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『あなたを想うこの感情は 』
ヘンリー・クラウンla2928)&相馬 由那la3377

 相馬 由那(la3377)はヘンリー・クラウン(la2928)に恋をしている。
 なかなか自分の気持ちに気付いてもらえないが、それでもめげずに好意を示していた。
 ヘンリーと恋人同士になれれば嬉しいし、そうでなくともヘンリーと共に時間を過ごすのは楽しいのだ。

 しかしこれからヘンリーの家を訪ねることに由那は緊張していた。
 遊びに来るのは初めてではない。
 それなのに、彼の家の呼び鈴を鳴らそうとして直前でためらってしまうことを、由那はここ数分で何度か繰り返していた。
 深呼吸をして、意を決し、細い指を呼び鈴に伸ばす。

 軽やかなチャイムが屋内で鳴った音が、玄関の前にいる由那の耳にも届いた。

 すぐに玄関の扉が開き、ヘンリーが顔を出す。

「いらっしゃい。上がってくれ。……どうかしたか?」

 由那の表情が硬いことに気付き、ヘンリーが気遣わしげな声をかける。

「大丈夫!」

 自分の細かい変化に気付いてくれる優しさが今だけは恨めしい。
 由那は何とか明るく振る舞い、ヘンリーの家に上がった。



 パティシエであるヘンリーが作ってくれるお菓子はどれもが美味しい。
 けれども今日出してもらったフィナンシェの甘さを由那はほとんど感じていなかった。
 どうやって言い出すか。そればかりを考えていた。

「――な、由那?」

「ひゃいっ?!」

 考えに沈んでいた由那は、ヘンリーに名前を呼ばれるのを聞こえていなかった。
 ヘンリーに顔を覗きこまれてようやく気付き、肩を跳ねさせる。

「紅茶のおかわりはいるかと聞きたかったんだが、本当にどうしたんだ? 熱でもあるのか?」

「ないよ! うちは大丈夫だから。ヘンリーさんこそ大丈夫なの?」

「俺が?」

 口からこぼれてしまった言葉をなかったことにはできない。
 由那は失言した自分を内心で叱りながら、緊張で渇いた口を開く。

「その……ヘンリーさん、好きな人に告白して振られたって」

「ああ。心配してくれているのか。ありがとな」

 笑顔のヘンリーの表情に陰は見えない。
 それでも由那の胸はきゅっと苦しくなった。

「うちと一緒に遊びに行かない? 気分転換してもらいたくて」

 気付けば由那は、どうやって告げようか散々迷っていた言葉を口にしていた。
 ヘンリーは少しの間きょとんとしていたが、嬉しそうに頷く。

「やった! じゃあ時間は――」

 ヘンリーと初めてデートできる。たとえ彼はデートだと思っていなくても。
 由那は気分を高揚させながら、ヘンリーと待ち合わせ日時と場所、そして大まかに何をするか打ち合わせた。



 太陽と星はどんどん昇って沈み、二人でお出かけする日になった。

 ヘンリーは待ち合わせ場所のショッピング街に早く着いたため、時折時刻を確認しながら由那を待っている。
 彼もこのお出かけを楽しみにしているのは、格好を見ても分かるだろう。
 育ちの良さが察せられる、カチッとしたおしゃれな服装。シンプルなジャケットなどをバランス良くコーディネートしており、帽子とメガネが普段とは違う特別な外出の雰囲気を演出していた。

 再びヘンリーは時刻を確認してみた。約束の時間を五分過ぎている。
 どうかしたのかと思っていると、慌てて走るハイヒールの音。
 ヘンリーは顔を上げ、そして駆け寄ってくる待ち人の姿を見つけた。

「ごめんなさい、ヘンリーさん」

 遅れてしまったことを由那は頭を下げて謝った。
 大好きなヘンリーさんと二人きりでお出かけをするのだと思うとなかなか着ていく服を決められず、気付けば出発しようと考えていた時刻を過ぎていたのだ。

「……ヘンリーさん?」

「っ、あ、ああ、いや、由那が怪我したとかじゃなくてよかった」

 そうやって選んだだけあり、由那の服装は春めいて可愛らしかった。
 ロング丈のワンピースは一見シンプルだが、襟や裾にフリルがあしらわれている。
 羽織っている黄色のカーディガンもふんわりと柔らかな印象を添えている。
 ハイヒールのおかげでいつもより少し身長が高く見えた。
 ヘンリーはぼうっと由那を見つめていた自分に気付き、慌てて返事をする。

 そうして改めて見ると、ヘンリーは由那の青くて綺麗な髪が少し乱れていることに気付いた。
 急いで走ってきたからだろう。
 ヘンリーは自然に手を伸ばし、由那の髪を手櫛で整えた。

