▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『NEWS 』
ルチア・ミラーリアla0624

●Now
 スコープ越しに獲物を覗くと、やはりナイトメアの姿がそこにある。。
 初撃を外さぬことは当然だが、より意識すべきことは、二発目以降だ。人間相手ならば正確に急所を狙えたら、いや多少急所を外しても当てさえすればどうにでもなる。しかしナイトメアは、例え急所に打ち込んでも耐えてしまうことが往々にしてある。
 敵の動きを読み、風を読み、弾丸の落下軌道を読み、全ての条件が合致した瞬間を逃さず、引き金を引く。
 吐き出された弾丸がナイトメアを捉えた。仕留めることは叶わなかったが、それで良い。ライセンサーが単独でナイトメアと戦う場合は稀だ。後は仲間が対応するだろう。

 ふぅ、と息を吐き、ルチア・ミラーリア(la0624)はその瞬間の仕事を終え、銃を担いで次のポイントへ移動してゆく。
 どんな手を使ってでも、ナイトメアは滅ぼさねばならない。
 そう考えるライセンサーは少なくないが、彼女の場合は――いや、彼女の場合も、恨みや復讐を由来としてそう考えていたようだ。

●Enemy
 ナイトメアへの対応は全世界共通の課題であった。
 それまで地球上で運用されていたあらゆる兵器の効果が薄いナイトメアに対し、ある国は新兵器の開発を、ある国は人員の育成を、またある国は政治的な手法による解決を図った。
 ルチアの国では、以上様々な手法を複合的に推し進めたようだが、その成果はコンベンションのようで、最も効果がある手法が発見され、認められた時、それ以外の施策が打ち切られるといったことも珍しくはなかった。
 施策の一つに、人員育成による対ナイトメア部隊の設立というものがあった。が、これはアサルトコアの開発成功により凍結する結果となる。少なくとも、ルチアが所属する予定だった部隊はそうだ。
 その後も軍役を続けていた彼女ではあったが、兵役期間の終了と共に一般市民へと戻ることとなった。
「またやってるわね。アサルトコアの活躍とはいっても、小さい的が相手じゃ、やっぱり生身の人間だって戦わなきゃならないし。難しいところね」
 自室で新聞を広げたルチアの目を引いたのは、アサルトコア編隊によるナイトメア撃破の報だった。
 記事のタイトルだけを読んでそのまま新聞を閉じても良かったのだが、この日はまだ時間があり、することもなかったのでもう少し読み進めることにした。
「えーっと、戦場は……あら?」
 こういった記事の一行目というのは、大抵事件の起きた日付と場所が記されている。
 それを見てルチアは一つ気にかかることがあった。戦場となった場所は、彼女が幼き日を過ごした場所に近いというのだ。日付は、昨日。
 この時世、戦災孤児というものも珍しくはない。人類同士の戦争に於いて市街戦は避けられる傾向にあるが、ナイトメアはそうではない。人々の暮らす街に、往来に現れては無差別に殺戮をしてゆく。アサルトコアで対処するような巨大な敵ならば猶更だ。
 つまりルチアが過ごした場所というのは、所謂孤児院。そこには血の繋がらない弟や妹が今も暮らしている。
 軍役をするようになってからしばらく訪問していないが、顔ぶれも大分変ってしまっただろうか。もし今度の戦闘に巻き込まれていたら……。
 いや、この新聞に書かれているのは、アサルトコアによる勝利の報だ。きっと大丈夫だろう。
 そう考えて新聞を閉じ、テレビをつける。こういう時に、何か明るいニュースでもやっていると良いのだが。
『ただいま入ったニュースです。昨日アサルトコアが出撃した戦場付近の街に、小型ナイトメアの出現が確認され――』
「なんですって!?」
 ルチアは弾かれるようにしてテレビに食いついた。
 つい昨日ナイトメアは討伐されたばかり。そこにすぐ次のナイトメアが? 考えにくい。
 嫌な胸騒ぎを覚えたルチアは全ての予定をキャンセルして、故郷とも呼べる孤児院へと向かった。

