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『こもれびの休日 』
志鷹 都ka1140

 緩やかなカーブを描く柔らかな土の道に木漏れ日が模様を描く。
 春の若い緑とも夏の濃い緑とも違う瑞々しい緑の葉は初夏の陽射しに照り映え目に眩しい。
 爽やかな青空が広がった休日、志鷹 都(ka1140)は下の子供二人とリゼリオ郊外にある自宅からさらに足を伸ばし散歩がてら森の中の図書館へと赴く。
 西方に移り住んでからみつけたお気に入りの場所。
 都の少し先を子供たちが楽しそうに追いつ抜かれつ走っている。
 小さな子でも歩ける距離なのが嬉しい。
「転ばないように気を付けてね」
 母の言葉に「はぁい」と元気な返事――をした矢先、二人もつれ合うように転がった。
 まるでじゃれ合う子犬のように土の上をぐるんとでんぐり返り。びっくりしてきょとんとしたまま座り込む。二人の前にしゃがんだ都はさっと怪我はないか確認した。
 幸いにも枯葉が十分に積もってできた土だからか怪我はない。でも今から図書館に行くのに少々頂けない恰好になった。
 髪や服に着いた枯葉や泥は叩き落とし、バスケットから濡れた布巾を取り出すと二人の顔や手を拭ってやる。
「二人ともお母さんと手を繋ごうね」
 二人と手を繋いで歩き出す。「あのお花はなぁに?」「今のトリさんは?」子供たちの他愛もない質問に答えながら。
 そして間もなく見えてくる。一際古くて大きな木が目印。アーチのように撓ったその枝に下がる本を象った看板。『こもれびの図書館』と掘られている。
 木造の図書館はその名前の通り木漏れ日のなかひっそりと佇んでいた。
 屋根や壁の一部に絡んだ蔦や苔……建物自体この森の一部にもみえる。
「皆ご本を読でいるから、ここでは……」
 シーッ。人差し指を顔の前に立てる子供たちも真剣な顔だ。

 まるでそれが儀式かのように都は扉を開く前に目を閉じて深呼吸をする。自然と子供たちも母を真似る。
 なるべく音をたてないようにそっと扉を開く……とはいえチリン、来客を告げる小さな鈴の音が響くのだが。
 静かな館内は外よりも空気がひんやりとしている。古い本の独特の匂いと深し森林を思わせる木の匂い。顔馴染みの司書が笑顔で迎えてくれた。
 ちょうど『おはなし会』が始まる時間だった――子供たちは児童室へと駆けていく。
 静かにって言ったのに、と首を振ると「元気が一番ですよ」と読み聞かせをしてくれる吟遊詩人。「はやく、はやく」幼い声が吟遊詩人を急かす。
 お願いします、と後は頼んで都は書架へと向かう。
 まずは今月のお薦めコーナーから。絵本から専門書まで手書きの推薦文とともに並んでいる。
 今月のテーマは「旅」。
 誰が書いているのだろう、かわいい絵のついた推薦文を読むのも楽しい。
 ここは街の中心部にある図書館に比べてかなりこじんまりとしているが、館長の趣味だろうかクリムゾンウエストだけでなくリアルブルーの本などほかにない本も多い。
 先日リアルブルーの医学書をみつけてとても驚いたものだ。
 書架の林をそぞろ歩く。
 古書の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら。
 子供たちの笑い声が聞こえてくる。おはなし会は大盛況。
 きっと後で我が子たちが身振り手振り交えて今日のお話を教えてくれるだろう。尤も途中から子供たちの創作話になって、後で絵本を読み直すと全然違う話ということもよくあるのだが。
 自分も吟遊詩人のように読み聞かせをすることができたらと思わなくもないが、そうなったらそうなったで子供たちが興奮して夜寝てくれそうもない。
 悩ましいところだ。
 時折気になるタイトルを手にしてはぱらぱらと捲る。
「あ、これ……。前に読んだ本……」
 誰が見てるわけでもないのに気付かれぬようそっと戻した。
 最近記憶力が危ない……?
 ふと心配になってみたり……そんなことを含め好きな場所で時間を過ごすのは楽しい。
 一通り館内を回った都はパステルで描かれた満月を背景に走る汽車が表紙の本を今日のお供に選ぶ。
 天井から床まで大きな窓の近くの席へと座る。
 青々と茂る緑に埋もれたような気持ちになれる特等席。
 併設された喫茶室から漂ってくる珈琲の香に帰り寄ろうかな、今日のケーキは何かな、と思いながら本を開く。
 木漏れ日が開いたページで踊り、風の音が聞こえてきそうだ。

