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『春の海のゴミ、熱々のとんこつ 』
海原・みなも1252

●ゴミ拾い
 海原・みなも(1252)は遠い親戚といわれる人魚から、マリアナ海溝のゴミ拾いを手伝ってほしいと依頼された。
 学校やらメディアなどで海のゴミの話題は耳にするし、調べるとマリアナ海溝はゴミが集まってしまう場所になっているとあった。
「役に立てるなら行きます」
 行くと決まれば集合場所への経路を考える。みなもは人間として生きているため、下手な道は選べない。
 地図や調査の結果、みなもは公共交通機関を用いて東京の最南端まで行き、そこから向かうことにした。
 宿に荷物を置き、一応、ダイバースーツを借りる。人魚の姿で進むが人間でもあるのため借りておく。
 宿から海に向かう道には温かい料理の店がちらほらある。
「ラーメン屋さんですね……あ、このお店、美味しそうです」
 目に入った店は古い店構えであった。木製の引き戸にガラスがはめられた店の入り口、手入れの行き届いた店舗や付随している花壇や駐車場がある。
「こういうお店はおいしい気がします」
 海に到着すると、人気のないところで潜り、人魚の姿をとり海の中の道を急いだ。
 集合場所にはいろいろなヒトが集まっていた。
「みーちゃん、こっちー」
 親戚の人魚がみなもを手招きした。
「こんなに人が集まるんですね」
 挨拶を交わした後、感想を述べた。
 外見が人に近いものから魚類に近いモノがいる上、様々な言葉が飛び交う。
 台に見立てた岩の上に人が立つと静寂が訪れる。
「おはようございます」
 その言語が何語か不明だが、みなもは理解できた。
「プラゴミを中心に拾ってください。それから……」
 今回の趣旨や手順の説明がある。
「ゴミ袋はこの目の詰まった袋です。非常に細かいプラゴミはこちらの入れ物に入れてください」
 思った以上に細かい説明が続く。
 みなもは細かいプラゴミがマイクロプラスチックと理解した。小さな魚や鳥でも飲み込んでいると聞く。
「砂やガラスなどと区別つきにくいし、非常に小さいですよね」
「うん。見えるヒトもいるんだよー」
 親戚はみなもに色々なヒトがいる為、小さいのを見られるものもいると説明した。
 台の人の注意事項が終わり、ゴミ拾いが始まった。
 みなもは割り当てられたところでゴミ拾いを開始した。
「ああ、本当に、プラスチックぽいのがたくさんあります」
 何等かで重みをもったり、破損して小さくなったゴミは海流に巻き込まれ沈んだり移動し、ここに集まるのだろう。
「あたしはこれを食べたいと思えませんし、食べてほしくないです」
 知識がない魚たちや大きくて一気に何でも食べる動物にとっては知らずうちに取る危険物である。
 中には、人間のだしたゴミを住処にする海洋生物もいるけれども、それは良い例の限られたものだろう。
「そういえば、トング渡されたのでした」
 注意事項で何をつまむかわからないため、念のため避けろと言われている。
「毒を持っているものもいますよね」
 みなもは理解を示し、面倒でもできる限りトングでつまみゴミを集めた。
 黒い物体が転がっていた。プラスチックに藻などが凝り固まったのだろう。
 トングでつまむと、それはモゾリと動いた。
 それらはカサカサと散っていった。
「ん、んんんんんんんんん」
 みなもは悲鳴とも何ともつかない声をあげ、後退した。
 ゴミに群がっていたなぞの黒い海洋生物たちは飛び去るようにどこかに流れていった。
 陸上で見ることのある通称、太郎ちゃんをほうふつとさせるそれらを見て、みなもはしばらく硬直していた。
「みーちゃん、何してんのー」
 遠い親戚が声をかけてきた。
「な、なんでもありません」
 ギシギシと音を立てそうな鈍い動きで体を向け、みなもは遠い親戚に答える。
「見て見て、こんなの拾ったー」
「きゃあああああああああああ」
 遠い親戚が見せた物は、テレビ等などではモザイクがかかっていそうな物体だった。
 親戚の謝罪もあり、ゴミ拾いは続行される。
 そのあと何度か、親戚が珍しいものを報告してくれたが、みなもは半分ほど悲鳴を上げたのだった。
 いろいろ事件もあったが、解散までに幾つかゴミ袋をいっぱいにしたのだった。

