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『余所者の苦悩 』
狭間 久志la0848

●憂鬱なるフリーランス
 真昼の市街地を、一人の青年がぶらぶらと歩いている。赤いシャツ、黒いジャケットを着こなす若々しいその姿は、大学生くらいにも見えた。だがしかし、彼の心までも見た目通りに若いわけではない。それどころか、公務員の事務屋として汗を流し、彼方からの侵略者に襲われて死んだことになりつつも、傭兵として戦い抜いたくらいの経歴を持っていた。
 彼の名前は狭間 久志(la0848)。世界を共に渡り歩いた愛機も最愛の人も、この世界にはいない。戦いで掠れていく心を慰めてくれる存在は無いのだ。そのおかげで、彼の眉にはすっかり皺が寄っていた。
(……この世界は、似過ぎている)
 そのくせに、この世界の姿は彼が生きてきた世界によく似ていた。世界の外から侵略を進める脅威の存在も、その脅威に立ち向かう兵器の存在も。街角のスクリーンに映るアサルトコアのCMを見上げて溜め息をつき、久志は踵を返した。
 アサルトコアを見るたびに、郷愁に駆られる。愛した女の下へ帰りたいという想いに胸を焦がされる。だが、どこに尋ねてみても、元来た世界に帰る方法はなしのつぶてだという。そのままではくいっぱぐれるから、彼はこの世界でも武器を取る事を選んだ。それ以外には仕方が無かったのだ。
(放浪者もナイトメアも、この世界にとってはどっちも余所者に違いないんだ。ナイトメアとは違うってところを見せておかないと、俺達が追い出されちまう)
 自分は“人間”だから、それほど白い眼を向けられたことはない。しかし、同じ放浪者仲間の中には、“人間”とは異なる容姿を持つ人間であるが故に、謂れのない差別を受けた事がある者も確かにいた。
 せめて存在する事だけは許されておきたい。街のサイレンがけたたましく鳴り響いた時、彼は誰よりも早く走り出していた。

●ドッペルゲンガー
 ミイラのような見た目のナイトメアが、全身の甲殻をびびらせながらのろのろと歩いていく。甲殻の隙間から垂れる体液が道路に垂れると、アスファルトが溶けて穴が空いた。
(今回はまた妙なナイトメアが出てきたな)
 久志は刀を抜き放つと、音も立てずにナイトメアへと忍び寄る。そのまま背後から一撃、甲殻の隙間に差し込んだ。ミシミシと甲殻が歪み、膿のような体液がどろりと流れた。妙な匂いがふわりと漂う。
(なんだ……?)
 ナイトメアは呻くと、のろのろと全身を振り回す。棘だらけの腕を、久志は上半身を逸らして躱した。半身になって避けた。まるで蜃気楼のように、久志はそこにいるのにそこにいない。のろまなナイトメアには、彼の正体を捉える事など出来なかった。刀を霞に構えると、久志は一気に懐へ潜って斬りつけた。
 水脹れを潰したように、体液が噴き出し久志に振りかかる。漂う華のような匂い。久志は頭がくらりとするのを感じた。視界もみるみる霞んでいく。
(なんだ……?)
 眼を擦る。瞼を無理矢理開くと、眼の前にミイラはいなかった。そこにいたのは、スーツに身を包んだ細身の青年。刀をぶら下げたまま、じっと自分を見つめている。その顔立ちは、まさしく自分そのものだった。彼はただ押し黙ったまま、じっと久志を見つめている。
「……そんな手で、俺が怯むと思うな」
 久志は唸ると、一気に刀を振り抜いた。己の幻影は胸元を切り裂かれ、だらりと仰け反る。その瞬間に、その体は元のミイラへと戻った。ナイトメアが体勢を整えるよりも早く、久志はその喉元に刃を突き立てた。
「趣味の悪い事してくれやがって」
 そう吐き捨てると、彼は刃を振り抜く。

 首が落ち、ナイトメアはどさりと倒れた。

●さしあたりの日々
 SALF支局の屋上に立ち、久志はふと溜め息をつく。今日現れたハザマヒサシはただの偽物だったが、彼自身、この世界にもこの世界の人間として、ハザマヒサシがいるに違いないと感じていた。
(まあ、これまで会った事もないんだ。これからも会う事はないだろうが……)
 せめて、この世界の“自分”は難儀に巻き込まれる事無く、平凡に過ごしていて欲しい。それだけは祈っておくことにした。今のところは自分のことばかりで精一杯だ。
(さてこれから、どうするか)
 彼は懐からそっと携帯を取り出す。見れば、幾つかメッセージが届いていた。同じ放浪者たちからのメッセージである。いくつもの任務をこなすうちに知り合い、やさぐれていた自分にも分け隔てなく向き合ってくれた者達だ。
(元の世界に戻れないなら、せめてこの世界で生きる意味を見つけるしかないんだよな)
 胸に何度となく言い聞かせてきた言葉を、彼は改めて繰り返す。新しく出来た仲間と戦乱を終わらせる。それは最初の生きる理由になりうるだろうか。彼は頭の片隅で考えた。
(……出るか)
 食事の誘いが放浪者の一団から届いていた。たまには戦場以外の場所でも顔を合わせてみよう。心に決めると、携帯をポケットへ納め、前を向いて歩き始めた。

 おわり

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 狭間 久志(la0848)

●ライター通信
いつもお世話になっております。影絵企我です。

基礎設定にスポットを当てつつ、今回はかかせて頂きました。満足いただける出来になっているでしょうか。
ではまた、ご縁がありましたら。
おまかせノベル -
影絵 企我 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年05月15日

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