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『ひとりたび 』
サーフィ アズリエルla3477

●SALFの清掃員
 グロリアスベースはとにかく広い。地球の危機に対抗する組織として必要なあらゆる機能が詰まっているばかりではなく、そこに勤める職員の為の居住スペースから、彼らに募るストレスをなるたけ軽減できるような設備まで整えられている。つまるところ、そのベースの清掃員は幾らいても足りないというわけだ。
 サーフィ アズリエル(la3477)は、そんなグロリアスベースの清掃員の一人である。メイド服を着込んで、やたらとごつい業務用のスチームクリーナーを片手に今日も構内の廊下をのんびり歩いていた。
(この世界は清掃技術も進化しているのですね……)
 お清めは聖騎士としての勤行の一つだ。神に仕える身ながら神の在不在にこだわらぬような物言いをする破戒僧であったが、このお勤めは好んでいつもやっていた。たとえどんな世界の中でも。
 構内の掃除を済ますと、彼女は屋外のメインストリートに出る。グロリアスベースの現在気温は20度前半。初夏の候、草木が萌え茂る季節である。メンスト脇の芝生は油断すると伸び放題だ。サーフィは芝刈り車に乗り込むと、エンジンのスイッチを入れた。ゴーカートのような芝刈り機を乗りこなす褐色美人のメイド。見た目はやっぱりちぐはぐだが、サーフィは気にした風もなかった。
(結構長い時間が経ちましたが……ねえさまとにいさまはいかがお過ごしでしょうか)
 几帳面にルート取りしながらも、頭の中では前に居た世界のことを思っていた。この世界に来て、己が肉親のように慕ってきた二人と彼女は離れ離れになってしまったのだ。
(どうやらサーフィは、またしても争いごとに巻き込まれてしまったようです)
 神へ祈りを捧げるように、サーフィは天に向かって今の身の上を報告する。無論、無辜の民を護る事はかつて聖騎士として生きた者としての務めに違いない。その務めを果たすことについてもサーフィはやぶさかでなかった。
 それでも、己の人生と戦というものはいつでも切っては離せぬものかと、そんなしみじみとした感情にも駆られるのである。
『緊急連絡、緊急連絡。ナイトメアが出現しました。ベースに待機中のライセンサーは、直ちに集合してください』
 そして今日も敵は現れる。サーフィはふっと息を吐くと、芝刈り機を本部へと転進させる。
「これが三度目の大戦。……今度こそ、私は……」

●SALFの掃除屋
 VTOL型の高速輸送機に乗り込み、サーフィは数名のライセンサーと共に戦場へ向かっていた。既に街では火の手が上がり、黒煙がもうもうと上がっている。輸送機は空中で静止し、背後のハッチが開いた。サーフィはメイド服の上から戦闘用のベストを着込み、背中に大剣をマウントする。
「では、“お掃除”を始めましょう」
 サーフィは言い放つと、真っ先に輸送機の外へと飛び出した。ハッチから垂らされたロープを掴み、するするとアスファルトの地面へ降下していく。
 反動をつけて遠くへすとんと降り立ち、彼女は背負った大剣を片手で振るう。吹き寄せる冬の嵐のように、びゅうびゅうと空気が戦慄いた。彼女は眼の前に暴れるナイトメアを見つけると、大剣を担いで一気に駆け出す。
「まずは一太刀」
 振り向いたナイトメアの脳天に向かって、サーフィは迷わず大剣を振り下ろした。奇襲を受けたナイトメアは、対処が全く間に合わない。鈍い音がして、頭の甲殻に罅が入った。よたよたと敵が後退りしたところに、彼女は身を翻し、鉄板の入ったブーツの踵をナイトメアの胴体に叩き込んだ。ダメージは無くとも、その重い衝撃までは殺せない。蟲はよろけて後退りした。
「次は爪を削ぎ、敵の攻撃手段を断つ事で、優位を確実なものとします」
 戦いのいろはを自ら確かめるように諳んじながら、彼女はナイトメアの前脚に向かって剣を振り下ろした。力いっぱいの一撃は前脚の関節をぶった切り、その爪をいとも簡単に吹き飛ばしてしまう。
「敵の攻撃手段を断ったら、敵の急所をじっくりと処理」
 大剣の切っ先をナイトメアの腹に向かって突き出す。身を捩って避けようとするが、彼女は力任せに腹をぶち抜いた。蟲がよろめき倒れたところを、さらにサーフィは大剣を天へ高々と掲げる。
「これにて、蟲退治は完了です」
 力強く右脚を踏み込み、剣を一直線に振り下ろす。首筋の甲殻をぶち砕き、その頭と首を一瞬で寸断する。頭を取られては、ナイトメアもひくりひくりと震える事しか出来なかった。
「どうです。簡単でしょう」
 サーフィがくるりと振り向く。新米の多いライセンサー達は、茫然と彼女の戦いぶりを眺める事しか出来なかった。

 この世界に来て間もない彼女だったが、既に掃除屋としての異名をほしいままにしていたのだった。

●冬薔薇の夢
 そこは暗闇だった。彼方に灯る仄かな松明が、唯一少女を照らす光であった。しかし、その光は彼女を閉ざす鉄格子をはっきりと浮かび上がらせ、少女に絶望を知らしめる。左手は鎖に繋がれ、足元には歪んだ魔法陣が刻まれている。彼女がのろのろと右手を動かすと、チクリとした感触が手の甲を襲った。
 使い古した注射器が、床に散らばっていた。胸がしくしくと痛む。少女は蹲ると、ただじっと暗闇を見つめた。泣きたくても、既に涙は枯れ果てていた――

 ふと、サーフィは目を覚ました。膝を抱えて、彼女はベッドの上で丸くなっていた。変な姿勢で寝ていたから、全身の骨や筋肉が軋んでいる。どうにか仰向けになると、サーフィは両手両足をぐっと伸ばした。
(また、あの夢ですか)
 姉と兄と過ごした安寧の中で、久しく見なくなっていた過去の悪夢。この世界に来てからというもの、夢は次第にはっきりとし始めていた。
(この世界の武器、IMDは想像力を掻き立てると言います。これもその影響でしょうか)
 とはいえ、それはサーフィの望むところであった。家族を残して旅に出たのも、元はと言えば自分探しの為だったのだから。
「ねえさま、にいさま。今度こそ、私は“私”を見つけられるのでしょうか」

 “サーフィ”は、小さな声できょうだい達に問いかけていた。

 END


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 サーフィ アズリエル(la3477)

●ライター通信
お世話になっております。影絵企我です。

嘗ての世界ではお世話になりました。この世界でもお世話になります。というところで、サーフィさんの導入ストーリーみたいなイメージで書かせて頂きました。ご満足いただけるでしょうか。

ではまた、ご縁がありましたら。
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グロリアスドライヴ
2019年05月20日

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