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『女王様と王子様の、さいごのお話 』
ルーシャンaa0784)&アルセイドaa0784hero001

 むかしむかし、多くの世界が、愚神の王によって食い滅ぼされていました。
 けれど愚神の王は、人間と英雄の絆と勇気の力によって、ついに打ち倒されたのです。

 世界は平和になりました。
 小さな火種との戦いこそあるけれど、かつてのような大きな悲劇は、もう二度と起こらないことでしょう。

 王との戦いの後。
 ルーシャン(aa0784)は、この世界を護る為に剣を執り続けました。
 王という存在を斃したからこそ。
 王が見続けた『穏やかで優しい世界を』という夢を、女王として引き継いだのです。
 完全な実現、というのは難しいのでしょう。あの強大な王ですら、成せなかったのですから。
 だからこそ、それを成し遂げたいと進み続けることこそが、気高いのです。
 ルーシャンはそれを知りました。
 ルーシャンは歩き続けました。

 ――日々の中でルーシャンは少しずつ、そして健やかに成長していきました。

 小さな小さな女の子は、やがて瑞々しい蕾のような少女に。
 少女はやがて、凛と咲き誇る乙女に。
 乙女はやがて、粛然と麗しい淑女に。

 その傍らに常に在ったのは、ルーシャンの英雄アルセイド(aa0784hero001)です。
 彼は変わらず――精神も肉体もそのまま――己の女王を見守り続けていました。

 多くの春を、夏を、秋を、冬を、二人は共に過ごしました。
 多くの行事、多くの出会い、楽しいこと、たいへんなこと、辛いこと、嬉しいこと。
 たくさんの日常。人生の節目。勉強、仕事、遊び。

「独りにしないで、傍にいて」――それはかつて、ルーシャンが願った言葉。
 彼はルーシャンの傍を離れることはなく、時に励まし、時に諫め、辛いことも楽しいことも分かち合い。
 そう。忠臣のごとく、理想の王子様のごとく、ルーシャンの願いを満たし続けたのです。



 そして――

 淑女はやがて――色褪せた老女に。



 随分と、長い長い時が経ちました。
 幾度目の初夏でしょうか。
 冬が終わり、春が過ぎ、キラキラ眩しい太陽に、緑の若葉が輝いています。

 老いたルーシャンは眠っている時間が長くなっていました。
 今も、彼女のアメジストの瞳は、薄い目蓋に閉ざされているのです。
 ベッドで眠るルーシャンはとても静かで、穏やかで――呼吸に小さく胸が上下していることだけが、彼女がまだ生きていることを示していました。
 アルセイドは今日も、ベッドの傍ら、最愛の女王の眠りを護っています。

 ――静かな時間が流れています。

 古びた時計の針だけが、かちり、こちり、時間を刻んでいます。
 開けた窓からは、初夏の優しい風がふわりと流れ込みました。
 レースのカーテンが揺れて、日差しが木漏れ日のように瞬きます。
 すると、薫風に誘われたかのように――ルーシャンがゆっくりと、目を開きました。

「……少し、お庭に出たいわ」

 開けられた窓の、眩しい世界に目を細め、ルーシャンはそう言いました。
「御意に、我が女王」
 アルセイドは瀟洒に一礼すると、老女の体をそっと起こしました。
 差し出されるアルセイドの手を杖代わりに、ルーシャンは老いた足でゆっくりと立ち上がります。
 もう、自力で歩くことも辛くなっていました。それでも、ルーシャンは自分の足で歩きたかったのです。
「夢を、見ていたの」
 ゆっくりと廊下を歩きながら、ルーシャンは言います。
「昔の夢よ――貴方と一緒に、戦っていた頃の」
 ルーシャンはアルセイドを見上げました。眩しそうに、懐かしそうに。
 彼の顔は、ルーシャンが小さな女の子だった頃から何一つとして変わっていません。
 俯く白百合のような、美しいかんばせです。
「貴方は、あの頃と同じね。……私はもう、すっかりおばあちゃんになってしまったわ」
 ルーシャンは恥ずかしそうに微笑みました。
「時間さえも貴女から貴女の美しさを損なうことはできません。我が女王、永遠の人」
 アルセイドは王子様のように微笑んで、その皴だらけになってしまった小さな手に口付けを捧げました。
 かつては剣を握り振るっていた手は、もうすっかり老いて細く、今では剣を持ち上げることもできません。盾を持つこともできません。衰えた体は、鎧を身に着けることすら、もうできません。
 それでも。

「老いてなお美しい、我が女王よ――」

 アルセイドにとっては、今のルーシャンも変わらずに尊く、愛おしく、美しいのです。
 確かにルーシャンの手は、もう剣を握れません。けれど、この老いた手が、これまでどれほどのものを護り、どれほどの強敵と戦ってきたか。それをアルセイドは知っています。その気高い価値を知っています。
 そんなアルセイドの称賛に、ルーシャンは「変わらないわね」とニコリとするのです。

