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『戦いは続く、前へと進む 』
不知火 仙火la2785)&日暮 さくらla2809

 世界の命運を握るライセンサーといえど、休息は必要不可欠なものだ。人は極限状態に置かれたとき火事場の馬鹿力を発揮することもあるが、それはあくまで生存意欲が偶然功を奏したに過ぎず、大抵の場合は普段なら出来たことも仕損じて致命傷を負う羽目になる。己さえ護れない者に、真に他人を救うことなど出来やしないのだ。修行したいと急く自らの心を律して、日暮 さくら(la2809)は街路を歩く。時折周囲の建物、看板やオブジェなど目印となる物に目を向けつつ目的地へと進んでいった。さくらが生まれ育った世界にも異世界からの存在、英雄と呼ばれる人々がいて母もその一人だ。父母の友人として知り合うことも珍しくなく、彼らの話は子供心に興味をそそられる以上に勉強にもなった。今ではさくら自身も世界を渡ったことで、同じ立場――こちらの世界では放浪者と呼ばれている――ではあるが。ヴァルキュリアや同じ放浪者にも人間離れした外見の者が存在するというのに不思議な感覚を抱く瞬間がある。それは決して差別的な意味ではないし、依頼を通じて関わり友人と呼べるほど親しくなった相手もいる。話せば外見など関係なく、同じ目的の為に協力する仲間だ。ただ、自分が今いるのは実家から遠く離れた街などではなく、似ているようで異なる世界だと思い知らされる。自ら進んで転移したにも拘らず未だにそんな感慨が残っていた。
 友人とならいざ知らず、一人で遊びに出るのはさくらにしては珍しい。何せ自他共に認める負けず嫌いで、ある程度纏まった時間が確保出来ようものなら剣術を磨くなり狙撃訓練をするなり、疲れている場合でも瞑想なら精神を鍛えるのに役立つとそれを優先することが多い。今回そうしなかったのは興味を惹かれるものがあったからだ。
 じきに辿り着いたのは向こうとさしたる違いのない映画館だった。手続き全てにAIを使用しているのは物悲しいが、こういった娯楽がない所から来た放浪者向けに懇切丁寧に説明してくれるのは助かる。幸いにも目的の作品は上映されるようになって既に若干時が経っていることもあり、ベストポジションとはいかないまでも中々観やすい位置を取れた。喜びと期待に表情がほんのりと緩む。時刻を確認したあと売店に向かって、飲み物とポップコーンを無事に購入する。それから昨日激闘を繰り広げたとは思えない落ち着いた足取りでシアターへ向かった。子供の頃の記憶がふと頭の中を巡る。
 薄暗いシアター内を進んで、人の前を通る際には断りを入れ、ようやく自分の座席まで来た。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
 座ろうとしたところで隣から声をかけられ、さくらの視界に一本の腕が映る。後ろに倒されていた背凭れを元の位置に戻し、ついでに自然な仕草で座面に落ちていたストローの袋を取り払った。薄いシャツ越しに細身ではあるが筋肉のついた腕が判って、視線はついそちらへと注がれる。既視感は声に遮られた。
「もういいぜ。肘掛けも邪魔だったら遠慮なく言ってくれよな」
「ありがとうございます」
 片手でトレーを持ってもう片方の手でスカートを押さえながら腰を下ろした。後はゆっくり楽しむだけと安堵したところで、声と口調に実に聞き覚えがあると気付く。まさかと思いつつも違っていたら失礼とさくらの目線は少し下向きになって、控えめに上へと滑らせる。目に入ったのはさくらの膝の上にあるのと同じ、鮮やかなピンクと白の二色がまぶされたポップコーン。甘酸っぱい匂いが先程よりも濃くなる。
『……あ』
 考えることは一緒だったのか顔を上げた瞬間ばっちり目が合った。隣に腰を下ろしているのは何かと縁のあるライバル、不知火 仙火(la2785)だ。苺ミルク味のポップコーンを一つまみしている腕が半端に止まり、若い頃の父親によく似た容貌の中で燃えるように存在を主張する真紅の目が丸くなる。まさか任務でも訓練でもない場で鉢合わせるとは予想外で、さくらも直ぐに言葉が出てこない。そして、二人の硬直が溶けるよりも先に上映開始のブザーが鳴った。

