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『アイドルのお仕事 』
吉良川 奏la0244

 近隣でナイトメアの襲撃事件が起こった地域の幼児達を慰問する依頼。水無瀬 奏(la0244)はSALFからそう聞いて、この依頼への参加を決めた。
 彼女が目指しているのはアイドルだ。母親のようなアイドルに憧れ、自分もアイドルとして輝けるよう、日々努力を重ねている。
 そして彼女はライセンサーとしても誇りを持っている。ライセンサーの仕事は戦うだけでなく、人々を勇気づけることでもあるはずだ。
 熱く心を燃やしながらSALF制服に袖を通し、アイドルとしての衣装も鞄に詰めて出かけた。

 保育所の門を抜ける。いくらか年季が入った様子の、小規模な保育所だ。
 今は屋内での遊戯の時間なのか、庭には一人も幼児はない。
 やや疲れた様子の保育士に迎えられ、手の消毒をしてから幼児達の所へ。

「こんにちは!」

 丁寧ながら元気よく声を上げ、屋内へ入る。アイドルらしい笑顔も忘れていない。

 しかし幼児達は奏にあいさつを返さなかった。
 屋内の騒々しさで奏の声はかき消され、出入り口近くにいた子供以外は彼女に気付いてすらいない。

 怪獣のおもちゃで積み木の家を壊して遊んでいる幼児。
 その怪獣のおもちゃを奪おうとする幼児。
 二人は譲り合うことなく取っ組み合いの喧嘩を始め、保育士が慌てて仲裁に入る。

 大声で叫びながら部屋の中を走り回っている幼児もいる。
 絵を描いている幼児の紙を踏みつけていったがお構いなしだ。

「あの……ごめんなさい」

 保育士の一人が奏に謝罪する。

「ナイトメアの襲撃があったせいで、保護者の皆様も私達も含めて大人がピリピリしているから、子供達も落ち着きを失っているんです」

「そうなんですね……」

 奏は保育士の苦労を思いながら、改めて幼児達を見た。
 出入り口の近くにいる男児と目が合う。その子はサメのぬいぐるみを手に持っているが、ただじっと奏を見上げている。

 奏は男児の近くに屈むと、持ってきていたペンギンのぬいぐるみを彼の眼前で動かした。

「こんにちは! 私は奏っていいます。一緒に遊びませんか?」

 可愛らしいペンギンが左右に揺れる。

「……いい」

 男児は立ち上がると、部屋の別の隅へ行ってしまった。

 他の幼児にも話しかけてみたが、結果は芳しくなかった。
 次第に奏の表情も暗くなっていく。

 ペンギンのぬいぐるみを手にしたまま、奏は途方に暮れる。
 この子達にどう向き合えばいいのか分からない。

 自分が明るく振る舞えば、幼児達も元気を出してくれると思っていた。
 しかし、ここの子達とは会話を続けることすらできない。

 そんな様子を見た保育士が気を遣い、外で休んでくるよう奏に言った。
 素直に従い、廊下へ出る。
 足取り重く職員の控え室へ。
 鞄の中にペンギンのぬいぐるみを押しこむ。
 その拍子にアイドル衣装が目に入った。

 アイドルとして笑顔を見せ、そして人々を笑顔にさせる母の姿を思い出した。

「……皆さんに元気を出してもらいたいのなら、まずは私が元気な笑顔を見せなきゃ。暗くなっててどうするの!」

 奏は自分を奮い立たせた。
 アイドルを目指すのだ。アイドルが明るく元気でなくてどうする。

 手早くアイドル衣装に着替え、やや駆け足で幼児達の元に戻る。

「皆さん、ただいま戻りました!」

 扉を開け、開口一番に元気な大声を上げる。

 室内に満ちている騒がしさとは違う明るい声に、幼児達の注目が集まる。

「わぁ、きれい」

 女児の一人がぽつりと呟いた。
 奏がまとっているのは、彼女のためのアイドル衣装。
 青色と白色が、晴れた空と雲のように清々しく美しい。
 首元や袖、スカートの裾にふんだんに使われたフリルが奏の可愛らしさを引き立てている。

「私、奏っていいます。今日は皆さんと遊びに来ました。一緒に歌ったり踊ったりしませんか?」

 興味を惹かれた女児が、三人だけだが近寄っていく。
 奏は屈んで、彼女達がよく知っている童謡を一緒に唄った。
 笑顔が生まれる。
 美しい歌声に、段々と奏を中心とした輪ができていく。
 共に歌い、共に踊り、奏と幼児達は一体となって楽しんだ。

「私はライセンサーなんです。私達がいる限り、たとえナイトメアがやって来てもすぐ倒します。皆さんのことを必ず守ります。だから安心してくださいね」

 帰り際、幼児達に奏はそう言った。
 すっかり笑顔になった彼らは、驚きながらも奏お姉ちゃんなら約束を守ってくれるだろうと頷く。
 そしてまた来てねと幼い声を上げ、去って行く奏を見送った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 おまかせノベルのご発注、誠にありがとうございました。
 奏さんはアイドルに憧れているライセンサーということで、子供達を笑顔にするノベルを書かれてもらいました。
 楽しんでいただけましたら幸いです。
おまかせノベル -
錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年05月20日

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