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『果たして何処から現れた〜チョコレートの怪 』
来生・十四郎0883)&来生・億人(5850)&森永・ここ阿(0801)&来生・一義(3179)

 それは二月十四日、来生億人(5850)と来生一義(3179)の二人が、買い物から帰って来た時の事。
 狭いながらも楽しい我が家(?)こと廃墟寸前のアパート――【第一日景荘】の自室こと203号室前にまで辿り着いた時の話である。

「兄さん何やっとるん」
 ポスト覗いて固まって。
「……」
「おーい。買ってきたもん早く仕舞わんでええのー?」
 冷凍冷蔵の品もあるんやでー。
 ちゅうか、俺折角のバイト休みなんやし、兄さんの道案内と荷物持ちの御役目済んだならとっととのんびりしたいねん。
「兄さーん。ほんまにどないしてん?」
「……いや」

 これは、何だと思う?

 神妙に言いつつ、兄さん――つまり一義がポストを開け億人に指し示したのは、何かのギフトらしく可愛らしいラッピングをされた手作り菓子と思しき品一つ。正直、廃墟寸前かつ男所帯なこの部屋のポストに入れられる物としては、似合わない事この上無い。

 が。

 億人にしてみれば、モノを見た時点で時節柄すぐにピンと来た。

「あー、それバレンタインのチョコレートちゃう? 外出ぇへん兄さんやら女っ気ゼロの十四郎はともかく、俺バイト先の女の子と仲ええし、多分俺宛てやで」
 今日バイト休みやったからわざわざ持って来てくれたんやろ。健気やわあ。
 うんうんと頷きつつ、億人は買い物荷物を持ち直して片手を空けると、ポストから問題の品を取り上げようとする――が、それより先に一義の方がその品を手に取っていた。
「待て」
「兄さん?」
「……カードの類は添えてないな。宛先も送り主も不明、か」
「やから可能性あるの俺だけやろ。なら有難く食ってやるんが礼儀ってもんやないん?」
「億人宛てと決まった訳では無いだろう。待て」
「待ってどーするん。まさか十四郎宛てって事ないやろ」
「決め付けるのは良くない。はっきりするまで食べない方がいい」
「って食うたらアカンて何でや兄さん。俺のん違うかっても、半分こしたらええやんか!」
「そういう問題じゃない」

 とにかく、待て。



 三日ぶりに帰宅したら、何やら妙に不穏な気配がした。……と言うか居候と兄がちゃぶ台を挟み、びしばし火花を散らして睨み合っていた。来生十四郎(0883)としては帰って早々何なんだと思うが、ちゃぶ台の上に置いてある物を見て何となく察する。……何に揉めているのかは知らないが、かなり下らない話だろう、と言う事だけは。
 何故なら、ちゃぶ台の上にあったのは――誰宛てなのかは知らないが綺麗に包装されたチョコらしき物一つ。今日の日付からして、バレンタイン絡みの何かだろう。……職場でも鬱陶しい程そんな話になっていたので、気付きたくなくとも気付いてしまう。

「何してるんだ?」
「あっ、十四郎。やっと帰ったか――早速だがこのプレゼントらしき物に心当たりは無いか」
「無い」
「本当か、本当にか?」
「しつこいぞ。何なんだ」
「だから言ったやん。十四郎宛てな訳無いやろって」
「だったら余計に問題だ」
「……何なんだ?」
「実はな」

 このプレゼントらしき包みは、カードも何も添えてない状態で郵便受けに入れられていた物であり、つまり誰かがわざわざ自宅まで届けてくれた物と言う事になる。ラッピング等の様子からして恐らく手作りであろう事も見て取れる為、そんな物を無碍にするのは申し訳ない、しかし同時に誰からかもわからないので薄気味悪く、扱いに困っている――と、そんな懇切丁寧かつどうでもいい説明をされた。

「そんな正体のわからない物を迂闊に食べる訳にも食べさせる訳にも行かないだろう」
 心当たりがあるならいざ知らず、無いと言うなら尚更。
「……」

 十四郎としては心底どうでもいい。迂闊も何も、幽霊と悪魔がわざわざ心配する様な話かと軽く呆れる――バレンタインに絡む諸々と言えば、彼女や妻子持ちである職場の同僚から聞かされる惚気話を思い出したくもないのに思い出す。……反応に困る。職場のみならず家でまでこれかと閉口する。