 スクリーンでは実戦を知る人間でも唸るような大立ち回りが繰り広げられ、BGMを挿入せず立体音響で声と音を流し込んでいるのが臨場感を生む。仙火が何を思い観に来たのか、そんなことが気になって内容に頭が入りきらないのをさくらは自覚した。あるナイトメアの支配地域でのライセンサーたちの活躍を描く映画だ。任務中の真面目さは素直に認めるが、それでもさくらの彼に対する腑抜け男という評価は未だ覆らない。それは彼に執着心がないからだ――と思っている。一方的に自分たちの関係を知っている身で、しかしあちらの世界の人間ではない為に仙火が何を経験し、どう思い至ったのかは解らない。互いの内側に秘めたものを明かし合うにはまだ、心の距離が遠過ぎる。
 思い出すのは元の世界にいた頃の話だ。弟や妹のように思っている幼馴染と一緒に映画を観に行ったことがあった。現実の、それもたかだか十数年前に起きた戦いの記録。両親が参加していたことも知っていたがどうしても御伽噺のように非現実じみて見えたのを憶えている。大きな争いなんて続かない方がいいに決まっている。功績を残すことだけが価値ではないと知っていた。それでも自らの目的を果たすには現状ではどうにもならない気がして水面に落ちた雫が波紋を描く。
 こちらに来たのは想定外の出来事がきっかけだった。突然届いた声に応える以外の選択肢はなく、そして、運命的に追い求めた相手と出会った。彼の息子である仙火はさくらの想像とまるで違う人物で肩透かしを喰らったが。彼の腕を掴み、引っ張り上げながら己の強さも磨いていく。しかしそれだけでは駄目だと思うのだ。生まれは違えども、EXISを手にナイトメアと戦う身だ。この世界で生きる人々と、彼らがこれまでに積み重ねてきた歴史を知りたい。そう思いここに来た。
「……まさか、貴方に会うとは思いも寄りませんでしたが」
 ぽつりと零して、目線だけを動かして隣を見る。じっと食い入るようにスクリーンを見つめる彼は心なしか幼子のようで、その純粋さと戦いに身を投じる際の眼差しの噛み合わなさに抱いた胸のさざめきをさくらは押し黙ってやり過ごした。

