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『格付けていこう! 』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001)&ソーニャ・デグチャレフaa4829)&世良 霧人aa3803)&世良 杏奈aa3447)&サーラ・アートネットaa4973)&九重 依aa3237hero002)&リオン クロフォードaa3237hero001)&マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001)&迫間 央aa1445

「第1回ち○○きH.O.P.E.東京海上支部の一流エージェント格付けチェックぅぅぅぅううううううう」
 コンシュルジュスタイルで決めた礼元堂深澪(az0016)が、それはもうたっかい声で開催を宣言した。
 ちなみに、本来首へ巻くスカーフはきっちり額に巻かれていて、最初からメートルがマックスまで上がっていることを示していたりするわけだがともあれ。
「いええええええええ!!」
 全力で乗っていく不知火あけび(aa4519hero001)に、彼女と【チームサムライ】を組む日暮仙寿が首を傾げた。
「ち○○きって、それ別の番組じゃないのか?」
 それをそっと止めたのは【チーム新婚】の片割れであり、大人代表である迫間 央(aa1445)だ。
「司会者つながりの小ネタに本気で首を傾げるのは無粋ってもんだよ」
「へいへいへ〜い! ネタの解説はマジ御法度ですのぜぇ!」
 央の相方、マイヤ 迫間 サーア(aa1445hero001)はそっと息をつく。いつも思うんだけど、年長者だからってツッコミ役をやらされるのは損よね。
 残念ながら、現在の央の役どころは小ボケなので当てはまらないんである。
「はい!」
 すかっと元気に手を挙げたのは【チームらぶらぶ】の世良 杏奈(aa3447)。
「はい杏奈さん〜」
 深澪に指差された杏奈はまっすぐ立ち上がり。
「食べ物なら任せろー! ほかはさっぱりわかんないけど!」
 正々堂々宣言した妻の肩をそっと抱き、彼女の相方で愛しき夫の世良 霧人(aa3803)はやさしく語りかける。
「大丈夫、杏奈ならできるさ。だって僕は――杏奈に丸投げする気だし」
 なに言ってるのーうふふ! そのまんまの意味だよーあはは!
 一方、カルハリニャタン共和国より参戦した【チーム共和国】、ソーニャ・デグチャレフ(aa4829)とサーラ・アートネット(aa4973)は向かい合って互いの肩に手を置いて下を向く、ふたり体制の円陣を組んでいた。
「優勝商品、かならず勝ち取るのである!」
「それに自分たちのサインをつけて、ファンクラブでお高く捌くのであります!」
 先頃奪還した国土で新生共和国は復興を開始してはいるのだが、共和国通貨である「カニャ(仮名)」の換金レートはジンバブエ・ドル級。今は喉から手が出るほど外貨が欲しい事情があるのだ。
「ちなみに上官殿はお強いジャンル等ありますでしょうか?」
「今まで言っていなかったが……小官、実はサヴァルノイには少々うるさくてな」
「カビにくい麦芽パン限定ぇ!」
 と、サーラの絶叫の後に割り込んだのは、彼女たちのアイドル活動を支えるプロデューサーであり、Kの頭文字でおなじみの地方自治体職員である央だ。
「俺の金のにおいを嗅ぎとる力にかなう知識じゃないな」
「央、せめて企画力とかマネジメント能力に言い換えるべきよ」
 しかたなさげにツッコむマイヤ。
 それに続いて仙寿が真剣な顔を突っ込ませ。
「苺なら負けねーし?」
「まあ、ロシアの修道院で生まれたパンよりは問題に出そうだけどねー」
 どこから知識を得ていたものか、あけびがげんなりとツッコんだ。
「小官ボロジンスキーにも一家言あるのである!」
「それもロシアの修道院産パンだよね」
 ぐるぐるわーわーする場から少し離れた椅子に並んで座る【チーム英雄】のリオン クロフォード(aa3237hero001)と九重 依(aa3237hero002)は、どちらからともなく顔を見合わせる。
「俺、芸術系は結構いけるけどヨリは?」
「ケ――普通の料理なら、少しはな」
 言い終えた依は輪になった人々を見やり、ため息をついた。
「あいつらと張り合える自信、あるか?」
「キャラ的な話、ちょっと辛そうだなぁ……」
 リオンは頭を抱えてうなだれる。過去(設定)が重めのふたりだ。生半な気合では、並外れた苺スキーとか守銭奴(限定設定)、なんでもありの共和国コンビに食い潰されてしまうだろう。
「それでも負けらんないけどな。俺たちは、豪華賞品を家まで持って帰らなくちゃいけないんだから」
 家で待つ能力者――ふたりの“兎姫”のために。

