▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『●秋への祈り 』
鞍馬 真ka5819

 何でこうなったんだろう……。
 途方に暮れる鞍馬 真(ka5819)の顔はレースや刺繍で彩られたヴェールで隠されていた。
 事の発端は半日前。
 朝からハンターオフィスに顔を出した真はあと一人で成立しそうな依頼を見かける。しかも、出発が三時間後。
 概要は歪虚退治なので、問題はないだろうと踏んだ。
 参加メンバーは全員リアルブルー出身の転移者で男ばかりの知った顔。
「大規模討伐が期間に被ってて、成立しないかと思った」
 メンバーの一人が「助かった」と言葉を続けた。
 依頼の名前には急募と書いていたので、急いで駆けつけなければならないだろう。
 小さな村が歪虚に狙われている。

 今回の依頼内容はとある小さな村の儀式を成功させるためだという。
 当該の村は毎年、春になって畑起こしが終わるこの時期に村の娘を一晩山に捧げ、豊穣を祈る……という習わしがある。
 山に捧げるといっても、供物を捧げ、山小屋に一晩寝泊まりするだけ。
 以前から歪虚が人を襲い、食べるという事件があったが、歪虚達は人の肉を覚え、山に近づく人間を襲っているのだという。
 片道二時間の山登りをしなくてはならないという面倒くささ、依頼料の安さ等で人が集まらなかった。
 儀式は今晩。

 目的の村に着くと、村人たちからハンターの来訪を喜んでいた。
 これからハンターが向かって倒して戻ってくる時間を踏まえ、儀式に間に合わないということから、同時進行ということで話が進んだ。
 つまり、ハンター囮組と村娘護衛組と別れる必要がある。
 更に補足を入れると、歪虚は柔らかい女子供の肉を好むという。
 男女の区別も分かる可能性がある。村娘が狙われるだろうハンター達は察した。
 今回のハンターは真含め、男ばかり。
 小柄めの体躯のメンバーばかり。

「……」

 ハンター達は互いの顔を見合わす。
 男には戦わなければならない矜持が、瞬間がある。
 それが今この時だと四人は思った。
 今回のハンターは日本のじゃんけんを知るものばかり。

「最初はグー!!!!」

 一瞬の戦いが火蓋を落とす。


 そして、冒頭に戻る。
 じゃんけんに負けた真は以前の年に巫女に選ばれた似た背丈の女性のお下がりを借りて村娘に変装し、囮役となった。
 スカートではなく、裾が広いズボンを足首でリボンで結んだもの。
 上はパフスリーブのチュニックを着て、ヴェールを頭から被ってリボンで固定。
 ヴェールには縁にレースを添わせて花や草の刺繍が施されていた。売り物のような技術のあるものではないが、それはとても『良いもの』だと真は感覚で思った。
「あらあら、綺麗な肌だねぇ」
「折角だから、お化粧しましょうよ!」
 普通にスキルを使って歪虚を誘き寄せてもいいのではと思ったが、相手はある程度知能があると判断している為、悪あがきとして女装で補強する。
そして、村の娘達に大喜びで真は女装させられた。
 もうどうにでもなれ。
 そんな心境。

