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『とある休日にて 』
榊 守aa0045hero001

●黒衣の番人
 リオ・ベルデ共和国。豊富な霊石資源とそれを用いた先進技術の研究によって、近年雄飛した先進国の一つである。だがその分、イントルージョナーや残党愚神の流入数も多く、幾度となく首都が襲撃を受けてきた。
 その為に、リオ・ベルデは対イントルージョナー特殊部隊である『ブラックコート』を組織した。事実上の蟄居処分を受けていたイザベラ・クレイ(az0138)やその英雄を復帰させ、迅速にイントルージョナーへ対応するための体勢を整えたのである。
 政府の期待通り、イザベラはよくよく精勤した。祖国に仇為した罪を雪ごうとでもするかのようだ。国民もそんな彼女を歓迎したが、一人だけ、その姿に納得のいかない者がいた。
 榊 守(aa0045hero001)である。

「たまにはお休みください」
 ある日。指令室で書面に目を通していたイザベラに向かって、守は眉をしかめる。電子タバコを吸い吸い、イザベラはいかにも不思議そうな目を向ける。
「休め……? いや、睡眠時間は十分に確保しているが。食事も君が用意してくれている。給養は十分だ」
 何を馬鹿な事を、と言わんばかり。守は深々溜め息をついた。
「副所長はここ一か月ずっとこの本部で暮らしているではないですか。シャワーを浴びるのもベッドで寝るのも食事をとるのも全てここ。仕事場で暮らす事を休むとは言いません」
「居心地がいいからこうしているだけなのだが」
 どうにも本心と見える。彼女の下で働き始めてからしばらくして、一風変わった彼女の感覚にもいい加減気付いていた。どうにも彼女、日常生活というものにさしたる興味がないのだ。仕事をするための体力を維持するために睡眠し、食事をする。それくらいにしか考えていない。教育が必要だ。守はデスクに手をついて迫る。
「いけません。副所長がそうだから、部下達も皆懸命になって当直をしています。あまり健康的な状況とは言えません。トップとして示すべきは、羽を休めることも戦いに備えるためには欠かせないという事です」
「そうか?」
「ええ。それに、知識として知っている事と、経験がある事には、雲泥の差があるのは、戦争でも政治でも変わりはございません。市井の中で日常を過ごし、市民がいかにして暮らしているのかを経験して仕事に生かすべきとは思いませんか」
「うむ……」
 イザベラが口ごもっていると、いきなり指令室の扉が開く。セオドラ・カーライル(az0138hero002)がイザベラの前までつかつかと歩み寄ると、荒々しくデスクをぶっ叩いた。
「イザベラ様!」
「はっ?」
 突然の一撃に、イザベラは思わず飛び上がる。セオドラはすっと息を吸い込むと、彼女は勢いよく捲し立てた。
「知っていますか、イザベラ様! 首都郊外のショッピングモール、新しくブティックが入って以来大盛況だそうです!」
「……結構な事じゃないか」
 タジタジになるイザベラ。セオドラは唇をへの字に曲げてさらに迫った。
「んもう! それしかいうこと無いんですか! 一女性として興味は無いのですか! 私は興味がありますよ!」
「普段から軍服しか着ないくせにか」
「とにかく、榊さんの言う通りです! たまには本部を出てのんびりしましょう! いいですね!」
 鋭い剣幕で押し切る。だけなら良かったが、いきなりセオドラは守に振り返った。
「……これでいいんですか?」
「あ、ああ……」
 こいつに頼み事をするのは止めた方がいいかもしれない。頭を抱えながら、守はそう胸に刻むのだった。

●新たな道
 そんなわけで、イザベラは久方振りにブラックコートの本部を後にして、市井に足を踏み入れたのだった。守監修の下、メイクやおしゃれまで施されて。「不審者みたいな服装をするよりずっと怪しまれない」との弁だったが、彼の趣味が入っているのは誰が見ても間違いなかった。