「はいはいみんな席に戻って〜。悪い子にはボク、日常っていう名前の理不尽チカラ発動しちゃうよ〜」
 というわけで、全員が席に戻って。
「あと、今回は88連勝中のこの人にも来てもらってますのぜ〜」
 スポットライトがぱーんと照らし出したのはなんと、鉱石の肢体を持つ愚神、石使いことウルカグアリー(az0088)だった。
「【チーム表裏】のウルカ姐さんよろしくどうぞ〜」
「うむ、よしなに頼もうか」、金のウルカグアリーが吸い口の長いパイプ――チャーチワーデンの火皿から紫煙をたゆたわせれば。
「毒が雑じると変色してしまいますので、喫煙は避けていただきたく思うのですけれど」、銀のウルカグアリーが煙をぱたぱた追いやり。
「それよりも、水に当たり続かば我の体が錆びついてしまおう」、鉄のウルカグアリーがグラスの水を指して顔をしかめ。
「水より火でしょ! うちすぐ燃えちゃうんだからね!」、マグネシウムのウルカグアリーが……
「はいはいはい!」
 猛烈な勢いで挙手したあけびに深澪が指をさし。
「はいあけびさん〜」
「そんなにいっぱい来られちゃったらひとり勝ち確定しちゃうと思うんだけど! ――あれ、元はひとりだけど今はいっぱいだから、いっぱい勝ち?」
「あけびちゃん、気にしなくちゃいけないところはそこじゃないわよ」
 マイヤが冷静にツッコんだ。
「いや、でも不知火さんの言う通りだよ。依代がたくさんいたら、結局どれかが勝ち残るだろうし」
 霧人の意見に、ウルカグアリーたちは笑みを浮かべてかぶりを振った。
「案ずるな、此は出オチというものよ。妾は黄金のみにて臨もう。此度は相方もおることゆえな」
「ここで紹介されるの、結構あれよね……」
 眉を八の字に困らせて手を振ったのはテレサ・バートレット(az0030)である。一応どころではない名家のひとり娘で、社交界にも通じる彼女、このような企画でのアドバンテージは相当なもののはず。
「88連勝って……これ、第1回なんじゃなかったのかよ」
 実にもっともなリオンの言に依が続く。
「連勝はとにかく、1チームだけ有利なのはおかしくないか?」
 深澪はう〜ん、考え込んで。
「じゃ〜、みんなもスキルとか使っていいっすよ〜」
 果たして。
「シャドウルーカーのスキル……なにひとつ役に立たない!」
「それ、二秒も悩まなきゃわからなかったか?」
 呆然とつぶやくあけびに仙寿がかぶりを振った。
「私の信じる空手が……人を殺せる素手が……」
「うん、それスキルだけどスキルじゃないやつだし、人前で言っちゃだめな本音だよ」
 こちらはなにがショックなのかよくわからない杏奈と、控えめにツッコむ霧人である。
 と、まあ、他チームも大なり小なり同じようなものだったが、中でも【チーム共和国】は酷かった。
「……利き近代戦術は何番めに行われるのだ!?」
「そんなマニアックなやつねぇわ〜。つか、なに当てんのかボクにもわかんねぇけど」
「上官殿ぉ! 今このときをもって共和国の敗北は確定したのでありますぅ!」
 始まってもいないうちから阿鼻叫喚な感じだったが、一流エージェント格付けチェックのスタートです。


「高いか安いか当てる〜ってのがお約束だけど、せっかくライヴスな面子に来てもらってるんで。最初のチェックは“ライヴス”ぅ〜!」
 どん。深澪が示したのは、AとBの札の裏へ置かれた2丁の魔導銃だった。
「我らがヒゲ親父ジャスティン・バートレット(az0005)がライヴスぶっ込んだ魔導銃と、昨日登録したばっかりの新人さんが2時間かけてライヴス詰め詰めした魔導銃だよぉ〜。どっちがどっちか、一流エージェントだったら秒でわかるよねぇ〜?」
「ちょっと待て、いきなりテレサに有利過ぎないか!?」
 仙寿のクレームを「スポンサーのあれとかこれとかあるんすわぁ〜」と一蹴、深澪は【チームらぶらぶ】に代表者を出すよう指示した。
「にじみ出すライヴスのちがいとか感じちゃってくんなまし〜」