 山登りを始めて一時間経った頃に囮班にいたハンターが足音に気づく。
「足音が聞こえる」
「護衛班かい?」
「その足音じゃない」
 返答を聞いた真は彼が聞いた足音は人間以外のものだと判断する。
「数は?」
「多くて六体」
 それを聞いた真は「了解だよ」と返し、黒い瞳を一瞬だけ金色に煌めかせた。
 同行のハンターが真の剣を持ち主へ戻す。
 真は鞘から剣を抜いて構え、体内のマテリアルを燃やす。身体の内から溢れるマテリアルは炎のようなオーラとなり、真を包み込む。
 同行のハンターが足音が近づき、数が増えていることを示唆した。
 先ほど真が発動したソウルトーチの効果だろう。
「こっちの聴覚にも届いてきたよ」
 剣を鞘に納めた真はベールを固定していたリボンを外して顔を出す。外したヴェールを手早く畳み、簡単にリボンで縛った。後方の木の方へ放ると、再び剣を取る。
「早く終わらせよう」
 聞こえてくる足音が早くなり、その姿が見えた。
 歪虚は狼型が六体で、人間……真達の姿を見ると、動きを止めて威嚇の唸り声を上げる。
 普通の人間ならば、恐怖で動きが止まるが、今いるのはハンターのみだ。
 同行のハンターが口笛を吹く。
 挑発の意味も含んでいる事を悟ったかのように獣は大きく吠えて駆け出した。
 前衛となったのは同行ハンター。二体と交戦し、刃と牙が交える。
 他の四体は真の方へと囲む。
 小柄なのと細身である為、肉の柔らかそうな女だとでも思われたのだろう。訂正したいところだが、相手はすぐ消えゆく歪虚。
 気遣いなどは必要ない。
 真は守りの構えで応戦していた。
 飛びかかってくる狼の前足を剣で止めて振り払うと、背後から別の狼が飛びかかったきた。
 軸足を踏ん張り、もう片方の足を振り上げて背後から襲う狼の首を蹴る。
 ふわり、と身を半回転させて着地すると、剣を目の高さまで上げた。金属音が真の聴覚を刺激した。その方向に視線を上げた真は隙を見たと思っただろう狼が剣に噛みつき、見下ろす。
 真は腕を横に振って狼をいなした。
 相手は狼四体、同時に飛びかかってくる。
 もう一振り剣を手に取り、守りの構えで二刀流となった。
 狼の立ち位置を一瞥した真は距離を考えながら後退するように移動する。
 獲物が逃げるとでも思ったのか、狼が距離を詰めようと駆け出す。
 狙った位置に立つ真は思いっきり踏み込み、一撃目で飛び込んできた狼の鼻先から刃を当てて、剣の先が眉間に到達するほど深く斬りつける。
 二体目が間合いに入ると、真は狼の横に向きを変えていた。歪虚が首をハンターの方へと向ける前に真は二撃目を狼の首に差し込み、そのまま上に振り上げるように斬った。
 残る二体はの内、一体が三撃目の衝撃波を受けて倒れた。
「後……一体」
 呟く真は視線で最後の一体を追う。
 三体目が衝撃波を受ける間に回避した四体目が全速力で真に向かってくるのを認識した。
 守りの構えのタイミングを失ってしまった真は体勢を崩してでも攻撃の回避に回るも、狼の鋭い爪がチュニックの裾を切り裂く。
 服を破かれたことに気づいた真は守りの構えをやめ、倒すことに集中する。
 体勢を直し、狼の動きを見据えた。敵は身体の方向を真の方へと向け、再び全速力で駆け出す。
 真は足を強く踏み込み、狼とのタイミングを見計らい、一気に剣を振り上げた。
「はぁっ!」
 中空に狼の首が飛び、重力に従い、地に落ちる。
 呼吸を整えた真は同行ハンターの方を見ると、彼の方も終わっていた。
 それから連絡を取り合い、村娘を儀式用の山小屋に送り届け、周囲に歪虚や雑魔がいないか確認しながら山を降りる。
 山小屋の外で警護をしてもいいのではという話があったが、娘一人じゃないとダメなようで、村娘には戸締まりをするように言い聞かせた。

 真は化粧を落とし、服を着替え、服を貸してくれた娘に返却をし、裾が破れてしまったことを告げた。
 なんだか、申し訳なかった。
「ヴェールは綺麗なままなのね」
「刺繍がとてもよかったから、大事にしなくてはと思って」
「気を使ってくれてありがとう。これを作ってた時はとても楽しかったわ」
 当時を思い出すように微笑む村娘の言葉を真は静かに耳を傾ける。
 決して上手ではないが、儀式の際、綺麗な服を着て気分を上げて山での一晩を紛らすのだろうと真は思案する。
「裾は刺繍して補強するね」
 娘ができた時に着て貰うと娘が笑い、真は微笑んで頷いた。
おまかせノベル -
鷹羽柊架 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年05月29日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.