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『絆は永遠に 』
藤咲 仁菜aa3237)&九重 依aa3237hero002

●久しぶりの再会
 とある街の喫茶店。入口の前で、一人の少女と少年が顔を合わせていた。片やロップイヤーの耳を持つワイルドブラッド、片や血のように赤い瞳を持つ英雄。彼らの名前は藤咲 仁菜(aa3237)と九重 依(aa3237hero002)。“王”の脅威に晒されたこの世界を救ってみせた、正真正銘のヒーロー達である。
 彼らの顔を今更知らぬ者も無し、ついでに美男美女となれば、道行く人々の視線を集めるばかりである。黄色い声が、彼方から微かに聞こえてきた。ヒーローを素直に讃える声から、実際に見たら余計に綺麗だの、付き合ってるのかだの、ミーハーな声も聞こえてくる。
「な、何だかみんなに見られてると落ち着かないな……」
 仁菜は頬を赤らめて俯く。連戦に次ぐ連戦が終息し、平和になった日々はとかく楽しい。けれども、元来ビビりな彼女は、右を見ても左を見ても憧れの眼差しが飛んでくる今の状況はとにかくたまらなかった。きょろきょろ辺りを見渡している仁菜に、依は小さく肩を竦めた。そっと歩み寄ると、彼女の肩を掴む。
『気にしなければいいだろ。どうせ今だけだ』
 依は背中で仁菜を庇いつつ、喫茶店の中へと押し込んだ。

 喫茶店に入った二人は、隅のボックス席へと腰かけた。ウェイトレスはわくわくした顔をしているが、それ以外に視線は無い。ようやく落ち着ける。仁菜は深く椅子にもたれて溜め息をついた。
「あー、ようやくほっとした……」
 差し出された手拭いでそっと手を拭きながら、仁菜は頬を緩める。水の入ったグラスを傾けつつ、依は仁菜を見つめた。彼女はボタンを外し、胸元が窮屈そうなブレザーを脱ぐ。戦いの中で一回り大人になった彼女だが、平和な世界では一人の中学生に違いないのだ。
『あいつはどうした?』
「生徒会。みんなから色々ヨイショされて、何だか張り切っちゃって……これから文化祭についての話し合いなんだって」
『まあお似合いなんじゃないか、あいつには』
 依は僅かに頬を緩め、やってきたウェイトレスにウィンナーコーヒーとパンケーキを注文する。喫茶店に来るといつも頼む組み合わせだ。陰のあるイケメンという見た目に似合わず、甘い物が大好きなのである。
「依こそ、一人暮らしを始めてからどうなの? ごはんちゃんと食べてるの?」
『別に食べなくても生きていけるしな……』
 仁菜から目を背け、依は外を見つめる。仁菜はぷっくりと頬を膨らませた。
「もう、離れ離れになったら早速そんなささくれた暮らしを始めちゃうんだもん」
『たまにメロンパンくらいは食べてる。それに、別に一緒に住んでた時もレトルトやインスタント食品ばっかりだっただろ。大して変わらないぞ』
 さらりと言ってのける依に、仁菜は頬をそっと赤らめた。
「それは戦いばっかりで忙しかったから! 今はちゃんと料理の練習とかもしてるもん。妹だって目を覚ましたし……」
『ま、料理するなら仁菜しかいないだろうな。あいつは酷い』
「まあね。キッチンに入れないのが結構大変……なのはともかく、私は心配してるんだよ。 依が抜け殻みたいな暮らししてるんじゃないかって」
『俺を何だと思ってるんだ。……俺だって前とは違う。本を読むなり、バイト探すなり、それなりに暮らしてるさ』
 注文の品が届く。スプーンでクリームを掬いつつ、依はふと微笑んだ。
『だから心配しなくていい。お前らはお前らの事に集中しろ』
「集中しろったって、別に……私達中学生だし……」
 仁菜は耳元まで赤くなり、小さく俯いた。依は溜め息をつく。
『だからだ。お前ら、少し気を抜いたらただのパートナーになるだろ。適度にデートしろ。記念日はしっかりつけておけ。自分達は付き合ってるんだって忘れないようにな』
「依がそんな事言うなんて」
『言うだろ。誰が一番やきもきさせられたと思ってるんだ』
 半人半妖として絶望していた依にとって、信頼できる存在は仁菜達しかいなかった。だからこそ依は待ち望んでいたのだ。仁菜が幸せになる時を。パンケーキを切り分け、彼は素早く口へ運ぶ。
『だから、気にして俺のことをこうして呼び出す事なんか無いぞ。お前らはお前らのことに集中してろ』
「……駄目だよ、そんなの」
 仁菜は口を尖らせる。
「せっかく平和になったんだもん。依だって――」