「ライヴスは食べ物じゃなくて飲み物だからパスぅ!」
「愛する妻の拒否理由が意味わからないよ!?」
 杏奈にぐいぐい押し出され、霧とはテーブルへ向かう。
「えーと。あんまり自信はないけど……やれるだけがんばってみます」
 とりあえずどちらも手に取ってみたが、ライヴスの感触なんてわかるはずがない。
 僕が悩んだって意味なんてない。想像するんだ、会長のこと! ヒゲが生えてて、イギリス人で……
「霧人が、私じゃない誰かのこと真剣に考えてる……ちょっと悔しいけど、それはそれで」
 奥さんの内に新たな扉が開こうとしていることに気づかないまま、霧人は選択を終えた。

 二番手は【チームサムライ】。
「刀ならともかく銃はね……」
「この手の企画なら酒が出ることもあるだろ。ここは俺が行くさ」
 あけびに言い置いて、仙寿が進み出た。
「Aのほうが手に馴染む感じがするけどな」
 慎重に、ライヴスの感触をグリップから読み取っていく。重さや重心といった武器の特徴とはちがう要素なだけに、今ひとつ自信は持てなかったが。
「迷わなくていいよ。仙寿が選んだ道に、私は付き合うからね」
 あけびが無意識に発した甘い言葉に、仙寿は肚を据えて選び取る。
「心配するな。おまえの価値と勝ちは俺が守る」

【チーム英雄】は三番手に行く。
「目利きなら元王子の俺だよな!」
「がさつ王子に武器の善し悪しがわかるとは思えないけどな」
「武器じゃないし! ライヴスだし!」
 意気揚々とやってきたリオンは魔導銃を両手に持って……さっぱりわかんない!
 と。冷たい依の視線を感じ、リオンは振り返る。
「なんだよ、ヨリならわかるのかよー!?」
「武器なんざ使えればいいんだよ」
「それって結局わからないんだろ!? こっち見ろよー!!」

 そして【チーム新婚】。
「どっちが会長のライヴスかを当てればいいんだね?」
 進み出た央は深澪に確かめておいて、左右の手に取った銃を持ち替えながら感触を確かめた。
「ライヴスの濃さは重さだよ。それがわからないなんてライヴスリンカーじゃない」
 クールな笑みを背中越しに投げる“男前ぶり”に、思わず胸を撃ち抜かれるマイヤ。なによ、この期に及んで惚れ直させたいわけ?
「マイヤのライヴスなら、それこそ秒で当てられるんだけどな」
「央……」
「マイヤ……」
「申し訳ねぇんすけど〜、そ〜ゆ〜のお家でやってくんねぇっすか〜?」
 深澪の邪魔などなんのその。ふたりだけの世界の中で選択は成される。

 オチもとい最後は【チーム共和国】である。
「上官殿、見てわからないなら撃ってみたらわかるのではないかと愚考するのであります!」
 サーラの進言にソーニャは眉を思いっきりしかめ。
「射撃場ならぬスタジオのどこで銃を撃つのだ?」
 不穏な視線が互いの心臓へ向けられて、眉間へ向けられて。
「上官殿!? まさか上官殿を敬愛しすぎてあれこれはみ出すに至った自分へ、コロラド撃ちかますつもりでありますぅ!?」
「小官、同志サーラにだけは骸を晒したくないのである! だって貴公、マジやべぇ奴であろうが!」
「そんな趣味はないのであります! ……今のところは」
「3秒後に覚醒しそうな貴公など1ミリとて信用できるものかあああああ!!」
 選ぶより先に、屈強な覆面男子どもに連行されて消えた。

 というわけで、特別室へ案内されたテレサとどこかにしまっちゃわれたソーニャを除く4人は、それぞれAとBの小部屋へ案内された。
「クロフォード君、こっちこっち!」
「あれ、絶対Aだったよな! なんかこう、グリップの削りかたがていねいだったし」
 霧人に手招かれたリオンはA部屋のソファに腰を下ろした。
「手触りがね、よかったんだよ。そういうことがわかるようになるなんて、僕は思ったよりずっとエージェントなんだな」
「うんうん、素人じゃわかんないよ。自分が命預けるものに問いかけられるのは、戦場を知ってる俺たちだからこそだよ」
 決め決めの顔を交わすふたりであった。
 一方、B部屋。
「央!」
「仙寿君もやっぱりわかったか」
 突き出された仙寿の右手に右手を叩き合わせ、央が椅子に座る。
「ライヴスの質感がまるでちがったからね。エージェントなら触れた瞬間に感じるだろう」
「最後は結局直感だよ。でも、Aのライヴスは妙にざらついてた。Bのほうが熟成感あったよな」
 ――果たして。
「おめでと〜ございます〜!」
 深澪が入ってきたのは、B部屋だった。
「これでひとつ獲ったな、央」
「俺のマイヤは世界最高だからね。一流以外に就かせるつもりはないさ」
 笑みを交わす一流エージェントと。
「ぎゃああああヨリに嘲笑われるううううううう!!」
「さっきの会話シーン撮ってないですよね!? 撮ってルンディスカぁぁぁ!?」
 突っ伏す普通エージェント。

