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『共(依)存 』
アグラーヤla0287)&クラースナヤla0298


 銃声。
 怒号、悲鳴、断末魔。
 西暦2032年。地球外生命体ナイトメアによる侵略はロシアに及んだ。
 20年以上を経た現在も、その国土の半分はナイトメアの支配地域もしくは競合地域であり、長期に及ぶ戦争は国力及び国民を疲弊させていった。
 これによりロシア領は東西に分割されることとなり、領土の奪還はロシアの最優先事項にして大願でもある。
 従って国民にとってナイトメアの存在とは恐怖の対象であるだけでなく、ごく身近なものとして見られていたようだ。アフリカ全域の陥落以降、南米地域に続く長期戦継続国となったロシアでは戦災孤児の存在も珍しいものではなく、逆に子供を失う親も多い。
 また男性を中心とした国民からの戦力調達もあり、生産者の減少による経済力の低下は大きな痛手となっていた。
 つまり福祉にまでは手が回らず、戦災孤児のケアをしている余裕はほとんどない。極寒のロシアで家も親も失った子供立達を待っているのは、死だ。
 この国家的混乱により、また一組の姉妹が孤児となっていた。
 姉、アグラーヤ(la0287)。妹、クラースナヤ(la0298)。
 二人は両親をナイトメアに殺された。まだ自立して生きていくには若すぎた姉妹は、身を寄せ合いながら、死、もしくは救いの手が差し伸べられることを待つしかなかった。
 住居もなく、路地裏で雨風を凌ぎながら夜を過ごすことも多い。しかし孤児らが考えることは同じで、その日に過ごす場所を巡って孤児同士で争いに発展することも珍しいことではないようだ。
 だがそれも無意味な争いではある。己で稼ぐ術を持たない孤児は食事にありつけずに死んでゆく。するとその死体に別の孤児が群がり、寒さに耐えるために衣服を剥ぎ取ってしまう。路地裏を覗くと裸の子供が遺体のまま放置されているなどということもある。
 そんな中、アグラーヤとクラースナヤが生きる手段を得ていくことは困難を極めた。妹のクラースナヤはとても器用で家庭的。料理を初めとした家事も得意なのだが、食料も調理器具もなければどうすることだってできない。
 一方で姉のアグラーヤは身体能力に優れ、同い年の男子にも負けないほどに足が速く、それなりに力もある。
 だから二人が生きていくために選んだ道は、盗みだった。姉のアグラーヤが通行人から金品や食料を奪う。そして得たものを妹と分ける。
 すると妹の役割は……語る必要はないだろう。

 その日も、アグラーヤは街を彷徨いながら獲物を選定していた。
 食料を持った、女。それも人通りが多すぎず少なすぎないところが良い。
 逃げ切れさえすればそれで構わないのだ。
 すれ違いざまを狙い、女が下げた買い物袋を攫って逃走を開始。鍛えられた脚力で追手の女を振り切ることはアグラーヤにとって難しいことではなかった。
 足がつかないよう敢えて複雑な道を辿り、クラースナヤと示し合わせた路地で落ち合い、戦利品から必要なものを抜き取って不要なものを捨て、一度別の路地へ移動。
 ……しようとしたところで。
「こんにちは、お嬢さん達」
 男に声をかけられた。

 結果から簡単にまとめれば、彼はスカウトだという。少女でありながらスリを繰り返し、捕えられることなく逃走に成功し続ける孤児がいる。そんな噂を聞いて、探していたとのこと。では何のスカウトかというと、非合法の傭兵だ。
 それは時として人間を殺すこともあるが、給料などの手当てが良い。その上で質素ながらも住居を手配してくれるという。
 最初、クラースナヤは反対したが、現在の生活より酷い環境にはならないからという理由でアグラーヤが押し切る形で男のスカウトを承諾することにした。


「ただいま」
 仕事を終えてアグラーヤが帰宅する。その日の仕事はある企業の内情を探るもので、もっと具体的には武器の密輸ルートを確保する交渉材料――即ち人質の選定であった。
 先方に怪しまれることなく偵察することは、精神的な疲弊が大きい。
 部屋へ上がると、リビングのテーブルには袋が二つ置いてある。
「おかえり。シャワー浴びてきたら?」
 クラースナヤがキッチンから顔を出す。
 袋を覗いてみると、タオルと着替えが入っていた。
 割り当てられた部屋というのは生活に不便がない程度の設備があるものの、唯一シャワールームがない。しかし住居であるアパートの一階、共用スペースにシャワールームがあるため、ここを利用することにしていた。
 一度腰を下ろしてしまえば、すぐに行けるはずの一階に降りることも嫌になってしまうと考え、アグラーヤは素直に提案を受け入れた。
 不要な荷物だけを置き、アグラーヤはシャワーを浴びに出かけてゆく。
 クラースナヤは調理を再開した。実入りが良いおかげで食料には困らない。
 実際に姉がどんな仕事をしているのか、妹は知らない。言葉で聞くことはあっても、現場を見たわけではないから想像することしかできない。だが、きっと盗みを働いていた時以上に仕事は苦労の連続だろうと思い至ることはできる。
 だから、クラースナヤは姉の好物ばかりを作っていた。こうして屋根の下で布団に包まって眠ることができるのも、姉の力があってこそだからだ。もし、あの身体能力がなければ、盗みに失敗していれば、噂にならなければ、この生活はなかったのだから。
 しかし一番の心配事は、妹がこのスカウトを受けることに反対した理由でもあるのだが、いつ姉が命を落としてもおかしくないということだ。今は諜報活動が多いようだが、いざ実戦となればどうなるのかも分からない。
 唯一の肉親となってしまった姉まで失ってしまえば、クラースナヤは何のために生きていけば良いのか分からなくなってしまう。それは、自らの死と同義だった。
 姉の好物を作るのは、単純に労いのためばかりではない。またこの料理を食べに戻ってきてほしいという、妹なりの健気なメッセージだった。

