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『会いたい 』
皆月 若葉aa0778)&魂置 薙aa1688



 机の上に置いてあった携帯が小さく震え、メールの受信音に視線が行く。自動的に明るくなった画面を見て魂置 薙(aa1688)の心臓が飛び跳ねた。
「──若葉から!」
 表示された皆月 若葉(aa0778)の名前。思わず飛びつくように携帯を取れば、やや勢いをつけすぎたか手元から落としかける。危なげながらもなんとか携帯をキャッチした薙は安堵の息を漏らした。
(……びっくり、した)
 携帯を落としかけたことも勿論だが──若葉からの連絡にも。それはきっと、彼を『好き』という気持ちが自らを振り回す程に大きいからで。
「……メール、何が書いてあるんだろ」
 それを開く行為はまるで、楽しみで仕方がないプレゼントを開ける時の感覚にも似ている。
 逸る気持ちのままにメールを開き、新着マークのついた若葉のメールを開く。そこに書いてあったのは──。

 ──今度、2人で出かけない?

「行く!」
 目の前に若葉がいるわけでもないのに、文字を見るや否や思わず即答した薙。はっとして口元を押さえ、部屋の外に誰かいやしなかったかと扉を凝視する。……どうやら、誰もいなかったようだ。
 再び安堵の息をつき、薙は赤くなった頬を指で掻いた。
 どうも若葉と恋仲になったあたりから、自分の気持ちに振り回されてばかりな気がする。日々嵩の増していく『好き』をどうしたらいいかわからない。
 気持ちに振り回されていたのは告白の直前も似たような物だったけれど、あの時の気分はむしろどん底だった。断られるだろうと──玉砕覚悟というような状態だったのだ。けれど、若葉は『薙以外じゃ嫌だ』と言ってくれた。それがどんなに嬉しかったことか。
 それから──いいや、それ以前よりずっと。恋仲になってからはもっと。
「……すき……なんだ」
 ぽつりと言葉を零した薙。携帯の画面へ視線を戻すと、そこに綴られた文字を何度も読み返し、口元を綻ばせて。場所や日付は相談して決めたい、と書いてあるのを見て薙はカレンダーへ視線を移した。
「もうすぐ5月、か」
 あのバレンタインから既に2カ月と少し。あっという間なようで、全然時が進んでいないような気もして。
 そんなことを思いながら、薙の視線はカレンダーの日付を辿って行く。ゴールデンウィークは遊べるのだろうか。もし遊べるのなら。
(……5月2日)
 本人はちゃんと覚えているだろうか。もしかしたら若葉の英雄たちが祝って思い出すかも──なんて考えたらくすりと笑みも零れる。
 日付はこちらから希望したから、場所は若葉に決めてもらおうか。折角なら彼の行きたい場所へ共に行きたい。
 返信を綴り、ふと手が止まる。
「……会いたいな」
 以前会ったのはいつだっけ。この前、タイムカプセルを埋めた時? それより後に会ったかな?
 前回若葉と会った時のことを考えてみるものの、会っていない期間が問題でない事には気づいている。ただ、何時だって会いたくて仕方ない。若葉の事を考えている時には尚更というだけだ。

『会いたい』

 メールの文末に書いて、消して。もう1度書いて、やっぱりと消す。
 伝えようか、やめようか。迷惑じゃないかな。若葉も会いたいと思ってくれているかな。
 ぐるぐると考えが纏まらなくなって、薙の指が止まった。




「まだ来ない……か」
 若葉は勉強の傍ら、携帯を確認して小さく息を吐いた。求めているのは勿論恋人──薙からの返信。とは言っても急かしたいわけでもなく、若葉が気になって落ち着かないだけなのだが。
 これまでも遊びに行くときは誘い誘われ、2人で服を買いに出かけたこともある。けれどその時とは関係も、抱く思いも違うのだ。
 バレンタインの時は驚いたし、すぐに答えなんて出なかった。けれど考えてみれば『薙が好きだ』と素直に納得出来て。きっと心の奥底、無意識の中で自分は薙のことをそう思っていたのだと思う。
 ひとたびそう思ってしまえば、ただただ薙の事が愛おしくて。近づきたくて、会いたいとも思って、けれどこれまで恋愛面はサッパリだったものだから恥ずかしさもあって。
(でも、そういうのも含めて……好き、なんだよね)
 ふと机に置いてあった写真へ視線が向いて、そこで満面の笑みを浮かべる薙に口元を綻ばせる。先日タイムカプセルを埋める際、沢山の写真を取った。その中の何枚かはタイムカプセルに入れず、こうして持ち帰ってきたのだ。
 未来へ届けるものがあるように、現在にも残すものがあっても良いと。例えば皆の何でもない一面だとか──大好きな人の笑顔とか。
「さて、と。勉強再開するか」
 去年度は進級が危ぶまれたものの、何とか留年を逃れた身。今年はそんな危ない橋は渡りたくない。講義によっては容赦ないレポートの嵐だから、まだ4月と油断していられないのである。
 ──だが。
「あ……!」
 携帯の通知音にすぐさまペンが止まる。薙からだろうか、そうだと嬉しいけどそうとは限らない。でも薙から来たかと期待してしまう。
 画面を開いて見てみれば、待っていた人の名前。若葉は息をするのも忘れてメールを開き、その文面へ視線を走らせた。




 若葉へ返信し、尚も彼からのメールを読み返していた薙はインターホンの音に目を瞬かせた。
「……こんな時間に?」
 窓の外を見れば、すっかり夜。荷物の配達だってこんな時間までしないだろうし、荷物の心当たりだってない。
(誰だろう……?)
 薙はガチャリと部屋の扉を開け、インターホンの応答ボタンを押した。はい、と返事をして──そこから聞こえてきた声に息を呑む。
『あ、薙? ごめんね、こんな──』
 それは紛れもなく、先ほどメールを返信した相手の声。若葉の言葉が終わる前に薙は玄関へと駆けだす。足音荒く、飛び出すように扉を開けて。
「……っ若葉!」
「わっ……とと、こんばんは。夜遅くにごめんね」
 勢いのまま若葉へ抱きついた薙。僅かに見上げてくる若葉が苦笑を漏らす。
「若葉、どうして?」
「や、なんか。薙の返信見たら会いたくなっちゃって」
 会いに来たのだと告げる若葉。そんな彼に薙は小さく笑みを零した。
「……そっか。僕もね、若葉に、会いたいなって思ってた」
「本当?」
「うん、本当」
 顔を見合わせて、2人同時にくすくすと笑って。

 愛おしい人の傍らは、世界のどこよりも幸せで満たされる場所。だから理由がなくたって──会いたくなるんだ。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 いつもお世話になっております。お2人へのおまかせノベル、お届けします。
 まずはおめでとうございます。本当におめでとうございます。末永くお幸せに!
 そんなお2人のおまかせノベルということで、会っていない間もお互いのことを考えていそうかな、と思いながら書かせて頂きました。リテイク等ございましたらお気軽にご連絡ください。
 この度はご発注、ありがとうございました!
おまかせノベル -
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2019年04月26日

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