●What happen
 焼野原、というほどのものではなかった。
 いくらか傷ついた建物はあるが、人の姿もある。
 ニュースでは、死傷者の数は調査中とのことだったが、果たして。
 はやる気持ちに突き動かされるまま、ルチアは孤児院へと急ぐ。
 そこかしこで警官が聞き込みをしている。町民達は疲れ切った表情で答えていた。
 それでも人通りはまばら。ナイトメアが暴れた後だ、無理もないだろう。
 角をいくつか曲がり、乱れた呼吸を整えることも忘れ、辿り着いた孤児院。これまで見てきた街の光景から、外出さえしていなければきっと……。
「なに、これ」
 立ち入り禁止のテープが張られ、数台のパトカーと警官が行き来している。テープの先には孤児院。ドアは破壊され、窓は割れ、まるで集中的にこの孤児院だけが襲われたかのような形。
「教えてください、何があったんですか! ここ、私の家だったんです!!」
「落ち着いてください。詳しいことは調査中です。何か分かりましたら――」
「何も分かってないってことですか!? 教えられないってことですか!!」
 警官に食って掛かるも、門前払いに近い対応。
 第三者から冷静に見れば、この警官には民間人に事件の情報を与える権限がないだけなのだろうが、当事者であるルチアにとってはそれどころではない。
 二人がもめたところで、何かが分かるわけではないのだが。
「あれ、ルーちゃんじゃないかい。そうだろう? ほら、覚えてるかしら。三件隣の」
「おばさん!!」
 声をかけてきたのは、ルチアが孤児院で過ごしていた頃、時々世話を焼いてくれた近所のおばさんだった。

 ひとまずおばさんの家へ上がるよう促され、お茶の提供を受けながら、事件の大まかな内容を聞かされる。
 というのは、昨日のアサルトコアが出撃した事件から程なく、数人の男がナイトメアを連れて現れ、街を襲ったのだという。
 そこかしこで悲鳴が上がる中、多くの子供達を抱える孤児院からはサイレンよりもけたたましい泣き声が合唱のように響いたのだとか。男らはこれに苛立ったと見えて、ナイトメアを孤児院へと放ち、皆殺しにしてしまったと。
 その後は街である程度暴れたかと思うと、急きょ出動したライセンサーが到着する頃にはどこかへと逃げてしまった後なのだとか。
 泣き声がうるさかった。たったそれだけの理由。しかもその男らは、ナイトメアが一度討伐されて安心したところを襲っている。目的は殺戮か、それとも。
「孤児院のみんなは?」
「他の死者と一緒に安置所へ運ばれていったみたいよ。ルーちゃん、残念だったけれど、私もショックで……。でも気を落としちゃいけないよ。あの子らの分も」
「私が戦う」
「そうじゃないよ。あなたまで死んでしまうようなことがあったら」
「私が戦う!!」
 兵役についていたとはいえ、何のために戦うのか、何故戦うのか、漠然としていたのかもしれない。
 しかしこの時に全てがハッキリと決まった。
 全てのナイトメアを皆殺しにし、レヴェルに報復すること。

●Spirit
「だから私が戦う」
 ポイントを変えたルチアは、服が汚れることも構わず、木と木の間にうつ伏せとなった。ライフルを構え、スコープを覗く。
 先ほどの一撃で負傷したナイトメアが、他のライセンサーが接近しないようにと牙を剥いて威嚇している。
「私が殺す。ナイトメアは全て」
 ナイトメアの断末魔の代わりに、一発の銃声が響いた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございます。
これはきっと過去を描いた方が良いだろう、と、こちらのお話をピックアップさせていただきました。
お気に召していただけましたでしょうか?
色々なところで整合性を取りながら考えさせていただいたつもりですが、これもRPに一役買うことができていれば幸いです。
おまかせノベル -
追掛二兎 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年05月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.