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『◆氷冷と踊るは誰ぞ03 』
アリア・ジェラーティ8537)&工藤・勇太(1122)

 氷の巨人が撒き散らす異常なほどの低温の霧。
 それがメキシコの町を氷漬けにするのにさほど時間はかからなかった。
 次々に人々は凍り付き、逃げ惑う事など虚しいというばかりに彼らは氷の彫像となる。
 氷の巨人……E−43はアリア・ジェラーティ(PC8537)を体内へ取り込み、彼女の力を用いて自身を強化していた。
 その体内でアリアは遠き誰かの過去を見る事となった。

(あれは……誰?)

 おぼろげな意識でぼーっと眺める彼女の目線の先にには氷の玉座に座る壮麗な衣装に身を包んだ女性がいた。
 周囲には氷で生成されたと思われる氷の騎士達がかしづいている。

「女王様……最終防衛ライン、突破……されました。申し訳……ござい、ません」

 辛さを出さぬ様にと兜で見えない唇を噛み締め、騎士は女王に頭を垂れる。
 女王は座ったままで表情を変えずに言う。

「良い。お前たちはよくやった……あとは任せ、一足先に……逝くがいい」

 女王が手をかざすと、騎士を包んでいた氷の鎧は崩れ去り……白骨となった遺体がその場に転がった。
 アリアはその光景を黙ってみていたが女王と目が合う。

「そうか……君は……ふふ、最後に不思議な事に出会うものだな。これは独り言だ、聞いても聞かぬとも構わぬ」

 女王はゆっくりと立ち上がり、窓辺へ歩いていった。アリアもそれに続く。
 眼下には人の騎士だろうかごうごうと燃える松明を掲げ、氷の城に殺到する騎士たちの姿がある。
 みな、怒号をあげ一気に城へとなだれ込んでいた。

「見えるか。あれは元々私の城下の住人達だ。隣国との戦いの折り、私は……氷の力を用い、それを防いだ。だがその時、止むを得ず味方もろとも殺してしまった。私は……氷の力を制御しきれなかったのだ。侵攻してきた隣国への、友を殺された恨み、親しき者を失った悲しみ、それら怒りに任せ、振るったせいであろう」

 アリアの方を向き、女王は自らの王冠を外す。
 そしてそれを彼女に被せた。

「同じ轍を踏んではならんぞ、我が遠い……遠い、子孫よ。どのような苦境にあろうと諦めてはならん。禍つ力と言われようとも、この力は使い方次第で人々を笑顔にできる。私は……それに気づくのが遅かった」

 その言葉を聞き、アリアの意識は遠のいて風景が白く白く、なっていく。
 微かに女王の言葉が聞こえる。

「ふふ、お前の様に……氷菓子など、振る舞う店でも……したらよかったのかも、な……」

 うっすらと意識を取り戻したアリアは自身が身動きできない状態である事に気が付く。
 四肢は拘束され、体に何かが接続されている違和感が伝わっていた。
 少しでも気を抜けば意識は闇に沈み、また気を失ってしまいそうな状態である。
 E−43は腕を振り上げ、建物を潰そうとした。
 だがその動きは緩慢となり、建物の寸前で腕が止まる。
 E−43の放つ極低温の霧がたちまちに建物を氷漬けにし、倒壊は免れたものの建物は全体が氷に包まれた。
 メキシコの町は氷の巨人によって常夏の町とはもう言えない様相に変わっていったのである。





「そうか……やっかいな事になっちまったなぁ」
「え、どういうことですか」

 メキシコに向かう道中、空港へと急いでいた草間・武彦(NPCA001)と工藤・勇太(PC1122)であったが、誰かからの連絡を受けた武彦が車を停止させた為、勇太は不思議に思い聞いたのである。
 急ぐのなら車を飛ばしてでも空港へ行くべき事態だからである。

