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『夢路の先で現を語る 』
狭間 久志la0848

 嫌な夢を見た。飛び起きた狭間 久志(la0848)の背を、冷たい汗が無遠慮に撫でる。
 確かに恐怖を感じていたというのに、目を覚ました瞬間に先程まで見ていた光景は朧げになり内容を思い出せなくなってしまうのだから夢というのは不思議なものだ。
 無意識の内に、久志は周囲を見回す。唇は愛しい人の名を紡ぎ、視線はいるはずのその姿を探した。
 しかし、すぐに自分が未だ悪夢の中のような場所にいる事を思い出し、久志は自嘲気味に笑う。
 目に入ってきたのは、殺風景な部屋だけ。ここにいるのは、久志一人だけだ。

 かつて久志は救われたはずだった。夢と希望を失っていた彼にも、大切なものが出来た。
 けれど、今の彼の傍に、最愛の人はいない。愛機もない。
 世界から唐突に弾き出された迷い子……放浪者としてこの世界へと放り出された久志は、再び全てを失ってしまった。
 飛ばされた世界が今まで自分の居た世界とそう違わない世界だった事は、はたして幸運だったのか不運だったのか。元の世界によく似たこの世界は、そこに住んでいる者達まで似ているらしく久志の知った姿も時折見かける。
 けれど、やはりそれは似ているだけの別人で、相手は久志の事を知らぬ事が殆どであった。
 街ですれ違った見知った顔を呼び止めようとし、既のところでその言葉を久志が飲み込んだ事は一度や二度ではない。声をかけたとしても、気付かれずに相手が通り過ぎていったり、怪訝げな顔をされてしまったりする事を久志は嫌という程思い知らされていた。
 知っているはずの、知らない世界。見知った顔の別人達。別の世界に飛ばされてしまった事自体はそう難なく受け入れる事が出来たが、記憶と現実との相違は久志の事を戸惑わせる。
 悪趣味な間違い探しを、強要されているかのようだった。かつての自分の居場所にこの世界が似ているからこそ、二つの世界の違いは久志の心を苛むのだ。
 浮かんでいた冷や汗は、いつの間にか乾いている。見ていた悪夢の内容はもう思い出せないし、今日悪夢を見た事すらいつかは忘れてしまうのだろう。
 けれど、久志の心は未だに晴れない。日々積もっていく違和感は久志の体へとのしかかり、夢の中で歩き方を忘れてしまった時のように彼の心を疲弊させていった。
 擦り切れ、すっかりやさぐれてしまった久志は、今はただ生活するために敵を倒す日々を送っている。
 かつての世界でも、久志は傭兵として旧式の可変機に乗り敵と戦っていた。最も、この世界の敵は、あの時戦っていた者達とはまた違った存在であるようだが。
 ……ナイトメア。奇しくも悪夢の名前を冠している、この世界を脅かす侵略者。
 全てを失った男は未だ、知っている世界とよく似た見知らぬ世界でまどろんでいる。

 ◆

 機体に乗り込み、久志は一度息を吐いた。今回の作戦を確認し直し、予定の時間になるまでしばしその場で待機する。
 兵器には乗り慣れている。それ故にかつて自分が乗っていた愛機との違いが目に付き戸惑う事もあるが、それでもやはり兵器の中にいると気分は不思議と落ち着いた。
 僅かの間だけ瞼を閉じ、久志は先程本部であった出来事に思いを馳せる。
 本部を歩いていた時の事だ。久志は誰かに名前を呼ばれ足を止めた。振り返った先にいたのは、この世界で知り合った友人の一人だった。
 幾つか会話を交わした後、これから任務に向かうのだと告げると、相手は任務の成功と久志の身の安全を祈る言葉を口にする。久志もまた、相手へとエールの言葉を返した。
 その時、自然と顔が綻んだのを久志は覚えている。微笑んだ久志の顔は、満面の笑みとは言えないもののいつかの彼の面影があった。友との些細なやり取りは、久志にかつての穏やかな気持ちを思い出させる。
 この世界で出会った、新しい仲間達。元々ここに住んでいた者もいれば、久志と同じ様にこの世界に飛ばされた放浪者もいる。
 どちらも、久志がこの世界に来なければ恐らく出会う事のなかった存在だ。この世界に飛ばされた事で失ったものも多いが、得たものも確かにある。
「……行こう」
 彼の唇が、かつての愛機の名をなぞる。その声に応えるかのように、久志の乗った兵器は稼働を開始した。
 自分にも、まだ動かせるものがある。目を開き、久志は前を見やった。見える景色は、空の色は、久志のよく知るものとさして変わらない。
 再びこの手に、元の世界の空を掴む日はくるのだろうか。それとも、この空がいつか久志にとって慣れ親しんだ大切な空になるのだろうか。
 未来の事はまだ分からない。だから、今の久志はただ自分に出来る事をするだけだ。
 ナイトメアと放浪者。どちらも別の世界からやってきた存在だが、それでもナイトメアと放浪者は違うのだと主張するために、彼は兵器を操縦する。刀を振るう。
 ――仲間と共に、世界を守り、戦う。
 悪夢の中にいるような経験を、幾つも久志は繰り返してきた。けれど、もしいつか元の世界に戻れたとしても、この世界で出会った友の事を、見た景色を、久志が忘れる事はないだろう。
 此処は、起きたらすぐ忘れてしまうような夢の中などではない。どうしようもなく無慈悲で、けれど時折人の温かさを久志に思い出させる、狭間 久志が今生きている現実に他ならないのだから。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
放浪者としての苦悩を抱える久志さんだからこそ、新しい世界で出来た絆もまた大切なものなのではと思いこのようなお話を綴らせていただきました。
お気に召すお話になっていましたら幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、この度はおまかせノベルという貴重な機会をいただきありがとうございました。またいつか機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。
おまかせノベル -
しまだ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年05月07日

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