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『Smitten Holiday 〜マリナ アルフェウス〜 』
マリナ アルフェウスka6934

 リゼリオにあるハンターオフィス前。多くの人々が行き交う中、壁にもたれ静かに佇む少女がいた。
 甘くなりがちなパフスリーブのワンピースをサッシュベルトで引き締め、すっきり纏めたシルエット。凛々しく結い上げた青い髪、雪花石膏を思わす白い肌。瞳は輝石のように澄み、どこか遠くを眺める横顔はそのまま額縁に収めたくなるほど絵になっている。
 待ち合わせ場所へ先に来ていたマリナに見惚れ、リブはほぅっと息を零した。
 その吐息を聞き逃すマリナではない。頭の中で確認中だった本日のデートプラン、もといお出かけプランを一旦脇に置き振り返る。

「良く来たなリブ」
「マリナさん、今日もとっても素敵ですねっ」
「リブも……その服、着てくれているんだな」
「はい! お気に入りだし、隊の皆にもとっても好評なんですよ♪」

 リブは淡青のワンピースを翻しくるりと回って見せた。それは以前初めて龍騎士達がリゼリオにやってきた時に、リブに似合うものをとマリナが見立てた一着だった。マリナは目を細めて手を差し出す。

「では行こうか。この先に、リブの好みそうな装飾品の店がある」
「本当ですか!? お小遣い足りるかなー?」
「心配無用。その時は私が」
「大丈夫ですよぅ、ちゃあんと計算しますから!」

 相変わらず過保護なマリナの気遣いにくすぐったそうに微笑んで、リブはその手をしっかり握った。



 足取りも軽やかに、ふたりは大通りを進む。ここは西方でも指折りの大きな街だ。様々な種族がおり、店に並ぶ品も多種多様。リブにはまだ珍しい物事ばかりで、マリナはガイドよろしく案内しつつ、人波を器用にかき分けエスコート。

「マリナさん、あれは何のお店ですか? とってもいい匂い!」
「クレープだな」
「くれーぷ?」
「薄い生地でクリームや果実などを包んだスイーツだ。片手で持てるため食べ歩きも可能。食べてみるか?」
「是非! ……ん? あそこの不思議な建物は何です?」
「不思議……? ああ、あの東方風の建物か。甘味処といって、東方の菓子を味わえる店だ」
「東方のお菓子が西方で食べられるんですか!?」
「ああ。団子や五平餅といったものなら食べ歩きも、」
「行ってみましょ♪」

 最初はマリナが先立っていたものの、次々に目移りするリブに手を引かれ、いつしかすっかり引っ張り回される格好に。それでも今日のリブは、余所見してもマリナと手を繋いだまま離さずにいて、その成長とぬくもりに口許を綻ばせるマリナだった。
 買い求めたお菓子を啄みつつ歩けば、気分はますます上がるというもの。気になる店を次から次に飛び回り、綺麗なもの、珍しいもの、可愛いもの、甘いものなど、女の子の好きなものばかりで休日を彩っていく。
 やって来たマリナおすすめの装飾品店は、いわゆる『ぷちぷら』ながら流行りを押さえた品揃えが評判の、若い女性向けの店だった。似た年頃の少女達で混雑する店の中、互いに似合いそうなものをあてがったり勧めたりしていると、リブが小さく息を吐いた。

「どうしたリブ、疲れたか?」
「いえ、」

 リブはかぶりを振ると、改めて店内を見渡す。

「こうやって、だいすきなお友達と食べ歩きしたり、お買い物したり……夢みたいだなぁって。普通の女の子みたいだなって思って」
「みたいも何も、リブは女の子だろう?」
「そうなんですけど……おしゃれとかに興味が出始めた頃にはもう入隊していて、非番の日でも鍛錬するのが当たり前だったので」