「仙寿もいつの間にかちがいがわかる男になっちゃって」
 おかんさながらな感慨を漏らすあけび。ほんと、どうしようもないガキだったのに、頼もしくなったよねぇ。
「やだ……だめな霧人、すっごくかわいい」
 杏奈はすでになつかしのオンドゥル調で叫んだ霧人にきゅんめろだ。決め決めな語りからの絶叫ディスカは後で編集してエンドレスリピート確定。
 マイヤは央の語りに胸締めつけられて無言。
 依はリオンの失敗にサムズアップである。
 ちなみにテレサは「パパのにおいがするわ!」とBを選択。あっさりクリアしていたりする。
「次からが本番だよぉ〜! みんなにゃ〜もりもり踊ってもらうからねぇ〜!」


 第二問は利きワイン対決。ローマ風に作られた安くてやばいワインと、1本あたりおよそ380万円という1996年のブルゴーニュ産の赤を見抜けるかの勝負である。
「未成年用にゃ〜ウルカ姐さん特製のワインっぽいなにかだよぉ〜」
「ちょっと待ってください。ウルカグアリーさんが用意したものだと勝負にならないんじゃないです?」
 挙手して発言する杏奈だったが。
「我はすでに当てておるわ。司会よ、他者へ手がかりは与えてもよいのか? ――ローマを摸した葡萄酒には鉛が多く使われておるゆえ、心安からぬ者は順次妾が元へ来よ」
 鉛毒を抜いてやろうと、女神様はおっしゃられている。
「……ワインっぽいなにかは大丈夫なんだよな?」
 おそるおそる問うた仙寿に、ウルカグアリーはかぶりを振り振り。
「妾の再現に斯様な手落ちがあろうものかよ」
 ちょっとしたデスゲームの開幕であった。

「俺がリベンジに行くっ!」
 騒ぎ立てるリオン、その頸動脈を絞り上げて黙らせた依はささやき捨てた。
「ダークマターしか作れないやつに、味覚なんて期待できるか」
 というわけで。
「なるほどな」
 戦場と甘味しか知らない元忌み子に、ワイン(っぽいもの)はまるでわからないことがわかった。――早まった、か。

「……毒見は久しぶりね」
 マイヤは息をつき、AとBのワイングラスを見比べた。色味は心なしかBのほうが濃い。グラス一杯分の鉛毒に侵されるほどやわではないが、今は妊活中なので、体に障るようなことは避けたいところだ。
 心配そうな央の視線を感じながら、マイヤはふたつのグラスに舌先を浸し、片方だけを飲み干して。
「鉛の甘さはよく知ってるわ」

 杏奈はくわっと両眼を見開き。
「これはお高いざますね!」
 なぜかざます言葉で言い切った。
「鉛なのかわかりませんけど、あっちはくどい甘さがあるんですよね。煮物に本味醂じゃなくて味醂風調味料入れ過ぎちゃった感じです? だけどこっちは土臭さの後に残る余韻がすごいんです。テイスティングなんてしなくてもわかるくらい、深いです!」
 後ろで見守る霧人が圧倒される、妻の超グルメっぷりであった。

