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『ブラックコートのとある一日 』
榊 守aa0045hero001

●実は天然お嬢様?
 ある日の昼下がり。ブラックコート本部では、いつものようなやり取りが繰り広げられていた。
「イザベラ様、本気でその格好でパーティーに出向かれるおつもりですか」
 顔を曇らせ、榊 守(aa0045hero001)は真面目くさった口調でイザベラ・クレイ(az0138)に尋ねる。その服装は、ブラックコートの制服。軍服を基調としたデザインは端麗ではあったが、やはり軍服特有の角の強さは隠しきれていない。
「礼服には違いないのだからいいだろう。別に楽しい会食をしに行くわけでもないんだからな」
 リオ・ベルデで開かれる事になった国際経済フォーラム。先進国の首脳達が集う事になっていたが、H.O.P.E.のプリセンサーはそこにイントルージョナーが出現すると予見したのだ。中止も検討されたが、スケジュール変更が今更できる訳もなく。結局プリセンサーの予見に従い、可能な限り会議を進める事に決まったのだ。ブラックコートを護衛に立てて。
「しかし、会議や立食パーティーの最中にその真っ黒な軍服は物々しすぎます。国賓の近くに立つなら、それなりにわきまえた服装をすべきかと」
「軍服が場をわきまえていないというなら、一体何がいいというのだ」
 イザベラは顔を顰めてみせる。守は至極当たり前のように、すらすらと答えた。
「会議はカジュアルスーツ、パーティーならもちろんドレスです」
「はあ」
 圧倒的に不満げな顔をしている。彼女自身でデザインにも関わったブラックコートの制服を、イザベラは普通に気に入っているのだ。守は辛抱強く説得する。
「当然です。イザベラ様は世界的に軍事的イメージの強い方。平和的な外交の場においては、柔らかい印象を与えておく方が、政治的にリオ・ベルデの為になるかと」
 イザベラは黙り込んだ。リオ・ベルデの為。それはいつでも彼女にとっての殺し文句だった。
「スーツもドレスも、私が責任を持って用意しますから、ご安心を」

●リンクはなくとも
 結局、会議そのものは滞りなく終わった。次は外交的なご挨拶も交えた立食パーティーである。ここで案外重要な話がまとまったりするから、安易に中止する事も出来なかった。故にイザベラ達の出番である。隊員達は黒服を着込んで、会場の至る所に控えていた。
 もちろんイザベラも。

 守は思わず拍手ではやし立てる。青いドレスに身を包んだイザベラには、円熟した美しさがあった。彼はバツの悪そうな彼女に恭しく頭を下げる。
「よくお似合いですよ、イザベラ様」
「何だか一杯食わされた気がするのは気のせいか」
「それはどうでしょうな」
 そっと手を取ると、守はイザベラの手の甲へ唇を落とす。イザベラはぐっと歯を剥いて、空いた手で守の頬を引っ叩いた。
「やめろ阿呆。行くからな。恥をかいたら貴様のせいだぞ」
 足音荒く、イザベラは部屋を後にする。普段は堂々と振舞っている彼女だが、若くいられる時間が短すぎたせいか、時折どこか少女のように振舞う。それがまた守の心をくすぐるのだ。
 そんな表情を見せてくれるようになった事も、守にとっては何よりも嬉しかった。
「……っと、俺もこうしちゃいられないか」
 しばし頬をゆるゆるさせていたが、彼は不意に笑みを掻き消す。油を売っている場合ではない。彼もまたブラックコートの一員、この立食パーティーを、それからイザベラを守り抜く義務があるのだ。スカーフの皺を整えると、ベルトを穴一つきつくして部屋を出た。階段を上がり、会場の袖に出てパーティーを見下ろす。テレビでしか見た事のないような遠い世界の人々が、まさに今息をして、眼の前で盛んに話し合いを繰り広げていた。
(お、いたいた)
 守は人込みの中で、目ざとくイザベラの姿を見つけた。彼女は早速会場の隅で知人に笑われている。こっそり守もにんまりしていたが、刺すような視線がいきなり襲い掛かり、思わず守は仰け反った。
(そりゃそうか。配置考えたのはあいつじゃないか)
 いくらひっそりしようとしても、彼女にはバレバレなのである。守は姿勢を正すと、大人しく様子を見守っていた。
 ふと、会場の外でサイレンが響き渡った。イントルージョナー出現を知らせるサイレンである。来賓達は一斉に表情を曇らせた。
「来やがったか……」
 守は素早く踵を返した。放送が状況を伝えてくる。出現したイントルージョナーは5体、いずれも会場のすぐ近くだ。事件に来賓達を巻き込んだらコトである。
『榊、お前は私と来い。正面に来た奴を迎え撃つぞ』
「了解だ」
 階段を一息に飛び降りると、正面玄関から外に飛び出す。黒い戦闘服に身を包み、イザベラは既にライフルを目の前の恐竜へ向けていた。振り返ったイザベラは、幻想蝶からマグナムを取り出して守に差し出す。
「お前も取れ。このタイプの奴は実弾も効く」
「お任ろ。大船に乗ったつもりでな」
 守はにやりと笑うと、銃を突き出した。目の前の恐竜が、牙を剥き出し荒々しく吼える。
「おいでのところ悪いが、ここじゃ恐竜は絶滅したんだ」
 守は敵に狙いを定めて引き金を引く。放たれた弾丸は恐竜の顎を撃ち抜いた。恐竜は仰け反り、ぱっと深紅の花が咲く。イザベラもライフルを構え、恐竜の眼を撃ち抜いた。息もつかせぬ連携に、恐竜は為すすべもない。
「もう一発だ」
 守は頷くと、照準を正確に合わせる。
「これで終わり……だな」
 引き金を引く。弾ける銃声。銃弾は恐竜の頭蓋に深々食い込み、呻きながらその場に崩れ落ちた。銃を構えたままその死を確かめると、イザベラはほっと肩を落とす。
「いい仕事だ、相変わらず」
 銃口から漂う紫煙を吹くと、守は得意げに笑ってみせた。
「お褒めの言葉、ありがとさん」

●主人と執事
 守とイザベラは、会場から去っていく要人とSP達を外で見守っていた。流石の胆力というべきか、近くで化け物が出た割に、まるで何でもないような顔をしている。
「……無事に済んだようだな」
「全ては迅速な判断があってこそだ」
 守は自分の羽織っていたコートを取ると、そっとイザベラの肩にかけた。彼女は目を丸くし、慌てて振り向く。
「何をする」
「流石に夜だと寒そうだからな」
 彼女はしばらく赤面し、やがてくるりと背を向けてしまった。
「そうか。……まあ、その気回しに感謝はしておこう」

 かくして、今日もイザベラと守は大事な仕事を一つ成し遂げたのだった。

 END


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 榊 守(aa0045hero001)
 イザベラ・クレイ(az0138)

●ライター通信
いつもお世話になっております。影絵企我です。

多分一年の中でもかなり大きな仕事の一つだろうなと思いつつ……こちらとしても楽しみながら書かせて頂きました。満足いただけましたら幸いです。何かありましたらリテイクをお願いします。

ではまた、ご縁がありましたら。
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2019年05月20日

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