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『美しい日の狂気と勇気 』
レグルス(イェジド)ka5819unit001)&鞍馬 真ka5819


 ふわわわわ、と平和なあくびが春の空にただよっていた。穏やかな陽気のもと、草原の上に丸くなってうとうとと昼寝をしているのは、幻獣イェジドのレグルス(ka5819unit001)だ。そんなレグルスを見下ろして、鞍馬 真(ka5819)はくすくすと笑った。
「本当によく寝るね、レグルスは」
 レグルスは、主人である真のその言葉に、ちらりと薄目を開けた。が、それ以上反応を示すことはなく、再び瞼を閉じてしまう。真は思わず苦笑した。ときどき、自分は本当にレグルスから主人として敬われているのだろうか、と不思議になることがある。敬われる、ということに真は別段こだわりを持っているわけではないから、いいのだけれど。
「確かに、眠くなる気候だよねえ」
 真はレグルスの隣に寝そべって、空を見上げた。依頼と依頼の間にぽっかりと予定のない時間ができたため、ひとりと一頭は草原で小休止をしていたのである。次の依頼先には、明後日の昼までに行けばいいことになっている。
「私も、少し昼寝をしようかな……」
 そう呟いて真は、ふわわわわ、と、先ほどのレグルスとそっくりのあくびをしたのだった。



 ひとすじの風が鼻先をくすぐって、レグルスは目を覚ました。むくりと上半身を起こして、吹き抜けていった風の気配をさぐる。気のせいだろうか、いや、そんなはずはない、という思いで、首を巡らせていると、再び風が通った。レグルスはその風で、自分の勘が間違っていなかったことを確信した。
 人間からすれば、ただの気持ちよい風でしかなかっただろう。だが、イェジドの鼻はしっかりと嗅ぎ取った。風の中に混じる……血のにおいを。
 まだ新しい血だ、とそこまで感じ取って、レグルスは立ち上がった。隣では、真がすやすやと眠っている。屋外で彼がここまで深い眠りに入ることは珍しい。レグルスが隣にいたために安心しているのだろうか。起こそうか、どうしようか、レグルスは少し迷ったが、起こさずにおくことにした。においの出どころを調べて、すぐに戻ってくればいい。そしてその場所へ真を案内すればいいのだ。
 オーバーワークが基本のワーカーホリック、という困った主人を寝かせておいてあげることにして、レグルスは単身、においを辿って駆けだした。
 レグルスと真が寝ていた草原を少し行くと、小さな森があった。においは、そこへ近付くにつれて濃くなっているようだった。レグルスは、ぐる、と低く喉を鳴らして森へ向かう。森そのものに嫌な雰囲気はない。この天気に似つかわしく穏やかで、木々の茂りも豊かで、きっと小動物が多く暮らしているだろうと思われた。日当たりのよいところには色鮮やかに花が開いており、実にのどかな光景だった。
 で、あるがゆえに。
 血のにおいの出どころへ辿り着いたレグルスは、目の前に広がるモノと森の風景とのあまりの不釣り合いさに立ち尽くした。
 ウサギ、リス、シカ等、草食動物ばかりが五、六頭、血を流して倒れていたのである。完全に絶命しているものもあれば、まだひくひくと喉をうごかしているものもあったが、いずれも助からないことは明白だった。レグルスは悲痛な思いで近付く。
 動物たちの傷はいずれも、牙や爪でつけられたもののようだった。銃痕はひとつもなく、ナイフのような鋭利なもので切り裂かれた痕跡もない。つまり、これは人間によるものではなく、ほかの動物……、おそらくは肉食動物が襲ったものだろうと見当がついた。
 だが。そうであるならば、不思議なことがひとつある。
 倒れている動物たちは、ほとんど「食われていない」のである。
 どの動物も、内臓をひとつふたつ持って行かれている程度。ひどいものになると、頭に深い傷をひとつ負っただけで絶命しており、体の他の部分には傷ひとつないものもある。肉食動物が草食動物相手に「喧嘩」をするとは考えられないため、捕食することなく遺体を置き去りにしていく理由が、レグルスにはどうにもわからなかった。
 さて、どうしようか、とレグルスは考えた。ここで引き返して真を連れてくるのが定石に違いないが、しかし。
 レグルスは、森の奥を見据えた。あそこに、この惨状をつくりだしたヤツがいると、レグルスの直感が告げていた。
 森の奥へと、レグルスは歩み出した。倒れている動物たちを悼むように、立派な尾を大きく振って。
 奥へ奥へと進むほどに、レグルスの緊張感は増した。しかし、それをあざ笑うように、森はあくまでも静かで穏やかだった。のどかな鳥のさえずりすら聞こえてくる。その明るさが、いっそ不気味だった。どこまでも平和な森の中の気配を必死にさぐって、レグルスはわずかな足音さえも立てぬように歩んで行った。
 しばらく、して。なにか、大きなモノの気配を察し、レグルスは全身を強張らせた。と、同時に、新しくて濃い血のにおいが湧きあがった。ハッと頭を上げ、レグルスは気配の方へと駆け出した。