「ここらで控え室の様子とか見てみるよぉ〜」
「意外に偏らないものよね」
 視界の深澪へ、臨時アシスタントのテレサがうなずく。
 Aの控え室ではマイヤと杏奈が笑みを交わし、口なおしの紅茶をすすっていた。
「アイルランドのメーカーさんが出してる缶紅茶ですねー」
「毒入りじゃなければいいわ。……世良さんも、一応ウルカグアリーに診てもらったほうがいいんじゃないかしら」
「あ、サーアさん、じゃなくて迫間さんこそです! 行きましょう、早く!」
 同じ妻同士なマイヤと杏奈気づかい合いに、モニターを見ていた夫たちと他の男子ほろり。
「お互い妻に恵まれたね」
「ええ。労りたいんですけど、今夜はそれも無理そうです」
 今夜の予定を決める霧人と央を見やり、仙寿はかぶりを振る。
「混ざる隙がないな」
「だなー」
 リオンもやれやれ、頭を掻いた。
 そしてBの控え室。
 依はひとり、菓子をつまんでいた。10枚で税込み4000円超という、超高級クッキーである。
 バターがちがうんだな。大量生産品じゃない本物だ。
 本人だけはさりげないつもりで、もくもくとつまみ続ける。
「……丸見えだってわかってないよな、ヨリ」
「まあ、見なかったことにしてやるのが人情なんじゃないか?」
 仙寿に右肩を叩かれて、ついでに央から左肩を、霧人から背を叩かれて、リオンは苦い顔をモニターから逸らした。

「よし、次は私の番だね」
 気合を入れるあけびの後方、控え室ではありえない牢獄から引きずり出された【チーム共和国】はぐだぐだ揉めていた。
「……自分、虚弱体質なので「鉛とかリアルガチでやばいよやばいよ」と軍医から止められているのであります!」
「我が統合軍に軍医などおらぬ! 小官だってライヴス循環不全を患っていて鉛との食い合わせはリアルガチであるわ!」
 ここでサーラもソーニャも作戦を人情なすりつけ路線に変更。
「ではぁ、愛する上官殿のためにぃ、自分が黄泉路へ旅立つのでありますぅ!」
「上官が部下を見捨てられようはずがあるかぁ! 小官がやってやるんであるぅ!」
 自分が小官が! だったら貴公が上官殿が! 醜い争いを繰り広げるふたりは、当然のごとく屈強な覆面男子どもにしまっちゃわれるんであった。

「え? 私が最後?」
 びっくりするあけびだが、とりあえずはやるしかない。
 元暗殺者のマイヤもそうだが、忍である彼女も毒には明るい。鉛は歴史ある毒なので、当然覚えがあった。
 ワインの善し悪しなら仙寿のほうがわかるかもだけど、毒なんか飲ませられないし。
 空気を混ぜながらワインを吸い込み、舌の上で転がす。うん、これはまちがいないよね。
 果たして杏奈、マイヤと合流したあけびは、ハイタッチで勝利を決めた。
「マイヤさんと杏奈さんがいるってことは、勝ちましたね!」
 そして不正解が確定した依は。
 あいかわらずクッキーを食べ続けていた。
 ……うまい。俺は今まですべてが有限だと思っていたが、ちがうな。無限ってのはあるんだ。目の前に、無限クッキーは、ある。

 クッキーモンスターになっている依は置いておいて、A部屋には女子3人を気づかう男たちの要請により、ウルカグアリーが訪れていた。
「ふむ、さしたる問題もなかろうが、此を飲み下すがよい。鉛毒を消す薬だ」
 あけび、杏奈、マイヤに渡されたのは、錠剤サイズのウルカグアリー……通称「ウルカ錠」である。
「……これを飲むの?」
「ハヤクノメヨー!」
 顔をしかめたマイヤにウルカ錠がキーキー言い返す。
 そこへ仙寿、霧人、央、そしてなせかリオンが現われ、なにやらライダー的なポーズを決めて。
「治験は終わってるぜ?」
「なんの問題もないぜ?」
「むしろいい感じだぜ?」
「今なら飛べるんだぜ?」
 並び順どおりにキャラ崩壊したセリフを放った。
「副作用ーっ!!」
 ウルカグアリーにわなわな指先を突きつけたあけび。
「錠が溶け失せるまでのこと。命に障るものではない。……ああ、失せる寸前、錠剤より死を怖れる絶叫やら辞世の句やらが聞こえるやもしれぬが捨て置け」
「それで納得できるあれじゃないでしょ!?」
 詰め寄ろうとするあけびの肩を杏奈がぽんと叩き。
「ここはひとまず乗っていくところよ?」
 この肚の据わり具合、さすが妻歴の長い彼女ならでは……なんだろうか?
「そうね。央だけを逝かせるわけにいかないものね」
 マイヤもまたまちがった決意を固め。
「あーもー! 女は度胸ー!」
 案の定の感じになった場のただ中、ウルカグアリーは小さく息をついた。
「混沌だな」
 と。彼女の視界に滑り込んできた依が上向けた手のひらを指しだした。
「汝も同胞らに混ざるか?」
「いや、俺が欲しいのは胃薬だ。無限クッキーを実現する強力なやつが」
 結局、同じウルカ錠を飲まされた依もライダーポーズでクッキーを食べ続けることになる……