 あまり女の子らしいことをしてこなかったと苦笑するリブ。
 マリナは龍園の街並みを思い出す。北方の宗教都市には、華やかな小売店や飲食店などはなかった。そもそも木すらろくに生えない極寒の地では、人々は日々生き抜くことに精一杯で、おしゃれや余暇を愉しむ余裕はあまりないのかもしれない。強欲竜を相手取る龍騎士、まして短命なドラグーンならなおのこと。
 そこまで考え、マリナはふと気付いた。
 この世界で"目覚めた"時、マリナにはそれまでの記憶が一切なかった。
 けれど銃器類が異様なほど手に馴染むことや、敵を前にした時の突き上げるような衝動――闘争本能とでも言うのだろうか――を強く感じることなどから、おそらく目覚める前の自分も戦場に身を置いていたのだろうと、もっと言えば戦場に立つために自分は在ったのだろうと解る。この世界で生きるため、ハンターというあり方を選択したのは自然なことだった。
 老いや衰えを知らぬ、いわば戦士や兵士に適した種族としてうまれ、種の特徴に逆らわず戦場で生きることを選んだマリナとリブ。
 種族も立場も、境遇も性格も違うけれど、通じる部分もあったのだなとマリナは思った。

「……さん? マリナさん?」

 呼ばれて我に返ると、鏡の中の自分と目が合った。イヤリングにバングル、ネックレスと、考え事をしている間に随分あれこれ試着させられている。それをした張本人のリブは、やり過ぎてしまったかとおろおろ。

「あれれ、いまいちでしたか?」
「そんなことは。……このバングル、琥珀が使われているのか。リブの髪の色に似ているな」
「言われてみると確かに。同じデザインで、アズライトのもありましたよ。マリナさんの髪色と同じ綺麗な青色の!」

 早速リブが持ってきたアズライトのバングルを見、次に腕に嵌った琥珀のバングルを見て、マリナは首を横に振った。

「折角今日買うのなら、リブの髪色と同じこちらが良い。ふたりで訪れた記念になる」

 リブは一瞬驚いたように目を瞠り、それから心底嬉しそうに顔を輝かせる。

「なら、私はこっちにします。マリナさんの色!」
「ならお揃いになるな」
「お揃い……マリナさんとお揃い……。えへへ、嬉しいです♪」

 リブはぴょんぴょんしたかと思うと感極まって涙目になったりと忙しない。マリナはそんなリブの頭を優しく撫でた。

「私もだ。……春の日はまだ長い、今日は1日『普通の女の子』らしい日を満喫するとしようか」
「はいっ♪」

 そうしてふたりは会計を済ませると早速身につけ、揃いのバングルに彩られた手を繋ぎ店を出る。マリナは早速データベースを検索し、近くにあるカフェの情報を引き出した。

「そろそろ喉が渇かないか? この近くのカフェには、大きなパフェがあるようだ」
「食べてみたいです!」
「決まりだな」

 うきうきで足を踏み出した――その時。
 突如派手な音をたて、向かいの宝飾店の窓が砕けた。窓を破って飛び出してきたのは、数人の屈強な男達。悲鳴に包まれる通りを避け、男達は建物の壁を駆け上がると屋根伝いに逃げていく。

「大道芸か何かですか?」

 きょとんとするリブに、マリナは冷静に解説する。

「強盗だ。あのスキル……ハンター崩れといったところか」
「強盗!?」

 リブは慌てて割れた窓から店内を覗き、

「怪我人はいません。……どうしましょう?」

 尋ねた時には、マリナの手は隠し持っていたリボルバーに伸びていた。

「残念だが、パフェは少々お預けだ。10分で済ませてくる」

 単身駆け出そうとしたマリナだったが、微かな機械音を聞きとがめ振り返る。見ればリブもまた、折り畳んで携帯してきていた機弓を展開しているところだった。

「じゃあ、私もお手伝いしますので7分ですねっ」

 意気込むリブ。マリナは喉の奥で小さく笑う。

「ならば5分だ。今日は『普通の女の子』をするんだからな、手早く済ませるとしよう」
「はい!」

 ふたりは同時に覚醒すると、力強く地面を蹴った。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6934/マリナ アルフェウス/女性/17/青き翼】
ゲストNPC
【リブ/女性/少女龍騎士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お届けまで沢山のお時間を頂戴してしまい、申し訳ございませんでした。
改めて書かせて頂く機会を頂けて、本当にありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけますように……
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました。
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2019年05月27日

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