「ありがとう」

 はにかんだ笑みを浮かべる由那。

「どういたしまして。服、似合っているな。春らしくていいと思う」

 ヘンリーがさらりと褒めると、由那はみるみる顔を赤らめた。
 その様子がまた可愛らしく、ヘンリーは少し目を見開く。

「ショッピングに行くか。まずどこを見たいだろうか?」

「あ、うん、新しい雑貨屋さんが近くにできたらしくて、可愛い物がいっぱい置いてあるってさ。見てみたいな」

「じゃあそこから行くか」



 二人でのショッピングはとても楽しかった。

「あ、見て、ヘンリーさん! 黒猫の形のタオル掛け。可愛い!」

 雑貨屋では評判通りの可愛い雑貨を眺め。


「由那はどういう服が好きなんだ? あいつほどじゃないが、俺も少しは服のこと分かるぞ? こういうのも似合うんじゃないか?」

「わ、可愛い。そういう服はあまり着たことないけど、ヘンリーさんが似合うと思ってくれるのならチャレンジしてみようかな」


「こっちの服はヘンリーさんに似合いそうだよ」

「どれどれ? 確かにそれもいいな」

 服屋をいくつも巡り、お互いに合いそうな服を探し。


「少し疲れたか? あそこのカフェは美味しい紅茶が飲めるんだ。休んでいくか」

「うん、甘い物も食べたいな」

 静かなカフェに入り、たわいもないおしゃべりをしながら紅茶とケーキに舌鼓を打つ。



 由那はヘンリーとのショッピングをとても楽しんでいた。
 ヘンリーも同じくらい楽しんでくれていたらいいなと願いながら、彼の隣で歩を進める。
 気遣ってくれているのか歩調は由那に合わせてゆっくりだが、それでも由那は一歩歩くごとに足の痛みを感じていた。
 初めてのお出かけに影を差したくなくて、由那は足の痛さが顔に出ないよう必死に隠していた。

「……由那、足を見せてみろ」

 なのに、どうしてヘンリーは気付いてしまうのだろう。
 いや、気付いてくれるヘンリーだからこそ、由那は好きになったのかもしれない。

 彼としては珍しく有無を言わさぬ雰囲気で道ばたのベンチに座らされられ、由那は自分のハイヒールを脱いだ。
 両足のかかとが靴擦れを起こしており、可哀想に、赤い血がにじんでいる。

「痛かっただろう、どうして言わなかったんだ」

「だって……」

 ヘンリーさんに心配をかけたくなかったから、と本人の前で言うこともできず、由那は口をつぐんだ。
 分かっている、たくさん歩くショッピングに慣れていないハイヒールを履いてきた自分が悪いのだ。
 少しでも可愛いと彼に思ってもらいたくて背伸びをした自分が。

 ヘンリーの手際は良かった。
 まず鞄からいつも携帯している絆創膏を取り出すと、座っている由那の前に片膝をつく。そしてこれ以上傷口が靴に触れないよう、絆創膏をかかとに貼り付けた。

「応急手当はこれでいいな。だがその靴で歩き続けるのはつらいだろう。ちょうどそこに靴屋があるから、スニーカーに履き替えよう」

 暗い顔で頷き、由那はハイヒールを履き直す。
 その彼女をヘンリーは横抱きにして抱え上げた。

「ヘンリーさん?!」

「体を壊されたら困るからな。このまま靴屋まで行くぞ」

 ヘンリーの表情は心配そうで、由那の体を第一に思っているのが見て取れた。
 由那は胸が苦しくなり、目尻に涙が浮かぶ。

「ど、どうした? 何か気に障ることをしてしまったか?」

「違うの。ありがとうっ」

 慌てるヘンリーのジャケットを由那は軽く掴んだ。そのまま顔もヘンリーのジャケットに埋め、小さく頷く。

 嫌がっているわけではないと分かり、ヘンリーは由那を靴屋へ連れて行った。
 試着用の椅子に由那を座らせると、由那に靴のサイズを尋ねてから、歩きやすそうで今の由那の服に合うスニーカーを数足持ってくる。
 由那の意見も聞きながらスニーカーを選ぶと、彼女が止める間もなく会計をしてきて、そのスニーカーは由那のものになった。
 履いてきたハイヒールも靴屋の店員に袋にしまってもらい、ヘンリーが持ってくれている。
 由那はまた泣きそうになった。



 スニーカーに履き替えたおかげでその後もショッピングを楽しむことができ、空はいつの間にか夕焼け色に染まった。
 名残惜しいが帰る時間だ。
 二人並んでゆっくりとした速度で歩いていると、ふと会話が途切れた。

 少しの沈黙の後、ヘンリーが歩みを止めて由那の方に体を向けた。
 由那もつられて立ち止まり、どうしたのかとヘンリーの顔を見上げた。

「由那」

 ヘンリーの次の言葉を由那は黙って待つ。

「一緒に暮らさないか? 住む所の当て、まだ見つかっていないんだろう?」

 由那の胸は震えた。好きな人と一緒に暮らせるのであれば嬉しい。
 しかし彼女は首を横に振った。

「……そっか、俺と暮らすのは嫌だよな」

「嫌じゃない」

「ならどうして?」

「……もっと好きになっちゃって、耐えられなくなる」

 ヘンリーと一つ屋根の下に暮らせるのは嬉しい。
 しかし、友人として認識されて暮らすのでは、好きが募って心が苦しくなる。
 夕焼けの中でも分かるほど赤くなった由那の顔は、恋慕の情を如実に表していた。

 ヘンリーは固まっている。
 好きだという気持ちが伝わったようで嬉しい反面、ヘンリーがどういう反応を示すのか、由那はとても恐ろしかった。

 永遠のような数秒。

 ヘンリーは由那を見つめたまま、ゆっくりと頷いた。
 自分を見る真摯な目から、由那は目を離せなくなる。

「恋人として一緒に暮らしてほしい。……これなら問題ないよな?」

 驚きのあまり、由那がヘンリーの言葉を理解するまでしばらくかかった。
 ようやく頭が言われたことを認識して、頬がさらに赤く染まる。
 言葉を発することもできず、ただこくこくと首を縦に振った。

「よし、じゃあ帰るか。俺達の家に」

「……うん! 帰ろうっ」

 夕日に長く伸びる二つの影は寄り添い合い、二人の家へと帰っていった。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 「ほのぼのとした感じでイチャつき有り」というご要望でしたので、このようなテイストになりました。
 楽しんでいただけましたら嬉しいです。
 どうかお二人の家で末永く幸せにお暮らしください。
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錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月25日

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