「じょじょじょ上官殿ぉーっ! 暗い! 暗いのでありますぅ!」
「ぬぅ、彼方より押し寄せる愉快な空気が恨めしいのであるぅ!」
 いやな臭いのする闇底へ簀巻きで蹴り落とされたサーラとソーニャは、光を憎み、愉快を恨んでおどろおどろしていた。
 ちなみにこれは番組ではないため、映す価値なしランクへ落とされたら強制的にしまわれちゃうのだ。
「……しかしこの状況、上官殿のにおいに集中できるであります、ね?」
「えひぃぃぃぃぃいっ!!」


 その後も超高級ティンパニーの音聞き比べやオーパーツと民芸品の触り比べ、本物のお嬢様はどっちだ当てなど、多彩にしてどうでもいい勝負が繰り広げられた。言い訳しておけば、超高級牛ステーキ当てとか定番のやつもあったけれども。
「バー○○○カレーとゴー○○○カレーの食べ比べって、値段関係ないだろ……」
「ケータリング兼ねてたらしいから、あれはあれでいいんじゃない?」
 げんなりする仙寿に苦笑を返すあけび。【チームサムライ】は現在、二流エージェントに位置づけている。なので椅子は安いパイプ椅子だ。
「ごめん。マイヤには一流でいてほしかったんだけど」
「央のとなりがワタシの居場所。あなたが地獄に行くならワタシも行くだけよ」
 普通椅子に座る普通エージェントの【チーム新婚】こと央とマイヤは、とりあえず甘々だ。
「カレーおいしかったけど、マンゴーチャツネ入れたかったぁ」
「うん。あれのせいで杏奈のカレーが食べたくなったよ。セキニン、取ってほしいな?」
 ほっこり笑みを交わす二流エージェント、【チームらぶらぶ】の杏奈と霧人。今夜の予定に先駆けて、夕飯も確定したようだ。
「おまえが最初に当ててればよかったんだろうが!」
「ヨリが当ててたらまだチャンスあっただろ!」
 筵の上に正座されられた無声音で罵り合うそっくりさん(【チーム英雄】)のリオンと依は、覆面男子を呼ばれないよう、サイレントでこぴんで互いを傷つけ合うのにいそがしい。

 残る【チーム共和国】は、あいかわらず闇底でびょんびょんしていた。
「というか小官たち、一度たりともチェックに参加してないのであるが!」
「ネタ的には完璧でありますね……」
「くそぅ、最後にボカチン大逆転とかないのか!?」
「僭越ながら上官殿、ボカチンでは撃沈しております」
 と。闇に光差し。
「ヘイホ〜無価値ども〜、喜びむせて靴なめろぅ〜!」
 深澪のダミ声が響き渡ったのだ。


「ちゅ〜こって、最後のチェックは超一流盆栽作家さんの1億円盆栽“WABISABI”と、超老舗和菓子屋さんが作ってくれた工芸菓子盆栽“OISHII”の見分けだよぉ〜」
 表現が難しいので端的に言えば、すごい盆栽がふたつ、どんと用意されたわけだ。
「これ当てたら二階級特進だからね! 二流のみんなも一流さぁ!」
「って、俺たち特進しても二流エージェントなんだけど!?」
 そっくりさんなリオンのクレームに、深澪はうふふ〜。
「娑婆はそんなあったかいとこじゃねぇ〜んだよぉ!」
「それよりも早く終わらせて控え室に行かせてくれよ。……補充、されてるんだろ?」
 言外に菓子を要求した依を押し退けるように、どこからともなくソーニャとサーラの声が。
『二流でもなんでもかまわん! せめて画面に登場するのであるぅ!』
『願いが人として小さいであります上官殿ぉ!』
 声のするほうから目を逸らし、仙寿はあけびにかぶりを振ってみせた。
「今日だけはあいつらの完成度が妬ましい」
「すごい遺憾なんだけど、ちょっとわかる」
 その脇で、杏奈はちょっと迷っている。
「食べ物なら任せろなんだけど、あれって食べ――物?」
「杏奈、あれは食べられるけど食べ物じゃない」
 さすがにそっと止める霧人だった。
「俺はかならずマイヤを一流の座へ連れ戻してみせる」
「央がいるここがワタシの座よ」
 央とマイヤは、実に新婚である。
「最後なんで特別ルールにするよぉ。チームふたりでチャレンジしてくんなまし〜」

