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『そんなやり方って 』
メアリ・ロイドka6633

 あちらこちらから気迫の声が、素振りの音が聞こえてくる。
 リアルブルーの凍結、月の転移に伴い、新人ハンターが一気に増えた。そんな中でオフィスが主催した自由訓練。
 自由訓練の名の通りの自由さで、ベテランも新人も勝手に参加して教えたり教わったりしろという丸投げな空間の中、教えを乞うて真面目に鍛錬しているものあり、見るのも稽古だと先輩同士で模擬戦を始めたりと大分フリーダムな空気となっている。
 そんな中、メアリ・ロイド(ka6633)は高瀬 康太(kz0274)を見つけると近付いていく。
「……酒に酔って絡んでご迷惑をおかけしました。今日は貴方と訓練もかねて、真剣勝負をしたいと思いまして」
「……臆面もなく、という言い回しがここまで相応しい場面も中々無いんじゃないですかね」
 メアリの声掛けに、康太は呆れを隠さずに返した。
「康太さんは真面目だから、手を抜くなんて事はしないだろうけど、私と勝負する理由がないとか言って断ってきそうなので。あなたが欲しがりそうなものを景品として持ってきました」
「ホントめげませんね貴女!?」
 全く意に介した様子もなく続けるメアリに、康太は思わず声を荒げる。康太は康太で、いい加減諦めればいいのに学習しない男である。
 結局今回もまんまとペースに飲まれて立ち去さらない、そのことを自覚できていない康太の前で、メアリが取り出したのは蓄音石。
「にゃん語尾になる歪虚と戦った時の貴方の喋り、記念に録音してました。康太さんが勝ったらこれのデータを削除して結構です」
「……。はあぁ!?」
 一瞬の後、事態を理解した康太が悲鳴じみた声を上げる。反射的に、ちょっとどういうことだ確認させろと石に向かって飛び付く康太を、メアリはさっと避ける。
「私が勝ったら、私の事名前で呼んでください」
 そうしてしれっと話を続けるメアリの、その条件を告げたとき、康太の表情は畜音石を見せたときよりも更に不機嫌そうに歪められたようにも見えた。
 苛立たしげに、メアリの持つ石とメアリの表情、交互に視線をやりながら悩む康太。
「……どう勝負するつもりなんです」
「三本勝負でどうでしょうか。一つは高瀬さんが、一つは私がそれぞれ指定。最後に模擬専用の刀で試合で」
「……」
 賭けはともかく、提案される内容自体はまともだ。模擬戦用の刀──つまり精霊の力の差によるダメージの違いは考慮しなくて良いということだろう。それならば即座に叩きのめされて終わり、ということもあるまい。
 ……であれば。興味はある。最前線で戦い続けるハンターの動き、今の自分がそれにどれくらいついていけるのかは。
 やがて。
「……わかりました。受けて立ちます」
 静かに──極力平静になろうと努力したのが伺える静かさで──康太は答えた。
「有難うございます」
 そうしてメアリは、いつもの無表情、淡々とした声音で礼を述べた。

「では、はじめの勝負はどうしましょうか」
「──精密射撃で」
 答えながら康太は早々に射撃場へと向かう。
 ルールは単純。交互に的を10回撃って規定通りスコア計算をして高い方の勝ち。分かりましたとメアリは頷く。
 持ちかけてくるだけあって得意分野なのだろう。
 伸ばした姿勢、ぶれない構え。参考にとメアリは彼の射撃を見つめる。
 お互い技量はある同士だ。結果に差が出るとしたら……──
 メアリは、先ほど目の前で撃ってみせた康太の姿を思い出しながら的に向けて構えて。
(──……ああ。やっぱり好きですね)
 そんな、ほんのわずかな感情が混ざることによる集中の差。
「……僕の勝ちですね」
「そうですね。流石」
 宣言する康太に、むしろどこか嬉し気に微笑んで返すメアリに、康太は複雑な表情を浮かべた。
「それで、次の勝負は何なんです? そちらが決める番でしょう」
「ええ……」
 メアリが提案したのは、銃の分解をして早く組み立てるという勝負だった。
 分解整備。勿論銃の使い手ならば必要な知識だ。康太としては何ならここで勝負をつけるという意気込みで望んで……その手つきは実際安定はしていた。が、頭で理解していて、きちんと出来る、その手際。
 もはや手慰みとしてやりつくして、考える前に指先が覚えているといったメアリの腕前には半歩遅れる。
「出来ました」
 淡々とした声でメアリが組み立て終えた銃を掲げて見せると、康太は一瞬不審の目を向けて。
 メアリがそのまま立ち上がり、先ほどの射撃場、そこで一発撃ってみせると、黙り込むしかなかった。
「これで一対一ですね」
「まあ……良いでしょう……」
 そうして二人は、最終決戦に臨むことになった。

