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『明日の約束 』
リリア・クラウンaa3674)&伊集院 翼aa3674hero001)&片薙 渚aa3674hero002

 朝。
 リリア・クラウン(aa3674)は朝の日ざしに心地よく揺り起こされ、目を醒ます。
 うんと伸びをして体をほぐし、シンガーらしく、喉の調子を確かめるためドレミファソラシド。
「?」
 どんなに喉を開いても。
 どんなに喉を絞っても。
 彼女から声が……音が流れ出すことはなかった。

「声が出ない?」
 鼻先までずり落ちた眼鏡を押し上げ、伊集院 翼(aa3674hero001)は再び胸の前で腕を組んだ。見た目からはわかりづらいが、かなり深刻に動揺している。
「心当たりとかあるっすか?」
 猫耳を摸したニット帽のでっぱりをいじりながら問う、片薙 渚(aa3674hero002)。
 ふたりはリリアの契約英雄で、彼女といっしょにバンド「マカロンズ」を組んでいるメンバーでもある。リリアから異変を知らされて飛んできたはいいが、なんともできずにいるのが実情だった。
【心当たりはない】
 文字を入力したスマホ画面をふたりに見せ、リリアは小さく息をついた。言葉とはちがい、文字は急いで端的に伝えようとするほど平らかとなる。大切な友だちで同志のふたりへ思い抜きの“内容”しか伝えられない現状は、リリアにとってなにより辛くて悲しい。
「病院、行ったほうがいいっすよね」
「耳鼻咽喉科か、それとも心療内科か……」
 渚と翼はわいわい言い合いながらネットを検索し、近くの病院をピックアップし始めた。


 午後、リリアの家へ戻ってきた3人は、リビングのソファに腰を下ろして天井を見上げ。
「喉に異常はなしか」
 翼は耳鼻咽喉科の診察で確認されたデータをなぞりながらかぶりを振り。
「心因的なものでもなさげっすよねぇ」
 渚は心療内科での問答を思い出して、やはりかぶりを振った。
 病気であるなら原因があるはずなのだ。
 肉体的な問題はなく、精神的にも声を失うような理由がない。防御反応によって忘れているだけなのではないかとの判断から催眠療法まで試してみたが、結果は空振りに終わった。
 さらには渚の提案で、H.O.P.E.東京海上支部内のクリニックにて体内のライヴス循環不全や英雄ふたりとの共鳴不全なども検査し、問題なしの診断をもらっている。
 それでもなにひとつ、見つからない、見つからない、見つからない。
【ありがとう】
 それだけを伝えて、リリアは自分に問いかける。ねぇ、ボク。いったいどこに声を忘れてきちゃったの? このままずーっとしゃべれなくなっちゃったら、ボクはみんなになにを伝えたらいいのかな。
「とりあえず、こうして座っていてもしかたない」
 するりと立ち上がった翼が向かうのはキッチン。
「なにするんすか?」
 渚の問いに振り向いて。
「心と体は繋がっているのだろう? なら、両者から同時にアプローチを試みる」

 果たしてリビングのテーブル並べられたのは、ケーキやチョコレート、キャンディなどのさまざまなスイーツだった。
「落ち込んだ気分が上がれば、それにつれて体の異変も取り除かれるかもしれない。……好きなものに囲まれているだけでもリラックスはできるだろうしな」
 冴えた面にやわらかい笑みを浮かべ、翼はリリアへオレンジジュースを差し出した。
 歌う直前に飲むのは厳禁ということで、リリア的には普段から避けがちな柑橘系。味自体はもちろん好きだし、こんなときだからこそ逆になにかのきっかけとなるかもしれない。
「うん、とにかくやれることからやってみるしかないっすからね。ま、わざわざ台所まで行ったのに、出来合のお菓子ばっかっすけど」
「う、それは」
 渚と翼のかけあいの真ん中で、リリアはぱちんと手を合わせた。自分のため、ここにいてくれるふたりへの感謝が届くように。
【いただきます】

