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『Jenny 』
小宮 雅春aa4756

●終わりかけた世界の中で
 大地を埋め尽くす従魔の群れ。世界を侵掠する愚神の軍団。終極の混沌の中、エージェント達は必ずや未来を切り開かんと、胸に希望を宿して戦い続けていた。迎え撃つ王の側近は、そんな彼らの輝きをじっと見据えていた。
 小宮 雅春(aa4756)も、とある小隊の一員として絶望を擬えた泥濘の中を駆け抜けていた。友人でもある小隊の仲間達が、めいめい武器を手にして敵の首魁へと切り込んでいる。
「僕の為すべきことは……」
 友の影となり、未来へ繋ぐ事。雅春も一振りの戦斧を背中に担ぎ、一気に間合いへ踏み込む。刃に霊力を満たし、首魁の肩口へと叩きつけた。敵意と破壊の反作用が、同時に彼へ襲い掛かってくる。肩に激しい熱を感じ、喉が焼けつくような渇きと痛みにかられる。
(けれど、こんなところで死ねない)
 雅春は歯を食いしばると、再び得物を力強く握り締めた。出会った英雄達との、親友達との絆を胸に、その魂の輝きをそのまま力へ変えていく。
「――ッ!」
 喉が潰れ、舌が回らない。しかし、彼は必死にその名を呼んだ。今まさに共にいる子鬼の名を。幻想蝶の奥に身を潜めている、切れども切れぬ縁を持つ女の名を。
 再び斧を振るい、叩きつける。今度は臓腑に熱湯を流し込まれた痛みが襲う。それでも雅春は首魁の眼の前に踏み止まり、斧を以て食らいついた。激痛が走る度に、眼の前で光が弾け、意識が白んでいく。英雄の名を叫びながら、雅春は全てが真っ暗になるまで泥濘の中で斧を振るい続けていた。

●夢
 気付けば、雅春は霧に包まれた湖の上に居た。小さなボートに身を横たえ、濁ったミルクの空をじっと見つめていた。“あの世界”では何が起きてもおかしくない。何かの力に飲み込まれたのか。雅春は弾けるように起き上がって、周囲を必死に見渡す。友達の名前を叫んでみても、霧の彼方に飲み込まれていくだけである。
「一体ここは……」
 身体を探るが、普段肌身離さずにいる幻想蝶がどこにもない。丸腰どころか、英雄さえ彼の傍にはいなかった。雅春は思わず顔色を変える。
(何が起きてるんだ?)
 呆然としてただ前を見つめていると、不意に霧の奥が暗くなる。何かの影だ。雅春は咄嗟に身構え、目を凝らす。やがて霧を突き抜けて、一艘のボートがすれ違うように現れる。雅春が中を覗き込んでみると、そこには小さな木偶人形が乗っていた。古びてくすんだ色合いも、所々角の落ちた見た目も、まるで彼の持っているそれと同じであった。
「待ってくれ」
 気付くと雅春は身を乗り出していた。しかし、まるで磁石で弾き合うかのようにボートは離れ合い、雅春はバランスを崩してそのまま湖の中へと落ちてしまった。昏い昏い闇が、雅春を包み込んでいく。息苦しくて、彼は手も足も無茶苦茶に動かして水面を目指す。
 その横を、小さな人形が落ちていく。手足をだらんと水に預けて、底へ底へと沈んでいく。雅春は慌てて手を伸ばしたが、彼の指先をすり抜け人形は暗闇に落ちていく。
(消えないでくれ。まだ出会ったばかりじゃないか)
 彼は人形――ドレスを纏った女に向かって叫んでいた。
(どちらかが死ぬまで添い遂げるんだって、そういう約束だったんじゃないのか)
 いや、そんな約束は彼女としただろうか。“彼女”は幼い頃に逢った“彼女”であって、今共に在る彼女と同じではないのじゃないか。彼は自問し続ける。
 その間に、彼の肩を何かが掴み、一気に水面へと引っ張り上げ――

「……!」
 雅春は目を覚ます。ほんの少し消毒薬の匂いが混ざった、澄んだ空気。辺り一面は清潔感の漂う白に塗りこめられている。腕を見れば、点滴やらなにやら、何本も針がぶすぶすと突き刺されている。病院だ。
(どうして、病院に……)
 固めのベッドに身を預けて天井を見つめているうちに、全身の痛みと記憶が少しずつ蘇ってきた。世界を飲み込まんとした王の一翼に立ち向かい、死に物狂いで戦場に立ち続け、何とか勝ちを収めたのである。
(……夢か)
 怪我の痛みか、筋肉痛か。あらゆる痛みがないまぜになって具合が悪い。しかしどうにか彼は起き上がって、傍に置かれていた携帯を手に取った。
 ニュースを辿ってみると、戦いは何とか人類優位に進んでいるようだ。王との最終決戦に向けて、準備も着々と進められているという。希望は確実に巡りつつあった。
(このまま戦えば、きっと勝てる)
 雅春もまた、そんな手応えを感じ始めていた。まずはこの怪我を癒して、再び前線へと帰還する。そして友と共に攻撃を再開だ。
(そうして、勝ったら……)
 夢の光景が脳裏を過ぎる。まことしやかに囁かれている、王との勝利後に訪れる、英雄との別れ。一人になってしまった未来。想像しただけで、心臓がきゅっと絞られた。
(違う。そんな未来はきっと、訪れやしない)
 雅春はかぶりを振った。あの夢から自分を引き上げてくれたのは誰だ。あの腕こそが、他ならぬ『彼女』のものに違いない。
 これは王を退けるためだけの戦いではない。王などに縛られぬ存在として、新たに英雄達と歩む未来を創るための戦いなのだ。
(……やるんだ。やらなきゃ)

 彼は霞む目を擦り、じっと前を見据えた。

●新たに始まる世界の中で
 とあるマンションの一部屋。ロッキングチェアに背を預けて、雅春はぼんやりと春の空を見上げていた。全ての部屋を合わせても、三人で暮らしていくには些か狭い。けれど彼にはそれでちょうどよかった。

 王は倒れた。王はリンカー達から絆を奪うことは出来なかった。新時代の訪れと息巻く人々の傍には、相も変わらず英雄の姿が存在していた。共存共栄の未来を勝ち取ったのである。

 棚の中に腰かけた人形をちらりと見遣る。“彼女”は相変わらず、心の真ん中に居座っていた。きっと一生胸に抱いて生きていくことになるのだろう。自分の未練がましさに少しむず痒くなって、思わず一人苦笑する。
(……それでも)
 彼は信じていた。これからは、『彼女』との日々を歩み、思い出をこの心の中に刻み付けていけるだろうと。



 おわり


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 小宮 雅春(aa4756)

●ライター通信
お世話になっております。影絵企我です。
大規模で一度書かせて頂いたくらい……な気がするので、初めましてというべきでしょうか。

ささやかな最終回総集編、みたいなイメージで少し書かせて頂きました。
満足いただける出来であればいいのですが。

ではまた、ご縁がありましたら宜しくお願いします。
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2019年04月25日

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