 病気がちで外に遊びに行くことのできない少年の唯一の友達は玩具の汽車。
 ある夜、カーテンの隙間から伸びる月光の線路に乗って少年と玩具の汽車は旅に出る。
 少年の暮らす赤い屋根のおうちはどんどん小さくなり、「お、流れ星だ」指さす隣のおじさんに手を振る少年。
 汽車は高いビルが並ぶ都会に出る。夜なのに昼間のように明るい街に驚く少年と汽車。

 汽車に乗った少年の好奇心を満たすように細やかなところまで描き込まれた優しいタッチの絵。
 一ページずつ丁寧に捲っていく。
 外で強い風が吹いたのだろう不意に木漏れ日が大きく揺れて都ははっと我に返る。
 少年と汽車はちょうど海の中に魚たちの国に辿りついたところだ。
 どれほど時間が経っていたのか。時間を気にせずゆっくり本を読んでほしいという館長の想いから時計はない。
 都は上の子供が作ってくれたレース編みの栞を本に挟んで立ち上がる。
 寝る前の読み聞かせ用の絵本を数冊選んだところで、おはなし会が終わり子供たちが児童室から溢れてくる。
 「楽しかったねー」と一様に笑顔だ。この時ばかりは静かな図書館もちょっとした喧騒に包まれた。
「おやつ食べてかえ……おぉっと?」
 図書館を出てカフェに行こうとの誘いは子供たちに手を引っ張られて途切れた。
 子供たちが指さすのは図書館の裏。
 木々の合間から揺れるブランコがみえる。向こうにある小さな公園で遊びたいらしい。
 木の洞から伸びた滑り台、大木の枝に下げられたブランコは子供たちにとってとても魅力的な遊具だった。
「わかった、わかった。じゃあ公園に遊びにいこうね」
 子供たちは都の手を引っ張って走り出す。
 遊ぶ子供たちを都は木陰のベンチから眺めている。
 木の枝を高々と掲げた息子に娘が続く。滑り台は大きな山に、ブランコはつり橋に。今日はきっと冒険譚だったのだろうなと「宝の地図」だなんだと言っているのを聞きながら思った。
 ふぁっと欠伸が一つ。ふわりと吹く風が心地よくついうとうとしそうなところで呼ばれる。
 公園の脇を流れる小川をみつけて、宝の隠された滝つぼへ通じる道を発見したとはしゃいでいた。
「よし、じゃあ一緒に宝物を見つけにいこうか」
 小川を遡れば滝つぼではなく水の綺麗な泉に出ることを都は知っているがそれは内緒にして一列に並んで歩く。
 先頭を歩く男の子はいっぱしの隊長気取りだ。

 夜、そっと子供の様子を伺う。カーテンの隙間から零れる月明り。
 仲良く寄り添って寝る二人は手にぎゅっと戦利品の綺麗な石を握ったままだ。
「夢の中でも冒険してるのかな?」
 はだけた毛布を掛け直す。
 結局冒険の末くたくたに疲れた子供たちは家に帰るのが精一杯でお茶をすることはできなかった。
 今度は夫に一緒に来てもらうなり子供を預けるなりして絶対にお茶をして帰ろう、と都はこっそり誓う。
 次の休みの楽しみができた、と自分も寝室へ――。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃
━┛━┛━┛━┛
【ka1140 / 志鷹 都 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼ありがとうございます、桐崎です。

こもれびの図書館での休日、いかがだったでしょうか?
のんびりというよりはお子様たちと一緒に遊んで「つかれたー」という一日になってしまったかもしれませんが……。

気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。
それでは失礼させて頂きます(礼)。
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2019年05月21日

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