「だめか……」
 重い息をつく翼に、リリアは笑顔を左右に振ってみせる。
 声が出なくなったのがわかったとき、彼女は闇底へ落ち込んでいた。でも、ふたりがいてくれる今はまるでちがっていて――それをうまく伝えられないことだけが、よりいっそうもどかしくて辛い。
 と、ここで渚がぐいーっと翼を押し退けて。
「気分を上げるってのはいいと思うんすよ。思わず声出したくなっちゃうみたいな、いい意味のショック療法とか」
 そしてリリアの前にドキドキするネット動画やらワクワクするコミック、しみじみする小説などを積み上げた。
「あの甘味の数々ですら効果が上げられなかったのだぞ!? こんなものでなにができるというのだ!?」
「リリアはシンガーっすよ? だから、歌声の基になってるものを揺らそうって試みっす。満腹じゃなくて、感動をあげようってことっすね」
 しかし。
 渚の試みもまた、リリアの声を取り戻させるには至らず、渚と翼は困った顔を見合わせることとなった。
「なんとかしなければ……しかしどうすれば……」
「思いつかないんなら黙っててもらえます!? 今、なんかないか考えてるとこっすから!」
 苛々と険しい言葉をぶつけ合う英雄ふたりに、リリアはぎゅっと抱きついた。
 唇の動きだけで紡ぐ。つーちゃんとなっちゃんがボクのことこんなに思ってくれてるの、すごく、すっごくうれしいよ。ありがと。ありがとありがとありがと、大好きだよ!
「ああ。私たちもだ」
「そうっすよ。ずっといっしょっすからね」
 リリアの背を翼と渚の手が包み込んだ。ふたつのぬくもりが彼女の心と体をあたためる。ああ、ほんとにそうだね。心と体は繋がってる。


 翌日、声が戻っていないことを確かめたリリアはスマホを取り出し、翼と渚へ報告と共に、ひとつのお願いをした。

「カフェというよりサロンといった感じだな」
 端々に古民家の建材を用いて造ったというカフェの内装に、翼は感心と関心の目を巡らせる。
「新築のにおいも悪くないっすけど、こういう落ち着いたにおいはいいっすね」
 渚もまたうなずき、瀟洒なソファに腰かける。
 ……リリアのお願いは、口コミで話題になっているカフェへいっしょに行ってほしいというものだった。
 リリアがそれで少しでも楽しめるならと、翼も渚もすぐに了承したわけだが。まさかこんなに高級志向な店だとは。
【今日はボクの奢り! 好きなもの食べちゃって!】
 少し時間をかけて打ち込んだ文字を示し、リリアはぐいと豊かな胸を張った。
「……なんかおっきくなってないっすか?」
「確かに。少し前より、実ったように見えるな」
 ふたりから疑わしげな目を(胸へ)向けられることとなったわけだが、ともあれ。
「うぉ、ケーキもお茶も4ケタなんすけど!」
「さすがサロン仕様だな。顧客はマダムか」
 リリアに気づかわせないよう、あえてそんなことを言い合っているのはリリア自身も心得ている。ふたりへ報いるには最高の笑顔で、迷いなくお高いメニューを指さすしかない。
「ショートケーキとアールグレイミルティーでいいのだな? では、私はモンブランとウバにしよう」
「自分もミルクティーっすかね。お、あったかい抹茶ミルクあるじゃないっすか! これと抹茶のシフォンケーキで、抹茶尽くしっす」