「全く落ち着かんな」
 イザベラはぼそりと呟く。彼女が身に着けているのは大時代的なブラウスにスカート、つば広の帽子。その辺の女ならコスプレになるところだったが、彼女はすんなり着こなしてしまう。守は笑みを浮かべた。
「いいじゃないか。良く似合ってる。やっぱり別嬪は違うな」
「やめてくれ。調子が狂う」
 彼女はむっと眉を寄せたまま、ショッピングモールを歩く。ブーツの踵が軽やかに鳴った。守はその背中を追いかけ、彼女に肩を並べた。
「活気があっていいだろう。値段も手頃でな、最近買い出しするときはここを使ってんだ」
「確かに、この広さなら何でも揃うだろうな。……折角だ。普段頑張っている連中に差し入れでも買っておくとするか」
「相変わらずか。自分の為に金を使おうとかそういうことは考えないのか」
 守が口を尖らせると、菓子の陳列棚を見つめながら彼女は頷く。
「自分の為さ。私が勝手に部下を労いたいというだけなんだから」
「そういうことなら……おい、この菓子は向こうの店だったらもっと安かったぞ」
 渋面を作ったまま、流れるように値切りへ走った。イザベラは慌てて襟首を掴み、自らの背後へ回す。
「バカ! ……すまん。これをくれ、定価でいい」
 イザベラは財布からクレジットカードを取り出す。店員はきょとんとしたまま彼女からカードを受け取った。
「高給取りが財布の紐を絞ってどうする。一割増しで買ってもいいくらいだぞ」
「悪い。つい昔の癖で……」
 イザベラはバツの悪そうな顔をしていたが、やがて頬を緩めた。
「仕方のない奴だな、お前は……」
「悪かったな」

 買い物を一通り済ませた後は、二人揃って家事をこなした。洗濯に掃除、料理まで。何だかんだで彼女はうまくこなした。曰く、家事もこなせない奴が戦場で生きていける訳が無い、らしい。
 とはいえ、コーヒーを淹れるのだけは、どうやら苦手なようだった。

「そうだ。慌てて淹れてもコーヒーは不味くなるだけだ。考え事でもしながら、ゆったりと淹れるのがコツだ。心の余裕がコーヒーの味に出るぞ」
「わかったわかった。人をせっかち扱いするな」
 彼女は慣れない手つきでケトルを傾け、何とかコーヒーを淹れ終える。ほっと溜め息をつくその横顔を見つめ、守は微笑む。
「だが、まさか普通に家事が出来るとは思わなかった」
「お前のとこのお嬢様と一緒にするな。……あれが特殊なケースだ」
「……ごもっとも。あれでも出来るようになった方なんだ」
 守は苦笑する。何度酷い目に遭ったか知れないが、彼女が独り立ちした今となっては、それもひっくるめて大切な思い出となっていた。
「まあ、あの子がいて、今の俺がある。戦場で荒んだ心を、何とかしてもらえたのさ。今では生きてる限りはやり直せるって程には思うようになった」
 言外の意味を悟ったのか、イザベラは肩を竦める。
「……やり直すような事など無いさ」
「じゃあ言い方を変えよう。何を始めるにしたって、歳を取り過ぎたって事はないんだ」
 コーヒーを置いたその手を、守はそっと取る。情熱を込めて、じっと見つめた。朴念仁のイザベラでも、流石にこれは効いたらしい。バツの悪そうな顔で、小さく肩を竦めた。
「お前の根気には恐れ入る。……それならせめて、私の前では値切るのを止めろ。身分ある者は身分ある者なりの振る舞いをしなければダメだ。いいな?」
 彼女は溜め息交じりに言い放つ。守は微笑み、小さく頷いた。

「わかったよ、イザベラ」

 END



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 榊 守(aa0045hero001)
 イザベラ・クレイ(az0138)
 セオドラ・カーライル(az0138hero002)

●ライター通信
影絵企我です。いつもお世話になっております。

字数と格闘しながら、守さんとイザベラのデートを私なりに描かせて頂きました。満足いただけるものになっているでしょうか? 何かありましたらリテイクをお願いします。

ではまた、ご縁がありましたら……
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2019年05月07日

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