『格はともあれこの暗臭い場所を抜け出す! 与えられた機はけして無駄にはせんぞ、同志!』
『了解であります上官殿!』
 どこにいるのか不明なまま、ソーニャとサーラは同じものにしか見えない盆栽を見――
『なにも見えんのにわかるかぁあああああ!!』
『主催者おい主催者ぁ! 最後くらい娑婆に出せやゴルァアアアア!!』
 ――られないまま、ただただ吼えるのだった。

「侘び寂びとは比較的近いところにいるはずなんだけど、ぜんぜんわかんないね」
 と、あけびは首を傾げる。
「このどちらかが飴と餅粉でできてるなんてとても思えない」
 菓子の可能性は無限だな。達観した顔をうなずかせる仙寿に、あけびはくすりと笑んで促した。
「仙寿が決めて。多分、仙寿が可能性感じないほうが本物だから」
「盆栽は盆栽ですごいとは思うんだけどな」
 苦笑して、あらためて視線を盆栽へと戻した。
「でも、それなら話は簡単だ」
 あえて自分を追い込んでみせたのは、彼が誰よりも信頼に応えたいあけびの言葉を本当にするがため。

「で、どうなんだ?」
 依の問いにリオンはくるりと振り向き。
「どっちもほんとにすごい」
 沈黙、沈黙、くわっ。
「芸術なら行けるって言ってただろう! 早く当てろよ王子様!」
「片方食べ物だろ! ヨリが料理スキルでなんとかしろよー!」
 依とリオンが、ついにこっそりを解除して全力でこぴん対決を開始した。
 ぴちぴちぴちぴち……すごく痛いんだろうが、地味な絵面である。
「はいはい、悪い子はしまっちゃって〜」
 深澪の号令で現われた覆面男子たちがふたりを羽交い締め、暗闇へ運んでいった。

「食べてみたいなぁって感じるのはこっちかな? 霧人はどう思う?」
 眉根を下げて真剣に盆栽へ見入っていた杏奈が、後ろで応援していた霧人へ問うた。
「杏奈が選んだほうが正しいよ」
 いつになくきっぱりと言い切った霧人はやわらかく笑んで。
「いつだって僕は杏奈を信じる。それが最適解だって知ってるから」
 頬を淡く赤らめた杏奈はとびきりの笑みを返し。
「じゃあ、これは知ってる? 霧人が信じてくれたら私、不可能だって可能にできるんだって!」
 霧人は妻の背にそっと手を添えて言った。
「杏奈こそ知ってる? 僕ががそれを、出逢ったときから知ってたんだってこと」
 それに続く深澪の絶叫は、あまりにも酷いのでカットである。

「見るまでもないな」
 眼鏡を押し上げ、央はマイヤの手を引いて歩き出す。
「どういうこと?」
 マイヤの疑問は当然だ。ろくに見もせず、なぜ真贋がわかる?
「Pとしての俺の基礎設定は悪徳商人だぞ――っていうのは冗談だけど。俺みたいにいろいろな道場や有権者と触れる機会が多い公務員剣士は、同じ和の道にある盆栽や庭へ触れる機会も多いからね」
 それこそ仙寿君の家でも経験値上げさせてもらったよ。薄笑む央の手を握り返し、マイヤは胸中で返した。
 私は、そんなあなたの目にいつまでもかなう私でありたい。
 そんなマイヤの思いを肌を通して感じたように、央は彼女の手をやさしく握り締めた。

 かくてエージェントたちは控え室で再会する。
「仙寿君がいてくれるだけですごく安心できるよー」
 杏奈と共にA部屋の扉を開けた霧人は、仙寿とあけびを見てほっと胸をなでおろした。
「結局全員が同じ答を選んだみたいだね」
 遅れてきた央がマイヤを先に部屋へ通し、笑んだ。
「ふた組闇に葬られたっぽいですけどねー」
 どこか虚ろな目であけびが言い、後から来た4人のために茶を淹れる。
「そういえば依さんがいっぱい食べてたクッキーおいしそう! 待機所じゃなくてこっちの控え室にお菓子あるのうれしい」
 うきうきとクッキーを頬張る杏奈。1,2,3、45678、たくさん!
「今までなかなかお菓子にまで手が伸ばせなかったものね」
 クールに決めつつ、抜き手を見せない食技でクッキーを口へ運ぶマイヤである。
 そんな彼女の様にいつぞやの友人の結婚式を思い出しつつ、央は仙寿に目を向けた。
「俺は職業的にも立場的にも本物に触れる機会が多いから、そのスキルで見極めてきた……はずなんだけど、仙寿君は?」
「俺が知ってるのは自分の家の本物だけだから、央みたいにはいかなかったさ。でも、作ってみたいと思わなかったほうを選んできた。……それにしても、あんなにすごい菓子細工を作れる人がいるんだな」
 霧人が大きくうなずいて。
「仙寿君、お菓子作り得意なんだよね。杏奈も同じ感じで選んでたなぁ。料理上手だからおいしいほうに目が行くんだよね」
「でも実際に食べたらあんまりおいしくないのよねー」
 クッキーはこんなにおいしいのに。杏奈は甘いため息をついた。
「央さんの目利きの冴え、さすがですよね」
「お菓子作りの視点で逆張りできるなんて、仙寿君も職人裸足よね」
 互いの良人を讃えるあけびとマイヤである。