 ◆◇◆

「……えっ?」
 真正面に座ったさくらが瞬きする。薄く開かれた唇はきゅっと結び直され、改めて綺麗にフォークで巻き取ったパスタを口へと運んだ。一連の動作を見ていると一般的な作法だから何もおかしくない筈だが、顔立ちが似ているだけに母と一緒にいるような錯覚を抱く。訝しげな目を向けられたので仙火は思考を打ち切って言葉を続けた。
「だからフィクションなんだと。さっきの映画」
 若干ちゃんと見てたのか突っ込みたくなる怪しい部分はあったものの、こんな出来事が現実にと、甚く感動した様子の彼女に水を差す形になったのには少し罪悪感を覚えるが。事実を誤認したまま他人に話しでもすれば恥を掻くのは彼女だ。なのでここはきっちりと訂正しておく。事前に買っておいたパンフレットを見せれば一旦手を止め、内容を確認した彼女の顔にうっすら落胆の色が滲む。
「そうでしたか……」
「とはいえ別に、面白さが損なわれるわけじゃねえだろ?」
「それとこれとはまた話が違うのです」
「はぁ」
 生返事に訓練をつける時のような鋭い視線が飛んでくる。食事中なのでそれ以上続かないのを有り難いことに仙火も自分の目の前にあるオムライスに手を付けた。さくらの様子からしてここの苺パスタはいけそうなので今度一人で来た時にでも挑戦しようかと考える。苺好きとして気にはなったのだが、彼女が先に選んだので同じ物を頼むのもなと気が引けてやめたのだ。しかし、任務や鍛錬外で彼女と会うのは珍しく、成り行きとはいえ映画を観終わった後もこうしてファミレスで同席しているのは不思議な気がする。ノンフィクションなのが重要らしいがそもそも何を思って観に来たのか、想像もつかなかった。
「史実通りのがいいなら、この前やってた奴は確かそうだったと思うぜ。そのうち見れるようになったら教えるぞ?」
「……ではお願いします」
「了解っと」
 手を止め、スマホを操作し動画配信サイトで検索をかけて近日配信となっている件のタイトルをフォローする。改めて見ようと思っていたがすっかり忘れていたので丁度良かった。しかし。
(あれ、これうちで見ることになんのか?)
 両親も幼馴染も歓迎するだろうし仙火としても問題はないが。それでも彼女の家で、と考えてみてもどちらもしっくりと来ない。この前幼馴染と三人でパーティーの練習を行なったこともあったが、あれも詰まるところ小隊の関連だ。仲が悪いかと問われれば否定出来る。生真面目な傾向はあるものの、一点を見据えてひたすら突き進むさくらの姿を見ていると羨望のような後ろめたさのような曖昧な感情も含むとはいえ清々しいのも確かだ。そもそも嫌いな人間に付き従ってまで強さを追い求める程ひたむきになれないと思う。彼女にとっての自分もそうであってほしいと願いながらも目的が定かではないので何とも言えなかった。
「――仙火は、ああいった話が好きなのですか」
「ん?」
 不意の質問に顔を上げれば、さくらが紙ナプキンで口元を拭っているところだった。スプーンですくい上げた卵とケチャップライスを口に運んで、音を立てないよう咀嚼しつつ思考を巡らせる。お茶を飲んでから答えた。
「好き、っていうか……知っといた方がいいんじゃねえかって思ったんだよ」
「知るとは?」
「この世界のことをちゃんと」
 補足にさくらが目を見張り、伏せれば薄紫の睫毛が金色に覆い被さる。表情の変化に乏しいのと儚げな色彩のせいで瓜二つの母より大人びて見えることもあるが彼女は年下で高校生だ。まじまじと見れば幼いと判る。
「俺はまだお前みたいに強くねえし、あの誓約の意味も……理解出来たって胸張って言えないのが正直なとこだ。ただ帰れねえ以上はこっちでの生活を目一杯楽しむ。そしたら、この世界の人を護る為にもっと頑張れるんじゃねえかなって、そう思っただけだよ」
 昔、幼馴染が拐われた時もこちらに来るきっかけになった母の件でも、自分は何ひとつ役に立てなかった。どれだけ成長を実感しても父の背中は遥か遠くに微かに見えるだけ。一人でこの戦いに影響を及ぼせるなどと思い上がりはしない。しかし居ても居なくても同じだろう。そう思うのはしょっちゅうだ。
 さくらに語ったのも本当だ。だが別の理由もある。
 仙火にとって父は変わらず最強のサムライだ。天使と人間のハーフである為に幼少期は幼馴染以外からは距離を置かれていたが、それでも父を恨む気持ちは一欠片もなかった。一緒に戦った天使がいると忘れている人たちの方が許せなかった。今は素直な憧憬には程遠く、自分を想って口にしているだろう言葉さえ上手く飲み込めないが、背を向ける日は絶対にやって来ない。そんな確信がある。仙火が英雄譚を観たくなるのは父が己の中で一番と確認する行為だからだ。現実は創作を凌駕している。
「しかしまあ、あの戦闘シーン結構気合入ってたよな。SALF監修って書いてあったけど実際に誰がやったのか気になるぜ。……もしかして知ってる人だったりすんのか?」
 なあさくら、と話を振ってみるも彼女は無反応。行く前にいつも通りの鍛錬をこなし風呂にも入ったので疲れは取れているがまだ食べ足りない感がある。追加で何か注文するかとメニューへと伸ばした手が掴まれた。眉と眦が少し下がり、唇の両端は逆に少し上がる。理由は不明だが、やけに嬉しそうに見えた。
「これから鍛錬といきましょうか」
「……は?」
「もっと頑張れると、そう言いましたよね?」
「あー……」
 言った。確かに言いはしたが。反射的に引きかけた腕を細腕とは思えない力で逆に引かれる。さくらの瞳に儚さはなく、北極星のように道標になろうとしていた。今はただ追いかけるだけの立場だ。だがいつかは――。
「分かったよ。今日はとことんやってやるぜ」
 本気で逃げようとすれば少なくともこのファミレスから脱出するくらいは出来る筈。そうしなかったのが仙火の答えだった。手が解かれると立ち上がってレシートを回収する。不服そうな眼差しにいつも世話になってる礼と返し、仙火は大きく伸びをして歩き出した。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
仙火くんのお父さんに対しての感情であったりとか、
仙火くんとさくらちゃんの関係についてだとか
かなり自己解釈が多いので、大外れだったら申し訳ないです。
ですが近くもなく遠くもなくな距離感で思うところがありつつも
ラブコメの主人公&ヒロイン的雰囲気もあるのがとても好きです。
(見えるだけで実際には判らないので恋愛要素は入れてませんが)
今回は本当にありがとうございました!
おまかせノベル -
りや クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年05月16日

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