 ――お庭に着きました。
 手入れが行き届いた、こじんまりとした庭です。
 ちょうどシロツメクサが満開で、緑の上に白い花をたくさん咲かせていました。

 ルーシャンはアルセイドの手を引きます。
 お日様をぽかぽか浴びた原っぱの上に、小さな頃のように座ってみたい気持ちになったのです。
 アルセイドは意図を組み、ルーシャンと共にシロツメクサの原っぱの上へ。

「昔は、花冠を作ったものだわ。……今は手元が見えなくて、もう作れないけれど」
 ルーシャンは懐かしそうに、白い花を撫でました。
「ああ――本当に。歳ねぇ。昔のことばかりを思い出すの」
 老女は青い空を見上げました。かつては鉄格子を隔ててしか、見られなかった存在。
 あの日、運命の日、鳥籠から、ルーシャンを縛る全てから解放してくれた救いの王子様こそが、隣にいるアルセイドです。
「幼い頃は、ただ貴方と共に在ればそれで良くて……ええ、我儘で身勝手なお姫様ね。いつも助けられてばかりで、見返りを求めない貴方に甘えてばかりで」
 ごめんなさいね、とルーシャンは困った笑みを浮かべながら、アルセイドを見つめました。

「でも、貴方がいてくれて、私……本当に幸せよ」

 心からの言葉。少女の頃から変わらない、無垢な想い。
 ああ、とアルセイドは目を細めました。

「あの日、貴女の心が、魂の声が、俺を呼んだから、俺の女王は貴女なのです」

 アルセイドは、仕える者の為に最善を選択し実行する装置でした。
 英雄とは名ばかりの心なき人形。囁く愛も、献身も、親身なれど空虚であり、ただの反射、効率の判断でしかなかったのです
(ああ、それでも)
 ルーシャンはどこまでも無垢で、アルセイドの存在を必要としてくれたのです。
 空っぽの心に、願いと想いと意味と価値と思い出を注ぎ続けてくれたのです。
 願いを叶えているつもりで、叶えられていたのだと、アルセイドはようやっと気付いたのです。
 そう、アルセイドはもう、空っぽの人形なんかではなかったのです。
 こんなにも、胸が、『心』が、温かいのですから。

「……――もったいなきお言葉です」

 貴女に尽くした日々を、誇りに思います。
 ……と。満たされた心だからこそ発せられる心からの言葉を、アルセイドはルーシャンに捧げました。
 老女は優しく微笑み、アルセイドの頬を撫でました。

「ありがとう。……ありがとう、私のアルセイド。ねえ、私は女王として在れたかしら」
「もちろんですとも――我が女王、貴方こそが俺の至高」
「アルセイド……貴方は、幸せだった?」
「ええ、幸せでした。この上のない幸福でした。そして今も、俺は幸せです」
「そう。……良かった」

 目を伏せて、ルーシャンはアルセイドの肩に体を預けました。
 それから――まるで幼い頃のように、彼の膝の上にこてんと頭を横たえたのです。

「ふふ。失礼するわね」
「ええ、どうぞ」

 くすくす微笑む無邪気なルーシャン。
 アルセイドは、その頬を、白くなった髪を、優しく撫でました。

 束の間の静寂。
 温かい日差しと、穏やかな風と。
 シロツメクサが、二人を見守っています。

「……少し、眠るわね」
「お傍に。どうぞ心安く」

 ゆっくりと、ルーシャンは目を閉じました。
 アルセイドは、そっと己の外套を彼女にかけてあげました。
 幸せそうな、女王のかんばせ。
 衰え、色褪せたその顔に、アルセイドは幼い少女の面影を思い出しました。

 彼はシロツメクサを摘み、花冠を編み始めました。
 かの花の言葉は――「約束」。

 ずっと傍に。いつまでも傍に。

 永久の約束を編んで作った、無垢なる白さの、女王の冠。
 アルセイドはそれを、恭しく、ルーシャンの髪に乗せました。

「時よ止まれ、貴女は――」



 ――風が吹きました。



 世界は残酷です。
 世界は無情です。

 でも。
 そんな中でも、美しいものはあるのです。

 こんな世界で、それを見つけ出せたこと。
 それは確かに、変わらぬ価値があることなのでしょう。

 時は流れ、全ては色褪せて消えていくけれど。
 刹那の中で見出した幸福は――どれだけ時が経っても、永遠に美しいのです。

 アルセイドとルーシャンが紡いだ絆は、永久なのです。
 二人の思い出は、永遠に美しいのです。
 いつまでも、いつまでも。

 だから、この言葉こそが、二人にはふさわしいのでしょう。



 ――めでたし、めでたし。




『了』




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ルーシャン(aa0784)/女/7歳/生命適性
アルセイド(aa0784hero001)/男/25歳/ブレイブナイト
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2019年05月28日

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