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『Nightmare 』
ユリア・スメラギla0717


 花屋とは古くからある職業だ。
 多くは籠を下げて街を売り歩くわけだが、花の単価は安く、一般の人がわざわざこういった者から花を買うことは稀だ。だが、売れる。それなりの実入りがある。花を詰めた籠の中には非常に単価の高い花が混じっている。これが売れるのだ。花を売るのは女性。買うのは男性。つまりそういうことだ。
 当然、現代では表立ってそういった商売をする者は少ない。
 さて、ここに現代の花屋、ユリア・スメラギ(la0717)がいる。花屋といっても、彼女にとっては実家の話。今や彼女自身はモデルとして活動している。日本人の父と、アメリカ人の母を持つ彼女の容姿は端麗といえる。
 溺愛する弟がおり、彼の友人は、弟の立場を羨む声もあったようだ。
 それはさておくとして。
 ユリアはその日、撮影の仕事があった。衣装は先方で用意している。だから持ち物は少なかった。
 といっても、最低限のメイク道具と財布、スマートフォン。これだけあれば十分。
 迎えの車に乗って、現場へ向かう。
 今回の仕事は漫画雑誌に載るのだという。よくある週刊誌や月刊誌の表紙やカラーページに掲載されるグラビアで、この時は夏が近いということで水着での撮影とのことだった。
 といっても、海やプールへ向かうわけではなく、ブルー背景の前で撮影して、景色は合成するらしい。だから向かうのは撮影スタジオだ。そうすることで光の加減が上手く調節できるし、写真集というわけではないからじっくり見られることも少ない。それに漫画雑誌だし、メインはグラビアではないはず。
 ぼんやりと車中で過ごし、スタジオに到着してから軽い打ち合わせ。準備が整うまでの間に着替えを済まし、体を冷やさないように上着を着て待機する。
 そんな時だった。
 携帯電話でネットニュースを見ていると、急に着信音が鳴った。父からだった。
 今は花屋の営業中。急にどうしたのだろう。
「もしもし、パパ? これから撮影が始まるところなの。どうしたの?」
「落ち着いて、よく聞くんだ」
 そこで父から語られた内容に、ユリアは思わず携帯電話を取り落とした。


 事情をスタッフに説明し、撮影は中断。
 車を出してもらい、家へ急ぐ。そういえば、上着の下に水着を着たままだった。服はスタジオに置いてきてしまったけれど、今はそれどころではない。
 ユリアは送ってくれたスタッフに礼を言うのも忘れて家へと駆けこむ。
 彼女の両親は電話を挟むようにして座って押し黙っていた。実家の一階部分である花屋はシャッターを下ろしていた。
「連絡は!?」
「まだよ」
 ユリアが悲鳴のような声を出すが、母親は静かに首を振った。
 カバンを放り出し椅子を持ってきてユリアも電話の前に座る。
 誰もが声を発することなく時間が過ぎてゆく。たったの一分が一時間にも感じられる。
 すると、電話が鳴った。即座に父が受話器を取り、その声から出た情報を母がメモしていく。ユリアはその様子をじれったそうに見つめていた。
 受話器が降りると、家族そろって車に乗り、出かけてゆく。
 向かう先は、先ほどの電話で告げられた場所。SALFの地域施設だった。


 いくつかの手続きを済ませて、少しだけ待たされた。
 ユリアは職員に掴みかかるほどの勢いで急かす。しかし、いくらそうしても仕方がないと母に諫められ、用意されたソファに腰を下ろした。
 ややあって許可が下り、部屋へと通された。
 暗い部屋にストレッチャーのようなものが一台。そこにはジッパーのついた袋。大きさはユリアの背丈よりやや大きい。素材は目の細かいブルーシートに近いような感じがした。
 かじりつくように袋に縋ったユリアが、震える手でジッパーを引く。
 係官が止めようと手を伸ばしたようだが、間に合わずに空を切る。
 下ろしたジッパーから見えたのは、爪痕や牙のような痕が無数に刻まれて、左の瞼は千切れて眼球がむき出しになり、顎はぱっくりと裂け、右の頬が抉られているといった、ユリアから見て弟に当たる人物の亡骸だった。
「ひどい……」
 それ以上の言葉が出てこない。血を分けた姉ですら、本当に弟の遺体なのか判別がつかないほどだった。
 思わず目をそむけたくなるほどではあるが、ユリアはそのままじっと顔を見つめていた。これが弟の最期の姿だ。
 ライセンサーとして活動していた彼は、任務中に敵の奇襲を受け、仲間の救援も間に合わずに連れ去られ、散々に食い散らかされた挙句に捨てられていたという。
 少し目を移すと、袋越しに見える胴体部分は、人が入っているにしては膨らみがない。臓器の詰まった腹部は集中的に食われてしまったのだろう。
 ユリアの背後では母が泣き、父がその背を擦っている。
 涙は出てこなかった。悲しみはあったが、それよりも憎しみが強かった。
 最愛の弟を殺した、ナイトメアへの憎しみだ。
「失礼します。こちらが、お子さんの遺品です」
 部屋に入ってきた係官が、父に何かを渡していた。遺品を収めた箱だ。
 その場で開けてみると、血のついた携帯電話が出てきた。
 何か大事なデータが残っていないかと父親が調べると、そこには、亡くなったその日の日付でビデオが一本撮影されていた。
 再生してみると、画面には空が映っている。獣の唸る声、咀嚼する音が入っているが、その中に男の声が混じっていた。
 その声は、間違いなくユリアの弟の声だ。
 まさしく彼が死に瀕しているその際に撮影されたものだ。
 自分は今から死んでしまうこと、父と母、そして姉への感謝の言葉。悲しまないでという言葉。そして特にユリアに対する、復讐なんて考えないでほしいといったメッセージが収められていた。
「嫌よ」
 ユリアは呟く。
 そんなこと、不可能だ。復讐を胸に生きる以外の道を選ぶなんて、ユリアにはできない。
 しばらくの時を経てユリアがライセンサーになる際、両親が猛反対したのも当然だ。それを押し切ったのは、ユリア自身の強烈な復讐心がそうさせた。
 いつかその憎しみに解放される時が来るまで。彼女は復讐のために生きると決めた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございます。
最愛の人を失うといった経緯でしたので、そこをチョイスさせていただきました。
日常の中に告げられた悲報。
溺愛していた弟、ということですので、そこを動機として印象付ける意味もあって多少ですが惨い形とさせていただきました。
RPの糧となりましたら幸いです。
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年05月07日

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