▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『雨ところにより百鬼雨行 』
小宮 雅春aa4756)&破魔鬼aa4756hero002

 小柄な少女が街を駈けていた。水たまりを小さな足が踏み抜くたびに、水飛沫が上がる。
 今日の天気予報は傘マーク。空からはひっきりなしに冷たい何かが降ってきていた。だから破魔鬼(aa4756hero002)はつい楽しくなってしまって、その雨の中に飛び出したのだ。

「破魔鬼さん、おかえり。冷えちゃってない? お風呂準備してあるよ」
 たっぷり遊び、びしょびしょになって帰ってきた破魔鬼の事を、小宮 雅春(aa4756)の笑顔が迎える。
 用意していたタオルで彼女の頭を拭いてやりながら、雅春は普段の穏やかな声音に少しだけ心配の色を混ぜて「でも、雨の中遊ぶのは危ないよ」と優しく窘めた。
「たのしいものに会える予感がしたのね!」
 最近は雨の日が続いており世間ではげんなりしている者も多そうだが、破魔鬼はいつでも元気いっぱいだ。むしろ、降りしきる雨の冷たさと強い風にテンションが上がっている様子である。
 破魔鬼にとっては、雨の日の風景はいつもの風景とはまた違って見え、新鮮で楽しいものなのだろう。
「あれ? そういえば傘は?」
「ヤツはハバキについてくるには、まだ早すぎたのね!」
「なくしちゃったんだね……」
 ふき飛ばされてしまったのか、それともどこかに忘れてきてしまったのか。一応持たせていた傘は彼女には邪魔だったようで、あまりその役目を発揮出来ずに終わってしまったようだ。
 いくら英雄といえど、こんなに濡れてしまったら風邪をひいてしまうかもしれない。かといって、雨が降っている日に自由に遊びたい気持ちを抑えさせるのも破魔鬼には酷な事だろう。
「うーん……。あっ、そうだ」
 しばらく考えた末に何かを思いついた雅春は、今日の買い物で購入予定の品を書いたメモにとあるものを追加するのだった。

 ◆

 その次の日もまた、空は灰色の雲に覆われていた。ぽつぽつと落ちてくる雫は今はまだ勢いがないものの、そう遠くない内に土砂降りに姿を変えるであろうとその空模様からは予想がつく。
 今にも外へと飛び出して行きそうな破魔鬼を優しく呼び止めて、雅春は彼女にとあるものをはおらせた。
「新しい服なのね?」
「合羽だよ。破魔鬼さんの事を、雨から守ってくれるんだ」
 はおらせたのは、昨日買ってきた女児用のレインコートである。可愛らしい動物の形を模したその合羽に包まれて、破魔鬼は不思議そうに目をぱちくりとさせた。
「きゅーくつなのね!」
「気に入らなかったかな?」
「つるつるしてて、おもしろいのね! 行ってくるのね!」
 楽しげに笑った破魔鬼は、もうその次の瞬間にはドアから外の世界へと飛び出していた。雅春の「いってらっしゃい」という声を背中に受けながら、とことこと駆け出して行く。
 しかし、しばらくして突然急ターンをすると、小鬼の姿をした小さな英雄はまたとことこと雅春の前へと帰ってきた。
「ぬれてるのに、お肌はぬれてないのね!」
 どうやらその事を報告したかったらしい。
「うん。合羽が弾いてくれてるからね」
「これはこれでたのしいのね!」
 パッ、と破魔鬼は満面の笑みを浮かべる。そして何かを思い出したのか、彼女はよいしょと背伸びをし雅春の手を引いた。
「そうだ、こみぽちも一緒に行くのね! ハバキ、この前凄いものを見つけたのね!」
「えっ? いいけど、なんだろう?」
 もう一人の家族も誘ったが断られてしまったため、彼女に留守を任せ雅春は破魔鬼に先導されるように外へと出る。外は相変わらずの天気だが、隣にいる破魔鬼がおひさまみたいにニコニコ笑ってるものだから、雅春も思わず楽しい気持ちになった。
 彼女の言動には驚かされる事や心配になる事もあるが、元気を貰う事はそれよりもずっと多いのだ。

 しばらく、雨の中を歩きながら最近見つけた楽しそうなものの話をしていた破魔鬼だが、ふと何かを見つけてたたたーっと走り出す。雨に濡れた紫陽花の葉の上に這うカタツムリが、彼女の興味を引いたようだ。
「これなのね! 角がはえてるのね! ハバキのお仲間なのね!」
 カタツムリを手に持ち、破魔鬼は雅春に見せようと高く掲げ彼の方を振り返った。
「ふふ、そうだね。でも、可哀想だからお家に帰してあげよう。今はお食事の時間みたいだよ」
 破魔鬼の振り返った先で、傘を差した雅春はいつものように優しげな笑みを浮かべている。雨の中立つ彼を見て、破魔鬼はますます楽しい気持ちになり、「わかったのね!」と素直な返事をしてカタツムリを元の場所へと帰してやった。
 雨は未だ降り止まない。空からは無数の雫が、飽きる事なく降ってきている。
 破魔鬼がこの世界にきた時も、空からは何かがが降ってきていた。白くて冷たい、雪。
 一面真っ白に染まった世界に足を踏み出すと、破魔鬼の足と同じ形にへこむものだから、なんだかとってもわくわくしたのを覚えている。楽しい事が待っている、そんな予感がした破魔鬼の視界に入り込んできたのは、一人の男だった。
 たくさんの、楽しい事が待っていそうな世界。その世界で初めて出会ったのは、やっぱり今のように穏やかに笑う雅春だったのだ。
「あっちにも何かが落ちてるのね! きっとたのしいものに違いないのね!」
 破魔鬼の瞳が、何かを見つけて輝きを増す。笑った彼女は、我慢出来ないとばかりに走り出した。
「あっ、破魔鬼さん、急に走り出したら危ないよ。足元には気をつけようね」
 再び走り出した破魔鬼を、雅春は慌てて追いかける。確かに、こうやって気になったものを追いかけるのに、傘という物は少し邪魔かもしれないな、とびしょ濡れになって帰ってきた昨日の破魔鬼の姿を思い出しながら彼は思った。
「雨の日は家で過ごすものだと思ってたけど、外に出ると色々な発見があるんだね」
「ふっふーん! ハバキにかかれば、こてーかんねんも、ぶちこわなのね!」
「うんうん、さすがだねぇ」
 得意げに笑う破魔鬼に、雅春もまた子供のように無邪気な笑みを返す。
 天気予報はしばらく傘マークが続いている。梅雨はまだ始まったばかりだ。
 自分の分と家で待つ大事な彼女の分のレインコートも、購入してみるのも良いかもしれない。
 そう思い、雅春は笑みを深めた。三人で過ごすなら、雨の日だろうと楽しい日に変わるに違いなかった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
このたびはおまかせノベルという貴重な機会をいただけ、光栄です。
穏やかな雅春さんと楽しいものを見つけるのがお上手そうな破魔鬼さんのお話なら、やはりほのぼのとした一幕を執筆したいと思い、このようなお話となりました。
お二方のお気に召すお話に出来ていましたら幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはご依頼誠にありがとうございました。またいつか機会がありましたら、その時は是非よろしくお願いいたします。
おまかせノベル -
しまだ クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2019年05月14日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.