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『Baby Doll 』
キャロル・スノウホワイトla2690

 残念なことながら。
 ナイトメアには、キャロル・スノウホワイト(la2690)の淡い記憶の底に残る、あらゆる手管が通じない。
 やわらかな指で顎先をくすぐろうと、「寒い」と体を振るわせようと、ベビードールの裾をくわえて上目遣いを決めてみても――異界より攻め寄せる侵略者は目もくれずに彼女へ迫り、その白き柔肌を裂かんと爪牙を振り上げるのだ。
 だからこそ。

「とりまどいて!」
 華奢な肢体にそぐわぬ重歩斧「ガトーフ」を高く振り上げ、思いきり振り下ろす。
 頭部を叩き潰され、地へ這ったナイトメアにウインクをひとつ贈り、その身を翻した。
「はいはーい、次のお客さんどうぞー」
 突き込まれた攻撃型の爪へ、横から甲歩装具で鎧った肩を押しつけ、その爪を支えに重刃を縦に振り上げた。本来であれば前に出した足で地を踏み止め、反動を利するものなのだが、先に得物を振ることで生じる遠心力を乗せ、続く踏み込みをより強くする。それは真っ向勝負を好む彼女が編み出した、無手勝流の理だ。
 果たして重刃が敵へ届く寸前に踏み止められた反動が体を駆け上り、“据えた”一撃を成した。
 鋭い歯が並ぶ顎を下から断ち割られた攻撃型は、つんのめって倒れ込んでくる。
「お触りとかマジで禁止なんだケド?」
 バックスイングからの平手打ちで骸を吹っ飛ばし、残るナイトメアへ伸べた手指を順に折って手招いて。
「そのかわり、思いっきりあそびましょ」
 この造りものの体に宿したものは、侵略者を打ち砕く“力”。だからこそ彼女は異形を怖れることなく踏み出し、傷つくを厭うことなく重刃を振りかざすのだ。
 攻撃型二体が左右から振り込んできた爪を、横に寝かせた斧の柄と刃の頭で受け止め、押し込みながら踏み込む。
 その勢いに押されて左右によろめく攻撃型の左側の頸部へ、頑丈なアーミーブーツで包まれたふくらはぎをかけて膝裏へと挟みつけたキャロル。そのままポールダンスさながら自らの体をぐるりと巡らせ、右側の攻撃型へフルスイングの重刃を叩きつける。さすがに狙いは定められず、その攻撃は敵の肩を砕くに留まったが、仲間の追撃を呼び込む時間を稼ぐには充分だった。
「あとヨロです!」
 右側への攻撃は他のライセンサーに任せ、キャロルは自らが軸としていた攻撃側の脳天へ柄頭を突き下ろした。
 硬い外殻に鎧われた頭部ではあるが、彼女の脚で固定され、力の逃がしようがない。浅くひび割れた装甲へ、今度は重刃を叩き込まれて崩れ落ちた。
 その攻撃型が斃れるまでに脚を解いて地面へ転がったキャロルは、立ち上がりながら斧を振り上げた。
 がっしとそれを受け止めたのは、分厚い装甲を押し立てて壁を為す防御型である。
 闇雲に打ち据えたところで、その体を砕くより早くこちらの体が壊れるだろう。キャロルは一秒で肚を据え、口の端を吊り上げた。