 一方、真は。
「うーん、すっかり寝入ってしまったよ……」
 こんなにも気持ちよく昼寝をしたのは久しぶりだ、と思いつつ、草原から身を起した。穏やかな陽気は相変わらずだが、寝転んだときよりはいくぶん日が傾いているようだった。つまりそれだけの時間寝ていたということになる。
「やっぱりちょっと疲れていたのかな……」
 苦笑しつつ、ねえレグルス、と声をかけようとして。
「あれ? レグルス?」
 隣で寝ていたはずのイェジドの姿がなく、真は目を丸くした。



 目を丸くする、どころの話ではない。
 レグルスは本来切れ長の自分の双眸を、大きく見開いた。
 レグルスの目の前の光景は、それほどに、信じがたいものだったのだ。
 大きな、クマ。ウサギの巣を狙ったらしい、家族であろうと思われる数羽が、木の根元に身を寄せていた。それ、を。
 クマは一羽ずつするどい爪の手で鷲掴みにすると、大きく口を開けてウサギをくわえ、噛み殺した。そして……、噛み殺したウサギを、ぽい、と捨てた。
 そんな、バカな。
 レグルスが人間の言葉を発すことができたなら、きっとそう叫んでいたに違いなかった。このクマがウサギを襲い、殺している目的は、食うためではない。何かを守るためでもない。
 こいつはただ、殺すために殺しているのだ。

 グルルルルルルル!!!!!!!!

 レグルスは、大きく唸った。紛れもなく、怒りの声だった。クマが、ウサギをくわえたまま、振り向いた。気のせいだったかもしれない。だが、レグルスには、クマがニタリと笑ったように、見えた。カッと、レグルスの頭に血が上った。考えるよりも先に、体が動いた。
 ガッ、と力強く地面を蹴って、レグルスはクマにとびかかった。クマはくわえていたウサギを捨て、飛びのいてレグルスの攻撃を避ける。体の大きさのわりに、動きが素早い。避けたと思うとすぐ前のめりになり、太く鋭い爪でレグルスの背中を狙って来た。レグルスはしなやかに身を翻してそれを避け、クマの背後に回り込むようにして駆けだすと、クマの後ろ足を長い尾で払った。打撃的にはたいしたことはないが、咄嗟のことにクマが体勢を崩した。そこを見逃さず、レグルスは鋭い牙をクマの内腿に突き立てる。
 グアアアアアア、と叫び声をあげて、クマが暴れた。牙を突き立てたままだったレグルスは、その動きについてゆけずに振り払われる。大きく体勢を崩して地に叩きつけられたレグルスのすぐ上に、クマが覆いかぶさってきた。避けられない、と思った、そのとき。
 昼間なのに流星が、煌めいた。
 そう錯覚してしまうほどの、閃光にも似た一撃が、クマの胴体をとらえた。踏ん張る暇など一瞬もなく、どう、とクマが倒れる。一撃で絶命、とまではいかなかったようだが、それにしても、強烈な攻撃だった。
「危機一髪、だったかな、レグルス」
 その剣戟を放った真が、息ひとつ乱さず、にこりとレグルスを見下ろした。レグルスもそれに応えるように、ぐる、と短く喉を鳴らした。
「……道中を、見て来たよ。あのクマは、狂っているね」
 怒りと悲しみを混ぜ合わせたような声で、真が言った。あの草食動物たちの遺体を見たのだろう。
「この森は正常だ。負のマテリアルのせいじゃない。……だから、あのクマの狂気の理由は私にはわからないけれど……、野放しにはしておけないな」
 真の言葉に、レグルスも全面的に同意だった。顔を見合わせて頷く……、きっと人間同士だったならば、そんな合図もしたかもしれない。だが、真とレグルスの間では、そんな確認すら不要だ。
 ひとりと一頭は、同時に駆けだした。
 真は剣で。レグルスは牙で。
 もがき、起き上がろうとするクマに、容赦のないトドメを、刺した。



「お疲れ、相棒」
 真がそう言って笑った。自分でそう言ってから、真はそうか、と自分の言葉に納得してひとりで頷いた。主人とかではないのだ、レグルスは、『相棒』なのだ。敬われているかどうかではなく「尊重し合う」ことが大切なのだ。
 真のねぎらいに応えて、レグルスは尾を振った。ふと見上げれば、爽やかな風が、森の木々の梢を揺らしてゆく。レグルスの想いを代弁するように、真が呟いた。
「こんなに、いい天気なのになあ」
 狂気に天気は関係ない。それは言葉にするまでもなく当然のことだったけれど、それでもどこか切なかった。天気が良くても、森が美しくても、悲劇は起こる。
「さあ、行こうか、レグルス。被害に遭った動物たちを、埋葬してあげよう」
 切なさを飲みこむように微笑んで、真が歩き出した。レグルスも、その隣に並ぶ。
 天気が良くても、森が美しくても、悲劇は起こる。が、それを受け止め、立ち向かう勇気もまた、確実に存在するのだ。







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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819unit001/レグルス/オス/不明/イェジド】
【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闇狩人(エンフォーサー)】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ごきげんいかがでございましょうか。
紺堂カヤでございます。この度はご用命を賜り、誠にありがとうございました。
とにかくレグルスくんをメインのお話にすることを最重点として書かせていただきました。カッコイイ幻獣にカッコイイ剣士……、書いていて胸が躍りました、ありがとうございました!
楽しんでいただけるものとなっていれば幸いです。
この度は誠に、ありがとうございました。

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ファナティックブラッド
2019年05月14日

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