「何や遠い目しとるで十四郎?」
「勝手にやってろ。何にしても公私共に女に縁の無い俺には無関係な話だ」

 下らねぇ話で仕事の邪魔するんじゃねぇ。そう言い捨てて放置し、十四郎は黙々と自分の座る場所を確保。仕事用のノートパソコンを開いて、三日振りの帰宅にも関わらずまず即決で仕事の続きを始める。
 ……バレンタインなどと言う話は十四郎には本当に縁が無い。そもそも仕事で女性と接する事はあっても、私的な関係としての女性とは全く縁が無いのだ。何か女性から仕事以外の連絡があったとしてもまず悩み相談か何かで、その度兄からは律儀に期待されたりもするが……結局友人以上に見られた事は無い。
 つまり、郵便受けにチョコがあろうが、自分宛かもしれないなどと言うそんな甘やかな淡い期待を持つ時期は疾うに過ぎた。実際心当たりも無いし――真面目な話、今の生活の不安定さや将来性を考えるなら女っ気を期待する方が間違っている、と思う。今のこの仕事が好きな以上今のこの生活を改められる訳も無し、気にしていない訳でも無いが、半分諦めているのが本心だ。

 そしてカタカタと十四郎がキーボードを打つ音が流れに乗って来た頃に、ちゃぶ台挟んで散らされていた火花の方も恐る恐る再開する。

「ほらやっぱり俺宛てしか考えられへんやん」
「間違えてうちの郵便受けに入れたと言う可能性もまだある」
「そないな事言い出したらキリないやろ」
「プレゼントだと言う保障も無いぞ?」
 今の段階では出処不明、怪しい物である可能性も否定出来ない。
「兄さん。俺悪魔やっちゅーねん。怪しいちゅーたかて人間の作ったモンでどないかなるかい!」
「だからそういう事じゃないと言っているだろう!」
「ならどーいうこっちゃっ! そんなに俺に食わせたくないんかっ!」

 と。

 俄かにヒートアップした所で、ダン、と壁が思い切り叩かれる様な音がした。続いて――うるせえぞ! と怒鳴る声。
 ……お隣さんである。

 こう来てしまえば、無関係を宣言した十四郎としても放置しておく訳にも行かない。
 このままぎゃあぎゃあやられては、それこそ仕事に差し障る。

「……もう少し静かにやれ」
「だって誰宛てのかわからんて兄さんが独り占めしはるから」
「だからそういう事じゃないんだ。心の籠ったプレゼントらしい以上、まず送り主の気持ちを考えて取り扱うべきだろう。バレンタインのプレゼントはそういう物じゃないのか?」
「……つまり送り主と誰宛てかがはっきりすればいいんだな?」
「そうだ」
「十四郎、はっきりさせられるん?」
「調べりゃいいだろうが。別に難しいこっちゃねぇだろう」
「わかった。調べよう」
「……ってちょい待ち。兄さんが外出てったら大惨事や」
 迷子捜索で余計手間取る。
「っ……ならどうしろと!」
「……しゃあねえ。俺が調べてやる」
「! 本当かい十四郎」
「兄貴探す手間考えればその方がまだマシだろ」
 それに、このまま「これ」が落ち着かなければ、どうもまともに仕事が進められそうにない。



 結果、十四郎がプレゼントの――チョコの送り主を調べる事になり、取り敢えずながら事態収拾の目処は付いた。十四郎が送り主調べるまでやな、と億人も取り敢えず引き、一義は取り敢えず当のチョコを冷蔵庫に保管する。わかったらすぐ食べさせてや? 約束やで? と食い下がる億人に、一義は億人宛てだったならすぐに渡す旨請け合っておく。但し逆を言えば億人宛てでは無かったら渡さないと言う訳でもあり――現状としては居候が手を出さない様に確りと監視を続けている。億人の方も結果が出るまで待つわと口では言いつつ隙あらばと狙っている節があり――来生家の冷蔵庫を取り巻く環境に何やら妙な緊張感が漂っている。