「あのE−43とかいうデカブツ、メキシコの町で大暴れだそうだ……しかも出現場所がアリアの向かった工場、想定スペック以上の氷の力……あとは言わずともわかるな?」
「まさか……あいつの中に、アリアちゃんがッ!」
「そう、そのまさかだ。……ったくただの人探しのはずだったんだがなァ……仕方ない、お上じきじきの指令だ」

 武彦は懐からサングラスを取り出すとそれをかけた。
 彼の表情はすっと変わり、目つきはかなり鋭くなった。ふぬけた探偵といった様子はもう見えない。
 それは彼がIO2の仕事として今回の件を認識した証でもある。

「都市空間危機状況制圧用二脚機動装甲車『ブラスナイト』を申請、予定通りにヘリでのピックアップ後、現地へ向かう」

 車から下りながらディテクターとして武彦はIO2へとその旨を連絡した。
 ほどなくして戦闘用のヘリが降下し辺りに強い風を巻き上げながらその扉を開ける。
 いきなりの行動に唖然としている勇太へ武彦はヘリの中から手を伸ばす。

「どうした、来ないのか? アリアはあの状況から見て寄生が浅い……まだ助ける猶予はあるぞ」
「え、あ……はい、行かせてくださいっ!」
「いい返事だ。よし、メキシコまで急げ。時間がないぞ!」

 二人を乗せたヘリは空高く飛びあがるとメキシコへ向かっていくのであった。





 メキシコの町上空。

「あれだ、このままブラスナイトで降下、空中戦を仕掛けある程度のダメージを与えてアリアを引き剥がすぞ」
「わかりましたっ、俺も……俺の力で、あの子を助けます!」

 ブラスナイトに乗り込んだ二人はヘリの後部ハッチが開いたのと同時に氷の巨人直上から地上目掛けて降下する。
 ブラスナイトは人型の戦闘兵器である。人の姿を模している為、様々な武装が搭載可能だ。
 今回も背面バックパックに滑空用のウイングを装備し腰にはアサルトライフル型の霊力を弾として撃ち出すライフルを。
 腰部サイドのウェポンラックには切断用高周波ブレードを装備していた。
 腰に装備されたアサルトライフルを右手で構え、ブラスナイトはその照準をE−43の右腕に合わせる。
 だが彼らが照準を合わせるよりも先にE−43は氷の塊を降下するブラスナイト目掛けて放った。
 武彦はすぐさま照準を氷の塊に合わせるがそれを勇太が止める。

「だめだっ! あの中には……柚葉(NPCA012)ちゃんがいる!」
「なんだとっ……!」

 腰に戻していては間に合わないと判断した武彦は咄嗟にアサルトライフルを手放し、柚葉入りの氷の塊を両手でキャッチする。
 勇太の力を用いて氷漬けとなった柚葉を即座に解凍するとブラスナイトの中に収容する。

「げっほげほ、武彦! 勇太! 大変だっ! あいつの胸の中に……アリアがッッ!」
「胸部か……場所はわかったが、くっ、こうも攻撃が激しいと近づくことすら容易ではない……っ!」

 会話している間も地上からはE−43が投擲する氷の塊が絶え間なく投げられており、回避軌道を少しでも間違えば途端に撃墜されてしまうだろう。
 ブラスナイトはすれすれでそれらを回避しつつ、なんとか高度を下げている状態であった。

「俺が……俺が氷は防ぎます! 武彦さんはその間にアリアの救出を!」

 勇太の提案に乗り、ブラスナイトは滑空用バックパックを切除、姿勢を頭を下に向けた高速での降下体制へと変え、腰部サイドにマウントされていた高周波ブレードを右腕に装備した。

「グゥゥッガガガアアアアア!」

 吼える様に咆哮したE−43は口を開け、氷の槍を連射してブラスナイト目掛けて放つ。
 だがそれらは勇太が辺りに散らばる氷の破片をサイコキネシスで集め、精製した氷の壁によって全てが防がれた。
 武彦は勇太を信頼し、ブラスナイトの高周波ブレードをE−43目掛けて突き立てる事だけに集中する。回避軌道は頭から捨てていた。
 E−43の氷の槍が勇太の氷壁を突き抜け、ブラスナイトの左腕を吹き飛ばす。被弾により体勢が崩れそうになるが勇太はサイコキネシスのフィールドを展開しブラスナイトの体勢を安定化させる。
 しかし過度な負担が彼の口の端から一筋、血を垂らした。

