『氷の女王の末裔と雪姫の戯れ〜今度は雪だるま勝負！ 』

アリア・ジェラーティ（8537）

　雪だるまを作ろう。

　アリア・ジェラーティ（8537）と雪姫の新たなる勝負の手段は――と言うか、二人が次に何をして「遊ぶ」のかは、これで決まった。
　勿論、場所は変わらず夏であろうと「豪雪通り越して氷河期」の如き極寒の雪山。雪女郎である雪姫の「おうち」であるその雪山ならば、氷雪の加護を受けし二人の乙女が思う様拘り抜いた雪だるまの一つや二つや三つは誰憚る事無く作れそうな物である。
　第一試合（？）ことアイスの大食い兼早食い勝負では「勝敗基準に使ったアイスがまだ（辛うじて）余力のある中全部終わってしまう」と言う仕方の無い必然で雪姫に軍配が上がった以上、次こそはそういった悔しい結果を導きそうな制約は――出来るだけ無い状態でやりたい。能力の拮抗を鑑み不確定要素に勝敗を委ねるのも悪くは無いが、やはり互いの持ち得る力を以って直接激突し、勝負を賭けた方が――燃える。

　そう、氷雪の加護を受けた二人であっても、心の中は熱いのだ。

■

　勝敗基準は、大きさとする。

　今回の雪だるま勝負のルールは、単純明快にそうなった。……予期せぬ制約が付いてしまった先程の反動もあったかもしれない。このルールなら、「この場所」である限り制約は無いも同然である。
　うむ、と頷き合い、アリアと雪姫は互いに邪魔にならないよう、少し離れて間合いを取る。それから、おもむろに雪だるまを作り始めた。開始の合図は不要。時間も不問。ただ、大きく作ればいい。
　アリアはまず小さな氷の核を作り出し、どんどんと気温を下げ――必然的に核の周囲に生まれた氷雪を呼び込む様にして一つに集束、纏め固めて行く。氷の核、その「小さな粒」だった筈の物が雪だるま用の雪玉としてどんどんと大きくなっていくその過程は、見る見る内にと言う表現が正しい程速い。理屈などさておき、氷の女王の末裔足る能力がこれでもかとばかりに炸裂している。
　勿論、雪姫の方でも負けてはいない。こちらは氷の核を元にと言うより初めから雪。手ずから「降り頻らせた」氷雪を極一点に練り纏め膨らませて行く方法を取っている。規模が全く違うと言えば違うが、方法論的には普通の雪だるま作りと同じと言えば同じかもしれない。……但し「雪玉を転がす場所」が局所的な吹雪の竜巻――の中心近く、と言う普通とは到底言えない場所ではあるが。
　程無く、どちらの雪玉も凄まじいサイズに到達する。既にして、いつぞやの雪合戦時に「奪い合うトロフィー」として作り上げた十メートル前後の雪像に勝るとも劣らないサイズ――ただ、この程度ではまだまだ序の口、アリアの方も雪姫の方も、限界には程遠い。

　どちらの雪だるまも、まだまだ大きくなって行く。

■

　今の時点ではまだまだ勝負の行方はわからない。

　……雪姫ちゃんの雪だるまは今どんな感じかな、とちらと見て確かめる。む。大きい。多分、今の私の方の雪だるまと張るだろう。思いながらもアリアは更に能力をブースト。氷雪を次々と生み出し雪だるまに纏め固める速度を上げる――そろそろ、雪だるまを固定する場所も考えた方がいいかもしれない。ある程度以上の大きさになると、崩れる心配も出てくるだろうから。それこそ雪崩の素になってしまったら、折角の雪だるまが勿体無い。
　固定する場所を探す為、周囲の状況も見極める為にアリアは雪だるまの上に乗る形になり、雪だるまを更に大きく仕上げていく。何はともあれ雪姫ちゃんより大きく、と言うのは当然の目標。

　でも、それだけじゃなく折角だからディテールにも拘りたい。
　未来の氷の女王の威厳、ここでお姫様に示しちゃおう。うん。

■

　なかなかやりおるわ。と雪姫は感心する。

　何かと言えば当然、アリアの方の雪だるまの話。我の作る雪だるまに張る大きさを維持、更にまだまだ高みへ向かおうとしているのは見ていてわかる。あれは――アリア自身の姿を模っているのかもしれない。今ここに居るキャミソール姿のでは無く、黒い筒帽を被りコートを着込んだ、冬の姿の。氷と雪を織り交ぜ、帽子だけでは無く上手い具合に襟元のファーや髪の毛まで作っているらしい。なかなか、芸が細かい。
　思うが無論、黙って見ているつもりは無い。こちらとてまだまだ余力は有り余る――かの雪合戦時の屈辱のお返し、と言う訳でも無いが、今ここでの勝負は我が頂く。