「なんだよここ!? すごい暗い! 臭っ! くっさ!」
「くさやの臭いだな……おまえがさっさと王子らしい働きをしてればすんだものを」
 映す価値なしの簀で巻かれたリオンと依は暗闇の内に放り出され、ソーニャとサーラと再会していたりした。
「よく来たなぁ! ここが小官らの晴れ舞台であるぅ!」
「なにも見えないんでありますけどね」
 再会とはいえ互いの顔は見えず、そして、臭い。
 加えて、A部屋から中継される和やかな様子である。
「ああああああ憎いいいいいい! 俺たちは臭くて暗いとこに落とされてるってのにいいいいい!」
「今なら小官、化けて出られる勢いであるうううううう!」
 じったんばったんするリオンにソーニャが強く声音を合わせ。
「それよりも、ここに菓――茶請けはないのか?」
「あー、自分水とか欲しいんですけど、まったく支給されないですね」
 切実な依の問いにサーラが薄暗い声音を返して。
 ……。
「俺のアレを貪るあいつら、赦さん!」
「明るい場所で愉快に暮らしてる生者は皆殺しでありますううううう!」
「届け俺の癒しじゃなくて悪喪威(おもい)いいいいいいい!」
「鋼ぇっ! 小官に鋼持ってこいであるううう!」

 そして。
「おめでとうございます〜」
 A部屋に深澪が入ってきて、6人は無事、一流に返り咲いたのだった。うん、闇の果てから流れ来る怨念に害されることもなく。

 最後に【チーム表裏】専用、純金のA控え室(ウルカグアリー製)へ深澪が入ると。
「一流の座、守りきりましたねぇ〜。ウルカ姐さんとテレさん、盆栽はどうでしたかぁ〜?」
「本物には相応の風情があるから迷わなかったわね。むしろスコッチウイスキーの真贋見極めのほうが悩むと思う」
「ま、何が出ようと音波を当てらば得体は知れるがな」
 人間じゃない人の意見はさておき、一流の格を見せつけたのだった。


「そんなわけで、一流エージェントのみんなにはウルカ姐さん謹製のウルカちゃん純金像をプレゼントだよ〜」
 見た目より大分重い像を受け取った一同は、今日のコメントにそれぞれ答えていく。
 まずは【チームサムライ】から。
「あけびと得意を分け合えたからこその結果だと思う」
「仙寿とふたりだったしね! みんなと楽しくできたのもうれしかった!」
 次は【チーム新婚】。
「危ないところだったけど、マイヤの価値を落とさずにすんでよかったよ」
「結果よりも、央の気持ちがもらえたこと、私はうれしく思うわ」
 三番めは【チームらぶらぶ】。
「空手ぜんぜん使えなかったのはちょっとだけ残念だけど。帰ったら私もクッキー焼くからね、霧人♪」
「じゃあ急いで帰らないと! 僕、もう杏奈の手料理禁断症状が出そうだよ」
 締めの深澪のお言葉は、当然のごとく「う〜ん、みんな爆発したらいいのに!」。

「ちょっと待てい! 小官らのコメントはなしか!?」
「自分たちにも純金を! 祖国を立て直す資金をおおおおお!」
「ヨリが騒ぐからこんなことになったんだからなー!」
「リオンが妙な意地張るからだ。ってもう解放しろよ! 俺は控え室に用があるんだよ!」
【チーム共和国】と【チーム英雄】は暗闇の中からさようなら!
 こうして第1回ち○○きエージェント格付けチェックは幕を下ろしたのだった。
 2回めは……多分開催されないだろう。
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2019年05月07日

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