 コゼーをかけられたポットにはたっぷりの紅茶が詰め込まれていて、だからリリアもゆったりとした時間を過ごすことができた。
「リリアって苺、最後まで残しとくタイプなんすね」
 やわらかめにホイップされた生クリームを添えられた抹茶シフォンをつつきながら、翼が口の端を吊り上げる。
「ひとつしかないと思えば大切にしたくなるのが人情というものだからな。私がリリアを大切に思うのも、リリアがただひとりしかいない存在だからこそだ」
 感慨を込めて言い、翼はモンブランを噛み締める。濃厚なマロンクリームのなめらかな重みが舌に心地いい。
 渚は少しだけ苛立った。今日はそういうことを言わない日にするつもりだったのだ。リリアの心にわだかまったいろいろなことを一時でも忘れさせるだけの、なんでもない日に。
 自分だってリリアが大切っすよ! でも、今から言ったってインパクトが――
【ボクも翼が大切だよ】
 リリアは翼に示した後、打ち込みなおした画面を渚へ示し。
【ボクは渚が大切だからね】
 渚も、ではなく、渚が。
 渚は思わず目線を逸らす。
 いいはずがない。リリアを元気づけたいはずの自分が、こんなにも救われてしまうなんて。でも、思いを押し込めていた心の鍵は吹き飛んで、どうしようもないくらい、うれしくて。
 と。翼が静かに口を開いた。
「私はな、こんなときだからこそ、偽らないことにしたんだ」
 そしてまっすぐリリアを見つめ。
「昨日、渚は感動をリリアにと言った。感動とは心を動かすということだろう? 私はあれからずっと考えて、伝えようと決めた。リリアはそこに在るだけで私の心を動かすものなのだと」
「……結局のとこ、自分はリリアの心を動かすものになりたいからいっしょにいるのかもしれないっすね」
 ほろりと差し挟まれた渚の言葉を、翼が繋ぐ。
「ああ。私もまた、リリアにとってそうしたものでありたい。今そうでないなら、かならずそうなる。かけがえのないリリアのために」
「あー、なんか言いたいこと全部先に言われちゃってる感じっすけど。それ、自分だって決めてることっすからね!」
 きっと、絶対なる死に分かたれるときまで、翼と渚、そしてリリアはこんなことを伝え合っていくのだろう。
 確信を胸に、リリアは音にならない思いをふたりへ重ね合わせた。
 もうなにも伝えられなくなったらどうしよう。そんなの小さいことだったね。声だけが伝えるものじゃない。ボクは、翼は、渚は、ここにいるんだから。それだけで心を動かして伝えられることがあるんだから。
 強がりなんかじゃなくて、ボクは大丈夫。
 ボクがボクを見失わないかぎり、ボクはボクを伝え続けられる。

 こつ、こつ。

「?」
 リリアへ応えるように、体の奥をなにかがノックした。
 無意識にその手が押さえたのは、自分の腹。
 それを見た渚が、ぐいぐいと翼の裾を引く。
「声と関係ないかもっすけど、これってもしかしたらもしかするんじゃ――」
「ああ。うむ。声と関係ないかもしれないが、確かにもしかするかもしれんな」
 小首を傾げたリリアを両側から抱え、慎重に引きずっていく。
「? ?」
「躓かないよう下を見ろ! ぶつからないよう周りもだ! 一瞬たりとも気は抜かず、体からは力を抜いておけ!」
 力強く翼に無茶を押しつけられ、さらに首を傾げる。ふたりとも、いきなりなにをしようとしている?
「気づいたんすよ! 自分たち、リリアを連れてく病院まちがってたって!」
 リリアの胸へ険しくも優しい視線を投げた渚は、通りの安全を確かめながらゆっくりと彼女を急かした。
 そして。


「2ヶ月っすよ、2ヶ月! もう、なんで気がつかないっすかね!」
 病院のロビーで声を潜めつつ、それでも抑えきれずに音を弾ませて、渚はリリアの手を握り締めた。
「まだ不安定な時期だぞ! あまり刺激するな!」
 渚の手を止める翼の手にもまた相当の力が込められていて、渚は思わず「痛いっす!」、顔をしかめる。
 そんなふたりに苦笑して、リリアはそっと、自由になった両手を自分の腹に添えた。
 教えてくれたんだね。ひとりで戦おうとしてたボクに、ひとりなんかじゃないよって。

