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『七度目の旅路 』
森野 紫苑la2123

●Let’s guerrilla
 北アメリカ、カナダ近辺にある森林。ナイトメアの叫び声とライセンサーの銃声が入り混じって響き渡る。蟷螂の群れが、木々の間をすり抜けながら迫っていた。森の隙間を縫うように組み上げた陣地に引きこもり、ライセンサー達はこれを迎え撃つ。蟷螂は鎌を正面で交差させ、飛び交う銃弾を受け止めつつ陣地へと斬り込んできた。
 蟷螂は両腕を突き出し、強引に一人のライセンサーの身体を引き寄せる。その顎を広げ、容赦なく顔面にその牙を突き立てた。
 響き渡る悲鳴。シールドに守られてはいるが、怖気を見せればそれもすぐに弱る。破られるのは時間の問題と思われた。仲間は彼を助けようと銃口を向けるが、蟷螂は仲間を盾にした。その卑怯な振る舞いに、ライセンサー達は手をこまねくばかりである。

「相変わらず、卑怯なやり口をしやがるぜ。ナイトメアってのは」

 そんな折、どこからともなく声が響く。吹き抜けた風が、森の木々をざわつかせる。ナイトメアもライセンサーも、揃って周囲を見渡した。あちこちの木々の枝が撓み、木の葉がぱらぱらと落ちてくる。ナイトメアが威嚇するように顎を打ち鳴らした瞬間、その背後から森林迷彩に身を包んだ大男が降ってきた。手斧を抜き放ち、蟷螂の背中をバッサリと断ち割る。そのまま頭と胸の付け根を蹴りつけ、ライセンサーの拘束をあっさりと解いてしまった。
「それでいて俺が近づいていることにちらっとも気づかないんだ。間抜けもいいところだぜ」
 大男――森野 紫苑(la2123)は肩を竦める。背中から体液を垂らしながら、蟷螂は振り返って鎌を振り上げた。歪に滑る鎌。しかし、紫苑は怖ける事無く手斧を二度振り抜き、その首を刎ね飛ばしてしまった。
 突然出現した強敵を前に、蟷螂の群れは咄嗟に身構える。軽く一瞥しながら、紫苑は辺り一面に轟く声で叫んだ。
「お前らも情けない面するな! ここを抜かれたら街が襲われるんだ。歯で食らいつくくらいの覚悟で戦え!」
 彼の発破に勢いづけられ、ライセンサーはようやく士気を高め直す。彼らは銃を構え直すと、塹壕にぴったりと身を伏せて蟷螂を再び狙った。蟷螂が身構えた隙に、紫苑は再び森の奥深くへと飛び込む。数多の戦場を渡り歩いてきた。森奥でのゲリラ戦などは手慣れたものである。
「運が悪かったな」
 手ごろな枝を見つけて飛び移ると、ライフルを取り出して蟷螂へ狙いを定める。敵はすっかり目の前のライセンサー達に夢中、森の奥に潜んだ彼の事など気にも留めない。
「俺はお前達を追っ払いに来たわけじゃない」
 引き金を引くと、くぐもった音と共に蟷螂の頭が撃ち抜かれた。素早く枝の間を飛び移りながら、次弾をライフルに込めていく。そのまま振り返ると、元居た枝に飛びついてきた蟷螂の胸に狙いを定めた。
「全部ぶっ殺しに来たんだ」
 胸の甲殻が弾け、澱んだ体液の穢い華が咲く。バランスを崩して落ちたところを、仲間達が次々と矢弾を捻じ込んだ。見届けた紫苑は、再び斧を取って跳び出す。その身を翻し、その背中を踏みつけにして蟷螂を地面に押し付けた。振り上げた手斧が、エネルギーを込められ激しい光を放つ。
「じゃあな」
 さらりと言い放ち、紫苑はもがく蟷螂の頭に手斧の切っ先を突き立てた。体液をばら撒き、蟷螂はしばらくもがき続ける。やがてその動きも弱まると、蟷螂は永遠に沈黙した。

●森の料理人
「平気か」
 助け出した青年に向かって、紫苑はぶっきらぼうに尋ねる。頬についたかすり傷を撫でながら、彼は小さく頷いた。
「ええ、お陰様で助かりました」
「ならいい。次は簡単に捕まったりして足を引っ張らないように気を付けるんだな」
 言いつつ、紫苑は整列したライセンサーをぐるりと見渡した。
「お前らも、あんな状況にならないためにも、相互のフォローをきっちり意識して戦え」
「はい」
 返事の威勢は良い。この中のどれほどが次の戦いに生かすかは知れないが、一人や二人現れてくれればいいだろう。頭の奥でひっそり考えながら、じっと彼らの顔を見つめた。
(こんな子供まで戦ってるのか……)
 紫苑は一人の少年に目を留める。どう見積もってもハイティーン、場合によってはローティーンかもしれない。とにかくあどけなさの残る顔立ちを見た彼は、小さく溜め息をついた。彼はそっと少年に歩み寄り、そっと腰を落として目線を合わせた。
「まあ、それなりにきつい戦いだったろ。腹減ってないか?」
「……ええと」
 少年は口ごもるが、すぐにこくりと頷いた。紫苑は僅かに頬を緩めると、彼の肩にそっと大きな掌を乗せた。
「なら飯にしよう。俺が作ってやる。……心配すんな。俺はこれでもコックなんだよ」

 基地に戻ってきた紫苑は、早速厨房へと向かった。駐屯するライセンサーの為に、種々様々な缶詰が備蓄されている。そのまま食べていれば、いくら美味くてもいつか飽きは来る。
「ま……まずはこれだな」
 ぽつりと呟きつつ、サンマ蒲焼きの中身をボウルに空ける。そのまま炊いた米と合わせ、油を敷いたフライパンで炒めていく。ただの炒飯だが、ちょっと火を加えてやるだけでも味は断然変わるのだ。
 傍に積み上げた缶詰の山を見つめながら、彼は献立を考え始める。数多の世界を渡り、彼は様々な文化を学んできた。料理もその一つ。レシピ量の多さなら、どんなコックにも引けは取らないと信じていた。
(この世界には、後どれくらいいられるもんだろうか)
 彼は少し思いを巡らせる。この世界に渡ってから数年、ようやく反撃の機会が訪れ始めた。それは喜ぶべき事に違いない。この世界に平穏が戻ってくるのだから。だが、それは即ち彼がこの世界から弾き出される時でもある。賽の河原の石積みの如く、世界に平穏を取り戻した瞬間、彼はまた違う世界に足を運ばされるのだ。
 運命が、彼に『英雄』である事を望んでいるかのように。
(……いやいや。ちょっと珍しい気分になっちまったな)
 彼は首を振った。彼はこれまで、これっぽっちもこの世界の将来について考えた事はなかった。考えようもないのだから。彼が考えているのは、常に今である。目の前の味方を守り、目の前の敵を片付ける。それだけだ。
(シンプル・イズ・ベストだ。どの世界でもそれは変わらん)
 まずは、あの育ち盛りであろう少年にたらふく旨い飯を食わせてやる。今の目標はそれに限る。彼は心に決めると、フライパンを鋭く振るった。



 END




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 森野 紫苑(la2123)

●ライター通信
依頼ではお世話になりました。影絵企我です。これからも宜しくお願いします。

お名前と経歴から、色々とイメージを膨らませて書かせて頂きました。……上手く描けているでしょうか。満足していただけると幸いです。

ではまた、ご縁がありましたら……
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年05月07日

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