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『胡蝶の夢 』
ファラーシャla3300

 ファラーシャ(la3300)は、ときどき故郷のことを思い出す。
 それはそよ風が髪をなびかせたとき、空にたゆたう雲を眺めたとき、そしてやさしい家族連れの様子を見たとき、等々。
 自分はこの世界の人間ではないことを、もう親には会えないかもしれないことを、小さなシャボン玉がはじけたときのようにふっと思い出してしまうのだ。
 やさしい、人当たりのよい父の笑顔。
 真面目で、ちょっとシャイな母の笑顔。
 そう言うものを思い出すと、ファラーシャの胸にはきゅっとなにかが刺さるような錯覚を覚える。
 大好きな両親、そして懐かしい浮遊大陸。
 今は遠いとおいものになってしまったけれど、それでもそんなときに目を閉じれば、鮮やかに思い出すことができる。
「おとうさん、おかあさん、元気なのでしょうか」
 今いる世界は、ナイトメアが人類の脅威として存在する世界。穏やかな少女だとしても、戦うことに適正があれば、ライセンサーとして戦闘に参加することは少なくない。
 彼女も、そんな一人なのだから。
 でも、ときどき無性に寂しくなる日もある。
 
 ある日のこと。
 今日もライセンサーとして仕事をこなしてから、さてそろそろ帰るかとしたくする中で、くいくいっ、と服の裾を引っ張られた。そちらを見てみると、まだまだ幼い少女が一人、立っている。
 頬を紅色に染め、眼をきらきらと輝かせて。
「……どうしたんですか?」
 ファラーシャは少女と同じ目線になるようにしゃがみ込み、微笑みをたたえて問いかけた。
 確かこの少女は、先ほどまでナイトメアの襲撃の為に救助を要していた人びとの一人だったはずだ。要救助者の中で一番年下だったので、記憶に残っている。まだ確か修学前だったはずだ。
「えっとね、えっとね……」
 少女は少し照れくさそうにもじもじとしてから、にっこりと笑みを浮かべた。
「さっきはね、ありがとう、おねえちゃん!」
 少女はそう言うと、軽やかに両親とおぼしき男女の元へと足を向ける。
 こちらの視線に気がついたのだろう、少女の両親はぺこりと頭を下げると、柔らかく微笑んでくれた。そして少女と手をつなぐと、日常へと歩いていく。
 その様子がいかにもほほえましく、そしてなんだかうらやましく――ファラーシャはまた胸がきゅっと痛んだ。
(みんなどうしているだろう)
 それはずっと胸に引っかかっていること。これまでも、そしてきっとこれからも。
 
 自分の部屋に戻って、ファラーシャはベッドにぽふんと身体を横たえる。
 仕事を終えると、身体を包むのは疲労感。
 でも、今日はそれだけではない。……寂しさ。
(……会いたい)
 親子の仲むつまじい様子を見て、無性に故郷が、両親が、恋しくなった。いまはまだ、この世界で生きていく為に必死で、半ば意図的に考えないようにしていたけれど、ファラーシャだってまだ決しておとなと言い切れない年齢だ。
 家族が恋しくなるのは、当然ともいえる。
 そのまま目をつむれば、とろり、ふわりと、知らぬうちに眠りに落ちていく。
 
 
 ――夢を、見た。
 懐かしい風景を。懐かしい人びとを。
 いとおしい、故郷を。
 両親はいつものように自分に笑いかけている。自分も嬉しくて、笑う。
 それはさながら胡蝶の夢、まるでライセンサーであることの方が夢のように感じられる、あたたかくて柔らかい時間。
 
 
 だから、目が覚めたときは一瞬わからなくなった。
 どちらが現実? どちらが夢?
 ただ胸の中に去来する喪失感。
 けれど、同時にあの懐かしい故郷の日だまりは胸の中に残っていて――
「……おはようございます、父さん、母さん」
 口の中でその言葉をやさしく転がして。
 そして、また今日が始まる。
 
 
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
今回はご発注ありがとうございました。
放浪者という存在は、確認すればするほど切ない過去を追っていたりするなと思いまして、こんな話になりましたが……あくまでこれは一つのif、発注者様の想定と異なるかもしれませんことを先に申し上げておきます。
設定を拝見すると笑顔の優しそうな両親思いのお嬢さんと思いまして、あるいはこう言う、夢のような話もあるかもしれないと思います。
お気に召してくだされば幸いです。
では改めて、今回はありがとうございました。
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年05月07日

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