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『『彼女の望み』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 風の冷たさが和らぎ、春の訪れを感じるようになった頃。
 アレスディア・ヴォルフリートはディラ・ビラジスに誘われて、穴場の温泉宿に湯治に訪れていた。
 外傷は全て完治していたが、体力はまだ十分に戻ってはおらず、温泉で癒しながら少しずつ、鍛練を再開しはじめたところだった。
「随分と体が硬くなっているな……」
 小さな痛みに、アレスディアは眉を顰める。傷が治っていないからではない。長く動かさなかっために、発生している痛みだ。
「無理してまた痛めるなよ」
 そういうディラの方は、体力も十分回復しており身体の状態も元通り……というより、以前よりも良いかもしれない。
(ディラは、いつでも護りに行けるな)
 彼の引き締まった体を見て、アレスディアはそんなことを思うも、ディラはアレスディアを置いて1人で戦場に向かったりはしないという確信もあって。
 何故か、淡い笑みがこぼれた。
「今日はこれくらいにしておこう。水分きちんと摂って、それから風呂だ」
「ああ」
 ディラに導かれるように、部屋へと向かう。
 彼の背を見ながら、アレスディアは不思議な気持ちになる。
 そういえば、これまで前を歩くのはほとんど自分だった。肩を並べていても、アレスディアの行く道に、彼はついてきた……。

 二間続きの大きな部屋に、2人は泊っていた。
 ディラは大浴場を使っていたが、アレスディアは家族風呂を予約し、毎日1人で利用していた。
 自分も一緒に、とディラは言うのだが、介護が必要な状態ではないし……色々と思うこともあり、アレスディアはしどろもどろになりながら、それは断っていた。
「渡したいものがあるんだ」
 その日。宿の浴衣姿で部屋に戻ってきたアレスディアを、ディラは普段の装いで招き入れて、窓際へと誘った。
 今日はそう、3月14日――ホワイトデーだ。
 夕日が射し込む窓辺で、ディラはアレスディアの左手をとった。
 訝しげに自分を見るアレスディアに、ディラは微笑を見せて。
 右手に持っていたものを、アレスディアの左手の薬指にはめて、そのまま指を絡め、握りしめた。
「ペアリング。貰ってくれるか?」
 見れば、彼の指にも同じデザインの指輪が嵌められていた。ディラの指には、シルバーのシンプルなリングが。アレスディアの指にはゴールドのリングが嵌められている。
「う、む……揃いというのも、照れくさいものはあるが……ありがとう……大切にする」
 言って、アレスディアはディラの手を軽く握り返した。
「俺から、アレスだけに贈る、約束の指輪も――エンゲージリングも贈りたい。部屋探しと一緒に、選びに行かないか」
 アレスディアは驚いたように、目を見開く。
 エンゲージリング……婚約指輪。
 ディラを見詰めるアレスディアの心に、彼の言葉の意味が浸透していき、彼女の頬がじわりと赤く染まっていく。
 だけれど、アレスディアはディラの想いに即答はできなかった。
 頬を染めたまま、彼女の視線が落ちていく。
「ディラの気持ちは……本当に、嬉しい……」
 彼女のそんな反応に、ディラの心に不安の波が押し寄せる。
「だからこそ……ディラの気持ちを受け取る前に、私の話も聞いてほしい……」
 解った、というように。ディラはアレスディアの手を離した。
「ディラとこうして行動を共にする前。私は世界を旅し、戦い以外の生き方を考え始めた。矛と盾としてだけではない、人の護り方。
 私は……」
 顔を上げると、ディラの真剣な表情が目の前に在った。
「教育を受けられない子ども達に、勉強を教えたいと思っている」
 表情に変化はなかったが、ディラはアレスディアの言葉に軽く頷いた。
「ディラは手段を問わず生きてきた。そうでなければ、生き抜けなかったからだ。でも、もしも違う生き方を教えてくれる存在がいれば、違った生き方をしていたかもしれない」
 彼の全てを知っているわけではない。
 だけれど、出会った時の彼の姿、そして行動を共にするようになってから訊いた話。所属していた騎士団のやり口からも、判る。彼がどのように生きてきたか。
「世界には、そういう子ども達が大勢いる。今すぐ矛と盾としての生き方を止めるわけではないが、私は……いつか、そういう子ども達に勉強を、生きる手段を教えたい」
 黙って、軽く頷きながらディラはアレスディアの話を聞いている。
「誰かと添い遂げ、家庭を築いていく。多くの人が思い描く幸せな生き方とは違う生き方を、私は望んでいる」
 アレスディアの眉に力が籠る。
 彼女は真っ直ぐにディラを見詰める。
「ディラは……そんな私で本当に、いいのか?」
 ディラは普通の幸せを望んでいると、アレスディアは思ってきた。
 普通の幸せを得てほしいと……心から思っていたことも、ある。
「……アンタがいいんだ。そんな、アレスがいいんだ。ついていく」
 そう絞り出すようにディラは言って、アレスディアを抱きしめた。
「普通の家庭の幸せなんて要らない。ただ、家族は――できれば、ほしいと思う。ひとりだけ」
 アレスディアを仰向かせて、ディラは彼女の唇に、自らの唇を重ねた。
「愛してる。アレスと共に、理想(ゆめ)を追いたい」
 身体全体で、包み込むようにディラはアレスディアを抱きしめる。
 熱く、切ない息が、アレスディアに降り注ぐ。
 暖かな温もりと愛情の中、アレスディアはそっと目を閉じた――。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもありがとうございます、ライターの川岸満里亜です。
アレスディアさんの反応が分からず、ここで一旦終わりにしなければならないといういつものパターンでございます。想像力が足らなくすみませぬ。
またの機会に、お返事が聞けましたら嬉しいです!
イベントノベル(パーティ) -
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東京怪談
2019年05月07日

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