「……ぐっ、あっ……お、俺に構わず……アリアちゃんを……!」

 至近距離まで接近したブラスナイトを撃ち落とそうとE−43は腕を振り回すがブラスナイトは紙一重でそれを躱し、両足の底面にセットされた姿勢固定用アンカーをE−43の胸部側面へ打ち込んだ。
 完全に張り付いたブラスナイトは高周波ブレードを用い、Eー43の胸部を浅く切り開く。中には触手の様な物にからめとられたアリアが見えた。
 勇太はフィールドを維持しながらアリアをサイコキネシスで引き寄せる。
 コードのような触手をぶちぶちと引き千切り、勇太はブラスナイトのコックピットへアリアを収容する事に成功した。

「アリアちゃんっ!」
「……う、あ……ここは……」
「もう大丈夫だよっ! 勇太が助けてくれたの!」
「そう……あ、あいつ……止めないと……っ!」

 アンカーを引き抜き、E−43から急速離脱したブラスナイトであったが離脱の際に右足を損傷、半壊しながらもなんとか少し離れた位置へ着地した所であった。
 救出に使った高周波ブレードはE−43の硬い氷の装甲によって半分から折れ、使い物にならなそうであった。
 ビービーとけたたましい警告音が戦闘続行が厳しいことを告げている。操作画面にはアラートが幾重にも重なって表示されている。

「こいつも限界が近い……手はないのか……っ」
「大丈夫……私も力を貸す、みんなで……やれば……いけるよ……っ」
「俺も、いけますよ。まだ、姿勢制御はできますっ!」
「武器には私が変化する!」

 消耗し疲労していたアリアであったが、力を振り絞りブラスナイトの損傷個所や失った右腕を氷で生成する。
 自力での姿勢制御が難しくなっているブラスナイトの姿勢は勇太がサイコキネシスのフィールドで覆う事で安定させた。
 柚葉はぎゅうぎゅう詰めのコックピットから飛び出しブレードの折れた刀身の代わりとなった。耳と尻尾が出ているのはご愛敬である。

「いくぞっ!」

 ブラスナイトは姿勢低く地面を疾駆する。
 E−43は核となっていたアリアを失い、体を自壊させながらも腕を振り上げて突っ込んできた。
 勇太がブラスナイトを傾け、武彦は脚部ローラーを展開、勇太の制御で反時計回りに円移動する。
 腕の一撃を避けたブラスナイトはがらあきとなったE−43の胸部コアユニットに柚葉の変化した高周波ブレードを突き刺した。

「グゥゥゥアアアアアアアーーーッ!」

 断末魔の叫び声をあげ、E−43は氷の瓦礫となってがらがらと崩れ去っていった。
 膝をつき、煙を上げるブラスナイトの元へ戦闘ヘリが降下してくる。
 ブラスナイトの回収はIO2に任せ、勇太とアリア達はヘリへと乗り込んだ。

「私……メキシコの町に……酷いことを……こんな……」
「アリアちゃん、大丈夫。君のおかげでみんなは救われたんだよ」
「え……?」
「誰も死んでないんだ。氷漬けで仮死状態になっていただけで、誰一人死んでないんだよ。アリアちゃんがきっと無意識でやったんだと思う」

 そこで彼女は女王の姿を思い出していた。彼女の言葉。諦めるなと。

「そっか、できたんですね……私」
「え?」
「いえ、何でもありません。では戻ったらアイスをご馳走します。今回のお礼も兼ねてですが」
「アイス!? やったぁぁぁーーアイスだぁぁぁ!」

 柚葉の賑やかな歓声がヘリの中を彩り、彼らは朝日の光で氷が溶け行くメキシコの町を後にするのであった。

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東京怪談
2019年04月24日

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