 十四郎としてはそんな状況の全てがひたすら面倒臭い。そもそもここで何故自分が調べる事になってしまったのか――恐らくそれが一番無難に始末が付くだろうと判断出来たのでそうしたのだが、正直、貧乏籤もいい所である。どんな結果が出ても自分の得になる事は何も無い。仕事の取材ならいざ知らず、こんなしょうもない調査では記事の足しにする訳にも行かない。
 頼むから普通に仕事をさせてくれと儚い願いを抱きつつ、まずは順当に聞き込みから。幾ら効率を重視し早いとこ何とかしてしまいたくとも、さすがにこちらの調査に専念してはそれこそ仕事に直接差し障るから……数日掛けてじっくり聞き込んでみる。先日たまたま不在だったのだが、その間に誰かがうちを訪ねて来なかったか、郵便受けに何かを入れていなかったか――アパート内の人間や周辺で遊んでいた子供達にそれとなく声を掛けてみる。
 と、子供からは「セーラー服着た愉快で綺麗なお姉ちゃんが居たよ」とか、先日怒鳴られた当のお隣さんや近所の奥さんからは何やら不審な目で「あの派手な女子高生とはどんな知り合いなのか」を逆に訊かれたり、と明後日の方向にややこしい話にもなりかけた。が――何とか「その人物」の特徴を聞き出す事には成功した。

・私立翁ヶ崎高校の制服。
・栗色のふわふわした長い髪。
・大きな目に派手な顔立ち。
・制服の上からでもわかる位に発育のいい体。
・物怖じしない凄く元気で陽気な感じ。
・何か鞄とかにゴリラらしき小物がたくさん付いていた。
・子供からは好評。
・大人からは……女子高生に手ぇ出してるんじゃないでしょうね的に十四郎の方が疑われた。

 そこまで判明した時点で、十四郎はがりがりと頭を掻き回す。どんぴしゃの心当たりが一人――親類の女子高生にして腐れ縁、森永ここ阿(0801)である。

 ……何してくれてんだ、あいつ。



 ぺるるるる、ぺるるるる、ぴ。

(はーい。どしたの十四郎? そっちから電話掛かって来るなんてめっずらしー、ってえ? うん、チョコ入れたのボクだよ。ボク特製スペシャルチョコ! そーそー、包みもそれで間違いないし。可愛いでしょ? それも力作なんだよっ☆ あ、一つだったのが気になった? それねー、三人分作るつもりだったけど、失敗したりつまみ食いしたら材料足りなくなっちゃって、結局一個になっちゃった。え? ……あ、確かにカード入れ忘れたかも。たはは、ごめんね〜? とにかくボクからだから安心していーよ。あとホワイトデーよろしく〜♪)

 ぴ。

 つー、つー、つー。

 通話を切って後、はあ、と十四郎は盛大に溜息。送り主判明、やはり森永ここ阿その人だった。……何故今年になっていきなりと思うが、まぁ、あいつの気紛れに理由を求めても仕方無い。そんな気分だったのだろう。

 ともあれこれで調査は終了、相手がわかって一安心。
 今度こそ、漸く仕事の方に専念出来る。



「んで、送り主誰やってん」
「ここ阿だよ」
「ああ、彼女だったのか」
「なんや、師匠かいな」

 ほな、大丈夫やろ。

 判明すれば、三人共に腑に落ちる。
 数日後、【第一日景荘】203号室。

 件の謎のプレゼント――チョコレートはカードを入れ忘れただけの森永ここ阿からの物。となれば特に構える必要も無い。「ホワイトデーよろしく」の方はむしろ構える必要のある要素の気もするが、モノ自体はまぁ、問題無いだろう。

「そういう訳だ。俺は甘い物が苦手だから要らねぇ。その辺の事はあいつも折り込み済みだろうし、二人にやるわ」
「よっしゃそう来なきゃ」

 と、家主足る十四郎のお達しが出るなり、億人は即座に冷蔵庫へとダッシュ。ふふふ〜♪ とばかりに上機嫌で扉を開き、当のチョコレートを取り出した。包みを解くのももどかしく、中身が取り出せるなり、頂きます♪ とにこやかに即かぶりついている。……ちなみにずっと監視していた筈の一義の方は、送り主がわかってほっとした時点で少々気が抜け、億人の行為を制止しそびれた。が、制止と言っても億人の行儀が悪いのを窘めたいだけで、まぁモノ自体は横取りされても然程悔しい物でも無い。

 いや、寧ろ。

 心底嬉しそうに食べている億人を見ていたら、何故だか嫌な予感がふつふつと。



 ……二月十四日少し前の、何処かでの誰かの頭の中。

 さーて今年もやって参りましたバレンタイン! とゆーワケでボク特製スペシャルチョコ作っちゃうよ!
 と、張り切ってはみるけど、お父さんも親類の男の子も何だかノリが悪いんだよね。ここの所毎年、甘い物苦手って断られちゃう。前はちゃんと受け取ってくれてたのにな。うーん。甘い物が苦手なよーに味覚が変わっちゃう事ってあるのかなー……。
 まーいーや。他にあげられそうな人今年は思い付いたし。今までそーゆー対象としてはすっかり忘れてた親類のオジさん達と、可愛い弟子の億人、の三人。皆女の子に縁なさそーだし、十四郎はともかく一義さんと億人は甘い物食べるよね? 確かめてないけど多分大丈夫でしょ。きっと。
 三人ともボクからのチョコなんて渡されたらどんな貌するかな。ふふ、ちょっと楽しみかも。

