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『夢でも、もふもふ 』
硴間 真架la0798

 街の目抜き通りから少し外れた一角。
 寂しくない程度に落ち着いたあたりに、硴間 真架(la0798)のぬいぐるみカフェがあった。
 今日は店休日。
 ドアにはクマとサルのキャラクターがぺこりとお辞儀をしているカードがあり、「きょうはおやすみです ごめんなさい」と書かれている。
 そこに、大荷物を抱えてよろめいた真架が、こつんと頭をぶつけた。
「いたっ! うう……あと、少し……です」
 危なっかしい様子でポケットを探り、鍵を開けて店に入る。
 すぐそばのテーブルにどさっとショッピングバッグを置くと、真架はへたへたと床に座り込んでしまった。
「重かった……ちょっと欲張って、いっぱい買いすぎちゃいましたね……」
 バッグの中からは、白いわたの塊に、色とりどりのリボン、白や茶色やベージュの布地、などなどがのぞいている。

 真架はふう、と大きく息をつくと、立ち上がってカウンターの奥に入り、お湯を沸かす。
 お気に入りの紅茶をロイヤルミルクティーにして、お砂糖はちょっと多めに。
 取っ手がサルの尻尾になったマグカップにたっぷり注いで、客席に戻る。
「でもお店が休みの日に特売日で、ラッキーでしたね」
 カップに口をつけながら、真架はにっこり。
 大好きなぬいぐるみをたくさん作るためには、たくさんの材料がいる。
 ちょうどお店が休みの日に、お気に入りの手芸屋さんのバーゲンの初日が重なったので、真架は張り切って朝から乗り込んだのだ。
 当然、そこは激戦の地。
 お目当ての材料にたどり着くのも一苦労で、それでもお買い得品とあれば諦めるわけにはいかない。
 どうにかお会計を済ませたものの、欲張って買ったぬいぐるみの材料はびっくりするような荷物になってしまった。
 それをどうにかお店まで持ち帰ったところなのだ。
「でもこれで、またいっぱいぬいぐるみを作れますよ。どんな子になるでしょうか?」
 だが心を落ち着かせる甘い紅茶のせいか、それとも買い物疲れのせいか、真架は小さな欠伸をもらした。
「ちょっとだけ、休憩して、それから……」
 真架はテーブルにぱたんと伏せたと思うと、すぐにすうすうと小さな寝息をたててしまった。


 真架が大きなフェルト地に鋏を入れる。
 チョコレート色の柔らかな生地はチャコペンシルのガイドライン通りに切り取られ、ぬいぐるみのパーツになる。
 次に、淡いベージュの生地。ずっと触っていたいぐらいに、素敵な肌触りだ。
 これも決まった形に切り取って、それぞれの配置に仮置きする。
 真架が慣れた手つきでパーツを縫い合わせ、ひっくり返すとあっという間におさるさんの顔が現れた。
 でもまだわたが入っていないので、ぐにゃぐにゃのふにゃふにゃだ。
 そこに丁寧にちぎったわたを詰めていくと、丸くて可愛いぬいぐるみのおさるさんになる……はずだった。

『おい、そこはもう少しシャープにしろよ』
「え?」
 真架は思わず辺りを見回す。
『オレ様のナイスな顎のラインが、クマみたいになるじゃねえか』
 なんと、手元のぬいぐるみ(予定)が口をきいたのだ。
「ひゃあああ!?」
『なんだと、キミ、失敬ではないか』
 今度はやや渋い声が聞こえる。
「今度はなに!?」
『クマに対しての侮辱は許さん、謝罪したまえ』
 声のほうを見ると、窓際に飾ってあったクマのぬいぐるみである。
「待ってください! ふたりとも、けんかなんかしないでください!」
 真架は訳が分からないまま、ふたり(?)の間に割り込む。

『だいたいお前もお前だぜ。なんでもパンパンにワタを入れりゃいいってもんじゃねえだろ』
「でも、でも、こんなお顔になりますよ?」
 真架は詰めかけたわたを抜き出して、ぺこんとぬいぐるみの顔をへこませる。
『はっはっは。いかにもサルらしい顔ではないかね』
 クマが笑っている。ぬいぐるみのクマが。オッサン声で。
 それにサルが舌打ちした。
『るせえ。おい、イケメンになるようしっかりワタを詰めるんだぜ』
 ぬいぐるみのサルが。べらんめえ調で。
 真架はくらくら眩暈がしてきた。
 でも大事なぬいぐるみたちが不満をもっているなら、なんとかしてあげなくては。
「はい、しっかりわたを詰めますよ! ぎゅっと!!」
 真架は必死でわたを詰め込む。ぬいぐるみのイケメンってどんなのだろう、と思いながら。
 だが、なんということか。
 詰め込んでも詰め込んでも、わたはどこか異次元に消えるように手ごたえがないのだ。
「どうしましょう。わたが、足りないみたいです……」
 いっぱい買ったはずなのに。
 あんなに頑張って買ってきたのに。
 ぺこぺこのサルが何か文句を言っている。クマが笑っている。
「ごめんなさい! もっとたくさん、わたを買ってきますから!!」
 真架はお財布を握って、勢いよく立ち上がった。


「はっ!!」
 がばっと真架が起き上がった。
「え? え? ここ、どこですか!?」
 目を見開いたまま辺りを見回すが、見慣れた自分のお店だ。
 マグカップの紅茶はまだほんのり暖かく、うたたねしていたのはほんの一瞬だったようだ。
 真架はほっと息をつき、それからテーブルに突っ伏した。
「びっくりしました……夢をみていたのですね」
 少し顔を上げて、おそるおそる窓際を見る。
 真架が作った可愛いクマが、いつも通りのつぶらな瞳でこちらを見ていた。
 もちろん、オッサン声で文句を言ったりはしない。
 安心して大きな息をついた真架だったが、急に可笑しくなってきた。
「ふふっ……ふふふ……」
 目の端に涙がにじんでくるぐらい、笑ってしまう。

 きっとあれも買わなきゃ、これも買わなきゃと走り回って、少し疲れたのだろう。
 夢の中でまで、わたが足りないなんて。
 真架はショッピングバッグの中から今日の戦利品を取り出して、テーブルいっぱいに広げる。
 大丈夫、材料はたっぷりある。
「ちゃんとイケメンのおさるさんにしてあげますね。でも頬のシャープなおさるさんは、ちょっと変だと思いますよ」
 だいすきなぬいぐるみは、みんないい顔にしてあげたいから。
 真架はひと針ひと針ごとに『大好き』を籠めて、今日もぬいぐるみを作るのだ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

初めましてのキャラクター様のおまかせノベルということで、どんな内容にしようかと悩んだのですが。
ぬいぐるみがいっぱいのカフェが可愛かったので、そちらでのひと幕を描写させていただきました。
もしお気に召しましたらとても嬉しいです。この度のご依頼、誠にありがとうございました。
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年05月10日

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