 その時、二人の携帯が一斉にアラートを発した。

●久しぶりの共闘
「こんな時に限って……!」
 肩を並べ、仁菜と依は一斉に走る。ビル街の狭間が歪み、中からライオンにも似た巨大な獣が姿を現す。道路に爪を突き立て、猛獣は荒々しく咆哮した。
『これくらいなら大したことないだろ。行くぞ』
「うん!」
 仁菜はブレザーのポケットから幻想蝶を取り出し、隣の依に差し出した。依は仁菜に手を差し出し、そっと握り合う。光と闇が溢れ、二人の身体が一つに融け合う。黒いレザージャケットに身を包んだ仁菜が、ナイフを片手に姿を現した。長い耳を風になびかせ、深紅の瞳を輝かせる。ナイフを手の内で弄び、彼女はうっすらと艶めいた笑みを浮かべた。
「さあイントルージョナー、かかってきなさい!」
 獅子と兎、涎をだらりと垂らして、獣はピタリと身を伏せる。仁菜はナイフを逆手に持ち、彼女も軽く腰を落とした。闘志がみなぎって、ピリピリと茜色の毛先が揺れる。
 互いの隙を窺うように、じりじりと彼女達は円を描く。彼女の気迫に気圧されたのか、獅子の後足が僅かに下がる。
『チャンスだな』
「わかってるよ」
 仁菜は笑みを浮かべると、軽く獅子へと踏み込んだ。傾く陽を浴びたナイフの照り返しが、獅子の眼を突き刺した。獣は呻き、いきなり仁菜へと飛び込む。少女は咄嗟にバク転、振り下ろされた爪を躱すと、身をぴったり伏せて獅子の懐へと踏み込んだ。獅子は高く跳び上がり、仁菜を踏みつけにしようとする。
「そこ!」
 仁菜は跳び上がる。兎の脚力は、軽々と獅子の頭上を取った。右脚にライヴスを集めると、鋭く身を捻って踵落としを叩き込む。頭蓋を穿つ鈍い音が響き、獅子はズシンと地面に叩きつけられた。仁菜はすとんと地面に降り立つ。彼女は得意げに微笑んだ。
「うん、まだまだ衰えてないね!」
『まあ、何だかんだで戦いは終わってないしな。来るぞ』
「オーケー!」
 依のアドバイスを聞きつつ、仁菜は白い歯を覗かせた。獅子の噛み付きを受け流すと、たてがみを素早く剃り落とし、その首筋を露わにする。獅子は腕を振り回し、仁菜を力いっぱいに跳ね除けた。
「うわっと!」
 仁菜は吹っ飛ぶが、地面を転がり素早く受け身を取ってみせる。仲間の盾として戦い続けた少女の事、敵の一撃を堪えるくらいはわけもなかった。立ち上がると、彼女はナイフに霊力を纏わせる。
「やってくれたわね!」
 彼女はにやりと笑うと、その身を二つの影に分裂させた。獅子は唸りながら、右に左に散る二人の仁菜を睨みつけた。
『……これで終わりだ』
「切り捨て、御免ねッ!」
 再び懐に潜り込むと、逆手に持ったナイフを獅子の首筋に当て、深々と切り裂いた。鮮血が滝のように迸り、仁菜達を押し流す。
「うわっ」
 獅子は呻きながらもがき苦しみ、すぐにぴくりとも動かなくなった。
「ふう……今日も何とかなったかな?」
『他に出現の情報はない。今日のところはこれで終わりだ』
 仁菜はほっと溜息をつくと、そっと共鳴を解いた。
「良かった」
『……』
 心から安堵している彼女を横目に、依もこっそり頬を緩めたのだった。

●絆はいつまでも
 すっかり陽が傾き、空の彼方が橙色に染まっている。依と並んで、仁菜はビルの狭間に沈む夕日をじっと見つめていた。
『そろそろ帰る。お前もダークマター作られる前に早く帰っとけ』
「う、うん。そうだね」
 仁菜が頷いている間に、依は踵を返して歩き出す。しばらく黙ってその背中を見送っていた仁菜だったが、彼女は意を決して声を張り上げた。
「今度妹の退院祝いパーティーするから、依も絶対来てね!」
 聞いているのかいないのか、依は全く足を止めようとしない。そんな彼の背中を追いかけて、仁菜はさらに声を張り上げた。
「平和になったって! 私達の絆は変わらないんだよ! いつまでだって繋がってるんだから! 絶対に!」
 依は仏頂面のまま、彼女の叫びを聞いていた。根負けしたように、彼は右手を掲げる。
『そんな事は分かってるさ』
 表情は相変わらずだったが、その足取りはすっかり軽やかになっていた。

 仁菜も笑みを浮かべ、夕陽を背にした依の背中をいつまでも見守っていた。



 END



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 藤咲 仁菜(aa3237)
 九重 依(aa3237hero002)

●ライター通信
いつもお世話になっております。影絵企我です。

実は依さんを書かせて頂いたのは初めてだったのでは……? と思いつつ、何とか書かせて頂きました。イメージ通りのキャラクターになっているでしょうか。3人には末永く幸せな未来を過ごしていただきたいものです。

ではまた、ご縁がありましたら。
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2019年05月16日

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