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『冷たい雨と誓いの言葉 』
セレナ・ヴァルアaa5224)&ヤナギ・エヴァンスaa5226

 ポツ、と窓に雫が当たった。グレーに染まる空からは、涙のような雨が降り出している。
「……雨、降ってきた」
 窓から空を見上げていたセレナ・ヴァルア(aa5224)が、静かにそう言った。表情には現れてはいないが、濡羽色のその瞳には愁いを孕んでいる。
 パラパラと音を立て、雨はあっという間に本降りとなった。
 ――雨は、嫌いだった。自分の大切な人が嫌がるからだ。
 彼のすべてを飲み込み、良くない感情と記憶を呼び起こす。それらの起因や詳細は知らないが、セレナはその度に自分以外に意識を持っていく雨を、厭っていた。
「私、結婚する。……ヤナギと」
 視線のみを僅かに動かし、セレナはそう言った。
 彼女の視界に一瞬だけ映ったのは、大切な恋人であるヤナギ・エヴァンス(aa5226)だ。彼はやはり、降り出した雨に心を奪われている最中であった。
 そして彼は、セレナの放った言葉を脳内で反復して、瞠目する。その為に、言葉を発することが数秒遅れた。
「……本気で、言ってンの?」
 ヤナギの声は、若干震えているかのように思えた。
 驚きと、戸惑い――それらが綯交ぜになっているようだ。
 だが、それよりも先に、彼にも『準備』しているものがあった。
「…………」
 思わず、ポケットに手が伸びる。その中には小さなケースが存在している。
 目の前の彼女に渡すために、用意していたものだ。もっと色々と、構想していた流れがあったはずなのにとヤナギは内心で呟いていた。
 ザァ、と雨音が強くなる。
「……、っ」
 ヤナギはその音に、どうしても意識を持っていかれた。
「ねぇ、ヤナギ……聞いて」
 柔らかな手のひらを差し出し、そう言うのはセレナだった。彼女はヤナギの頬に指先を持っていき、視線すら自分へと誘導する。
「ずっと、一緒にいる。私がヤナギに誓うだけ。だからヤナギも……私に誓って」
 濡羽色の瞳が金色(こんじき)の瞳を捕らえる。強い視線であった。
 誰にも、何にも彼を渡さない。雨にすらそんなことを思う。
 彼女の意思は、静かでありながらも強かった。今、目の前のヤナギの心を惑わす冷たい雨から、自分がそれ以上のものになりたいと思った。
 気持ちで想いで、強い独占欲で、空の涙を涸らせてしまいたい。
 そんな事を思いながら、セレナはヤナギに口づけをした。
「……いつも、毎日……ずっと、ヤナギと一緒じゃないと嫌。それ以外の現実なんて、もう考えられない。だから……」
「セレナ」
 恋人の情熱的な訴えに、ヤナギは僅かに苦笑した。
 そしてキスを返しながら、彼女の名を呼ぶ。言葉少ない普段の彼女から紡ぎだされる声音に、脳内が溶けそうになった。
 眩暈にも似たそれを誤魔化すために、ヤナギはセレナをソファへとゆっくり押し倒す。
 体が沈み込む過程をスロー画のようにして見つめながら、彼は薄い唇をうっすらと開いた。
「……誓うよ。俺だけの太陽……」
 身を屈めると、赤い髪が肩を滑る。細い三つ編みの混じるそれは、火花のように跳ねた。
 愛しいと思うものは、目の前の彼女しかいない。セレナこそがヤナギの全てであり、世界だ。惑わしの雨から自分を遮ってくれる唯一無二の傘、とも表現できる。
「…………」
 何かを告げようとして、ヤナギはそれ以上の音を紡ぐのをやめた。
 言葉にするより、行動を示したのだ。
 セレナの唇を再び奪い、ゆっくりと貪って体温を確かめる。
 何度目か、すでに忘れてしまった。それでも触れるたびに、新鮮さを繰り返していく。
 そうして触れ合いを続けていくうちに、雨の音が遠のいた。セレナもそれに気づいたようで、ゆるりと瞳を動かし、窓の外を見上げる。
「雨……あがった……」
「ん、そうだな。セレナのおかげかも……な?」
 思わずこぼれた言葉に、ヤナギはきちんと答えてくれた。その響きが嬉しくて、僅かに表情をほころばせてから、声音を続けた。
「ヤナギ……紅茶、飲みたい」
「紅茶? ああ、後で、な……」
 ヤナギの答えは、その先を封じるようでもあった。彼女の手を取り指先に軽く口づけてから、ぺろりと舐める。
 触れられた部分がいつもより熱いと感じたのはセレナで、彼女はそれを自覚したあと、瞳を閉じて震えるような声を絞り出す。
「ん、後で……いい、よ……約束……」
 言葉は、聞かずとも今は。
 そう思いながら、セレナはヤナギの首に腕を回して、全てを任せた。
 するりとソファを滑り落ちる衣服たち。重なり合った二人の影は、それからしばらくの間も離れることは無かった。

 静まり返った室内で、とろりとした表情の恋人を横目で確かめつつ、ヤナギが彼女の希望通りの紅茶を淹れている。上半身には何も羽織らず、口には煙草を咥えていたが、それでも彼の淹れる紅茶は気品漂う最高の味と色を生み出す。体に染みついた行動であるので、どんな時にもそれが変わりない。
「これから一生、淹れ続けてやるよ。……セレナのためだけにな」
 独り言のような言葉は、微睡の中にいるセレナには届いただろうか。
 今は届かなくともいいと思いつつ、ヤナギは定位置に添えるはずの角砂糖を敢えて置かずに、ポケットの中で息を潜めていた指輪を静かに添えてから、ソーサーを持ち上げるのだった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

セレナ様&ヤナギ様
初めまして、この度はご指名ありがとうございました。お二人の大切なお話を任せて頂けて大変嬉しかったです。
少しでも気に入って頂けましたら幸いです。

またの機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
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2019年05月07日

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