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『火の起こし方 』
海原・みなも1252

●まずは、自分探し
 海原・みなも(1252)は自分をどう応用するかを思案する。
 人魚としての力をよりよく使うことで、世界が広がるし、行動の幅も広がると考えた。
「たとえば、狐火を見せることはできても、たぶん、幻かもしれませんよね」
 狐火のような炎は見せるだけならば、化ける要領でできそうだが、火の特性は活かせないだろう。
 頭の片隅でこのことを考えつつ、夕食を終え、風呂に入って眠る準備を進める。
 湯につかると、心身共にリラックスする。
 意識は深く深く潜りゆき、全身が水の中に漂うイメージが湧く。
 海の中を漂い、自分の中の深遠にたどり着く。記憶、記録、持ち物などが流れ着く場所。海であり、記憶であり、倉庫でもあり、図書館である【深遠図書海】。みなものすべてがあるといって過言ではない。
 そこで探すのは力の使い方についての解決策だ。
 記憶があれば【水面に映る影】が使用できる。記憶を憑依させ、みなもであってみなもではない何かになれる。
 探す中、一匹のキツネが通り過ぎた。彷徨える異界すすきがはらで見たようなキツネ。それは風のように駆ける。
 それが自分の記憶だと気づく。中にあるモノを読み解いていけば、力を広げるヒントになると感じた。
「危険かもしれませんが、術を磨けるかもしれません」
 みなもはキツネの力を試すことにした。
 翌日、みなもがしたことは、まずは近所の和菓子屋の稲荷ずしを購入することだった。近所で評判がいいだけでなく、みなもが食べておいしかったから、自信を持って土産にできる。
「……キツネが油揚げを好きとは限らないそうですけど……」
 冷静に考えれば、人間が作ったイメージかもしれない。
 土産として稲荷ずしを購入した理由は、キツネとして赴く先にある危険のためだった。その危険は危険な存在であるが、術の使い方など教えてくれる可能性がある。
 続いて、みなもは水を張った湯船のそばにいく。その水に触れ、昨日見つけたキツネだった自分を探す。それはすぐに現れ、鼻先が水の中のみなもの手に触れる状況で水面に影となり現れている。
 その影がすっとみなもに這い上がると、その姿になっていた。稲荷ずしの包みをくわえ、行く先を願い、水に飛び込んだ。

●異界
 キツネのみなもは道を走る。水の中にある道は異界であり、現世との境界でもあり、不安定だ。意志を持たないと迷うことになる。
 みなもは走り切った。水面を抜けると、薄墨が広がるような影を感じる世界だった。それでも今が昼間だと分かる。
 ここに来れば自動的に学べるわけでもない。教えてくれるヒトを探さないとならない。かつての同輩かそれとも、もっと上の存在か、を。
「おやあ?」
 突然声をかけられ、みなもはびっくりして飛び上がる。その拍子に包みを放した。
 その包みを豪奢な錦の袖が拾い上げる。
 みなもは錦の衣の主を見た。美しい人間の女性の姿をとっているが、上位の妖狐もしくは神に近いキツネなはずだ。
「ふむ……人界の物よのう……ぬしは出入りをしたということかのう?」
 みなもはその問いに答えられない。
「あの、お願いです。あたしに、力の使い方を教えてください」
「ほお?」
 女性は目を細める。みなもが濁したことを吟味しているのだろうか。
「まあ、よい。これに見合った程度はしてやろうのう」
 どの程度が見合うことかみなもは想像がつかない。それでも、教えてくれないよりましだろう。
「火をどうやったら使えるのですか?」
「簡単なことよ? ほれ」
 錦の袖から一本の指が隙間から出た。その先に、光を伴い炎が浮かぶ。彼女が手を袖にしまうと消える。
「……え?」
 みなもは前足をピッと上げてみる。しかし、何も起こらない。錦の衣の主は溜息を吐いた。
「力が全く動いておらぬ」
「力……どうすれば動かせるのでしょうか?」
「うーむ?」
(これは、何でもできてしまう人が、できない人がなぜできないのかわからないというパターン!?)
 みなもはどうしたらいいのかおろおろする。
「……火を出したいところに意識を集中するのう。それから、息んでみるのもありと聞く」
 女性がかろうじて助言をくれたことでイメージはしやすくなった。
 みなもは指先に火を起こすための力が溜まるイメージを浮かべた。
 その力はどこにあるかと言えば、自分の中だ。
 血液の移動と力を重ねる。流れに乗って力がそこにたどり着き、徐々に力は溜まっていく。
 力が十分集まったと感じたところで、指先に湧き上がる炎をイメージする。
(あたしの指先から吹き出る力が、赤くなる。染まるけれども透明度もある……透明度があっても、重なることで濃くなるのです)
 みなもの想像が現実になる。指先からふわりとと赤い物が浮かぶ。
 綿菓子の砂糖の糸のように細く柔らかく、風に当てられると吹き消されそうだ。みなもが指先をくるりと回すと、まとわりついてまとまっていく。
 徐々に色も濃く、しっかりし始めた。
(あたしの指先にはろうそくで言うところの芯があります。だから、指先を中心にまとまり燃えるのです)
 生み出した物をどう定着させるか、どういう形がいいか考えるとろうそくが比較的身近でわかりやすいものだった。
 みなもの意識に従い、ただ球状にまとまっていた炎の線は、くるりくるりと回りながらろうそくの炎になった。
「できましたっ!」
 みなもは歓喜の声をあげた瞬間、炎は消えた。
「えっ」
「しゃべってもいいが、気はそらしては駄目よのう」
 稲荷ずしを食べ終えた女性は言う。
「……さて、あとは独りでできよう」
「……えっと、ありがとうございました」
 みなもが礼を述べたときには、その女性は姿を消していた。
 それから、しばらく単身で練習をする。
 力の流れを知るということがまだつかめない。別のことをすると消えてしまう。
「……風……」
 そよそよとキツネみなものひげが揺れる。
「力……は自分の中にある……自然というのも力の一つ……あらゆる物の生命力が力……」
 ただ力むだけでは駄目な気がしてきた。
 手本を見せた彼女は力んでいない。
「集中することは必要、でも力んではいけない……難しいです」
 今、自分が無意識に一つの力を維持していることを思い出した。自分が昔から使う能力は意識せず使っている。
 ここへの道を開くためには使うときは意識した。通っている間はどうだったか。
「維持しないと道がなくなる、道がなくなると困るから維持する……目的が重要なのでしょうか」
 まずは火を生み出す。
「道を照らしたいです……歩くならば前足を下したいです。火を尻尾の先に移動させます」
 火は移動し、尾の先で維持される。ただ、尾は下向きなので、その上にふわふわある。
 一瞬、驚きや歓喜の声を上げかかり深呼吸をした。火は消えかかったが、維持できた。火の大きさを元に戻す。
「池の周りを散歩です」
 歩き始めると、火が気になった。水に写る光を確認しつつ、池の周りを一周できた。少々火の勢いは消えているが維持されている。
「上出来です」
 ふと気が緩む。
 するりと自分から何か抜けた気がした。
 水に映る自分の姿に気づく。急いで道を開き、立ち去る。得られたものはあるのだから。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 狐火は熱がないと聞いたことがあったので、光の活用としました。
 とはいえ、熱さのある火でもよいのかなと思いもします。
 いかがでしたでしょうか?
 発注ありがとうございました。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年05月07日

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