多い中、店を探していく。
「アルカ。あの看板」
 未悠が指さすと、アルカは上を向く。
「アレだね」
 二人は顔を見合わせ、店の方へを向かう。
 店の前に到着した二人を待ち構えていたのは、店に並ぶ客の列だ。
 ざっと三十人は並んでいる。
「満腹だし、色々見てからまた見に行こう」
「それもそうね」
 二人は店を離れて出店を回っていく。
 要塞都市内では様々な土地の食料や装飾品などが出回っており、店を構えるところもあれば、出店のように売るところもある。
 主に二人の足が止まったのはアクセサリー等の雑貨。
 シンプルだがしっかりした作りは帝国の耳飾り。
 零れんばかりに華美な装飾の同盟の髪飾り。
 スタンダートなデザインで素材が豪勢な王国の首飾り。
 異国情緒あふれ、大ぶりな天然石があしらった辺境の腕輪。
 どれも目を引く美しい品物だが、とりあえずはウィンドウショッピングで終わらせ、財布の紐をしっかり締めた。
 出店が並ぶエリアから離れ、店屋が立ち並ぶエリアへと足を運ぶ。
 窓から覗く店の中は見えないが、カジュアルな服や帽子が飾られていた。
 畏まった店舗とは思えず、未悠はアルカを呼び、中へ入ろうと促す。
「入ってみましょ」
 未悠がドアを開けると、ごく一般的な服屋。店内に客はなかった。
 店員と客なのかイマイチわからない女性が顔を顰めて考え事をしているようだ。
 ただ、店員だろう人物が未悠達の姿に気づき、すぐに笑顔で「いらっしゃい」と迎えてくれた。
「好きに見て行って」
 そう言った店員は接客をせず、一緒にいた女性に声をかける。
 内容的には「どうするのか」「もう時間がない」という言葉が聞こえてくる限り、急ぎの何かがあるのだろう。
「あの」
 話に割って入った未悠に二人の視線が向けられる。
「貴女達が何に悩んでいるかわからないけど、困っているなら、ハンターオフィスに依頼をしたらどうかしら?」
「そうだね。時間がなさそうだけど、もしかしたら、すぐに集まるかもしれない」
 未悠の助言にアルカも補足する。言葉の後ろに自分達もハンターである事を告げた。
 店員と女性は二人のハンターをじっと見ている。
「ハンターオフィスに行かなくても、いるじゃない……」
 呆然と女性が呟いた。
「え?」
 目を瞬く二人に女性は悩んでいることを打ち明けた。
 彼女は劇団員であり、服などを作ったり調達する担当だという。
「今、人手を探してるの。所属している劇団の公演が今夜で、演出に造花をお客さんから舞台へ投げて貰うというのがあって、そのお花を配る人手を探してたの」
 お花配り担当が急遽公演に出れないという。
「あなた達、イメージにぴったりなの。お手伝い終わったら、そのまま舞台観て行って。勿論、報酬は弾むから!」
 お願いと更に念を押され、二人は顔を見合わせる。
 お手伝いをして報酬を貰って、観劇が出来る……悪い話ではない。
「いいけど……」
 未悠が了承すると、劇団員の女は顔を明るくさせる。
「じゃぁ、早速行きましょ!」
 善は急げといわんばかりに劇団員の女は二人を劇場へと連れて行く。

 劇場に到着すると、劇団長と話をして、未悠とアルカが手伝う旨を伝えていた。
「これは美しいお嬢さん方だ。きっとお客さんも喜ぶだろう」
 笑顔を浮かべた団長は着替えるように二人を促し、別の女性団員が更衣室へと連れて行く。
「助かったわ。女神役、怪我と急病で出られなくなってね」
「え?」
 ぎょっとする未悠とアルカに女優は「大丈夫よ」と笑う。
「入場中のお客さんにお花を渡して、黙って舞台を見てるだけでいいから」
 脚本を変えたと補足してくれた。引き受けてしまった手前、二人は衣装へ着替えた。
 未悠の衣装はノースリーブでAラインの白の総レースドレス。胸元とスカートの裾に光を反射する糸で刺繍が施されている。
 髪もハーフアップに結われ、白百合が連なった髪飾りをつけられた。
 一方、アルカのドレスはネックラインがビスチェタイプで、スカート部分は薄いチュールのような素材をふんだんに使って大輪の花びらのように折り重なったマーメイドライン。
 長い髪は夜会巻きにされており、更に白い石の飾りがついたピンで固定されている。
「いい着心地……」
 さらさらした肌触りのドレスを確認するように未悠が裾を抓み、身を捩じって見ていた。
「ミユ、とても綺麗だね」
「アルカも大人っぽくて素敵よ」
 二人が褒め合うとふふふ、と微笑む。
 団員達にも見て貰っておかしいところはないか確認してもらうと、感嘆の声が上がる。
「正しく女神だな」
「綺麗」
 などなど、とても好評だった。
「さ、もうそろそろ観客の入場だよ。女神様達」
 劇団員達にに送り出され、二人は女神となってお客に花を渡していく。
 人の入りはよく、ほぼ満席。
 舞台の物語は主人公は観客という設定で、観客の目線で物語を進んでいく。
 主人公は精霊と出会い、精霊と共に旅に出る。
 声が出せない一対の女神のエピソードで舞台端に座る未悠達へ観客の視線が行ったりする事や、幻獣との聊かい。
 物語の終りに相棒の精霊は湖に消えてしまった。
 精霊とのお別れに主人公は女神から渡された花を湖へ放り、物語が終わる。
 不思議な感覚で現実に引き戻された未悠とアルカは衣装を着替えるべく、更衣室に向かう。
 着替えを終えると、劇団員たちが拍手で二人を迎える。
「お疲れ様。急な出演で大変だったでしょう」
 ねぎらいの言葉を受ける二人は照れた様子だ。
「大変だったけど、楽しかったわよね」
「うん」
 未悠がアルカに言えば、彼女も同じ気持ちだ。
 劇団長より報酬を渡された。
「今日は入りも良かったからね。本当に助かった。ありがとう」
「こちらこそ、貴重な経験をありがとうございます」
 お礼を言うと、服屋にいた劇団員より未悠とアルカそれぞれに袋を手渡された。
 ふんわりと甘い匂いがする。
 開けてみると、今日の本来のお目当てのナッツの焼き菓子があった。リアルブルーの食べ物で言うと、フロランタンのような形状だ。
「これ!」
「頑張ってくれたんだもの。これくらい用意しなきゃね」
 驚く二人に劇団員は茶目っ気たっぷりにウィンクをする。
 服屋からの移動中にお菓子屋の話をしていたのだ。今日は食べられないと思っていたが、予想外のボーナスに喜ぶ。

 外に出ると、眩い月が浮かんでいた。
「あの舞台、今度は普通に見たいわよね」
 未悠の呟きにアルカも同じ考えだ。
「お花投げてみたかったよね」
「暫くやるみたいだから、一緒に行きましょ」
「楽しみだね!」
 お菓子を抱え、二人は家路へと歩いていった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3199/高瀬 未悠/女/21歳/霊闘士】
【ka0790/アルカ・ブラックウェル/女/17歳/疾影士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました。
鷹羽柊架です。
仕事終わった後ですが、演劇を楽しんで頂ければ……と思います。
可愛い子達を着飾ることが出来て楽しかったです。
おまかせノベル -
鷹羽柊架 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年04月24日

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