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『【任説】竜の狩人』
鞍馬 真ka5819

「あちゃあ」

 自分が下手を打ったことに気がついて、鞍馬 真(ka5819)は聞くものによってはのん気げにも取れる声音で中空を仰いだ。

 風にゆるくたなびく細い髪がどこかたおやかさを感じさせる。天を仰ぐ青の瞳は丸く、驚きに近い感情を浮かび上がらせていた。
 ふと風か強く吹き抜け、真の長髪をバラバラに浮かばせた。途端に周囲が暗く影を落とし、なにやら不穏な雰囲気が鎌首をもたげる。

「寝床だったのかな? これはまずい」

 全然全く「まずい」様子を見せずに、すたこらと駆け出す。その姿を見ているものがいたら、そんなにのん気で大丈夫か、と思わず腰を浮かせたことだろう。

 なにせ、真のすぐ背後には、鋭い顎門を惜しげも無く晒した多脚の羽虫が迫っていたので。

「おっと」

 どごん!

 そんな擬音を連想させる轟音を響かせ、羽虫が真を狙って上空から地面へと一気にダイブする。ギチギチ、バキバキと鳴っているのは羽虫の関節だろうか。身の毛もよだつようなその音も、真にとってはあまり気にならないらしい。
 そんなものを怖がるような可愛げは、生憎と持ち合わせていないので。

「よいしょっと!」

 羽虫を避けて飛び上がった体勢のまま、気の抜ける掛け声とともに取り出したるは、大口径の対巨獣猟銃。背に担ぐように引っ掛けていたそれを引っ張り出してきて、気負いなく構える。
 並の獣であれば一発で消し飛んでしまいそうなそれに、羽虫が怯んだ様子は無い。それよりもこの無礼な闖入者を排除しようと躍起だ。ついでに腹も満たせれば万々歳といったところか。
 残念ながら、先ほどのダイナミックいただきますでダメージを負った形跡はない。頑丈さは折り紙つきらしい。

「よーし、吹き飛べ!」

 なんとも気抜けする掛け声と共に轟くのは、その口径に見合った大音量。反動で真の身体が後方へ吹き飛ぶが、それも織り込み済みだったらしい。宙返りを決める余裕すら持って悠々と着地する。ついでに羽虫から距離も取れて万々歳だ。
 真空波を置き去りにして発射された銃弾は、微妙に弧を描きつつ羽虫に吸い込まれるように着弾した。羽虫に避ける素振りがなかったので楽勝である。

「GYYYYYAAA?!??!?」

 耳障りな絶叫が響く。

「ありゃ、口を狙ったんだけどな」

 未だ銃身から煙を吐き出す猟銃を背に追いやって、真は腰に佩いていた剣の柄のように見える装飾を引き抜いた。
 カチリ。
 柄に内蔵されたトリガーを引いた瞬間、光り輝く刀身が形成された。すらりとした刀身を輝きに晒すのは、銘をオペレッタという。真の相棒だ。

 さて、絶叫しながら地に落ちた羽虫だが、真の放った弾丸の効果により、頭部から背面部にかけて白煙を吹き上げながらのたうちまわっている。あれではもう背の羽は使えまい。

「まぁいいか。飛べない羽虫はただの虫、ってね」

 そんなことを言いつつ、鼻歌でも歌い出しそうな足取りで駆け出した。
 真が放ったのは、着弾点に強力な酸を撒き散らす特殊弾だ。真の予定では頭部を溶かして倒すつもりだったのだが、特殊弾ゆえの重量と、羽虫の予想外すばしっこさで少々狙いがずれてしまったらしい。
 まぁ、おかげで頑丈そうな外殻は酸でグズグズだ。地面に背中をこすりつけるようにして暴れているが、飛べない獲物など真の敵ではない。

「今楽にしてあげるよっ!」

 のたうつ巨体を器用に避け、襲いくる尾を華麗に躱し、頑丈なトゲはオペレッタで受け流す。オペレッタを振るう度、まるで楽器を奏でるように音楽が鳴り響いた。その姿は戦っているというよりも、演奏していると表現したくなるほど。
 荒野に響く音楽と相余り、真はまるで舞い踊るように羽虫の頭部へと肉薄すると、脆くなっている関節部分へと流れるように刃先を差し込んだ。
 一瞬、真の瞳が金色に煌いた気がした。

「ッシ!」

 確かな手応えと共に、断ち切られた羽虫の頭が地面に転がる。

「おわっと?!」

 だが虫の生命力は、頭を落とした程度では終わらない。
 頭という司令塔を失った羽虫の巨体は、統率を失ってめちゃくちゃに暴れ出す。さすがの真も、いきなり動きを変えた巨体を前にとっさの判断が遅れた。
 あわや羽虫の巨体に押しつぶされるか、と思われた瞬間。

 上空から、蒼穹を照り返す光が舞い降りた。
 騎竜だ。

 待機させていたはずの騎竜は、羽虫に押しつぶされそうになっていた主人の服をその頑健な顎で捕まえると、目にも留まらぬ速さでその場から離脱した。置き去りにされた羽虫の頭が恨めしそうに真と騎竜を見上げている気がしたが、知性の有無すら疑われるような輩にそんな感傷があるかどうかは不明である。

 真を咥えた騎竜はそのまましばらく飛び、羽虫の巨体が暴れる音すら聞こえなくなった頃にようやっと主人を解放した。
 ただし、無造作に地面に放り投げる形で。

「ぶぺっ?!」

 ペッと擬音語がつきそうな様子で地面に投げ出された真は、先ほどの身のこなしが嘘の用にコロコロと無様に地を転がる。騎竜が呆れたような眼差しでそれを見ていた。

「あいたたた、ごめんってば」

 悪びれない主人に騎竜が抗議の声を上げる。

「ウンウン、次は気をつけるよ。助けてくれてありがとう」

 が、きちんと聞き届けている様子はない。
 本当に気をつけるのか? と言いたげな目をする騎竜に、真はあっけらかんと笑った。

「えー、信用ないなぁ」

 砂のついた髪もそのままに、真が笑う。どうやら反省はあまりしていないらしい。
 恐ろしげにも見える竜の呆れた眼差しもなんのその。真はいそいそと身につけていたカバンを漁ると、中身が無事なことを確認してホッとした顔をする。横から覗き込んできた騎竜に見せたカバンの中身は、パンパンに詰め込まれた希少な薬草。

「これだけあれば、大丈夫だよね」

 どこか自分を省みない主人の言動に、騎竜は呆れたような、しょうがないなぁとでも言いたそうな、ため息にも似た声で鳴いていた。
 空は晴天。竜に乗って飛んで行けば、すぐにでも街へ着くだろう。
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ファナティックブラッド
2019年05月07日

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