 シャワーを浴びていると、外出によって冷えた体がじんわりと温まってくることが分かる。
 妹はこんなに寒い思いや、肉体的な疲労を覚えずにいるのだろうか。アグラーヤはぼんやりと考えた。しかしそれは嫉妬でも何でもない。心の底から、それが嬉しかった。
 アグラーヤがこのスカウトを受けた一番の理由がそこにある。とにかく妹が暖かい部屋で眠れること。これは、両親を失った時から抱き続けている願いだった。
 確かに仕事はキツい。死を覚悟しなくてはならない場面だってある。それでも、「たったそれだけのこと」で妹に不自由のない暮らしをさせてあげられることが、アグラーヤにとって何よりの幸福だった。
 姉には家事ができない。銃は扱えても包丁は扱えない。もし姉一人で放り出されたら三日と生きていられないだろう。
 家があるのは妹のおかげ。美味しい食事があるのは妹のおかげ。服が清潔なのは妹のおかげ。布団で眠れるのは妹のおかげ。生きていけるのは、全て妹のおかげ。
 よく、こんな自分についてきてくれたな、とアグラーヤは考えながら、シャワーを止めた。


 それが発覚したのは、身体検査を受けた時だった。
 姉のアグラーヤに、対ナイトメア兵器であるEXISを扱うだけの適正があると判明したのだ。つまり、彼女の所属する非合法傭兵組織にとって、EXISさえ入手することができれば大きな戦力となり、より大規模な作戦を遂行することが可能となる。
 これが何を意味するかといえば、アグラーヤだけでなく妹のクラースナヤにも大きな制約がかかってくるということだ。力を持つ者は制御されなくてはならない。特に非合法の傭兵組織ともなれば、万が一アグラーヤが裏切った際に歯止めをかける存在が必要になってくるのだ。例え、妹を人質に取ってでも。
 だから。

「何?」
 適正が判明した二日後。
 部屋が狭いために同じベッドで横になっていた姉妹。
 アグラーヤがクラースナヤの手に何かを握らせた。時間は深夜。眠りに落ちていたところを起こされ、クラースナヤはぼんやりとしている。
 電気を消しているために部屋は暗いが、アグラーヤは指をクラースナヤの顎に当てることで喋らないようにと指示した。そして寝返りを装って布団をクラースナヤの頭にかける。
 何だろうと握らされたものに妹が目を落とすと、そこにはメモ紙があった。暗闇でも光って見える特殊なペンで何かが書かれている。

 明日の朝、私が出かけたら、忘れ物を届けに来て。

 そう書かれていた。


 翌日。アグラーヤは確かに忘れ物をしていた。
 財布だ。
 しかしわざわざ予告をして忘れていくなどあり得るのだろうか。
 疑問に思いながらもクラースナヤは財布を届けるために家を出た。
 姉は、家を出て数分も歩かぬ内に見つけられた。
「はいこれ。でもどうして?」
 忘れ物を渡してすぐに、妹はそう口にする。
「うん、実は」
 口にしながら、姉は周囲にさっと目をやり、そしてクラースナヤの手を取った。
「走って」
 小さく呟き、そのまま駆けだす。
 ワケが分からないままに続く妹。
 裏路地や細い道。どこかへ向かうにしては複雑なルートを走る。
 背後から、誰かが追ってくる気配があった。
 古いアパートの前を通り、設置されていた薪倉庫の中へ身を隠す。数秒の後に、近くを慌ただしく駆ける足音が通り過ぎていった。
 アグラーヤはクラースナヤの口を抑え、声を出さぬように指示。
 そのまま五分ほど、倉庫の中でじっとしていた。
「SALFへ行こう。その方が、胸を張って生きられる」
 姉が考えていたこと。それは、組織を抜け出して正式なライセンサーとなることだった。このまま非合法の組織にいては、今はともかくいずれは己の身を滅ぼすことになる。生活に多少の余裕が出てきたからこそ生まれた不安だった。
 そして、イマジナリードライヴへの適性を持ちながら反社会的な活動に与すればそれはレヴェルとして扱われ、それこそ正規のライセンサーによる駆除の対象となる。
 しかし正直に組織に打診したとして素直にSALF所属を認めてもらえるわけがない。
 だから逃げる。
 それでもいいかと、姉は尋ねた。
 とはいえ答えは決まっている。決められてしまっている。
 こうして、逃げ出してしまったのだから。もう選択肢はない。
 妹は頷き、二人はSALFの地方支部へと向かった。

 この後、アグラーヤは正式なSALF所属ライセンサーとなる。
 ついでに判明したことだが、妹のクラースナヤにもイマジナリードライヴへの適性があることが分かった。
 二人でライセンサーともなれば、SALFからの手当てはなかなかのもので、与えられる住居も設備が良い。さらにSALFという後ろ盾ができたことで追手に狙われる心配もなくなった。
 ナイトメアに怯え、追手に怯え、罪に怯える日々は終わりを告げた。
 経緯に対する後ろめたさはあれど、未来に対する不安はない。
 これで、誰にも邪魔されず、二人で手を取り合って生きていけるのだから。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼いただきましてありがとうございます。

ご姉妹でのおまかせとのことでしたので、今回はライセンサーとなるまでを大まかに追った形にしてみました。
一つのシーンをもっと細かく描写してみたいなと思ったのですが、それよりは全体を描いて、細かいところはRPや設定で膨らませていただけたらと思い、こういったノベルとさせていただきます。
お気に召しましたら幸いです。
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年05月13日

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