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『場末の札付き達 』
ケネス・スタンリー・オティエノla0430

●最高のエンタメ
 シカゴの夜にどろりとした風が吹き抜ける。巨大な足をずかずかと動かしながら、1体のナイトメアが道路を駆ける。人々は悲鳴を上げたり真っ青になりながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。ナイトメアはそんな人の群れの背後に追い縋り、遂に一人の背中へその爪を突き立ててしまった。血を脈々と流して斃れる男に、ナイトメアはさらに深々爪を食い込ませていく。
「おいおい。楽しそうな事やってんな?」
 しかしその時、ナイトメアの背中に闇に包まれた巨大な刃が叩き込まれる。潰れかかったナイトメアは、バタバタとその背後に振り返る。ケネス・スタンリー・オティエノ(la0430)は、戦斧を担いで白い歯を覗かせた。
「ちょうど飲み飽きてたとこだったんだ。ちょっと付き合ってくれや」
 蟲は爪を振り上げて威嚇するが、ケネスはにやにや笑って受け流してしまう。左足を鋭く踏み込み、横合いからそれを殴りつけた。甲殻に刃が食い込み、黄色の体液が滲む。
 蟲は咄嗟に間合いを詰めると、ケネスへ鋭く両の爪を突き出した。立て続けにシールドに直撃し、その透明の壁にガラスのような罅を入れた。鈍い衝撃は本人にも伝わり、彼はその場でふらりとよろめいた。
「おっと、なかなかいいパンチしてるじゃねえか」
 ケネスはけらけら笑うと、頭上で斧をぶんと振るった。刃に炎が灯り、その身も黒々としたオーラが包み込む。
「それくらいしてくれなきゃつまんねえからな!」
 斧を担ぐと、ケネスは猛然と突っ込んだ。斧で蟲の身体を滅多打ち、そのたびにケネスを包むシールドが厚みを取り戻していく。蟲は負けじと反撃するが、ケネスはノーガードでその爪を受け止めた。
「だが、俺の一発の方がもっと腰が入ってる」
 吐き捨てると、彼は斧の穂先で蟲を突いた。そのまま両腕に力を込めると、IMDの出力を高めていく。まるで血が沸騰しているかのように、赤い蒸気が噴き上がる。胸殻の隙間に刃を捻じ込まれた蟲は、ひたすら腕を振り回すだけだ。
 ケネスは全身を躍らせ、そのまま力任せに斧を振り下ろした。
「んなわけで……じゃあな」
 赤い蒸気に包まれた分厚い刃が、蟲の頭に炸裂する。身体は真っ二つに裂け、体液が驟雨のように飛び散った。ぐらりと傾いだ蟲の身体は、そのままばらばらに崩れ落ちる。
 ケネスは溜め息をつくと、ゆっくりと身を起こした。戦斧を乱暴に振るい、纏わりついた蟲の体液を払う。
「ま、こんなもんか……また汚れちまったよ」

 足先をひくつかせる亡骸を見下ろしつつ、ケネスはべっとりと体液が張り付いたシャツを脱ぐ。それを肩に引っ掛けると、タバコを一本口に咥えながら歩き去った。

●悪漢達
 ナイトメアとライセンサー達の戦いは、今日も無事に終わった。そうなるとケネスはまた暇だ。そして暇になったら、また酒場にぶらりと繰り出すのだ。
「よう! 終わったから結局飲み直しに来ちまったぜ」
 ケネスは勢い良く酒場の扉を開け、揚々とカウンター席へ闊歩する。ナイトメアの体液に汚れた服は、すっかり新調されていた。間接照明を浴びて、つやつやの革ジャケットが歪な光を放っている。
「ご苦労さん。結局ここの連中は最後までここで飲んだくれてたよ。そのせいで俺まですっかり逃げそびれちまった」
 タンブラーへ豪快に赤ワインを注ぐと、髭面のマスターはどんとケネスの前へ突き出す。ケネスはわざとらしく顔を顰めた。
「おいおい。タンブラーにワインはねえだろ」
「うちにワイングラスなんか置いてねえよ。箱から外に出した途端に割れちまう」
「違いねえ」
 頷くと、ケネスはタンブラーを取る。そんな彼の背後から、派手なピアスを耳からぶら下げた野郎が一人、ビールジョッキを手にずんずんとケネスの傍までやってくる。
「おうおう。相変わらずいい飲みっぷりじゃねえか。汗かいた後に飲み過ぎたらやばいっていうぜ? 大丈夫か?」
「そんなもん気にして飲む酒が美味いか?」
「よし、それでこそお前だ」
 飲んだくれは勝手にケネスの隣に座り込む。彼はがぶがぶとビールを呷りながら、ケネスに尋ねた。
「最近はどうだ。SALFだったか? お前、そんなとこで上手くやれてんのか」
 ケネスはワインを呷る。この男は元々英国軍の人間であったが、所属部隊がナイトメアの襲撃によって全滅状態に陥りそのまま辞めた。それからは隣や正面にいるどう見ても堅気ではないような奴らとつるんで、陽の光を浴びないようなところで“悠々自適”に生きてきた。多様なドラッグを売り捌く中で得たいくつもの腐れ縁は、SALFという一種のヒーロー稼業に所属してからも続いていた。
「ま、ナイトメアとやり合うってのはスリルがあるからな。それなりに退屈しねえでやれてるさ」
 そう、彼は市民を守るために立ち上がったなんてことはない。ナイトメアに刃を突き立ててやりたいからSALFの門を叩いたわけではない。全てはただ退屈を紛らす為なのだ。
「ちょっと油断すると死ぬかもしれないって思ったらな、楽しくて仕方がねえんだ」
 アンダーグラウンドで自堕落に暮らすくらいでは得られない、臓腑がぞくぞくするほどの“おそろしさ”というものがそこにはある。

 その瞳をロックグラスの氷のようにぎらつかせ、彼は酒を呷り続けるのだった。



 END

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 ケネス・スタンリー・オティエノ(la0430)

●ライター通信
いつもお世話になっております。影絵企我です。

元アンダーグラウンドの人……というところから色々膨らませてみました。満足いただける出来になっているでしょうか。

ではまた、ご縁がありましたら。
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年05月27日

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