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『お仕置きの指輪 』
ファルス・ティレイラ3733

 ガシャーン、と床に派手な音が響いた。
「あ、あぅ〜……やっちゃったよぉ〜……」
 ファルス・ティレイラ(3733)がうろたえつつ、そう言った。
 顔面は青ざめ、動揺している。
「ど、どうしよ〜〜っ、まずいよぉ……これって貴重品だって……」
 慌てながらも、ティレイラはその場でどうしていいのか分からずに、右往左往していた。どうやら、魔法薬屋の貴重品を壊してしまったようだ。しかも、預かり品を置いていた棚のものを落としてしまったらしい。つまり彼女は、客から預かった魔法道具を壊してしまったのだ。
「うう、どうしようどうしよう……絶対怒られちゃうよ……私に物を直す魔法が使えたらなぁ〜〜……」
 割れた小瓶の周りをうろうろしつつ、そんな独り言が続いた。
 そうして慌てふためいた数分後、物音を聞きつけた店主の女性に事の顛末を把握されてしまったティレイラは、軽いお仕置きを受けることとなった。
 女性はまずはと自身の魔法でティレイラの割ってしまった小瓶を修復し、元通りにしてくれた。
 そこまでは良かったが、やはり壊してしまった事の責任を取らなくてはならないのだ。
 ティレイラ自身で。
 お仕置きよ、と告げられた彼女は、右手の中指に金の指輪を嵌めさせられた。
 冷たい感触に一瞬身を震わせるも、ティレイラはその指輪の美しい装飾に見惚れ、自身の置かれている状況をうっかりと忘れてしまう。
 ――その、直後だ。
「え、え……っ!?」
 焦りの声が上がった。なぜなら、自身の体が硬直し始めたからだ。
 金の指輪から、特殊な魔法能力が発動したのだ、と思った。中指から徐々に石化が始まり、ティレイラは青ざめる。
「あ、あぅ……許してください……」
 許しを請う言葉を伝えても、どうにもならないような気がしていた。それでも、何とかなるかもしれないという気持ちがあったのかもしれない。
 だが、一度発動してしまった魔法は、そう簡単には解除されない。ティレイラ自身もそれを熟知しているので、それ以上は何も出来なかった。
 そして彼女は、悲痛な表情を浮かべたままその場で完全な石化が完了してしまい、石像となってしまう。
 店主はそれを見届けた後、急用で出払ってしまい、ティレイラは一人店内へと残されてしまうこととなった。
 ――それから、十五分ほどが過ぎた頃だろうか。
「こんにちは〜っ!」
 カラン、と扉のドアベルが鳴った。
 そこから元気な声が響き、姿を見せた者がいる。ティレイラの友人であるSHIZUKU(NPCA004)だ。
「あれぇ……店長さん居ないや。ティレちゃんもお留守かなぁ……でも、お店開けっ放しだよ……」
 きょろりと店内を見まわし、後ろ手にドアを閉めたSHIZUKUは、そんな独り言を漏らして数歩を進んだ。今日は遊びに来たというわけではなく、通りかかったといった様子だ。
「ん? こんな石像、お店にあったっけ?」
 店内のレジ横に立つ場にそぐわない石像を見て、SHIZUKUは首を傾げた。そこからぐるりとその石像を見て回り、とある思考へ行きついたようだ。
「……あ、あぁ〜……なるほど、これティレちゃんだ」
 石像事態に覚えがないこと、置かれている場所がおかしい所などを見ても、ティレイラが『何か』を起こしてそうなってしまったと思うほうが、納得がいくのだ。
「うーん、どうしよう。困ったなぁ……と言いつつ、写真撮っちゃうあたしもあたしだよね……」
 SHIZUKUは困ったようにして笑いつつ、自身のスマートフォンに石像の写真を数枚映していた。自身の活動のネタに使えるかもしれないと思ったのだろう。
「……あ、これ、指輪……だよね。これだけ石化してない」
 スマートフォンを片手に石像を眺めつつ、SHIZUKUはそんな独り言を続けた。そして右手に嵌められたままであった指輪を見つけて、興味津々にそれに触れてみる。
「あ、動く……取ってもいいかなぁ」
 指の腹で軽く押してみると、その指輪がゆるりと回った。そこで外せると確信したSHIZUKUは、軽く摘まみつつ石像から指輪を取り払った。
「わ、光った……!」
 淡い光が石像から漏れるようにして浮かんだ。SHIZUKUの目の前で、ティレイラは石化を解かれて通常の状態へと戻っていく。
「……っ、お姉さま……っ、あ、あれ? SHIZUKUちゃん……?」
 数秒遅れて、ティレイラが言葉を発した。石化の直後、途切れていたらしい意識が急に戻ってきて、多少の動揺もあるようだ。
「あ〜、よかった元に戻った……! あたしが来た時、ティレちゃん一人だったから焦ったよ〜」
「そ、そっか……私、大事な小瓶を割っちゃって、それでお仕置きで……。うえーん、SHIZUKUちゃんが来てくれなかったらずっと石化のままだったよ〜〜っ!」
 ティレイラはそう言いながらSHIZUKUに抱き着いた。
 SHIZUKUはそんな彼女を優しく抱き留めてやり、「よしよし」と背中を撫でてくれる。
「ティレちゃん。店長さん、出かけちゃってるみたいだよ」
「えぇ? さっきまで目の前にいたんだけど……お客様から呼ばれたりしたのかなぁ」
「超貴重なアイテムが手に入ったのかもだよ。それにしたって、お店開けっ放しだったかららしくないなぁと思って」
「もぅ、お姉さまったら! 他のお客様だったら大変だったよ……ほんとに来てくれてありがとね、SHIZUKUちゃん!」
 二人はそんな会話を至近距離で交わしつつ、苦笑しあった。『親友』と呼べる間柄だからこその、会話だ。
「良かったら、お礼のお茶をご馳走したいな」
「うん、じゃあ、店長さん戻ってくるまでお話しながらお店番してようよ!」
 ティレイラが笑うと、SHIZUKUも同じようにして笑ってそう言いあう。二人とも、年相応の少女らしい笑顔だった。
「ティレちゃんちのお茶とお菓子美味しいから、ここに来るのは楽しみなんだよ」
「お姉さまの並々ならぬ茶葉選びセンスと、お菓子のおかげだねぇ。新しいクッキー缶があるんだ〜」
「それは楽しみ! ティレちゃんがお茶入れてくれる間、あたしがお店番しててあげるねっ!」
 弾んだ声が店内を満たす。
 ティレイラは親友の楽しそうな言葉を背に受けつつ、彼女をもてなすためにお茶の準備をするべく奥へと姿を消した。
 SHIZUKUが手にしていたはずの金の指輪はいつの間にか魔法道具の預かり棚へと移動しており、ティレイラたちがそれに気が付くのは、店主が戻ってからの事となった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 いつもありがとうございます。
 書かせて頂けるたびに、次はどんな魔法道具が出てくるのだろうとワクワクしてしまいます。
 少しでも気に入って頂けましたら幸いです。

 また機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
 
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年06月03日

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