▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『思い出も積み上げて 』
Nonamela1052

「これがソメイヨシノですな!」

 図鑑のページを1枚1枚丁寧にめくりながらNoname(la1052)は自身の記憶媒体に内容をインプットしていく。

「お勉強楽しいですぞー!」

 彼の傍らには以前依頼で行った古本市で購入した数冊の図鑑が積まれている。

 前に行った依頼で見上げた桜、冬の海で拾った貝殻や魚、その他にも色々なものの名前から特徴、生態、見分け方などが写真やイラストを交えて詳しく書いてある図鑑はどれだけ見ていて飽きない。

 思い出という概念があるのかどうかは分からないが、依頼を思い出しながら学習していくのは楽しいことだとNonameは感じていた。

「もっと色々知りたいですぞー!!」

 ライセンサーとして生活して1年。

 色々な経験をしていく中で、彼の記憶媒体にはたくさんのデータがインプットされた。

 ハイヒールを装備するとプルプル震えてしまうこと、雪合戦にも色々な種類があること、ナイトメアとの戦い方、アサルトコアでの動かし方、本当に色々な経験をした。

 だが、まだまだ足りない。

 こうして図鑑を広げるだけでも知らないことがこの世界にはまだたくさんあることを実感する。

「これは面白いですなー!」

 先程とは違う図鑑を広げると、ロボットの歴史が書かれていた。

 ベルトコンベアーの様に単一の動作を繰り返す装置や、アサルトコアの様に操縦が必要なもの、そしてNonameの様に自立して動くもの……。

 過酷な環境でも活動できるロボットをコンセプトに作られたNonameはそのコンセプト通りに過酷な戦闘でも生き残り続けている。

 様々な環境下で動けるように、長時間動けるように、本当に細やかに調整してくれていた創造主たちにNonameは心から感謝している。

 この感覚が『感謝』と言うものなのだと分かるくらいには。

  ***

 不意に、Nonameの記憶媒体からスリープモードから目覚めた時の記録がロードされる。

 目覚めた時、世界は闇だった。

 きしむ体を動かし、這い出してみた世界には瓦礫以外何もなかった。

 立ち上がる煙。

 そこには人影はなく、勿論、創造主もいない世界。

 夜明け前のその世界は暗く見えないところも多くあったが、少なくともNonameには廃棄場に写った。

 その時感じたのは、

『自分は捨てられたのだな』

 ということ。

 それに痛む心をNonameは持っていなかった。

 ロボットとして不要になった以上、廃棄されるのは当然だ。

 それは機械の定めだということはインプットされていたから恨みも怒りも湧かなかった。

 だが事実は違う。

 まだ調整中だったNonameは研究室の外を見たことがなかった。

 その為、分からなかったのだ。

 そこがスクラップ置き場ではなく、自分のいた研究室のなれの果てであることを。

 夜のうちにナイトメアの襲撃を受けた街は対抗する術もなく、そこにいた人々は蹂躙された。

 そんな事とは知らないまま、広い広い瓦礫の中を宛もなく歩いていると見慣れない人の影が見えた。

「何か捨てに来た人ですかな?!」

 おーいとNonameが手を振ると、白い服を来たその人影たちは驚いたような声を出して近づいてきた。

「おい、動いてるやつがいるぞ」

 明らかに人と違うフォルムに驚きながらも、その人達は海に浮かぶ人工島へ連れて行った。

「どこへ行くんですかなぁ!」

 初めて見る海にテンションを上げるNonameはそのまま『SALF本部』と呼ばれる白亜の建物へ連れていかれる。

「貴方の制作者は優秀だったんですね」

 適正検査をしながらそう言った職員の言葉は今でも鮮明に記憶されている。

「ありがとうございますですぞ!!」

 その言葉は創造主に言って欲しいと返しながら創造主たちの顔が浮かぶ。

 創造主達は本当に一生懸命自分を作ってくれていた。

 きっと、自分は彼らの望み通りにはならなかったのだろうけれど、それでもきっとその言葉を聞けば喜ぶだろう。

「そう、ですね。今度お会いしたら伝えておきます」

 あの時、職員がなぜ目を伏せたのかはわからないが、きっと彼らはこれからも凄いロボットを作るに違いない。

「お願いしますぞ!!」

 拾われたとはいえ、新しい仕事を示されたのであれば働くのもまた機械の定め。

 顔の部分にあたる液晶に笑顔を表示しながらNonameはライセンサーとして登録を済ませる。

 新しい職場が出来た以上、創造主たちにはもう会えないかもしれない。

 だけど、何時か自分が元気に働いている姿を彼らが見ることがあればいい。

 その時はきっと嬉しいような驚いたような顔をしてくれるだろう。

 初めて目覚めたあの時と同じ顔を。

「さあ、もう少し勉強ですぞー!!!」

 そしてもし、また会えることがあれば、離れていた間に蓄積したデータを見せよう。

 学んだことも、経験したことも全部彼らに話そう。

 その時、きっと彼らはどんな顔をするのだろうか。

 そんなことを考えながら、Nonameは図鑑に目を落とし続けた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 la1052 / Noname / 性別不明 / 10歳(外見) / 主を想う 】
おまかせノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年05月20日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.