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『一番美しいもの 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

「やっぱり名匠が作る装飾品は美しいわね」

 シリューナ・リュクテイア(3785)はさっき届いたばかりの装飾品にうっとりとした視線を向けた。

「この曲線が良いのよね」

 指でなぞればその質感の素晴らしさに感嘆のため息が漏れる。

 様々な薬に使う素材。

 儀式に使う道具。

 魔法を纏った装飾品。

 彼女の魔法薬屋には色々なものがやってくる。

 今、彼女の手の中にある装飾品もその一つだった。

「そういえば、遅いわね」

 シリューナはそう言って壁にかかっている時計を見る。

 妹の様に可愛がっている愛弟子ファルス・ティレイラ(3733)に倉庫の掃除を言いつけてからもうずいぶん経つ。

「ティレに限って何かあることはないだろうけど……ちょっと見てこようかしら」

 倉庫には少し危険な品も置いてある。

 もしかしたら何かあったのかもしれないとシリューナは立ち上がった。

  ***

 一方その頃。

「おっ掃除〜お掃除〜♪」

 はたきの小さな音と共にティレイラの鼻歌が魔法薬屋の倉庫から聞こえる。

 はたきをパタパタ、くるりと回って反対側も。

「あっとは雑巾をかけておしまい〜っと」

 ほうきで集めたごみをちりとりにとりながら上機嫌のティレイラ。

 天窓から差し込む光にたくさん反射していた埃も、もうほとんど見えない。

「こんなに綺麗になったんだもの。お姉さまに褒められちゃうかも」

 くすくすっと笑いながらもう一回転して、雑巾を手に取ろうとした瞬間、

ーガシャンー

 勢い余って棚にぶつかった拍子に、置いてあった装飾品や魔法の品々が床に落ちた。

「こ、壊れてないよね?」

 恐る恐る確認しながら拾い上げる。

 こんなところが師匠に見つかったらどうなるかは過去の経験から分かっている。

「えっと、あれ? これどこにあったっけ?」

 両手に品々を抱え棚を眺めている、彼女の後ろでゆっくりと扉が開いた。

「ティレ?」

「……あ」

 2人の視線がかち合う。

「えっと、これは、ちょっと……その……」

 先に口を開いたのはティレイラだった。

 しかし、動揺で言葉が上手く出てこない。

「どうしたの? それ」

 うっかり落としたのだろうということは察しがついたが、おろおろするティレイラが可愛くてシリューナは尋ねる。

「お、お姉さま。これは違うの。その……そう、あの、1つづつ拭いてたところで……」

 ごっそりと空間の空いた棚、床にはまだ落としたものがいくつか転がっている。

 この状況で拭いていたという言い訳は我ながらかなり厳しい、と言ってからティレイラは思った。

「ここにあるのは依頼人から預かったものだって言ってあったわよね?」

「は、はい……。で、でも壊れては……」

 簡単に破損するものではないことはシリューナも分かっている。

 ただ、何とか言い訳しようといっぱいいっぱいになっているティレイラが可愛くてもう少し苛めたくなってしまう。

「掃除は、どうしたの?」

「えっと、ちょっと……あ、そう。これから雑巾をかけておしまいなんです。だから……」

「それで?」

「えっと、だから……もうすぐ戻ろうと思ってたんです」

「あぁ、そこの雑巾を取ろうとして落としたのね」

「はい。じゃなくて……これは、だから……」

 タジタジになりながらもなんとか言い訳しようとするティレイラは可愛らしい。

「悪い子にはお仕置きが必要。そうよね?」

 にっこり微笑んでシリューナがぱちんと指を鳴らす。

 するとティレイラの身体を覆う魔力がみるみる強くなっていく。

(足が……重い)

 そう感じてティレイラが足元を見ると足が灰色にゆっくりと変わっていくのが見えた。

「え? ちょ、お、お姉さま?だから、これは……」

 そう言いながら無意識にろくろを回していた手はもう灰色に変わってしまって動かない。

 手足の先から侵食するように身体が石に代わっていっているのだ。

「あの、だから、えと、お仕置きは……」

 身をよじりながらなんとか許してもらおうと必死に言葉を紡ぐティレイラの意志とはお構いなしに腰から胸へと侵食の波は止まらない。

 その様子を眺める師匠は心から楽しそうに見える。

「お姉さ……」

 半泣きになりながら出そうした懇願の言葉は最後まで発されるないままティレイラの意識は途切れた。

「ふふっ」

 あたふたと精いっぱい言い訳しているティレイラは可愛い。

 その瞬間しか見られない、可愛らしい瞬間を切り取ったオブジェをシリューナは愛していた。

「あぁ、ティレ、最高だわ」

 美術品や装飾品と言った美しいものを愛する彼女のお気に入り。

 それが、オブジェとなったティレイラだった。

 先ほど装飾品の前でついた感嘆の溜息よりももっと熱っぽい息がそれを物語っている。

 完全に石になった愛弟子にそっと触れるシリューナ。

 いつもと違う硬質で滑らかな感触。

 優しく撫でれば石特有の冷ややかさが指に伝わる。

 慌てたような口元や泣きそうになっている目元に触れ、まつ毛や毛先の一本までも指で愛でる。

 いつもの温かく柔らかい彼女も愛しているが、こうして動かなくなってしまった彼女もまた素敵だ。

 そうシリューナは思っている。

 素敵なものの愛おしい瞬間を切り取りたいと思うのは万人の想い。

 そう、恋人や我が子の写真を何枚も撮り眺めるのと同じ心境。

 それが彼女の場合、写真ではなくオブジェと言うだけのこと。

「今度は部屋に呼びつけてからにするのもいいかもしれないわ」

 本当なら明るい場所でじっくりと干渉したいところだが、移動させる間に傷がついては大変だ。

「愛しているからこそ、こうするのよ」

 くすくすと黒い笑いを零しながら、シリューナは時間を忘れて愛弟子を愛でるのであった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8785 / シリューナ・リュクテイア / 女性 / 212歳 / 愛でる者 】

【 3733 / ファルス・ティレイラ / 女性 / 15歳(外見) / 愛でられる者 】
東京怪談ノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年05月21日

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