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『花霞、二人の距離。 』
スノー ヴェイツaa1482hero001)&ウィンター ニックスaa1482hero002

 遅咲きの桜が川沿いに咲く場所がある。八重桜の並木の名所だ。
 川沿いという事もあり、屋形船や露店などが多く並び、満開時には多くの人で賑わうという評判のスポットでもあった。
 八重桜、牡丹桜などとも言われているらしい。八重咲の桜ゆえに遠くから見ると鞠のようにも見えるので、愛らしさもあり、女性からの人気も高いようだ。
「お姉様、俺と一つ花の踊りを見に行きませんか」
「花見ィ? 盛りはもうとっくに終わっただろ」
「どうやら、花筏が見事らしいんだ。……スノー殿に、見せたくて」
 『花降る里祭り』と書かれた内容のチラシを差し出しつつそう言うのはウィンター ニックス(aa1482hero002)であった。そしてそのチラシの内容と花筏の言葉に興味を示したのは、綺麗な赤い髪が特徴のスノー ヴェイツ(aa1482hero001)だ。
「ふぅん、花に屋台……ねぇ。でもお前、オレをエスコート出来るだけの小遣いねぇだろ」
「……ああ、いや。それを指摘されると返す言葉もなくなってしまうんだが」
 ウィンターは露草色の髪を揺らし、僅かに困り顔になった。それでも彼はめげずに目の前の彼女を誘う姿勢は崩さない。
「どうか聞き入れてはもらえないだろうか」
「……しゃーねぇなぁ。良いゼ。付き合ってやるよ」
 パチン、と若竹色の瞳がウィンクすると、それを見た青い瞳が小さく揺れた後、呆れの色になった。そしてスノーはやれやれと言うようにして両手を上げて、答えを返す。
 ウィンターはそんな彼女に、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
 そして二人は、チラシに示された場所へと足を運んだ。

 スノーの言うように、時期的には花の盛りは過ぎた頃ではあったが、遅咲きの八重桜のおかげで会場は賑わいを見せていた。道沿いに多くの露店も並び、そばを歩くだけでどこからでも声がかかる。
「姉さん姉さん、コレ食べていかない? うまいよ〜!」
「ん、五平餅か。ウマそうだな、じゃあこのくるみ味噌味っての、二本くれ」
「はいよ〜!」
 店主はにこやかにしながらスノーの言葉に従い、手際よく五平餅を焼いた。その場で数分待っている間に、彼女は空を見上げる。快晴の下の桜は、見事だった。
「綺麗でイイなぁ」
「スノー殿の美しさには、どれも霞んでしまうぞ!」
「そこは素直にハイ、って言っておけよ。ほらコレ、お前の分」
「おお、ありがたい! 頂こう!」
 一本の五平餅をウィンターに押し付けるようにして、スノーはそう言った。
 ここに来る間、ウィンターからの様々な褒め言葉を耳にはしていたが、スノーには色気より食い気が勝っていたようだ。
 だがそれでも、感情が何も動かないと言うわけではなかった。
 ウィンターとは契約者が同じという関係もあり、縁が深い。顕現する前の記憶は朧気のままだったが、その頃から知っていたような気がして、傍にいても苦とは感じないし居心地も良いのだ。
「ウマいな」
「ああ」
 五平餅を齧りつつ、二人は桃色の空間を川沿いに歩いた。
 ひらりと花びらが舞い落ち、ウィンターが言うように花の踊りを見ているかのような気分にもなる。その姿は可憐でもありそれでいて美しいとも思えて、不思議な気持ちだ。
「スズランを見た時にも感じたが、小さき花は美しいと感じるな!」
「……そうだなァ、こんなのも悪くねぇなァ」
 くるくると回りながら水面に落ちる花びらに視線を向けつつ、スノーはウィンターの言葉にそう答えた。
 花筏となっている川は、やはり見た目にも鮮やかであった。その間を縫うようにして、二羽の水鳥がゆっくりと泳いでいく姿も見える。
「俺とスノー殿のようだな」
「あれは『番』だろ。オレたちは別に、そうじゃねぇだろが」
「そう……そうだな」
 スノーの言葉に、ウィンターは少しだけ言葉の音色を弱めたようだった。だがそれは、周囲の見物客の喧騒に掻き消されてしまい、スノーの耳には届かないようであった。
 だが。
「ウィンター、ほら」
「え?」
 ウィンターより一歩先を歩いていたスノーが、踵を返して左腕を差し出した。手のひらを見せているという事は、同じように手を開いて重ねろという意味合いでもあった。
「スノー殿」
「……人、すげェだろ。この先もわんさか溢れてやがるし、迷子にでもなったら面倒だからな」
 スノーのそんな言葉に、ウィンターはあっさりと表情を綻ばせた。そして満面な笑みを浮かべて、自分の手のひらを彼女のそれへと重ねて、優しく握る。
 温もりが、とても柔らかくそして暖かであった。
「俺はやっぱり、お姉様が一番好きだな」
「そりゃどーも」
 ウィンターはさらりと自分の気持ちをスノーに告げる。
 軽い口調であったためにいつもの口説き文句だと思われたのか、彼女の返事は素っ気なかった。それでもウィンターの言葉は、偽りのない響きであった。
 それから二人は、手を繋いだまま道沿いを練り歩いた。途中に屋台をのぞき込んでは飲食も挟み、何気ない会話などを続けて花見を楽しんだ。

「は〜、結構歩いたなァ」
「最後に船に乗れたのは良かったな。俺はスノー殿の横顔ばかり眺めてしまったが」
 帰り道を、ゆっくりと歩きながらの会話だった。
 ウィンターは始終、スノーのエスコートに注力していた。船に乗る時、降りる時も、必ず手を差し出し彼女を支えた。スノーはそのたびに「大袈裟だなァ」と口にしていたが、それでも素直に彼の行動を受け入れていた。
「スノー殿」
「んぁ?」
 ウィンターがふと、立ち止まった。
 名を呼ばれたスノーも同じようにして立ち止まり、彼を振り向く。長い赤の髪が流れるようになびいて、ウィンターの視界をさらに華やかにさせる。
「今日は、俺の小さな願いを叶えて下さりありがとう」
 笑顔でそう言うウィンターのその声音は、少しだけ真面目な響きだった。
 受け止めたスノーがそう思っていると、彼は自然とスノーの手を取り、その甲に唇を落とした。
 スノーは僅かに瞠目した後、一度だけ深く呼吸をしてから、口を開く。
「……まぁ、悪くはなかったゼ。また何かあったら、頼むわァ」
 からり、と笑った。
 その笑顔をウィンターは噛みしめるようにして見つめた後、「ああ」と答えた。
 今はまだ――そんな思考が巡りつつも、今日という日をきちんとした記憶として刻み、二人は帰路をゆっくりと歩いていくのだった。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

スノー様&ウィンター様
この度はご依頼をありがとうございました。再びお声がけ頂けてとても嬉しかったです。
お二人の大切な一幕、少しでも気に入って頂けましたら幸いです。

また機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
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2019年05月07日

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