 妊娠5週目。それこそが産婦人科医院でリリアが告げられた診断だった。
 あと2週間経てばつわりなども始まる時期に入るので自然に知れた可能性も高いが……愚神王との戦いが終わって気が抜けていたからだろうか、これまで「来ていなかった」ことにまるで気がつかなかった。それこそ腹もまだ大きくはなっていないし。
 そして、エコーなどではまだはっきりとはわからないのだが、リリア自身はすでに確信していることがある。
 ――男の子と女の子かな? 男の子と男の子? 女の子と女の子かも。
 そう。自らの内に宿ったのが双子だということを。
「ふたりに逢えたら真っ先に伝えるからね。ボクをお母さんにしてくれてありがとう、大好きだよって」
 と、ここでリリアが顔を上げれば、翼と渚の驚いた顔が出迎えて。
「リリア……声が、戻っているぞ」
「わけわかんないっすけど、しゃべってるっすよほんとに」
 リリアもまたようやく気づいた。
「うん――うんうん、うん! ボク、声出てる!」
 わっとふたりへ飛びつきかけて、あわてて止められて自分でも気づいて止まって。一端落ち着いてから、3人で小さくハイタッチ。
「よかったっす。ほんとによかったっす。自分、ほんとに不安で――でも、そんなのもうどうでもいいっすよ。だってすごくうれしいこと、ふたつもあったんすから!」
 潤んだ目をしばたたいて大きく息をついた渚に続き、翼が笑みを浮かべてリリアへ声をかけた。
「あらためて、おめでとうと言わせてもらうぞ。声を取り戻したことはもちろんだが、新しい命を授かったこと、我が事のようにうれしく思う」
 ふたりは目を閉じてリリアの額に自らの額を寄せ、契約主の内、ようやく形を得始めた命の鼓動を感じ取る。
「これは双子かもしれないな」
「あ、自分もそう思ったっす」
 このあたりはさすが、リリアと深い繋がりを持つ英雄たちだからこそなのだろう。
「うん、双子だよ」
 リリアは力強く応え、ふたりをまっすぐ見て。
「これからしばらくマカロンズの活動休止ってことになるけど。来年から5人組で活動再開していくから!」
 対して翼はゆっくりとかぶりを振り。
「5人で収まるとは限らないぞ? 家族は増えるものなのだからな」
「自分たちだっていつ子どもできるかわかんないっすからね。マカロンズのビッグバンド化も考えとかないとっすねぇ」
 渚も熱を込めた言葉を添えた。
 そっか。そうだよね。家族は増えるんだ。そうしてボクたち3人だけだった輪がおっきくなっていって、うれしいこともどんどんおっきくなっていく。
「不安も苦しみも、喜びも幸せも。ひとりぼっちじゃ耐えられないことだって、みんながいてくれたら乗り越えられる。だから、大切な人と手を繋いで、輪を大きくしよう。ボクはそれをみんなに伝えたい。ボクひとりでじゃなくて、翼と渚と家族で!」
「こんなときまで歌のことか。職業病を治せる医者は、残念ながら存在しないだろうが」
 やれやれ。翼は肩をすくめて立ち上がり、リリアへ手を伸べた。いつも彼女は、その揺るぎなさをもってリリアを先へと導いてくれる。
「旦那さんにも連絡しないとっすね。自分たちがいないときはお任せになるっすから」
 リリアを後ろからかばう渚。彼女もまたいつもどおり、持ち前の機転と思慮とでリリアの隙をカバーしてくれる。
「でも、ふたりに甘えてばっかりじゃだめだよね。ボクだってお母さんになるんだから」
 思わず漏らしたつぶやきに、翼が振り返り。
「思い詰めるより相談しろ。私はいつでもここにいるんだからな」
「そうっすよ。ひとりじゃなくてみんなでやっていこうって決めたじゃないっすか」


 賑々しくも穏やかに、騒動は幕を下ろした。
 これからもいろいろと起きるのだろうが、もう怖れない。リリアの足は結びつけられた翼と渚の足に支えられ、これから増えゆく足と結び合って、同じ先へと踏み越えていくのだから。
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2019年05月22日

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