「邪魔!」
 斧を振り込みながら、一気に十メートルを駆け抜ける。当然ながら、ナイトメアに知る由はない。本来であれば彼女がまだ突き進めたのだということを。知らぬからこそ防御型は振り向き、キャロルの行き先を確かめてしまう。
「あたしを捕まえてご・ら・ん・な・サイっ♪」
 銀白の髪で飾った背中越しに笑みを投げ、誘う。
 対して防御型は踏み出すと同時、目と思しき球体からレーザーを撃ち込んできた。
 脚が遅い代わりに遠距離攻撃ーってわけね。マジうざい!
 胸中で顔をしかめておいて、実際の顔では笑みを絶やさず、キャロルは沸き立つ血というイメージを変じたブラッディクロスを放った。
 これにより、包囲に加わろうとしていた攻撃型をひるませて、キャロルは防御型へ向かう。
 今日、依頼を共にしている仲間はグラップラーやネメシスが多い。前線を保って仲間を呼び込むのはスピリットウォーリアたる彼女の仕事だ。そして彼女自身、こうして自由にやれる戦場のほうが向いてもいるし、他にももうひとつ事情があった。
「たあっ!」
 目へ振り込まれた彼女の重刃を、腕で受け止める防御型。しかし、その分厚い装甲は防御型自身の視界を塞ぎ、腕に攻撃を弾かれた勢いに乗って体を巡らせたキャロルを視認できなかった。
 体を回しながら、キャロルは跳んでいた。大上段から振り下ろした重刃で狙うのは、先と同じ防御型の目。当然、残されていた腕でこれも弾かれるが、かまわずにもう一度打ち込んで、ようようと駆けつけてきた攻撃型の攻めを先にも使った大嵐屠で斬り抜けた。
 防御型は確信した。あの敵はすぐに身を転じてこの目を潰しに来る。
 事実、キャロルは足を止めたと同時に反転し、こちらへ駆けてきたが、しかし。いかにあの斧が重かろうと、この外殻を貫くことはできまい。
 攻撃型にキャロルを左右から攻めさせておいて、防御型が踏み出した。目の守りは万全だ。あの細い体をひねり倒し、命を喰らい尽くすばかり。
 キャロルは体を縮めて挟撃に耐え、加速する。彼女の防具は強靱なばかりでなく、柔軟性を重視したものがそろえられていた。ゆえに、キャロルがいかなる体勢をとったとて、挙動を妨げられることはない。
 キャロルは続く攻撃型の挟撃を、前へ倒れ込むことでかわした。そのまま背を大きく反らして自らを輪と化し、地を一転。再び立ち上がったときには、眼前に防御型がいた。
 あたしの力だけじゃ砕けないかもだけど!?
 振り上げた重刃を、今も彼女を前へ運び続ける勢いに乗せて、真下へ引き落とすように振り下ろす。
 その重刃は踏み込んできた防御型の腕へ食い込んで――跳ね返されることなく断ち斬った。
 防御型と自らの勢いを重ね、カウンター攻撃を成す。言葉にすればそれだけのことながら、それだけのことを成すために彼女は積み上げてきたのだ。
 自らの戦いかたを固定することで闇雲な戦闘屋であることを印象づけ、レーザーを封じるために目を守らせた。その上で、さらに殴りに行くと見せかければ、防御型はその目さえ守れば容易く破れる相手と侮り、前へ出てくるはず。
 その虚を突いて迫り、相手の前進力を利して重刃を打ちつけ、引き斬れば、いくら硬い外殻であっても持ちこたえられはしない。
 守りの腕を損なった防御型は見た。
 視界を縦に塞ぐ重刃の向こう、酷薄を映したキャロルの笑みを。
「秒で死んどけ?」
 真っ向勝負で強敵を粉砕するがため策を弄し、それを完遂した充足感を握り込み、キャロルは防御型の目を叩き潰す。
 果たして彼女が得たものは、銃器ではけして味わえぬ、極上の手応えであった。


 戦闘は終わり、キャロルは後方へ駆け戻った。
「ケガしてる人とかいたら呼んでー。ケガして帰るとかだめだカラ!」
 突然の戦場となったこの地へ取り残されていた人々に呼びかけ、傷を癒していく。
 彼らを守るために、彼女はひとり突出する形で戦場へ進み出たのだ。……先に述べたとおり、自由を好む質だからということも当然あるわけだが。
「ほらほら、男の子がエモくなってんじゃないわよ。下がっちゃうでしょー」
 擦り剥いた傷を抱えてうなだれていた男子中学生、その背をかるく叩いて治療してやりながら、キャロルは明るい笑顔をのぞき込ませた。

 装甲をまとって重刃を振り回す戦鬼であり、ノリとテンションを至上とするヴァルキュリアの少女であるキャロルは、ふたつの顔を自在に使い分け、今日という日を飄々と歩き抜けていくのだ。
 
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グロリアスドライヴ
2019年04月25日

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