●とんこつ
 海に潜っている間は寒くはなかったが、地上に戻ると春の日差しは寒く感じる。
「まだ、おやつの時間ですよね……行けますね」
 朝に見た店に向かう。今日が休業日だったらどうしようと少し心配もしていた。
 到着するとのれんは出ていた。
「やっています!」
 喜び勇んで戸を引くと、木製のフレームにガラスがはめられている戸はガタガタと音をたてた。
「いらっしゃい」
 老婦人の声が迎える。
「お好きな席にどうぞ」
 空いていたカウンター席に着く。
 みなもは大変古そうなメニューを見上げた。
 メニューは短冊にかかれ、端麗な字で縦書き、ひとつの短冊につき料理とその値段が記載されている。短冊の色で値段改定や料理の増減を想像できる。
 老婦人が水の入ったコップを置き、注文を聞く。
「とんこつラーメンください」
「はい、とんこつを一つ」
 威勢は全くないおっとりとした注文受け。カウンター内には、老婦人の夫と息子らしい人物がいた。
 みなもは漂う匂いにそわそわする。
 食べている人たちは無言だ。ずるずるという音をたてたり、静かに食べたり、それぞれであるが、無言であることは共通している。
 凝視するわけにはいかないため、ちらっと見る。その人たちは、おいしいということを語る表情をしている。
 みなもは期待が膨れ上がり、内心こぶしを握る。
(いえいえ、期待をあげすぎると普通の味だったときでもダメージが入ってしまいます)
 落ち着こうとするが、気持ちはもう盛り上がっていた。
(いい匂いです)
 とんこつで時々ある獣臭は感じられない。他の客が食べているのを見ると透明タイプの汁である。
(あ、しょうゆラーメンの方かもしれません? とんこつ以外がお薦めだったらどうしよう……)
 そわそわと待つ。
「はい、お待ちどうさま」
 老婦人がみなもの前にラーメンを置いた。
 匂いは明らかにとんこつラーメンであり、油分が少ないタイプ。そのため、透明ではないが、色は薄い。
「いただきます!」
 空腹が刺激される。急いで割りばしを割って食べようとしたが、一旦置くとレンゲをとってスープを飲んでみる。
 醤油の香りも漂うが、とんこつ特有の深い後を引く味わいがある。
「んー!」
 程よい温かさの汁が味と香り、ぬくもりを与えてくれる。
(これは、しょうゆラーメンも食べたくなるかもしれません。しかし、ここの店のとんこつは一杯で二度おいしいかもしれません!)
 箸に持ち替え、今度は麺をすすった。
 濃厚な汁ならば極細麺かもしれないが、ここのちぢれ麺は細麺だ。
 油分が少ないように見えて、とんこつの油は麺にまとわりつく。しょうゆ風味も加わり、ズズッと一息で口に入れてしまう。
 食べ始めると止まらない。
 温かい食べ物が五臓六腑に染み渡る。
 より一層手は止まらない。
「ううーん……か、替え玉を……一つ、お願いします」
 とんこつラーメンは替え玉も命、とばかりに頼んでしまった。年頃にしてみれば悩みどころ。
 替え玉が来ると、一心不乱に笑顔で食べる。
 体も温まり、胃袋も落ち着いてくるとゆっくり食べる。麺を食べ終わると、汁を全部残さず飲み干した。
「おいしかったです」
「お嬢さんの食べ方を見ていると、嬉しくなっちゃうわ」
 老婦人は笑顔でお代を受け取った。
 みなもは心地良い疲労に浸りながら歩き出した。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 ご指名ありがとうございます。
 一仕事の後の食事の雰囲気になりました。
 とんこつといっても幅広いですよね。その上で、関東ということで創作した結果、このような味付けになりました。
 いかがでしたでしょうか? 
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年05月10日

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