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『灯籠アパートの310号室のアルラウネ 〜囁く香〜 』
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 世界には一つとして過ぎ去らないものはない――という言の葉集を読んだことがあるけれど……ふふ、どうかしら。灯(ka7179)――そう、私の心(せかい)は強情なの。

 だって、今も私の誠が囁いているのよ。
 “彼”の心の底をノックしたらどんな音が返ってくるのかしら、って……この“狭間”でも、私の意識を留めて離さないの。



**



「ありがとうございました」

 私は本日最後のお客様をお見送りした後、手早く後片付けを済ませ、アンティーク風のCLOSEDボードを下げた『花瑠璃』を後にしました。

「綺麗な夕空……」

 空には、ノスタルジックな夕陽の川が流れていました。
 私はポトフ商店街で食材を買い、逸る心に足を急かされ、住まいの灯籠アパートへ。蔓の鍵に掌を翳して部屋の鍵を開けると、胸に抱えていた紙袋をキッチンカウンターに置きました。脱いだ上着は椅子の背に掛け、代わりに頭から被ったのはパステルミントのフラワーエプロン。ウエストマークにもなっている長い紐をキュッと結び、シュシュで髪を結い上げると――

「キッチンを前にした女性の勝負服というところかしら。さあ、やるわよ」

 気合いを入れ、水栓を開けました。

 何時もお米は炊飯器で炊いてしまうのだけれど、今回は土鍋で。熱がゆっくり伝わって、ふっくらと美味しいご飯が炊けるから。
 その間に、具――そう、おむすびの具の準備をしておこうかしら。

「甘い物は苦手だけれど、辛味や酸味の強いものは得意だと言っていたわね」

 一つは梅昆布。もう一つは……柚子胡椒風味の鶏天むすにしましょう。

「天むす……そう言えば、茶房の魔女さんが“茄子天むすも美味”と薦めてくれたけれど……どう作るのかしら? 今度レシピを教えてもらわないと」

 梅は種を取って、包丁で叩いておきます。この梅干しは猫娘さんからの頂き物。赤紫蘇と一緒に漬け込んである、昔ながらのお味。とても酸っぱいのだけれど……ふふ、彼女の元気を分けて貰っている感じなのよね。

「お焦げは作らないから、そろそろ火を止めた方がいいかしら。10分程蒸らして……」

 その内に、削ぎ切りにした鶏ささみを揚げましょう。柚子胡椒を多めに塗って……油はこめ油でいいかしら。

「……ん、具の用意は出来たわね。ご飯もかき混ぜて余分な水分を飛ばしたし、早速握りましょう」

 ご飯茶碗に軽く一膳よそい、梅、塩昆布、白胡麻をたっぷりと入れて混ぜ込み、俵形に握ります。

「ふふ、まるでお稲荷さんみたい。そう言えば、烏天狗さんや九尾の狐さん達は昨日から泊まり込みの依頼があるって言っていたわね。お仕事、順調かしら」

 天むすは具の存在感を出す為に、小さめの三角おむすびにしましょう。
 冷蔵庫に一晩漬けておいた一番出汁は、豆腐とわかめのお味噌汁にしようかしら。定番だけれど、美味しいものね。

 私は漆器の重箱におむすびを詰め、マグボトルに出来立てのお味噌汁を注ぎました。そして、重箱を翡翠色の風呂敷で包み、それらとおしぼり、紙皿やお箸などをバスケットへ入れ、脱いだエプロンを軽く畳んでカウンターに置くと――

「(……化粧っ気のない女と思われていないかしら)」

 視界に映ったドレッサーに、ふらりと引き寄せられ、腰を下ろしました。
 フラワーベージュの色を唇に引き、花弁を咲かせます。魔法が込められた紅ではないけれど……その鮮やかな色から、ほんの少しの勇気を分けてもらいたいの。

「――あ、いけない。もうこんな時間だわ」

 私はクローゼットから取り出したお気に入りのカーディガンに袖を通しました。ショルダーバッグを肩に、バスケットを腕に下げ、私が足早に玄関の扉を開くと――

「おっと」

 微かな驚きを含んだ声音が、私の頭上で意想外に弾けました。



 ……私の胸の、奥も……弾けたわ。



「琉架さん……?」



 だって私、



「え……? どうして此処へ? あ、いえ……その、今夜は夜勤だと伺っていたので……」



 あなたに、会いたかったから。



「ああ、一度はアパートを出たんだけどね。今夜は早仕舞いだったのかい?」
「……?」
「行き掛けに君の店へ寄ったら、もう閉まっていたから。部屋を訪ねれば会えるかと思ってね」

 そう目笑すると、彼――七歩蛇の琉架(kz0265)さんは胸元から見覚えのある布地を抜き、私に差し出しました。

「先日、茶房で茶会をしただろう? その時にハンカチを忘れていたようだよ。君に渡しておいてくれと店主から頼まれたんだ」

 店主……そう、魔女さんの計らいね。

 丁寧に四つ折りにされたハンカチを受け取ると、仄かに鼻腔を擽ったのは、白檀の香。……その香りに、酔ってしまいそうになる。

「わざわざありがとうございます。……あ、あの――」
「これからデートかい?」
「えっ……」

 恐らく、私の余所行きの様子を見て、そう思われたのでしょう。
 琉架さんの面差しは変わらず穏やかでしたが、

「邪魔をしたね。じゃあ、よい夜を」

 不意に私から視線を外し、私の視界から遠離ろうとしました。まるで、空気を、意識を、遮断するかのように。
 私はその隔たりが堪らなく切なくて――

「違います……!」

 彼の腕を掴んでいました。
 彼は俄に瞼を開き、肩越しに振り返ります。絡んだ視線に、後戻りは出来ない。――させない。

「私……あなたに、お夜食を渡したくて……」
「夜食?」
「はい。先日のお茶会で、茶房へ贈る花を運んで下さったでしょう? 一人じゃ大変だろう、って。そのお礼を、と」
「ああ……そんなことか。何度も言っているだろう。只の気紛れだよ。礼を言われることじゃ――」
「いいんです、それでも。私……あなたの気紛れ(やさしさ)が、本当に嬉しいんですよ」

 時には、空よりも遠く。
 時には、指先よりも近く。

 常に、昼の面と夜の面を持っているあなたを、もっと知りたい――そう、私の誠が囁くのです。
 迷いは降り注ぐ雪のようにあるけれど、それでも、立ち止まりたくはない。

「だから……私、あなたに会いに行こうとしていて。ご迷惑でなければ、その……自警団の方へお邪魔しても、いいですか?」
「どうぞ」
「……!?」

 確か、前にも似たようなことが……。
 面を食らう私と、そう……微笑みを僅かに深くした、あなたの悪戯好きそうなその表情。










「“あの時”、君は名を求めた。今度は一体、何を求めるのだろうね?」



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
平素よりお世話になっております。ライターの愁水です。
お馴染みとなりました灯籠アパートノベル、おまかせVer.をお届け致します。

何を書こうかとギャラリーを覗かせて頂き、先日納品されていたとあるPPのイラストでピーンとネタが下りてきました。今回は、そのPPの後日談的な内容となります。
又、過去のリプレイから引っ張り出してきた“既視”も、お気に召して頂ければ幸いです。

此度のご依頼、誠にありがとうございました!
おまかせノベル -
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ファナティックブラッド
2019年05月16日

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