 道場で、刀を手に互いに向かい合う。
 メアリはどこか無造作に、片手に持ち斜めに下げて。
 康太は、馬鹿正直なほどに基本に忠実な青眼の構え。
 ひたり、射抜く目と突き付けられる切っ先。基本が基本たり得るのは勿論、蓄積によりその有用度が認められているからだ。簡単に隙は見せてくれない、メアリは素直に認めた。
 先ずは試しにと、メアリから仕掛ける。ふわり。どこか舞うような足取りと共に回り込むような軌道を描いて襲い掛かる一撃。
 康太は足取りに惑わされず、冷静に切っ先を追って、最短で己の刃をそこに合わせて弾いた。メアリの刃が跳ね上げられる。そのまま切り返して康太の剣閃が真っ直ぐメアリに向かった。迫る刀、その動きを目でとらえ続けて、弾かれた腕を力づくで引き戻すと、メアリは康太の一撃を受ける。
 ……何でその姿勢から間に合うんです?
 康太の表情が不可解に歪む。並の動体視力と筋力でやってたらあっさり負けたんだろうな、とメアリは思った。
 そんな風に暫く打ち合いを重ねる。
 ──……真面目だから太刀筋は読みやすいかも。
 事前にそんな予測を立てていたメアリだった。そしてそれは確かにその通りだった。
 誤算だったと、すれば。基本に忠実である、という事は、ここまで隙が少ないものなのか、という事だ。
 中心に構えた位置から、真っ直ぐ、狙った場所を最短で打ってくる。確かにそれが一番速い。何とか見切って躱し、或いは受ける。
 翻って自分の惑わすような動き、奇策というものは成程、通じなければただの無駄、軌道を複雑にすればその分届くのが遅れ、対処の時間を相手に与えるという事なのだろう。
 ……その差があって、どうして押し切られないで済んでいるか。身体能力、そして経験の差。鋭い康太の一撃を、長らくの激戦で積み重ねてきたものから生まれる勘のようなもので動き、止めて見せる。
 焦りが、彼の隙を生んでくれないだろうか。構えなおした彼が、一つ呼吸を整える。
 崩れなかった。彼は冷静だ。思う通りに行かなくても戦場では己を律し続けて見せている。
 忠実な剣に、彼の真っ直ぐさを感じる。メアリの闘い、それが彼の技量に追いつき、上回りうるものであることは認め始めているのだろう。その視線は怪訝なものから興味を持つものに変わり始めてはいる。
 だが、それでも。自分はこれが正しいんだ、今の自分にはこれしかないんだと──これまでの自分の積み重ねを信じようと、護ろうとする、愚直な剣。
 メアリの剣に誘われず、それを保ち続ける冷静さからは。
 絶対に負けたくない。そんな、確固たる意志を感じた。
 賭けのテーブルに着かせるうえで蓄音石を持ち出したのは予想通りの効果だったが、それ故に負けられない戦いにしてしまっただろうか。
 あるいは。
 ──そこまで、私の名前呼ぶの嫌ですか?
 踊るように、剣先が舞う。真面目な彼に、誘いをかける。
 彼が無駄だと思うもの。邪魔だと思うもの。
 そんなに、悪くは無いと思いませんか?
 ……ねえ、少しこっちを見てくださいよ。