　ニ連勝の誉れを飾るのは我だ。

■

　……どうも地形が変わってはいないだろうか。

　傍から見ればそんな風に思う者も居たかも知れない。そう、たかが雪だるまと侮るなかれ。最早山より高く雲を突き抜ける勢いの巨大な二つの雪だるまが、これまで陽を遮る物が無かった筈の場所にまでがっつり確りと影を作る程になっていた。

　とは言え。

「……どう、しよう……」

　アリアとしては結構本気で、困り事が出てきた。
　雪だるまの頭部、「筒型の帽子」を模ってみた部分が雲を突き抜けた辺りから、どうも融け出し始めたのである。標高が上がれば上がる程気温は下がりそうな物だがこれはひょっとするとそれをも通り越してしまったと言う事かもしれない。つまり、太陽の熱の――それこそ直射日光で融かされているのかも。
　そうなると、流石に色々難しい。幾ら氷の女王の末裔として底知れない程の能力を秘めているとは言え、あくまで地球上の一個人。相手が地球自体の気候に影響を与えるレベルの巨大な恒星ともなれば、流石にそうそう太刀打ち出来る訳も無い。規模と言うより次元が違う。
　取り敢えず、融ける側から能力を以って凍らせ直すと言う応急処置を重ねているが、果たしてこれもいつまで保つか。寧ろこの方針は諦めて、何か違った方法で「大きく」する事を考える必要もあるかもしれない。
　が、「大きさ」と言えば、高さで競うのが、まず一番わかりやすい。事実、雪姫側の雪だるまもまた、アリア同様に雲を突き抜けて頭を出し、アリア同様応急処置を重ねている節がある。
　つまり現状、勝負としては膠着状態……になるのかもしれない。

　が。

「……あ」

　罅。
　気付いた時点で、アリアは殆ど反射的に能力を放つ。放った先は、首の辺りに致命的な罅が入りつつあった雪姫側の雪だるま。登頂の融解を止めるのに奮闘している中、気付いていない――と言うか、離れているからこそ見えるのだろう位置の罅だった。……放っておいたら、崩れる。そう思ったら、反射的に罅を繕う形で手を出していた。折角ここまで作った雪だるま、崩れてしまったら勿体無い。
　雪姫側でもアリアがしている事にすぐ気付き、何事かと能力を放たれている先の部位を確かめ――何だとっ、とばかりにそちらの修復にも奮闘の手を回す。

「っ――よくもまぁ我の雪だるまの方にまで回す手があったなっ」
「雪だるま……雪崩……なっちゃったら……勿体、無い……から……」
「然り！　……ふっ、仕方あるまい。この勝負は我の負けだな、うぬが気付かねばこちらのが先に崩れていたわ」
　ならばうぬの雪だるまの方がどうあっても大きい事になる。
「っ……やった……勝った……！」
「うむ。だが勝敗は決したとは言え、折角守って貰ったこの雪だるま、このまま放り出すのも忍びないが――」
「……氷漬けにする」
「なに？」
「雪姫ちゃんのも私のも、融けない様に氷漬けにして保存しておくんだ……」

　折角の雪姫ちゃんとの勝負の記念。
　絶対絶対、残しておく。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【8537／アリア・ジェラーティ／女／13歳／アイス屋さん】

■NPC
【-（公式イベント・雪姫の戯れNPC）／雪姫／女／外見10歳／雪女郎】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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　氷の女王の末裔様にはいつも御世話になっております。
　今回も発注有難う御座いました。
　そして今回はGW明けまでといつもにも増して大変お待たせしてしまっております。

　内容ですが、雪だるま編の反映はひとまず纏まったと思います。勝負の行方はこんな感じになりました。
「続き」については……おまけノベルの方で御判断頂ければと（何）

　如何だったでしょうか。
　少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

　と言う訳で、ひとまず次はおまけノベルの方をどうぞ。

　深海残月　拝

東京怪談ノベル(シングル)

深海残月

東京怪談

2019年05月07日