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『伊勢と日向 』
いせ ひゅうがla3229

●マスコットのお仕事
「どうぞー! 皆さん、こっちなのですよ!」
 見学客を続々と引き連れて、いせ ひゅうが(la3229)は長い旗を担いで歩く。高足の右近下駄がからころと小気味よい音を立てた。ここは日本の某所にあるキャリアーの係留地。今日は一般公開され、日々アサルトコアを積んで飛び回るキャリアーの雄姿が人々の眼の前で披露されていた。維持管理費が馬鹿にならないキャリアー。それを少しでもペイする為の方策である。
「これがゼーゲン社の開発したキャリアー、『S-01』なのです。最高速度は1350?qと、超音速を実現したこの機体は、地球上を縦横無尽に進み、迅速にアサルトコアを襲撃地点へと送り届けることを可能としているのです」
 昔々からプログラムされていた文言を、ひゅうがはニコニコ笑顔で、熱を込めて語る。立て板に水を流したようにすらすらとした語りぶりだ。ただのアンドロイドだった頃から、何百とこの言葉は繰り返してきた。そして彼女の“夢”がその言葉に力を籠め、来た人々を惹きこんでいく。
「ナイトメアによる被害が日に日に深刻さを増す中で、このキャリアーには重大な期待が込められていたのです。まずは複数運用を可能にするために必要な低コスト性、係留地から迅速に現場へ向かう為の安定した巡航速度や、アサルトコアの運搬量や整備性。不測の事態に対応するための、オート操作とマニュアル操作の迅速かつ安定した切り替え、などなど。一つ一つを達成するのは大して難しくなくても、全て達成しなければならない、となればそれは最早無謀ともいえる要求でした。ですがゼーゲン社は、これらを全て十分に達成してみせたのです! これをご覧ください。実際にS-01が運転されている様子です!」
 ひゅうがは立体ホログラムを設置する。見学者達の前で光が像を結び、洋上を進むキャリアーの姿が映し出された。子ども達がおお、と歓声を上げる。ひゅうが自身も、どこか熱のこもった視線でキャリアーの進む姿を眺めていた。

 いつか、自分自身のキャリアーを持つ。キャリアーと共に生きてきたヴァルキュリアは、いつしかそんな願いを抱くようになっていたのである。

●キャリアー『伊勢/日向』
 洋上を一隻のキャリアーが進んでいく。巨大な船影は、どこか大時代的な、100年前に三大洋を駆け巡った超弩級戦艦を偲ばせる。大型の磁力砲を三門並べた主砲が、太陽を浴びて鼠色に輝いていた。
 ひゅうがは艦橋に立ち、じっと甲板を見つめていた。その頭には、ちょこんと軍帽が乗っている。海軍士官用の軍帽だ。
「ようそろー! なのです!」
 喜色満面に彼女は叫ぶ。AIが反応し、キャリアーはぐんぐんと速度を増していく。帆に風を受けたヨットの如し。艦橋が風を切る音が気持ちいい。ひゅうがは背後に立つ人々を振り返った。皆揃ってじっと水平線を見つめている。
「いかがですか! これが新式キャリアー『伊勢』のスピードです! 巡航速度は『S-01』と同等なのですよ!」
 こつこつと任務に取り組み、イベントにも顔を出しつつ、積極的にキャリアーに関する知識を吸収してきたひゅうがは、遂に念願叶って、新式キャリアーのマスコット兼艦長に選ばれたのである。
「そして、いせひゅうがこそがこのキャリアーの艦長なのです!」
 慣れた説明文句の最後に、きっちりとこんな文句をつけていた。
「アサルトコアの母艦としての役割はもちろん、このキャリアーは超巨大ナイトメアと直接交戦し、撃破するという役割を負っております! 直接制海権を確保して、インソムニア撃破作戦を優位に進める要のような役割を持っているのです」
 彼女が説明を繰り広げている間に、窓を見つめていた人々がどよどよと騒ぎ始めた。水平線の向こうにも巨大な影が落ちている。巨大なウミガメ型のナイトメアが、空に浮かんでのろのろと『伊勢』に接近していた。
 ナイトメアだ! 人々は降って湧いた危険に恐れおののく。しかし、ひゅうがは得意げに笑った。この『伊勢』はキャリアーであると同時にバトルシップなのだ。嘗て日本で絵空事のままに終わった、航空戦艦『伊勢』とはわけが違う。正真正銘本物の実力を持っている。
「大丈夫です! この私と『伊勢』が、何とかしてみせるのです!」
 ひゅうがは艦橋をぱたぱたと駆け下り、動力部へと走る。『伊勢』に搭載された斬新かつ単純な秘策が、そこには用意されていた。
「『日向』!」
 動力部に続く巨大な部屋に足を踏み入れ、ひゅうがは叫ぶ。大量のケーブルに繋がれたアサルトコアが一台、椅子に座るような形で固定されていた。ひゅうがはタラップを駆け登り、コクピットに滑り込む。
「『日向』起動! 『伊勢』、戦闘モードに移行します!」
 彼女が鋭く叫ぶ。アサルトコアのバイザーが光を放った瞬間、モニターに洋上の景色がくっきりと写された。『日向』は操縦桿のようなパーツを力強く握る。『伊勢』の砲門が転回し、迫り来るナイトメアに照準を合わせる。
「撃ちます!」
 ひゅうがはIMDを最大限に起動させ、『日向』は操縦桿に備え付けられたトリガーを引く。その瞬間、巨大な重粒子弾が音さえ切り裂き飛び出した。ウミガメのバリアさえ悠々と叩き割り、その甲羅をやすやすとぶち砕く。炎上し、黒煙を上げながらウミガメは墜落する。自己防衛を通り越した打撃力。“アサルトコア用の強力な砲台”とする事で、キャリアーの持つEXISとしての性能を極限まで引き上げる。それが新型キャリアー、『伊勢/日向』のコンセプトなのだ。
「いつでも駆け付け、皆さんの事をお守りします。『伊勢』と『日向』は日の本一、いや、世界一のキャリアーなのです!」
 我が身のように操り、ひゅうがは得意満面に言い放つのだった。

●いつか
 潮風に赤いショートヘアを撫でられ、ようやくひゅうがは目を覚ます。傍にあったのは係留地の側にある、ライセンサー達の武運長久を祈る小さな祠。エネルギーを充填している間に、ひゅうがはうとうととスリープしていたらしい。
「夢……なのですか」
 ついこの間本で読んだところによれば、夢とは意識に浮かんだ思考を整理するためのプログラムらしい。どこまでも自分が自分のキャリアーを持つことに憧れている事を知らしめられ、思わずひゅうがはバツが悪そうな顔をする。
「まさか、夢に見るまでとは……なのです」
 独り言を呟きながら立ち上がると、ひゅうがは祠を見上げる。

 いつか、きっと。

 彼女はそっと手を合わせ、夢が現実になる日を祈るのだった。



 END


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 いせ ひゅうが(la3229)

●ライター通信
お世話になっております。影絵企我です。

いせとひゅうがは護衛艦の名前から来ているのでしょうか? ……というところから、ちょっとした夢のお話を書かせて頂きました。間違っていたらすみません……
何かありましたらリテイクをお願いします。

ではまた、ご縁がありましたら……
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年05月07日

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