 焦りに呑まれそうになる己を必死に抑える。
 康太は実際、この戦いに絶対負けたくはなかった。
 元来負けず嫌いではあるが、やはり彼女の出した条件が拍車をかけている。蓄音石──もだがやはり、『名前を呼べ』の条件の方だ。
 呼べない。呼んではいけない。そうしたら何かが変わってしまう気がするから。
 ──それが定めというのならば。
 そうせねばならないならば、その時がいつかは僕が決める。こんな風に、賭けなんかで無理矢理呼ばされるのではなく。
 彼女の動きに引き付けられる、その事を自覚すればするほど、その想いを深めていく──こんな形で、呼びたくない。
 ……彼女がそれをこんなやり方で望むのも理解はできるが。そんな風にゆっくり己の心が変わる様を待っている暇など……もう自分には残されていないのだから。
 だけど。それでも。
 こうやって意地を張れるうちに終われるなら、それもまたそういう定めなのだと。それが己の在り方なのだと、康太は思う。
 だがしかし、もうわかっている。このままでは勝てない。今己に出来る最適の動きとも言える一撃も、防がれた。
 ならば彼女のように奇策、不規則な動きを用いて、活路を見出すべきなのか。
 だが、己がそうして彼女の攻撃を凌ぎ牽制しているように、下手なやり方をすればそれは大きな隙を生むだけなのだ。
 今の自分で何が出来る。策。何か策を練らねば。その名を呼ぶなら、呼ばされるのではなく……──
(奇策、か……)
 閃いた。己の望みを叶える、その活路。
(いや、だが……)
 戸惑いは、生まれる。そんなやり方で勝って意味があるのか。
 だが。
 追い詰められていく。
 勝てないと分かる。
 それくらいなら。
 康太が構えなおす。必勝の瞬間に向けて意識を研ぎ澄ませる。
 雰囲気をメアリも感じ取ったのだろう。仕掛けてくる、その気配を察知して、メアリが意識を強く康太の動向へと傾けてくる。
 そして。
 彼が動く。

「──……メアリさん」

(────…………は?)

 今、なんて?
 何かの間違いだったのか現実だったのか。メアリの意識が、それを認識することに全てを持っていかれる。
 次の瞬間、メアリの手元に凄まじい衝撃が走った。
 メアリの刀の鍔元近くを激しく叩かれて、そのまま衝撃に刀を取り落とす。そうして……康太の刀の切っ先が、メアリの眼前に突き付けられた。
「……僕の勝ちですね」
 康太が宣告する。それに。
「あー……はい。そうですね」
 まだ呆けた声で、メアリは答えた。
「……何、『だから何?』みたいな反応してるんですか?」
「え? ええ……」
 言われて、メアリは実際そうだな、と思った。確かに勝負には負けたけど……そんなもの、メアリにとっては今はもう、『だから何?』だ。
 暫くして、漸く、負けた自分をしっかりと認識、実感して……──それでも、メアリに浮かぶのは嬉しそうな表情だった。
「康太さんは、本当に強い。勝負には今持てる私の全力を出しました。覚醒した時、歪虚と戦う力は得たけど、基本の戦い方、戦法はど素人。鍛練して、戦場で場数を踏んで覚えたんですよ」
 メアリがそう言うと、康太はどこか居心地悪そうに視線を逸らした。冷静になれば康太も自覚はしていた。結局ここまで戦い抜けたのは『模擬専用の刀』での勝負だったからだ。本来通りの実力で勝負すれば、削り切られている、或いはどこかで押し負けている。
「だから貴方が私の倍以上積み重ねた鍛練、膨大な戦いの場数をこなして戦っているのがわかる。その姿を尊敬しています。好きな人に名前を呼んでもらいたいのも理由ですが、康太さんに戦友としていち個人として認識してもらいたくて」
 構わず続けるメアリに康太は益々意固地になるように首を振って。
「誤魔化さないでくださいよ、僕が勝ったんですから、きちんと約束は守ってください」
「あ、ああ……そっ……か」
 思い出して、メアリは蓄音石を取り出す。約束は守る──そのつもりだ。でもやっぱり、そうなると寂しさはある。
「……ちゃんと消しますから、もう一回、呼んでくれません?」
「え……い、嫌ですよ」
「一回呼んだんだからもういいじゃないですか」
「い、いやそれは……ま、負けたくせに何調子に乗ってるんですか! 知りません!」
 そうして康太は、ふい、と完全い顔を背けてもう付き合えないとばかりに足早に去っていった。
 ……結局、メアリが蓄音石からデータを消すのか、確認もせずに去ってしまって。誤魔化すことも出来ただろうが……いいや、ちゃんと消そう、と大きく呼吸一つして、決心する。
 きっと、これで一つ何か変わった。そう信じて。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注有難うございます。
OMCはIFの扱いです。描写について、実際のシナリオ上でのNPCの強さの参考とはなりませんのでご注意ください。
好き勝手書かせていただき、しかも勝敗おまかせと言いつつ実際NPC勝利で書く奴が居るかって話ではあるんですが
まあ正直……勝ったのかこれ? という感じではあるかな……と、個人的には思うのですが、いかがでしょうか。
というか、本編であんな態度取っておいてお前……この……差……!
いやなんかこう、逆に思い切り差分を出す方が良いのだろうかとかちょっと思ってしまってですね。
はい、そんなわけで問題があったら申し訳ありません。
改めまして、ご発注有難うございました。
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2019年05月17日

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