 んー、試作してみたけどまだちょっと一味足りない気がするなー。ボク特製スペシャルチョコと言うにはこれじゃまだまだありきたり過ぎるよね? もっとパンチが効く様な何か隠し味無いかなー……あ、これ入れてみよ。
 うん。いいとは思うけどもう一味欲しい気がするなー……ってやばい。失敗し過ぎて材料が足りなくなって来たかも。でもスペシャルの名を冠する以上は納得出来てない「これ」で妥協する訳には行かないし。あの三人なら数足りなくたって許してくれるよね? 十四郎はそもそも食べないだろーし。

 よし。じゃあ今度こそちゃーんと味を調えて確り完成させるよ! 完成したらラッピングだって可愛く拘っちゃうんだっ♪
 待っててね、三人ともっ。



 再び【第一日景荘】203号室。
 億人が嬉しそうにスペシャルなチョコレートを勝ち取り食したその翌日。

 何故か億人はいつまで経っても押入れから起き出して来なかった。
 いい加減起こそうと押入れの戸を開けたら、何やら瘧に罹った様に震えつつ蒲団にくるまっている様で、更には魘されてでもいるのか、か細い唸り声が聞こえても来る。
 何と言うか、見るからに調子が悪そうだ。

「うう、頭痛い、気持ち悪い……師匠、チョコに何入れはったん……?」

「……」
「……」

 常ならぬ億人の様子に、十四郎と一義は無言のまま顔を見合わせる。
 これはどう見ても、一義の覚えた嫌な予感が、的中。

「全く。卑しい真似をするからだ」
「……うう、だってその時はどないしても食べたかったんやもん……でも、もう堪忍したってぇ……うう」
「……」

 何と言うか、一義としては説教してもし切れない感じがある。
 そう、もし、億人が一人で横取りする様な卑しい真似をせず、チョコレートを一義と半分こしていたら。
 つまり自分が「コレ」を食べていたらどうなっていたか。
 それより何より、悪魔をも寝込ませるそんなチョコを、どうやって作ったのか。
 想像するだに、ぞっとする。戦慄しか浮かばない。……不意にこみ上げてきた震えを止めるべく、一義は思わず己が腕を抱き締めてしまう。
 そんな兄と寝込んだままの居候の姿を見つつ、十四郎もまた俄かに寒気を覚えた気がした。幽霊と悪魔を前にして何だが、人知を超えた何かが今、来生家を狙っている……そんな妄想を抱いてしまい。

「……来年どうやって断るか」
「それもだけどその前に、ホワイトデーはどうする……?」
「……」

「コレ」に見合った三倍返しなど、有り得るのか。寧ろ、してしまっていいのか。
 簡単に答えが思い付きそうにない難題に、二人は頭を抱えるしかない。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【0883/来生・十四郎(きすぎ・としろう)/男/28歳/五流雑誌「週刊民衆」記者】

【3179/来生・一義(きすぎ・かずよし)/男/23歳/弟の守護霊・来生家主夫】
【5850/来生・億人(きすぎ・おくと)/男/996歳/下級第三位(最低ランク)の腹ぺこ悪魔】

【0801/森永・ここ阿(もりなが・ここあ)/女/17歳/私立翁ヶ崎高校3年生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 来生家の皆様にはいつも御世話になっております。
 内、来生億人様、森永ここ阿様には初めまして。

 今回は発注有難う御座いました。
 また、GW明けと言う何だか果てしなく時期外れな納品になってしまい、大変お待たせしております。

 そしていつも御丁寧な御言葉お気遣いまで有難う御座います。
 今の所は特別忙しい訳では無いので、どうかお気になさらず。

 内容についてですが、発注内容を反映して上手く組み立てられたかが気になっております。PL様は細部に渡り丁寧に組み立てて来られる方なので、はい。
 また、他の方もそうですが特に初めましての来生億人様と森永ここ阿様。口調や行動、考え方等の描写に違和感が無ければよいのですが。
 発注内容共々、跳ね返り気味な所とか、読み違えてない事を祈ります……!

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
イベントノベル(パーティ) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年05月07日

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