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『さすらいの武装シスター 』
サーフィ アズリエルla3477

●彷徨う乙女
「ここも響いて来ない……」
 アメリカ南西部。荒野を歩く修道服の女が小さく被りを振った。
 女の名はサーフィ アズリエル(la3477)。ナイトメアと戦うライセンサーだが、今の彼女は任務外だ。
 仕事でもなければ、どうしてこんな岩と砂しかない荒野で何をしているのかと言えば、サーフィは失った記憶のヒントを求めて、暇があれば世界各地を観光しているのだ。
 しかし残念ながら、この荒野も外れのようだ。砂の舞う茶色の荒野には、サーフィの心に響く物は何もない。
 そうとなれば、SALFの基地に戻らなければ。いつまでも休んでいるわけにはいかない。
 踵を返したサーフィの目に、廃墟となった街が映り込んだ。

●滅んだ街の少女
 ここにも何か記憶の欠片があるかもと、サーフィは廃墟へと足を延ばした。
 滅んだ街は捨てられて久しいらしく、アスファルトの道路の上には靴が沈みそうな程に砂が積もっている。
 打ち壊された建物などを眺めて行けば、それらに銃痕と呼ばれるこの世界でメジャーな武器が使われていないのが見て取れた。つまり、この街が滅んだ理由は――
「ナイトメア、ですか……」
 異形の怪物を思い浮かべて、首筋にチリチリと逆立つものを感じる。
 既に滅んだ街に詮無い事、と頭を小さく横に振ったサーフィが街の中心部へと近づくと、そこに座り込む小さな人影を見つけた。
 子供だろうか。サーフィがおもむろに足を進めると、人影が顔を上げた。
 サーフィの足が崩れた瓦礫を踏みつける音に、墓場にしゃがみ込んでいた少女は飛び退いて警戒心を露わにした。
「大丈夫。ライセンサーですよ」
 認定証を掲げてサーフィが微笑みかけると、少女はホッとしたようにおずおずと近寄って来る。
「何か、祈りたい事でもありますか?」
 修道服を模した装甲に不思議そうに首を傾げる少女に、己の特殊な出自を説明する事を省いてサーフィが問い掛けると、少女は力なく首を横に振った。
 祈ったところで、母は返ってこないから。
 ぎゅっと握り締められた小さな手には、銀色のくすんだロザリオ。 
 それを見下ろすサーフィの瞳には、何色も浮かんでいなかった。
「そうですね」
 サーフィは自分の素っ気ない言葉に傷ついたように身をすくませた少女を一瞥して、それ以上声を掛ける事無く街を後にする。
 この街には、もう何もないのだから。

●はぐれもの
 無人の荒野へと戻ったサーフィは、さてどうやって帰るかと頭を捻っていた。
 近くの街から電話とやらで人を呼べるはずだが、あの少女が一人で来ていた事を想えば、寄り合いのバスというものが走っている可能性も高い。
 道路はどこでしょう、と果てぬ荒野を見回していると、視界の端を灰色の四足歩行の影が過って行った。
「野犬でしょうか?」
 口にしていながらも、否と感じていた。背負うEXISの愛剣が呼応するように反応している。あれは間違いなく、この世界の敵、ナイトメア。
 恐らくは単独で小型。ライセンサーが数人いれば処理の出来るサイズだ。サーフィは応援を呼ぶためにスマートホンへと手を伸ばして――
「……っ!? まったく、世話がやけますね!?」
 吐き捨てるように地面を蹴り付けて、廃墟の街へと踵を返した。
 愛剣を抜き放ち、EXISの力で常人ではない速度で砂埃を巻き上げて駆け抜ける。
 もしかしたらそこの角に潜んでいるかもしれない。
 そんな不安から目を逸らして、サーフィは一目散に街の中心へと突き進んだ。
 いた。腰を抜かした少女の前で、狼型ナイトメア・ウルフが鼻を鳴らしている。
 久方ぶりの獲物に、興奮でもしているのでしょうか。何にせよ――
 サーフィは躊躇なく少女とウルフの間に飛び込んで、愛剣を叩きつけた。

 愚かな事をしているのかもしれませんね。
 ウルフを前に、サーフィは自嘲の微笑みを浮かべた。
 どんな熟練のライセンサーであっても、ナイトメアにはチームで挑む。それはライセンサーの安全を担保にする条件であると同時に、一対一では倒せる保障がないということ。
 だというのに。
 サーフィは貴重な全力移動まで駆使して、少女の下へと舞い戻って来てしまった。
 身をすくませていた少女がこちらに気付いたようだ。
「お逃げなさい」
 振り向く余裕はなく、言い放つ。
 走り去る足音を背後に、神経を研ぎ澄ませる。
 少女を庇う事が困難だから逃がしたのではない。
 目の前から、むざむざ獲物が逃げていく事を惜しんだウルフの意識が逸れる、その一瞬に。
 サーフィは渾身の一撃を叩き込んだ。

●祈りは誰のためのもの。
「神はきっといるのでしょう。ですが、感謝をするのなら人と出会いに感謝してください」
 少女のお礼の言葉を聞き流していたサーフィが、少女の神への感謝の言葉についそんな反論をしてしまった。
 驚いて目を丸くしてしまった少女に、サーフィは困ったように頬を掻いた。
「冗談です。どうせ感謝するのなら、サフィにすればいいんです」
 そう言ってサーフィは、くすりと笑って少女の頭を撫でる。
「ところで、帰り道はどちらですか?」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

イラストと執筆の注意事項を目にして、頭の中には「荒野を行くサーフィ」が思い浮かびました。
設定を読み進めて、イメージは迷子の子供のような幼心を内包した女性へと変わり、それらをすり合わせて執筆しました。サーフィを象徴するようなノベルになっていれば幸いです。
設定の祖語などがあればお手数ですがリテイクの申請をお願いします。
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年04月26日

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